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プチプリンセスの恋  作者: 花見さくら
夏菜の明姫教育
12/29

 川に着くと、流れが穏やかで、釣り日和だった。辺りは、木が生い茂っていて、風が気持ちいい。

「お姉ちゃん、ミミズとか触れるの?」

「えっ?」

 もうつかんでいた。しかも、うまく、釣り針に挿している。

「……本当にお姉ちゃん女?」

「当然よ」

 夏菜を中心に、少年たちの釣りが始まった。その様子を見て、アドルフは、優しく微笑んでいた。

「つれた~!」

 夏菜が得意気に、魚を釣り上げた。その魚は、二〇センチ位は、あったように見えた。

「すげ~、姉ちゃん、大物だよ」

 少年達は大喜びで、夏菜を囲んで入る。

「今日は、焼き魚が一匹手に入ったぞ、食事が少しだけ豪華になったな」

 少年たちは、大はしゃぎだ。

「ただ、たらすだけじゃなくて、ミミズを生きている様に見せるために、優しく振るといいわよ」

 夏菜は、少年達に釣りのコツを教えていた。すると、アドルフが近づいて来て。

「夏菜ちゃん、着物が汚れちゃうよ」

「あっ!」

(せっかく、オシャレしたのに、私のバカ)

 かわいく見せるつもりが、おてんばな所ばかり見せているではないか。

 夏菜の心がきゅーとしぼんだ。

「お姉ちゃん、釣れたよ~」

「わ~、すご~い、夕飯がまた豪華になったね」

 少年達とハイタッチしていた。アドルフは、嫌な顔一つせず微笑んでいる。

(私の事、嫌がってないかしら?)

「アドルフ~、お前も、いつもみたいにザリガニつかまえて来いよ」

「えっ?」

 アドルフは、少し戸惑っている。城下町の者と川で遊ぶなんて、知られたら恥ずかしいのかと思っていたら。

「夏菜ちゃん、絶対に怪我しないでね」

 アドルフは、手を振ってそう言う。夏菜をしっかり見ていようと思っていたのだと知り、恥ずかしくなった。

(私、女の扱いされているわ)

「姉ちゃん、魚、魚」

「あっ!」

 ザッバーンとあがったのは、体長三五センチは、ある、大物だった。

「主じゃないか?」

「すげー、姉ちゃん」

 少年たちにワイワイ囲まれた。


   〇 ◎ 〇


 そして、夕刻になり、少年達は帰って行った。

「またね、アドルフ兄ちゃん」

「お姉ちゃんも、バイバイ」

 去っていく、少年達に手を振って、下を見ると、夏菜は、今更だが、汚れた着物が気になってしまっていた。

「着物、良く洗わなくちゃいけないわ」

「う~ん、その恰好で、街は、歩けないか」

 すると、アドルフが背中に乗る様に言って来た。

「あの、でも、重いですよ」

「夏菜ちゃんは、軽いよ」

 アドルフは、軽々と持ち上げた。少し悪い気がしたが、アドルフにしっかりつかまることにした。

 そのまま、反物屋に連れて行かれた。

「この子に一番合う物をください」

「はい、アドルフさん、また、女の子拾ったんですか?」

「この子は特別な子、今までの子とは、違うんだ」

 夏菜は、アドルフが女の人に着物を贈っている事を知り、少し気分を害した。しかし、反物屋の主人は、気にせず椿模様の着物を着せていく。

 外で待っていたアドルフは。

「似合うね」

「アドルフさんは、他の女の子にも贈り物しているのでしょう?」

「ああ、街の女の子の着物があまりにも古いから、新しい物を着るように、贈り物しているんだ。慈善事業に近いよ、あれは……」

「えっ、城下町のためにやっているの?」

「そりゃあ、そうさ、店の売り子が、古い着物を着て商売なんて、かわいそうだし、女の子がきれいな街は、人の入りが良いからね」

「そ、そうなのですか」

 夏菜は、それを聞いて、また、恥ずかしくなった。

(何か、ヤキモチ妬いているみたいだったよね)

