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プチプリンセスの恋  作者: 花見さくら
アドルフの初恋
15/29

 城の外に出て五分歩いたら、離れは見えて来た。お金持ちな方の民家のように瓦もあれば、塀もあった。

「カタリーナさんに、アドルフが来たと言ってください」

 門番にそう言うと。

「アドルフ~」

 カタリーナは、庭で薔薇の整備をしていたらしく、着物をたくし上げて、こちらに走ってくる。

「会いたかったわ~アドルフ」

 カタリーナさんは、長い金髪を振り乱して、キラキラ光る青い目でアドルフに抱き着いている。

「な、なんていうか、親子仲がよろしいのですね」

「外国のあいさつです」

 カタリーナは、落ち着いた口調でそう言った。

「外国でのあいさつって、抱擁なんですね、だから、アドルフさんもよく抱き着いてくるんですね」

「そうなの? 確かに小さい頃から、そうやって育てましたからね」

 カタリーナは、少しうれしそうな顔でそう言った。

「さあ、中へ入りなさい」

 庭は、薔薇園になっていて、家は、日本風の木造住宅、夏菜は紅茶の袋を握りしめて中へ入った。

「それで、アドルフ、何の用なのかしら?」

「ああ、この夏菜ちゃんが、紅茶を手に入れたらしくて、ぜひ、母さんに飲んでほしいとのことで……」

「紅茶!」

 カタリーナの目が輝いた。

「ずっと飲みたいと思っていたの、ぜひ、飲ませて」

 カタリーナは夏菜の腕を引いて、連れて行った。アドルフは、茶の間の様になっている部屋に腰を下ろした。

「夏菜ちゃんですね」

「はい」

 カタリーナの目はうるうるしていた。まるで、二度と再会できるはずがない者に会ったように。

「えっ? えっ? 何ですか?」

「こんな話を知っていますか? アドルフは、小さなころ婚約者がいたのよ」

「へ~」

 夏菜の薄い反応に、カタリーナは少しすねた。

「ダメね」

「? それで、その方はどうなったんですか?」

「死にました。国を打たれて、家族全員」

 カタリーナは、もう一度夏菜を見て。

「アドルフは、その婚約者に、金髪がきれいと言われたこと、とてもうれしかったらしくて、その子が初恋の子なのだそうよ」

「へ~、それじゃあ、あきらめきれなかったでしょうね」

「そうね~」

 カタリーナは、少し渋い顔をして。

「その子、名前が夏菜って言うのよ」

「わ~、私と同じなんですね。だから、アドルフさんって時々、夏菜ちゃんって呼ぶとき嬉しそうなんですね」

「そうですね」

 カタリーナは、立派な白いティーカップを出して来て、ティーポットからお湯を注ぐ。

「これが、本場の、ティーと言う奴ですね」

「そうよ、おいしいから飲んでみて」

 夏菜は、一口飲んでみると、渋みが効いた後、甘い味がした。少しくせになりそうな味なので、もう一口飲んだ。

「おいしいですね」

 夏菜の目はキラキラ輝いていた。

「アドルフ、紅茶が入ったわよ」

 そして、茶の間で、話をすることにした。

「カタリーナさんって、どうして輝希国てるきこくにいらしたのですか?」

「昔話ですか?」

 カタリーナさんは、紅茶を飲み干して。

「私は、スフィン国と言う国から、貿易のため、輝希国にきました。しかし、女の役目は、商品となる事だったのです」

「商品?」

「何と言うか、遊女とか、そう言うの」

 アドルフが、夏菜に苦笑いして説明した。

「そうですか、すみません、無知で」

「いいわ、輝太郎は、私をすぐに気に入って、側室にしました。すでに、奥さんもいたので、私は、ずっとこの屋敷の中、でも、輝太郎は、時々遊びに来ては、面白い話を聞かせてくれました。そして、一年後、アドルフが生まれました」

