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次の日、アドルフは、見つからない。
(どうしたのかしら、何かあったのかしら?)
「あの~、アドルフさんがどこにいるか知りませんか?」
「輝助様が呼び出したらしい」
夏菜は、こっそり、輝助の部屋へ向かった。
「そんな、今更、許嫁って」
アドルフのそんな声がした。
(許嫁!)
「相手は、どうしても、この城の息子と結婚させて欲しいと言っている。私は、もう結婚している。お前しかいないんだ」
「いやだよ、兄さん、俺、好きな人がいるんです」
「夏菜ちゃんだろ、妾にすればいい」
(妾ですって!)
「俺は、認めない」
輝助の部屋から出てきたアドルフと夏菜は、目が合ってしまった。
「夏菜ちゃん」
「アドルフ、その、そういえば、妾って手があったのですね」
夏菜は、壊れそうな笑顔でそう言った。
「その人と結婚すれば、地位も手に入るし、差別も減りそう、いいじゃない、それでも、私、ついて行くよ、妾にでもしていいよ」
「夏菜ちゃん」
アドルフは、暗い顔をしている、きっと、縁談を断れないのだろう。
「俺さ、輝助兄さんの事を尊敬しているのさ、だから、出来るだけ、逆らわないようにしていたんだ」
アドルフは、遠い目でそう言った。
「だから、嫌だなんて、良く言えたなと思ったよ」
「そうなのですか」
「昔から、輝助兄さんは、出来が良くて、俺は、金髪で二番手だ。だれも期待しない人物だろう」
「そうかもしれないわね」
「だから、本当は、小さい頃から、どこかの国のお姫様と結婚させられることは、わかっていたんだ」
アドルフは、夏菜を見て。
「その一人目が夏菜ちゃんだったんだよ」
「そうですか」
夏菜は、冷静にそう返事した。
「一人目から、夏菜ちゃんみたいないい子に出会えて、女の子も良い物だと思った。けど、二人目の子は、俺をみて言ったよ「変なの」って」
「ひどい!」
「そこで、気が付いたんだ。俺の死んだ許嫁は、いい子だったんだって、その後も、三人、四人と見合いした。でも、全員断った。夏菜ちゃんを忘れられなくて」
アドルフは、そっと夏菜の頬に手をかけた。
「俺の理想は、いつだって君だった。君以外考えられないんだ」
夏菜は、沸騰した頭を落ち着かせようとするが、うまく行かない。
「あ、あのね、アドルフ、私、アドルフが幸せに成るなら、妾でも良いって本気で思っているのよ」
「でも、そんなの俺が許さない」
アドルフは、強くそう言っていなくなった。残された夏菜は、驚いたのとはずかしいので、パニックを起こしていた。
〇 ◎ 〇
夏菜は、その後、洗濯物を取り込みに行った。
「夏菜さん、アドルフ様は、来ないの?」
下女の女たちが喜んでそう言う。
「来ないと思うわ」
夏菜は、笑顔でそう言った。着物の下に着る、襦袢を畳みカゴに入れる。
(明姫の分も、しっかり畳んで)
明姫の分をカゴの中に入れた。そして、全部畳み終えたら、明姫の元へ、洗濯物を届けに行った。
「明姫、お待たせしました」
そこには、倒れている明姫がいた。
「大丈夫ですか?」
「たすけ……」
よくみると、眠っている様だ。
「明姫、昼寝するなら、布団を敷いてください」
「う~ん、怖い夢を見ていたわ」
「そうですか」
洗濯物を置き、明姫の乱れた髪を整えた。
「一体、どんな夢を見ていたんですか?」
「忘れたわ」
明姫は、何事もなかった様に、毅然とした態度で、鏡の前に座っている。夏菜の鏡に映った手を見つめている。
「明姫、すごい汗ですね」
「夢見が悪かったから」
「あんまり、良い事では無いですよね。少し不吉な位です。何も起こらないといいですね、明姫」
「そうね」
明姫の部屋をでた。すると、一本の雷光が見えた。
(うそ、今日、晴れているのに)
夏菜は目をこすった。
(疲れているのかしら?)
アドルフの事で、色々あったので、疲れて見えたのだと言われても納得してしまいそうだと思った。
(まあ、いいか)
アドルフの事を考えながら、部屋に戻った。お客様用の湯飲みの一つに、アドルフ用と書いて、棚に置いた。
(また、アドルフが来てくれるように)
そう祈った。夏菜は、ヒマなので、一冊の本を読んでいた。それは、巷で人気の、絵師が謎を解く推理小説だった。
いつの間にか夜になり、眠る準備をしていると、また、雷光が見えた。
(気のせい?)
それにしても、二回も続けて見るのは、おかしいと思い、外を見た。ところが、何もなかった。
(やっぱり、気のせい?)
戸を閉めて、眠りについた。