 顔を赤らめて下を向いた。

「どうしたの?」

「明姫だったら、きっと、ステキな逢引きをしただろうな? と思っていたのですよ」

「? なんで」

「だって、私、優雅でも、おしとやかでもなかったもの、あなただって、呆れていたんじゃないかしら?」

「う~ん、俺の場合、夏菜ちゃんが優雅でおしとやかだったら、逢引きには誘わなかったと思うよ」

「何で?」

「う~ん、俺の気持ちの問題、元々城下町では、子供達と転げまわって遊ぶのがほとんどだから、女の子らしい女の子といると、気を使いそうでね」

「確かに、それなら、私には、気を使わなくていいですわね」

 夏菜は、アドルフが、自分に幻滅していないようなので、ほっとした。

 アドルフは、楽しそうに笑って。

「今日は、お出かけに付き合ってくれてありがとう」

「いいのよ、その、私も楽しかったですし……」

「夏菜ちゃんは、そのままでいてね、そのままの夏菜ちゃんが、いいと思っているからさ」

「アドルフ位だわ、そんな事言う方は」


   〇 ◎ ○


 城に戻ると、宮と桃が、畳の部屋の真ん中で、明姫の世話をしていた。

「ただいま、帰りました」

 礼をした。

「あら、夏菜、その着物、贈り物?」

「えっ、あっ、はい」

 椿模様の着物を持っていないことを明姫は知っていたようだ。

「夏菜にも、恋の季節が来たのね」

「和紙を買ってもらって、着物も買ってもらったの、なんだか、申し訳ないと思うのだけど……」

「あら、お出かけと言う物は、男性におごってもらうのが、普通なのよ」

「アドルフさんにも、そう言われましたわ」

「それは、男の人に言わせては、いけないのよ」

 明姫にそう言われて、本当に嫌われてないか、不安になった。

(アドルフは、優しいから、気を使って色々フォローしてくれていたのかもしれないわ、もしかして、「あんな女、二度とお出かけに誘うか」とか言っていたりして……)

 夏菜は青くなった。

「明姫、私、嫌われてないでしょうか?」

 明姫は考えた後。

「嫌いだったら、二度と声をかけてこないと思うわ、好きなら、また、お出かけに誘ってくださいますよ」

「そうですね」

 明姫の言う通り、嫌いな相手は、避けたい。でも、好きな相手なら、声をかける、夏菜もそうするだろうと思った。

(声をかけてくださるように)

 夏菜は、心の中で、念を送った。


〇 ◎ 〇


 その効果は、すぐに出た。夏菜が客間の片づけをしていると。

「夏菜ちゃん」

 アドルフが、戸越しに声をかけて来たのだ。

「アドルフさん、何ですの?」

「また、一緒に出掛けたいと思って、夏菜ちゃんといると、俺は、とっても楽しいからさ、どうかな?」

 夏菜は、思わず戸をあけて。

「アドルフさんは、私の事、嫌いじゃ無いのですね?」

「えっ? 何で嫌うの?」

「私、失礼な事ばかりしていたからです」

「夏菜ちゃんは、小さなころ聞いたウワサどうりの子だったよ、だから、何も心配しなくていいよ」

(……小さなころ?)

「あっ、それより、城の案内とか、頼んでもいいですか? まだ、部屋を覚えきっていないので、時々困ってしまって……」

「いいよ」

 アドルフは、笑顔でそう言って、大きな手を夏菜の頭の上に置いて、ポンポンと優しく触れた。夏菜はドキドキが止まらなかった。

 しばらく、アドルフを見つめていた。

「またね」

「はい」

 ふわふわした気分で、手を振った。その後、夕食を食べて、入浴し、布団を敷き、眠りについた。

(明日は、どんな日になるかしら?)

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