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川に着くと、流れが穏やかで、釣り日和だった。辺りは、木が生い茂っていて、風が気持ちいい。
「お姉ちゃん、ミミズとか触れるの?」
「えっ?」
もうつかんでいた。しかも、うまく、釣り針に挿している。
「……本当にお姉ちゃん女?」
「当然よ」
夏菜を中心に、少年たちの釣りが始まった。その様子を見て、アドルフは、優しく微笑んでいた。
「つれた~!」
夏菜が得意気に、魚を釣り上げた。その魚は、二〇センチ位は、あったように見えた。
「すげ~、姉ちゃん、大物だよ」
少年達は大喜びで、夏菜を囲んで入る。
「今日は、焼き魚が一匹手に入ったぞ、食事が少しだけ豪華になったな」
少年たちは、大はしゃぎだ。
「ただ、たらすだけじゃなくて、ミミズを生きている様に見せるために、優しく振るといいわよ」
夏菜は、少年達に釣りのコツを教えていた。すると、アドルフが近づいて来て。
「夏菜ちゃん、着物が汚れちゃうよ」
「あっ!」
(せっかく、オシャレしたのに、私のバカ)
かわいく見せるつもりが、おてんばな所ばかり見せているではないか。
夏菜の心がきゅーとしぼんだ。
「お姉ちゃん、釣れたよ~」
「わ~、すご~い、夕飯がまた豪華になったね」
少年達とハイタッチしていた。アドルフは、嫌な顔一つせず微笑んでいる。
(私の事、嫌がってないかしら?)
「アドルフ~、お前も、いつもみたいにザリガニつかまえて来いよ」
「えっ?」
アドルフは、少し戸惑っている。城下町の者と川で遊ぶなんて、知られたら恥ずかしいのかと思っていたら。
「夏菜ちゃん、絶対に怪我しないでね」
アドルフは、手を振ってそう言う。夏菜をしっかり見ていようと思っていたのだと知り、恥ずかしくなった。
(私、女の扱いされているわ)
「姉ちゃん、魚、魚」
「あっ!」
ザッバーンとあがったのは、体長三五センチは、ある、大物だった。
「主じゃないか?」
「すげー、姉ちゃん」
少年たちにワイワイ囲まれた。
〇 ◎ 〇
そして、夕刻になり、少年達は帰って行った。
「またね、アドルフ兄ちゃん」
「お姉ちゃんも、バイバイ」
去っていく、少年達に手を振って、下を見ると、夏菜は、今更だが、汚れた着物が気になってしまっていた。
「着物、良く洗わなくちゃいけないわ」
「う~ん、その恰好で、街は、歩けないか」
すると、アドルフが背中に乗る様に言って来た。
「あの、でも、重いですよ」
「夏菜ちゃんは、軽いよ」
アドルフは、軽々と持ち上げた。少し悪い気がしたが、アドルフにしっかりつかまることにした。
そのまま、反物屋に連れて行かれた。
「この子に一番合う物をください」
「はい、アドルフさん、また、女の子拾ったんですか?」
「この子は特別な子、今までの子とは、違うんだ」
夏菜は、アドルフが女の人に着物を贈っている事を知り、少し気分を害した。しかし、反物屋の主人は、気にせず椿模様の着物を着せていく。
外で待っていたアドルフは。
「似合うね」
「アドルフさんは、他の女の子にも贈り物しているのでしょう?」
「ああ、街の女の子の着物があまりにも古いから、新しい物を着るように、贈り物しているんだ。慈善事業に近いよ、あれは……」
「えっ、城下町のためにやっているの?」
「そりゃあ、そうさ、店の売り子が、古い着物を着て商売なんて、かわいそうだし、女の子がきれいな街は、人の入りが良いからね」
「そ、そうなのですか」
夏菜は、それを聞いて、また、恥ずかしくなった。
(何か、ヤキモチ妬いているみたいだったよね)
顔を赤らめて下を向いた。
「どうしたの?」
「明姫だったら、きっと、ステキな逢引きをしただろうな? と思っていたのですよ」
「? なんで」
「だって、私、優雅でも、おしとやかでもなかったもの、あなただって、呆れていたんじゃないかしら?」
「う~ん、俺の場合、夏菜ちゃんが優雅でおしとやかだったら、逢引きには誘わなかったと思うよ」
「何で?」
「う~ん、俺の気持ちの問題、元々城下町では、子供達と転げまわって遊ぶのがほとんどだから、女の子らしい女の子といると、気を使いそうでね」
「確かに、それなら、私には、気を使わなくていいですわね」
夏菜は、アドルフが、自分に幻滅していないようなので、ほっとした。
アドルフは、楽しそうに笑って。
「今日は、お出かけに付き合ってくれてありがとう」
「いいのよ、その、私も楽しかったですし……」
「夏菜ちゃんは、そのままでいてね、そのままの夏菜ちゃんが、いいと思っているからさ」
「アドルフ位だわ、そんな事言う方は」
〇 ◎ ○
城に戻ると、宮と桃が、畳の部屋の真ん中で、明姫の世話をしていた。
「ただいま、帰りました」
礼をした。
「あら、夏菜、その着物、贈り物?」
「えっ、あっ、はい」
椿模様の着物を持っていないことを明姫は知っていたようだ。
「夏菜にも、恋の季節が来たのね」
「和紙を買ってもらって、着物も買ってもらったの、なんだか、申し訳ないと思うのだけど……」
「あら、お出かけと言う物は、男性におごってもらうのが、普通なのよ」
「アドルフさんにも、そう言われましたわ」
「それは、男の人に言わせては、いけないのよ」
明姫にそう言われて、本当に嫌われてないか、不安になった。
(アドルフは、優しいから、気を使って色々フォローしてくれていたのかもしれないわ、もしかして、「あんな女、二度とお出かけに誘うか」とか言っていたりして……)
夏菜は青くなった。
「明姫、私、嫌われてないでしょうか?」
明姫は考えた後。
「嫌いだったら、二度と声をかけてこないと思うわ、好きなら、また、お出かけに誘ってくださいますよ」
「そうですね」
明姫の言う通り、嫌いな相手は、避けたい。でも、好きな相手なら、声をかける、夏菜もそうするだろうと思った。
(声をかけてくださるように)
夏菜は、心の中で、念を送った。
〇 ◎ 〇
その効果は、すぐに出た。夏菜が客間の片づけをしていると。
「夏菜ちゃん」
アドルフが、戸越しに声をかけて来たのだ。
「アドルフさん、何ですの?」
「また、一緒に出掛けたいと思って、夏菜ちゃんといると、俺は、とっても楽しいからさ、どうかな?」
夏菜は、思わず戸をあけて。
「アドルフさんは、私の事、嫌いじゃ無いのですね?」
「えっ? 何で嫌うの?」
「私、失礼な事ばかりしていたからです」
「夏菜ちゃんは、小さなころ聞いたウワサどうりの子だったよ、だから、何も心配しなくていいよ」
(……小さなころ?)
「あっ、それより、城の案内とか、頼んでもいいですか? まだ、部屋を覚えきっていないので、時々困ってしまって……」
「いいよ」
アドルフは、笑顔でそう言って、大きな手を夏菜の頭の上に置いて、ポンポンと優しく触れた。夏菜はドキドキが止まらなかった。
しばらく、アドルフを見つめていた。
「またね」
「はい」
ふわふわした気分で、手を振った。その後、夕食を食べて、入浴し、布団を敷き、眠りについた。
(明日は、どんな日になるかしら?)




