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次の日、琴の練習を明姫としていた。
トンカラテンテンテントンシャンと音がする。
「夏菜、そこ、間違えたでしょう?」
「わかりましたか?」
二人で、和気あいあいと琴を弾いて、昼になっていた。
「昼食の、焼き鮭としば漬け、ご飯に味噌汁になりますよ」
宮がそう言って、食事を置いて出て行った。
「怪し、きつねのうつし鏡の所がどうしても弾けないわ」
明姫がそう言って、弾いてみせるが、様子を見ていると、指の動きも弾く動きも合っていた。まるで、途中の二つの音が、出ないようになっているかのように。
「失礼します。明姫」
夏菜が、同じ曲を弾くと、また、二つの音が鳴らない。
(?)
単体でその音を鳴らすと、テンテンと音が鳴った。
「壊れているわけでは、なさそうね」
「そうですね」
しばらく二人で首を傾げていた。
明姫は、その後、舞の師匠と練習があると言っていなくなった。一人、部屋で、琴をしまっていた。
「夏菜さん、いつまでも客間じゃ不便でしょう、そろそろ、部屋がいると思いまして、準備しました」
宮と桃がそう言って、四階の部屋へ案内してくれた。畳は、緑、六畳の部屋だった。掛け軸は、気分で選ぶように、何枚も入っていた。花もきれいに飾られている。
「部屋は、夏菜さんの自由に使ってください。明姫に頼まれたので、きれいに掃除もしておきましたから」
(明姫が私のために、準備してくれたんだ)
少し感動した。明姫は、明姫の事で、精一杯そうだと思っていたから。
「一応なのだけど、琴の点検をお願いできないかしら? 時々、音が消えるの、明姫と私の琴だけ」
「わかりました」
宮は、そう言って琴を桃と運んで行った。琴は大きいので、一人で二つは運べないのだ。だから、明姫と琴をするときは、よく、近くにいる、武士の方に手伝ってもらっている。
舞の練習から、明姫が戻って来たので、普段着に着がえさせていると。
「琴、点検に出したの?」
「ええ」
「そう、何でもないとは思うけどね」
「何だったのでしょうね」
夏菜は、帯をぎゅっと締めてそう言ったので、妙に力の入った言い方になってしまったが、気にしなかった。
〇 ◎ 〇
その日、夕方、アドルフと庭で、おまんじゅうを食べながら夕日を見た。
「輝希城にも慣れた?」
アドルフは心配そうに、夏菜に声をかけた。
「まあまあ、慣れたわ」
おまんじゅうを口に放り込んだ。風が吹いて、草木が揺れている。
「夏菜ちゃんは、いい子だよね」
「えっ?」
アドルフは、夏菜の頭を優しくなでた。
「む~、私の背が低い事が、面白いのでしょう、私だって、普通くらいは、背が伸びると思っていたのですよ」
「いやいや、背が低くて悪いなんて言って無いでしょう?」
「でも、背があと、五センチは大きければよかったと思います」
「夏菜ちゃんは、小さい方が良いよ、だって、持ち上げやすい物」
そう言って、アドルフは、夏菜を持ち上げた。
「急にどうしたの?」
「こうすれば、少し高くなったでしょ」
「高い高いじゃないのですから、おやめください」
(アドルフの顔が近いよ~)
ゆっくり降ろされて、廊下に立つとすっとした。
(うん、私は、きっと、小さくてもいいのよね? アドルフが、良いって言ってくれるんだから)
夏菜は、開き直って部屋に戻った。