 カタリーナはアドルフの頭をなでてそう言った。

「今になって、輝太郎が、この屋敷を出るなと言ったのは、私の為だったのだとわかりました。外人はこの国では、嫌われているようですから」

「そうなんだ。ここの城主、いい人だったのですね」

 夏菜が感動していると。

「そうでもないよ、母さんは、国に帰るチャンスがあったんだ。でも、父さんは、帰さなかった」

「アドルフ! それは、輝太郎のせいじゃないと言ったはずですよ」

「じゃあ、俺のせい? 俺がハーフだからなのか?」

 アドルフは、怒りを瞳に映して、大声を出した。

「違うわ」

「だって、なんで母さんが、かごの鳥みたいな生活をしなければいけないんだ。祖国に帰れば走り回っても、誰も何も言わないだろ」

 アドルフは、興奮したようにそう言った。すると、カタリーナは、アドルフに優しく抱き付いた。

「アドルフのせいじゃないのよ」

 アドルフの頭を優しくなでる。

「わかっている、わかっている、わかっているさ!」

 アドルフは、強くそう叫んだ。

(そうか、アドルフは、いつも外人扱いされているのがつらくて、お母さんに当たってみたくなったのね)

 夏菜は、二人を見つめて、やっぱり、外人ってきれいだと思っていた。

「何だかとてももったいないですよね、美しい物に対して、浅ましいだとか、外人だとかいう事が」

「夏菜ちゃん?」

「だって、こんなにきれいな髪をしている上に、カタリーナさんの瞳なんて、見たことも無いくらいきれいな色をしている。みんな正直に成れば良いのです」

「あははは、やっぱり、夏菜ちゃんね、思った通りの子だわ」

 カタリーナが楽しそうに笑う。

「えっ? 私、変な事言いました?」

「ええ、とても変な事を言ったわ」

 そうは言うが、カタリーナは嬉しそうにしか見えなかった。

「?」

 夏菜は、このことをしばらく考えることになったのだが、とりあえず、紅茶をおかわりした。

「私って、みんなと感性がずれているのかしら?」

「そうね、ずれているわね、でも、アドルフは、そう言う夏菜ちゃんが好きみたいだわね」

「えっと、好き?」

「母さん」

 アドルフは、真っ赤になって怒る。その怒り方だと、好きだと言っているような物だと思い、夏菜は、少し、恥ずかしくなった。

「もし、よろしければ、薔薇をもらってくれない?」

「薔薇ですか?」

 正直、和室に薔薇が合うか考えると、置く気が遠のいた。しかし、カタリーナは、どうしても、もらってほしいようなので。

「では、いただきますね」

(薔薇だって花なんだし、うまくやれば合うかもしれないものね)

 夏菜は、頭の中で、どう置くか、組み合わせを考えた。

(カスミソウとかなら栄えるかな?)

「夏菜ちゃんが、また、遊びに来てくれるといいのだけど?」

「もちろん来ますよ」

 カタリーナは、少し顔を曇らせた。

「でも、ほら、差別されちゃうんじゃない?」

「私は、元からこの国の人じゃないですし、里親が言うには、私は、小さな国のお姫様だったらしいですよ。ですから、元から、外人ですし、近隣国だから親しくしてくださるだけですよ」

「それなら、いいのね」

「はい」

「夏菜ちゃんは、プチプリンセスだね」

「えっ? プリプリ?」

「小さくてかわいい事をプチと言うんだ。小さな国の姫で、背の低い君は、プチプリンセスだなあと思ってね、あと、プリンセスは、姫と言う意味だよ」

「私、カタリーナさんの国では、プチプリンセスなんですね」

「マイ、プチプリンセス」

 アドルフが、手を取ってそう言った。

「マイって何ですか?」

「……知らないなら、知らない方が良いかもね」

 夏菜は、小さく首を傾げた。

 帰りに、薔薇をたくさんもらって困っていると、アドルフが、一本、髪に挿して来て、「似合うね」と笑った。

「結局、もらい過ぎてしまいました」

 夏菜は、脱力した言い方でそう言った。

「まあ、いいじゃない、トゲは、全部取ったんだし」

「そうですけど、いっつ」

 少しだけ飛び出ている、トゲに指をさしてしまった。

「大丈夫、みせて」

「はい」

 夏菜の人差し指を見て、アドルフは、口で指をなめた。

「てっ! 何しているんですか?」

「はずかしいの? 誰も見ていないよ」

 人差し指の血が止まったが、心臓は、どくどくいっていた。

「アドルフは、恥ずかしくないのですか?」

「う~ん、恥ずかしいなんて、思わなかったな」

 アドルフの思う所では、指を吸う位なんでもないようなので、夏菜は、一人ドキドキして損をしたと思っていた。

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