その7
長いつり橋に足を入れた敬太たちですが、その途中には獣人たちが列を作るようにして立ち塞がっています。
「この橋を簡単に渡れると思ったら大間違いだぜ、ふはははは!」
「獣人め、ここを通してくれないならこっちから行くぞ!」
向かい側へ行くためには、この長い橋を通らなければなりません。敬太は、自らの力で獣人に立ち向かっていきます。
「ぐぐぐぐぐぐっ……。え~いっ!」
「うわっ、わわわわああああああっ……」
いつ崩れるか分からないつり橋だけに、敬太が獣人との戦いで使える手立ては限られています。すると、今度は橋の入り口から新たな獣人が次々と渡ってきました。
「前だけでなく、後ろからも獣人がやってきたか……」
引き返すこともできなくなった敬太たちですが、だからと言ってここでくじけるわけにはいきません。
「おっとうやおっかあのためにも、ここで負けるわけにはいかないぞ!」
敬太は、振り向きざまに後方からやってきた獣人をつかみ上げて深い谷へ投げ落としました。けれども、いくら倒しても新たな獣人が前方からも後方からもうじゃうじゃと現れてきます。
「どっちへ行こうが、おれたちから逃れることはできないぜ」
「どれだけ獣人たちが現れようとも、このつり橋を必ず渡ってみせるぞ!」
獣人たちは、双方から拳を繰り出して敬太に殴りつけようとします。その動きに、敬太はすぐさま体を丸くしてしゃがみました。これに気づかない獣人たちは、お互いに強い拳を食らう同士討ちになってしまいました。
「い、いきなりしゃがみやがって……。いててててっ……」
「これでどうだ! んぐぐぐぐぐっ、とりゃあっ!」
「わわわああああああああっ……」
敬太は、同士討ちになった獣人2人を橋から投げ落とすと少しでも前へ進もうとします。目の前には、獣人たちの集団がまだたくさんいます。
「敬太くん、後ろにもいるから気をつけてほしいワン」
「後ろにもまだいるのか……」
前からも後ろからも敵がいる状況に、敬太とワンべえは橋の入り口へ引き返すことにしました。その途中で出くわした獣人たちを、敬太は体当たりで突っ込みながら両手でそのまま持ち上げました。
「獣人め! とりゃああっ!」
勢いよく放り投げた獣人たちを次々と谷底へ落として行くと、敬太たちは橋の入り口かで獣人たちが向かってくるのを待ち構えています。
「ほれほれ、そこで待ってばかりじゃいつまでもここを通ることはできないぜ」
「ここにいれば、橋で揺れたりしないもん! えいっ! とりゃあ~っ!」
敬太は、真正面から次々とやってくる獣人たちを両手でつかんでは遠くへ投げ飛ばしていきます。雪の上とはいえ、橋のたもとなら立ち技での攻撃がしやすくなります。
「え~いっ! え~いっ! え~いっ!」
あるときは雪道に叩きつけたり、またあるときは後方の断崖目がけて放り投げたりと敬太の攻撃は止まることなく続いていきます。獣人たちが反撃したくても、敬太が橋のたもとにいる以上はどうすることもできません。
「どうだ! えいえいっ! とりゃあ~っ!」
「うわっ、」うわわわああああああああああああっ……」
獣人たちを数多くやっつけたおかげで、つり橋には誰もいなくなりました。敬太とワンべえは再び橋の上を歩くことにしました。
「この橋を渡れば、あと少しで獣岩城にたどり着くぞ」
「敬太くんの父ちゃんと母ちゃんがどんな人か、早く見たいワン」
長いつり橋の上を進む敬太たちですが、そのつり橋を支える縄が切れかかっていることにまだ気づいていません。
そして、敬太たちが何ごともなかったようにつり橋の向こう側へ目指してあと一歩のところにさしかかろうとしたときです。
「わっ! わわわわあああっ!」
「わわわっ! 落ちてしまいそうだワン!」
敬太たちは、つり橋の縄が切れていきなり深い谷底へ向かって真っ逆さまに落ちていきます。しかし、断崖の途中に大きな石を見つけると敬太はそれに右手でつかみました。
「何とかここで踏みとどまったけど、ここから崖上まではかなり高いなあ……」
「敬太くん、本当に大丈夫なのかワン?」
「こんなところであきらめてたまるか!」
敬太は右肩にワンべえを乗せながら、手足を使って険しい断崖に挑もうとします。そこから登るのは大人でもかなり困難な場所です。
「よいしょ、よいしょ……」
雪が積もっている断崖は、敬太といえども簡単に登れるわけではありません。手をつかむ損ねたら、今度こそ敬太もワンべえも命が危ういものになります。
「わわわわっ……。あんな谷に落ちるのはイヤだワン……」
ワンべえは、深い谷底を思わず見ては身震いするほど恐がっています。そんな中でも、敬太は、歯を食いしばりながら断崖に手を掛けていきます。
鉛色の空からは、雪が再び落ちてきました。その雪の降りようは、次第に激しいものになってきました。次々と結ってくる雪に襲われる敬太たちですが、断崖を登る手足を緩める様子を見せることはありません。
「んぐぐぐぐっ……。わわわっ!」
「敬太くん、危ないワン!」
「大きな岩があったおかげで何とか助かったけど……」
敬太は手が滑って、ワンべえとともにそのままの格好で雪の積もった断崖を滑り落ちました。けれども、大きな岩を右手でつかんだおかげで敬太たちは何とか命拾いしました。
その岩の大きさは、敬太の足が乗るほどの大きいものです。もっとも、そこには雪が積もっているので滑りやすいことには変わりありません。
そこから、敬太は断崖登りに再び挑むことになります。今度こそは崖上まで登り切るよう心に誓うと、雪の積もった断崖に手足を使って登り始めました。
「敬太くん、今度は大丈夫なのかワン……」
「今度こそは絶対登り切ってみせるぞ!」
ワンべえが不安を覚える中、敬太は少しずつ手でつかみながら上へ登っています。敬太は、ほぼ垂直に伸びている断崖を登り切ろうと必死になっています。
「よいしょ、よいしょ……。ぐぐぐぐぐっ……」
敬太が断崖でつかめる小さな岩は、積もった雪で手が滑りそうになります。そんな状況でも、敬太は右肩に乗っているワンべえとともに険しいところから脱出しようとがんばっています。
「ワンべえくん、もう少ししたら崖の上へたどり着くからね」
雪が降り続く中で登り続ける敬太は、最後のひと踏ん張りとばかりに歯を食いしばって手足を使ってはい上がろうとしています。
「うぐぐぐぐぐっ……。よ~いしょ! ワンべえくん、先に行って!」
敬太が崖上に手をかけると、ワンべえは一足先に橋のたもとにたどり着きました。これを見てから、敬太のほうも厳しい断崖をようやく登り切りました。
敬太とワンべえは、完全に崩れ落ちたつり橋を眺めています。ここから引き返すことはもうできません。
「ワンべえくん、獣岩城へ行くぞ!」
「ここまできたら行くしかないワン」
いつになく真剣な表情を見せる敬太は、ワンべえとともに獣岩城へ向かって雪道に足跡をつけながら進んでいます。




