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プチプリンセスの恋  作者: 花見さくら
夏菜の明姫教育
11/29

 チュンチュンと雀の鳴き声がする。どうやら、朝の様だ。

「今日は、アドルフと逢引き!」

 朝から太陽が昇る。気持ちのいい朝だ。太陽の方を向いて、大きく背筋を伸ばした。

(うん、今日は、いい日になる!)

 夏菜は心の中でそう思い、今日着ていくつもりだった着物を見る。

(うん、ばっちり置いてあるわ)

 夏菜は、着物を着て、鏡に向かって念入りに髪を梳かす。

(アドルフと歩いて、劣らない様にしなくちゃ)

 頬紅をさしながらそう思う。

 城の外に出ると、アドルフは、青い着物を着て立っていた。布は、あまり上等ではないが、良い物であり、無地でさっぱりしている。

「やあ、夏菜ちゃん」

「おはようございます」

 深々と頭を下げると。

「なんだか、お姫様みたいだね、かわいいよ」

「そ、そう」

 夏菜も、アドルフのかわいいには慣れてきた。口の軽い男だから、すぐかわいいと言うのだと、学習したからだ。

 城下町へ歩いて行くと、人がたくさん歩いていた。ちんどん屋が、にぎやかな音を立てて通って行く。

「すごい、栄えているのね、売っている物も一流品だわ」

 夏菜は、辺りを見て、キョロキョロしている。その目は、キラキラ輝いていた。

「夏菜ちゃんは、明姫の事を教えてくれるんだよね?」

「ええ」

「じゃあ、明姫だったら、この街を見て、何ていうかな?」

「たぶん、優雅に微笑むだけだと思います。はしゃぐのは、下品ですから」

「そうか、それなら、夏菜ちゃんの反応の方がうれしいな、連れて来た甲斐があるからね」

「そんなことありません、明姫とでかけられる方は、この上なく幸せな方だと思いますよ」

「そう、それで、今日は、夏菜ちゃんも逢引きだって思っているんじゃない」

 夏菜は、顔に出ていたのかと思い、赤くなった。

(なんで、逢引きなんて、言っちゃうのよ!)

 アドルフは愉快そうに笑っている。

(遊ばれていますわ)

 頬の熱さが引いて行き、アドルフに向き合い。

「からかわないで下さい」

 と言って、先に走って行った。

「待ってくれよ、夏菜ちゃん、俺が悪かったって」

 アドルフは、下駄をカラカラならして近づいてくる。夏菜は、和紙屋の前で立ち止まっていた。

「……私がずっと欲しかった金魚柄の和紙ですわ!」

 夏菜の目は輝いていた。実は神月国の女官達には、和紙集めが流行っていたのだ。交換したり、贈りあったり、手紙を書くのにも使うが、持っていること自体がいい事だったのだ。特に重宝されたのは、外国の品だった。

「和紙か、誰かに手紙でも書くの?」

「いいえ、収集ですよ、アドルフさん、和紙って持っているだけで、うれしくなるのですよ」

「へ~」

 夏菜は、その後も、藍色の和紙や、ホウセンカの模様の和紙などを見て、喜んだ声を上げていた。

「う~ん、全部買えないわ」

 夏菜は、手元の七枚の和紙を見て、あきらめようか悩んでいた。

「なんだ、夏菜ちゃん、自分で買うつもりだったの?」

「いけませんか?」

「いやいや、先に、出かけるのに誘ったは、俺だから、贈り物してほしいのかと思っていたんだよ」

「なっ、私だって、一応、お給金もらっているのよ、欲しい物は、お金を貯めて買って見せるわよ」

「夏菜ちゃん、それじゃあ、男の面子が潰れちゃうんだよ、逢引きに誘った女の子の欲しい物一つ贈り物できないなんて、恥ずかしいじゃないか」

「そうなのですか? ここは、おごってもらうのが正しい事なのですか?」

「うん」

 夏菜は、急にはずかしくなった。男の人と出かけたことがない事もばれた上に、正しい事を知らないことまで、ばれてしまったのだ。

 七枚の和紙をアドルフにおごってもらい、店を出て、謝った。

「ごめんなさい、私、男の方とでかけるのって本当に初めてでして……」

「いいんだよ、夏菜ちゃんが純粋でいい子だって良くわかったし、ただ、一つだけお願いしていい?」

「なに?」

「笑顔で『ありがとう』って言ってくれるかな?」

「ええ、ありがとう」

 夏菜は、楽しそうに笑ってそう言った。すると、夏菜は、ギュッとアドルフに抱きしめられていた。

「な、何?」

「夏菜ちゃんは、かわいいな」

 夏菜は、そこで、前に、アドルフがギュッとしたい位、かわいいと言っていたことを思い出していた。

(アドルフは、私を時々、抱きしめたいと思っているのね)

 ギュッとされて十秒が経った。

「いい加減、離しなしてください!」

「あっ、うん」

「あれ~、アドルフ兄ちゃん、それ彼女」

 そう声をかけて来たのは、村人だった。しかも、とても小さな八才くらいの少年であった。よく見ると、後ろに二人の仲間がいた。

「俺達、今日は、川釣りに行くのさ、アドルフ兄ちゃんは、彼女連れじゃあ、今日は行けないな」

「また今度行くよ」

 アドルフがそう言うと。

「アドルフ、私達も川釣りに行きましょうよ、私、小さい頃得意だったのよ」

 夏菜が、腕まくりして、そう言うとアドルフは笑って。

「そっか、夏菜ちゃんは、川釣りも得意か」

 そうつぶやいて、少年たちの後を追いかけて行った。

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