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次の日、アドルフは、城を案内してくれると言ってくれた。夏菜は、頭に、いつもはしない、かんざしを刺して、気合十分だった。
「さあ、どこから、行こうかな?」
アドルフは、夏菜の横で悩んでいる。城は広いので、一日で全部見るには、頭を使う必要があるのだ。
「上から見て行こうか、天守閣に特別に入れてあげるよ」
「ええ、本当ですか!」
階段を七回上って、天守閣にたどり着いた。天守閣の風景は、田畑が広がっているのがよくみえる。よーく見ると、稲穂が風に揺れている。
「しかし、高いわね」
「そうでしょう、あっ、父の書斎があるから、外側の景色しか見られないけど」
「うん、別にいいですよ」
夏菜は、楽しそうに頷いた。深く息を吸いこみ、はきだした。
「なんだか、高い所は、空気が違うな~」
アドルフは、夏菜の姿を見つめているだけだった。
次にアドルフが、連れて行ってくれたところは、武士達が戦いの時に使う道具を入れる部屋だった。
「武器を持って来てと頼まれたら、ここに来ればいいんだよ」
中には、入れてもらえなかったが、よく研がれた刀や重そうな甲冑が置いてあり、なんだか、重い空気を出していた。
「まあ、戦いのとき以外使わないんだけどね」
「そうなんですか」
刀や甲冑の重苦しい雰囲気を少し嫌だと思ったので、早く閉めた。
その様子を見たアドルフは、気を使ったのか。
「六階は、男の部屋だから、夏菜ちゃんは、嫌だったかな? それじゃあ、次は、五階に行こうか」
手を差しだし、握る様に言って来た。
「あ、あの、怖いわけでは、ありませんから」
夏菜は、意地を張ってそう言いながら手を取った。ドキドキ高鳴る鼓動に夏菜は、嫌気がさしていた。まるで、アドルフに惚れこんでいる女のような気分で、受け入れ難かった。
元より、男からの告白はいいのだが、女から告白するのは、あまり良い物だと思われていない。だから、夏菜だけが、先に惚れるのだけは、嫌だったのだ。
アドルフの気持ちも、いまいちわからない夏菜は、好きに成っていい物か悩んでいた。
(嫌われていないとは思うけど、好きなのかどうかは、訊かないとわからないし……)
「どうしたの? 夏菜ちゃん、顔が暗いよ」
「えっ? そうですか?」
とぼけてみせたのだが、アドルフは、優しく。
「大丈夫? 元気がないなら言ってくれれば部屋まで運ぶよ」
「お姫様抱っこなさるの?」
「うん、夏菜ちゃんは、軽いから」
「けっこうだと言っておくわ、私は、元気だから」
階段を降りて、五階に着くと、人がたくさんいる。
「五階は、輝助兄さんの部屋なんだ。みんな、輝助兄さんに期待しているから、仕事を頼みに来ているのさ」
確かに、高級そうな布の着物の方が多い。
「輝助兄さんの階は、あまり来ては行けない事になっているから、次、行こうか」
アドルフの目は、少しくすんでいた。
四階に着き、アドルフは、ため息をついた。
「やっと抜け出した」
「輝助様に見つかっちゃいけないの?」
「いいや、そうじゃないんだけど、兄の協力者は、俺の事を良く思っていなくて、近づくと怒鳴られたりするから」
「兄弟なのに、なんで、アドルフだけ怒鳴られなくちゃ行けないのですか?」
「まあ、色々あるんだ」
夏菜は、アドルフの金髪に目がいった。夏菜は、髪の色の事を言われているのだと思い、かわいそうになったが、口には出さなかった。
四階、侍女と妻の階らしく、女性しかいない。
「夏菜ちゃんの部屋もここだよね?」
「ええ、明姫の世話が出来るように、近くにしてもらっています」
「そう」
アドルフは、少し笑い方が固い。
(五階でのこと、まだ、気にしているのかしら?)
「夏菜さん、逢引きですか?」
桃が近づいてきた。
「いいえ、あの、城の事について、世間話をしていたの、それだけよ」
「え~、逢引きした仲なのに、そんな事言います?」
桃は、遠慮なくずけずけとそう言ってくる。
「えっ、え~と」
「桃、何しているの、夏菜さんに迷惑でしょう、少しは、察してあげなさい」
「……」
『察してあげなさい』と言う言葉は、二人の逢引きを邪魔しては、いけない、そうとった方がいいのか? と思い、頬が熱くなる。
(はずかしい)
「夏菜ちゃんの部屋見て行っていい?」
「いいですけど、まだ、何もありませんよ」
アドルフは、夏菜の部屋に着くと、夏菜を抱き寄せた。
「あ、あの!」
アドルフの手は震えていた。
「ねえ、アドルフさん、もしかして、輝助様の所で何か言われましたか?」
「……少し前なんだけど、外人がここに来るのは、無礼だと言われて、殴られたんだ。知らない男に」
「それで、気にしていらしたのですね」
「わかっていても、髪の色は変わらない、顔立ちだって変わらない、俺は、何でここにいるんだろう?」
アドルフの手が緩んだ。
「ごめんね、夏菜ちゃん、愚痴を言っちゃって」
「いいんです。もっと、私を頼ってください。力になれないかもしれないけれど、話し相手には、なれますから」
「うん」
アドルフは、頷いたが、夏菜を頼る気は無さそうだった。
(私じゃ、ダメなのかな?)
少し落ち込んだが、笑顔を作り。
「お茶でもいかがですか?」
夏菜は、珍しいお茶である。紅茶を出した。湯のみしかなかったので、湯飲みに注いだ。
「これ、淹れ方が良くわからなかったのですが、どうでしょう」
「うん、おいしいよ、母さんが飲んだら喜びそう」
「お母さんって、輝希国にいるのですか?」
「離れで暮らしているよ」
「この城には、離れがあるのですか?」
「うん」
アドルフは、少し悲しげな顔で返事した。夏菜は、アドルフですらこの扱いなのに、アドルフの母は、完璧な外人だと思ったので、ひどい思いをしているのではないかと勘ぐり、心配した。
「行こうよ、離れ、アドルフのお母さんに会いたいです」
「いいの? 夏菜ちゃん、君は、俺側の人間としてマークされている。母に会えば、余計な事を言われるかもしれないよ」
「いいですよ、大丈夫です」
夏菜は、後に、何か言われる事を恐れるよりも、アドルフの母に会ってみたいと言う思いが強かった。
「じゃあ、行こうか」




