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《獣人のこども》おねしょ敬太くんの大ぼうけん  作者: ケンタシノリ
第9章 敬太くん、獣岩城で最後の戦い
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その8

 人間が入るのも困難な山道を歩き続ける敬太たちの目の先に、お城らしきものがぼんやりと見えてきました。


「あそこに見えるお城って、もしかして……」


 どんなに雪が降っていても、敬太は赤い腹掛け1枚だけでへっちゃらです。敬太はその建物が気になったので、ワンべえとともに雪道を走り駆けることにしました。


 その建物の姿がはっきりと現した途端、敬太たちは雪道の途中で立ち止まりました。


「あのお城が獣岩城なのか……」

「敬太くん、なんか不安になりそうだワン……」


 そのお城は、遠くから見ても不気味さが漂っていることが分かります。敬太たちがさらに足を進めると、五重にそびえ立つ天守閣の外観がはっきりと見えてきました。


 厳しくて険しい山々に囲まれたこのお城こそが、敬太のお父さんとお母さんが捕まっている獣岩城です。


「おっとう、おっかあ……」


 早く助けないと、鋼吾とおあゆの命がどうなるか分かりません。敬太とワンべえは、急ぎ足で獣岩城の入り口を目指して走り出しました。


 険しくて長い山道をようやく抜けると、いよいよ獣岩城の入口に近いところまでやってきました。しかし、入口から行くためにはその前に橋を渡らなければなりません。


「橋のたもとから入口まで多くの獣人がいるぞ」


 城の周りには、獣人たちが鋭い目つきでにらみを利かせています。入口までたどり着くには、これらの獣人を倒さなければなりません。


「よ~し! ここから一気に入口まで行くぞ!」

「敬太くん、ぼくを置いて行かないでワン」


 敬太は、獣人たちが見張っている橋のたもとへ向かって駆け出していきます。真正面からやってきた小さい子供の姿に、獣人たちも先に攻撃を加えようと拳を構えています。


「わざわざ正面からくるとはなあ」

「そんなに獣岩城へ入るのだったら、先におれたちを倒してからにするんだな」


 敬太たちの前には、橋のたもとに3人がかりで立ち塞がる獣人たちがいます。しかし、敬太には相手に立ち向かうだけの凄まじい力を持っています。


「え~いっ! とりゃあっ!」

「このチビめ、よくも……」

「とりゃあっ! とりゃあっ! とりゃあっ!」


 敬太は、獣人の1人に正面から体当たりしてから強烈な頭突きで突き飛ばしました。これを見た他の獣人たちも攻撃を加えようとしますが、敬太は自らの拳や蹴りで相手を叩きのめしていきます。


「ぐぐぐぐぐぐっ……、ええ~いっ!」

「わわっ、わわわわわっ……」


 獣人たちは、敬太に投げ飛ばされて橋の下の深い堀の中に沈んでいきました。橋の途中から入口にかけては、まだ獣人たちの一団が数多く待ち構えています。


「そうやすやすと通らせるわけには……」

「獣人め! とりゃあっ!」


 敬太は、獣人たちが塞ぐ橋の通り道を無理やりこじ開けようとします。ここを通らない限り、城の入口にたどり着くことはできません。一方、獣人のほうも敬太を先に進むのを食い止めようと必死です。


「え~いっ……。うわわわっ!」

「ふはははは! 残念だったな」

「どうあがこうとも、おめえはここで死ぬ運命なのさ」


 敬太とワンべえは、橋の真ん中で獣人たちに周りを囲まれてしまいました。ここから逃げることも隠れることもできません。


 それでも、敬太はここでひるむことなく先へ進む決心を固めました。敬太には、究極の飛び道具と呼ばれるものを使おうと真上へ飛びお上がりました。


「ふっ、バカなことを……」

「あのチビを倒す絶好の機会だぜ!」


 獣人たちは、敬太が落下するのを見計らって攻撃しようと拳を握りしめています。けれども、空中からの攻撃は敬太のほうが一枚上です。


「これでも食らえ! プウッ! プウッ! プププウウウウウウウウウウ~ッ!」

「うっ! いきなりおならをしやがって……」


 敬太は、急降下と同時にでっかいおならを3回も続けて放ちました。そのおならは、獣人たちにとって鼻をつまむほどのくさいにおいです。これでは、敬太への反撃を行おうとしてもできる状況にありません。


