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「夏菜ちゃん、重そうだね、運ぶの手伝おうか?」
アドルフは、洗濯物を運ぶ夏菜に声をかけた。城の中では、アドルフと夏菜の関係は、知れ渡っていて、アドルフも堂々と声をかけるまでになっていた。
「これは、女の仕事です。アドルフさんには、させられません」
夏菜は、そう言ってアドルフを振り切った。
「つれないね~」
「ね~」
下働きの女性達と楽しそうにそう言っている。
(アドルフめ~調子に乗りやがって……)
夏菜は、洗濯ものを干し終えて、明姫の元へ行く。
「きいてください、明姫、アドルフったら、下女と仲良くなってるんですよ、親しそうに話していて、何だか、もやもやします」
「夏菜は、素直でかわいいわね」
明姫に頭をなでられる。
「はっ、すいません、明姫」
「いいのよ、もっとお話、聞かせて」
「明姫は、輝助様と仲良くやっているんですか?」
「ええ」
明姫の顔が曇ったのを夏菜は見逃さなかった。
「輝助様に不満がありますか?」
「無いわよ」
「そうですよね、美しい明姫を手に入れて、喜ばない男の方なんていないですよね~、すみません」
「私、こんな顔じゃなかったら、どうなる?」
「えっ? そうですね、何も変わらないんじゃないですか、夫は、国同士の物だから離縁できない、私は、変わらず務めるとして、何か変わりますか?」
「よかった」
「明姫、どうしたんですか?」
「うふっ、美人な女は、いつか終わりが来るものでしょう、その時、どうしようか考えていたのよ」
「そうですか、大丈夫です。明姫は、美人なおばあちゃんになるでしょうから、終わりなんてないですよ」
夏菜は、楽しそうにそう言った。
「それより夏菜、アドルフ様と結婚なさい」
「えっと……」
夏菜は、結婚には踏み切れずにいた。夏菜の国は、もう神月国の一部であり、夏菜には何の価値もない。ところが、アドルフは、価値のある男だ。他の国の女と結婚したら、国の地位が良くなる。
(やっぱり、私じゃダメよね)
そう落ち込んだ。
「夏菜、聞いてる?」
「え、ええ、結婚は、しない事にしています」
「家柄を気にしているなら、アドルフ様にそう言ってみたらいいんじゃないですか? 案外受け入れられると思うわよ」
「私が、言うんですか?」
「ええ」
夏菜は、少し考えた。
(アドルフは、きっと、私を選ぶ、だけど、それではだめなの、この国で生きていくなら、少しでも力を手に入れて、いじめられないようにならなければいけないわ)
夏菜の意思は、固かった。
「夏菜は、アドルフ様といた方が幸せなんじゃない」
「そうですかね? 外人の妻っていたぶられるんじゃないですか?」
「それでも、幸せだと思う」
夏菜は、明姫を見つめて思った。
——それでも、幸せだと思う。ですって、それで、私が幸せに成れたって、アドルフは、今のまま、苦しみ続けるのよ。
「幸せじゃないですよ、全然」
「そうかしら?」
「そうです」
夏菜は、乾いた方の洗濯物を置いて、部屋を出て行った。
(今ごろ気が付いた。私、アドルフを幸せにしてあげられないんだって)
夏菜は、涙を流して、廊下を歩いた。
「ちょっと夏菜さん、泣いてるのですか?」
宮に呼び止められた。
「目にゴミが入ってしまったのでしょうね」
「そうですか? 花粉症みたいに真っ赤ですよ」
「そうそう、花粉症なの、最近辛くて」
「今は、何でしたっけ? 何かの花粉の季節だったわね、仕方ないわね~、この国の花のどれかに合わないのがあったのですね」
「そうですね」
笑顔を作って別れた。




