田舎道
流血騒ぎこそありませんが、少し恐怖があるかもしれません。
田舎の道は、舗装されていない。
いや、舗装された道もあるけど、それは全体の一割に過ぎない。
殆ど、舗装なんてされていない。
雨が降れば、泥まみれになって、
雪が降れば、雪まみれになる。
なあんだ、当然じゃないか、と思う勿れ。舗装された道とは、また違う。
水は、土に吸い尽くされて、一滴も残りはしない。
誰かが踏み躙らなければ、水は姿を現すことは無い。
舗装されて無いだけじゃない。分かれ道も無い、ただの一本道。
私はその一本道をただ歩いている。
けれど誰にも会わない。向こうから人が来ることさえない。
蛇や蟻が近くに見えても、
猪や猿が遠くに見えても、
私は「人」と会うことは無い。
日はもう暮れて、目の前が真っ暗になってしまった。
やがて一台の車が遠くからライトをつけてやってきた。
私は手を挙げた。
だけれど止まってくれる人などいようものか。そんなものいる訳が無い。
私には見えている物も、他人からは見えていないのだ。
一言で言えば、それは車じゃなかったのだ。
私が踏み躙って、
浮かんだ水溜りに、月の光が映っただけだったのだ。
そして消えていく。私の目から、光は消え行く。
その少し先に、十文字の土が見えた。光も見えた。
やった、出口だ。
そう思った矢先に、突然目の前に背の高い大男が現れて、
私をひょいと担ぎ上げると、ハンマー投げの要領で私をぶん投げた。
投げられた私は星となって、
道の入口に刺さってしまい、そして二度と動くことは無かった。
その田舎道は、この詩が入口に立てられている。
ある男が、この道を通り抜けようとした。
彼は都会の出身ながら、体力には人一倍自信があった。
村人達は「悪いことは言わないから別の道を通りな」と言ったが、
その男は「俺様は天下の男になるんだ!行くぞー!」と、村人の諌言を退けた。
男はズカズカと、突き進んで行ってしまった。
男は、こういった不規則な地形を歩くのには慣れていなかった。
道中、時折舗装はされていたが、距離の短い舗装が、点線のようになっていただけだった。
少し歩くと、また不規則な土の道で、歩くのには苦慮した。
突然雨が降り出したが、すぐに止んだ。水溜りだ。泥濘だらけだ。
夏なのに雪まで降り出した。一面真っ白だ。白雪だらけだ。
これが舗装された道だったら、どれだけ楽なものだったか。だがこっちはこっちで、楽は楽だ。
暫く歩くと水溜りは消えて、ただの平坦な道になった。雨降って地固まる、というやつか?
うっかり踏むと現れてしまうが、踏みさえしなければ水溜りはもう無い。
歩き始めて、男は、この田舎道に分かれ道が一本も無いことに気付いた。
男はただただ、歩いて歩いて歩く。
しかし後を振り向いても誰も来る気配が無い。目前に人影すらも映らない。
竹薮に蛇、側溝に蟻が見られた。男は歩きながらでも、それらを目にした。
時折立ち止まると、山の上に猿が、田圃の近くに猪が見えた。
だが、男は、ここまで、人間にはだあれにも会っていない。
夕焼けが殆ど沈んで、周りは一面暗くなり、男からは道以外見えなくなった。
暫く歩くと、遠くに二つのライトが見えてきた。
流石に男は疲れたのか、手を挙げて「おーい」と叫んだ。
しかし残念なことに、その二つの光は過ぎ去っていってしまった。
男には見えていたはずが、何故相手には見えなかったのだろう。確かに男は光に照らされていた。
答えは簡単で単純明快。それは車ではなかったのだ。
男は疲れていたが、無意識のうちに歩いていて、その足が、地面を強く踏みしめた。
そうしてできた水溜りに、天に昇った満月の光が、反射していただけなのだ。
男はまだ歩き続け、月の光も見えなくなった。
漸く男の目の前に、十字路が見えた。家の灯りも見えてきた。
やった、遂にやったぞ!出口だ!田舎道の出口だぁ!
そう叫んだ途端に、目の前に身の丈九尺三寸はあろうかという大男が目の前に立ち塞がった。
その大男は、小さい男を軽々と担ぎ上げて、ぶんぶん振り回して入口の方向へ投げ飛ばした。
「うああああぁぁぁぁぁ!!!」と男は叫びながら流星の如く飛ばされていき、
入口の近辺に頭から突き刺さってしまって、哀れにもそのまま窒息により息を引き取ってしまった。
「あ~あ、だ~から言わんこっちゃ無い」村人達はこの一件で、こう呟いたという。
初の短編でした。
本当に短い物語ですが、前後で対比してみるとまた一つ面白いのではないかなと思います。