 橋の上に着地した敬太は、獣人たちへ畳みかけるように攻撃を加えていきます。


「えいっ! えいっ! えいえいっ!」

「わっ! いきなり何を……」

「ぐぐぐぐぐぐっ……。おりゃああっ!」


 敬太はげんこつで殴ったり、足で蹴り上げたりと獣人たちに凄まじい力を見せつけています。こうして、獣人たちは敬太の手によって次々と深い堀の中に落とされて行きます。


 獣人たちを倒した敬太は、両腕に力こぶを入れて明るい笑顔を見せています。しかし、獣人たちへ放った敬太の飛び道具はワンべえにとっても相当きつかったようです。


「敬太くんのおなら、くさくてたまらないワン……」

「ワンべえくん、でっかいおならをしちゃってごめんごめん」


 橋を通り抜けると、いよいよ獣岩城の入口に近づいてきました。入口には、獣人たちが右手に槍を持ちながら自分の周りをジロジロと見ています。敬太たちが橋を渡り切ったことは獣人たちもお見通しです。


「ここまでたどり着いたおめえには悪いけど、ここで死んでもらうぜ」

「獣人がどう言おうとも、絶対に城の中へ入ってみせるぞ!」


 獣人たちは、敬太を槍で突き刺そうと2人がかりで襲いかかりました。敵の攻撃に、敬太は小さく飛んで槍の上に乗ると、そこからもう一度飛び上がって強烈な飛び蹴りを食らわせています。


「え~いっ! とりゃあっ! とりゃあっ!」

「いてっ、いてててててっ……」


 獣人は強く蹴られて後ろのほうへ倒れ込むと、そのはずみで握っていた槍も雪上に落としてしまいました。これを拾い上げた敬太は、その槍を堀の中へ放り投げました。


 敬太は、続けざまに獣人の上に乗っては飛んだり跳ねたりし始めました。


「えいっ! えいっ! それ~っ!」

「や、やめてくれ……。頼むから……」


 この様子に、他の獣人が敬太を囲むように槍で狙い撃ちにしようとします。もちろん、敬太がそれに気づかないわけではありません。


「獣人め、これならどうだ!」


 敬太は真上へ高く飛び上がると、そこから降下しながら獣人たちに飛び蹴りを食らわそうとします。


「いくぞ! とりゃあっ! とりゃとりゃあっ!」

「わわわあああああああっ……」


 槍を持ち構えた獣人たちは、敬太の強い蹴りを受けてそのまま深い堀に落ちてしまいました。仲間たちが倒されていることに、獣人たちは敬太への怒りに震えています。


「このチビめ、調子に乗りやがって……」


 獣人たちは、敬太の後方から槍で一斉に突き刺そうと試みます。その気配に、敬太はワンべえとともにすかさずしゃがんでかわしました。


「敬太くん、油断しないほうがいいワン」

「下手に動くわけにはいかないし……」


 周りにいる獣人たちは、しゃがんだままの敬太に槍の先端を突きつけています。少しでも動けば、敬太の命の保証はありません。


 そんな状況で、ワンべえは何とか脱出するための方法を思いつきました。


「ここはぼくにまかせてほしいワン」

「あっ、ワンべえくん!」


 ワンべえは、その小さい体で槍を持っている獣人の手に噛みつきました。いきなりの事態に、獣人は思わず槍を手放してしまいました。


「いててててて! いきなり噛みつきやがって!」


 獣人は、ワンべえをそのまま叩き落とそうと懸命になっています。しかし、ワンべえはどんなことがあっても放すことはありません。


「しぶといチビ犬め!」

「絶対に放すもんかワン!」


 ワンべえが獣人相手に奮闘しているのを見て、敬太もすかさず雪面に転がったままの槍を手にしました。


「えいっ! えいっ! えいっ!」

「ぐぐぐぐっ、このチビめ……」


 敬太は、振り向きざまに石突きで上から振り下ろそうとします。いきなりの攻撃に、獣人たちは自らの槍で辛うじてかわしています。


 けれども、敬太は獣人たちのしぶとさに負けることなく攻撃を加えています。槍同士がぶつかりながらも、敬太は一瞬の隙を見逃すことなく石突きで叩き続けます。


「獣人め! えいっ! えいっ! えいっえいっ!」

「いててっ、いててててっ! や、やめてくれ……」

「まだまだ! えいえいっ! えいえいっ! えいえいえ~いっ!」


 獣人たちは、敬太から石突きで何回も叩かれて雪面の上でぐったりしたまま動くことができません。これを見た敬太は、獣人たちを持ち上げては深い堀の中に次々と放り投げていきます。


「わっ、わわわああああああああああっ……」


 堀の中にドボンと落とされた獣人たちは、そのまま深いところまで沈んで二度と顔を出すことはありません。敬太は、獣岩城の外を守っていた獣人たちがいなくなったことを確認すると、ワンべえとともに城の入口の前まで行って立ち止まりました。

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