その6
鉛色の雲から激しく降り続く雪は、山道を歩き続ける敬太たちにも襲いかかります。そんな天気の中、敬太は獣岩城へ向かう道を前へ進んで行きます。
獣岩城がどんな建物かは、敬太もワンべえもまだ分かりません。もちろん、敬太のお父さんとお母さんが獣岩城のどこに連れて行かれたかも知りません。
「おっとう、おっかあ……」
敬太は、大好きなお父さんとお母さんに会いたいという強い思いをずっと持ち続けています。ワンべえも、そんな敬太の気持ちを感じ取りながら後をついて行きます。
すると、山道のずっと向こうに橋らしきものがかすかに見えてきました。敬太たちはその橋がどんなものか確かめようと雪道を進むことにしました。
「敬太くん、雪で滑り落ちないでほしいワン」
「今度はさっきみたいに雪で滑らんようにするから」
今まで大きな木々の中にそって作られた山道を通ってきた敬太たちですが、この先は絶壁に沿った雪道をゆっくりと歩かなければなりません。
雪道の左側を見下ろすと、そこには深い谷底が広がっています。少しでも雪で滑らせて谷底まで落下したら、敬太たちの命が危ういものとなります。
「ゆっくりと、ゆっくりと……」
さすがの敬太も、狭い山道に雪を取られないようにゆっくりと足を進めていきます。1歩ずつ進んで行くうちに、長い木の吊り橋の光景が目に入ってきました。
しかし、その橋までたどり着くためには死と隣り合わせの山道を歩かなければなりません。敬太たちが歩く道は、とても狭くて進みにくくなっています。
「敬太くん、向こうまで本当に行けるかワン」
「おっとうとおっかあに会うためにも、ここであきらめるもんか!」
敬太は、どんな困難であってもそこで立ち止まることはありません。ゆっくりとした足取りで、断崖に沿った狭い雪道を踏みしめて行きます。
そんな敬太たちの姿に不気味な笑みを浮かべているのは、橋のたもとにいる獣人たちの一団です。
「やっぱりあの道を通ってきたのか」
「足を踏み外したらいっかんの終わりというのになあ、ふははははは!」
敬太たちの通り道は、大人の人間が通るのがやっとの狭い山道です。獣人の1人は、敬太を亡き者にしようと今すぐにでも攻撃を仕掛けようと考えています。
「あのチビを倒すべく鍛えた体で、おれたちの強さを思い知らせてやるぜ」
獣人たちは両手の拳を握りしめながら、敬太を叩きのめそうと決意を固めています。
一方、敬太たちのほうは狭くて滑りやすい道に悪戦苦闘しています。そこへつけ込むかのように、空のほうから獣人が飛び蹴りを食らわそうと急降下してきました。
「う、うわっ! いきなり何をするんだ!」
「敬太よ! ここがおめえの最期にぴったりの場所だぜ!」
獣人によるいきなりの攻撃に、敬太は危うく足を踏み外すところでした。しかし、敬太のほうもここで立ち止まるわけにはいきません。
「どんなことがあっても、絶対にあのつり橋のところまで行くぞ!」
敬太は真上へ飛び上がると、すぐ横にある断崖を右足で踏み込みました。そこから、敬太は獣人に向かって強烈な頭突きをしました。
「これでどうだ! とりゃああっ!」
いきなりの頭突き攻撃に、獣人は真正面からぶつかったはずみで谷底へ落下していきました。あまりの勢いに、敬太も山道から落ちかけましたが、辛うじて崖上に右手で支えることができました。
「敬太くん、大丈夫かワン?」
「これくらいのことで恐がるもんか!」
深い谷まで続く断崖を恐がっていたら、獣人たちを倒すことなど夢のまた夢です。敬太は再び雪道へ戻ろうとしますが、それを阻止しようと空中から別の獣人が雪道に降り立とうとします。
「い、いててててっ……。よくもぼくの手を踏みやがって……」
「ふはははは! そう簡単に山道へ戻れると思ったら大間違いだぜ!」
獣人は、崖上で支える敬太の右手を足で強く踏みつけています。けれども、敬太にはまだ左手があります。
「ぐぐぐっ、ぐぐぐぐぐぐぐっ……」
「わわわっ! 片手だけで足を持ち上げるとは……」
「んぐぐぐぐぐぐぐぐっ……。ええ~いっ!」
敬太は歯を食いしばって、左手の力で獣人の左足を少しずつ持ち上げていきます。両手が使えるようになれば、形勢は一気に敬太のほうへ移ります。
「今度はこっちから行くぞ! えええ~いっ! とりゃああっ!」
「わわわあああああああああああっ……」
敬太が力強く後方へ投げ飛ばすと、獣人は深い谷の中へ吸い込まれて行きました。雪道へ足をつけた敬太ですが、獣人たちの攻撃はまだ収まる気配を見せません。
「ワンべえくん、獣人たちに気をつけて!」
狭い雪道に向かって獣人の2人がかりの飛び蹴りに、敬太はワンべえを右肩に乗せて真上へ飛び上がりながらかわします。そこから急降下しながら、敬太は獣人への攻撃を仕掛けます。
「えいえいえいっ! とりゃあっ!」
「わわっ、わわわっ……」
敬太の飛び蹴り攻撃に、獣人は雪道から危うく落ちかけそうな様子です。これを見た敬太は、獣人をもう一度蹴り上げて谷底へ転がり落としました。
「獣人め! これでとどめだ! とお~っ!」
「わっ、わあああああああああ~っ……」
1人目の獣人を倒した敬太ですが、後方からは別の獣人が攻撃しようと忍び寄ってきます。そんな中でも、敬太は決して油断することはありません。
「え~いっ! とりゃとりゃとりゃあっ!」
「グエグエッ、グエエッ……」
敬太は振り向きざまの回し蹴りを獣人に食らわすと、今度は立て続けに強い拳が命中していきます。あまりの敬太の攻撃に、獣人は反撃のしようがありません。
そこから、敬太は一気に持ち上げて獣人を深い谷に向かって投げ落とそうとします。
「んぐぐぐぐっ、ぐぐぐぐぐぐぐぐっ……。どりゃあっ!」
「わわああああああああああああっ……」
獣人たちの攻撃を食い止めた敬太は、ワンべえとともに狭い雪道の中を再び歩こうとします。けれども、つり橋の上では危険な山道を断崖伝いに歩く敬太たちを狙おうとする獣人たちが待ち構えています。
「あのチビがどれだけ強かろうが、絶対に獣岩城へは行かせないぜ!」
「一斉に集結しているおれたちの手で、チビ犬もまとめて叩きのめしてやるぜ!」
獣人たちは、敬太たちがつり橋の上を通るのを食い止めようと互いに確認し合っています。そうする間に、敬太たちはようやくつり橋のたもとが目前に近づいています。
「やっぱり、獣人たちがつり橋のところにたくさんいるのか」
「敬太くん、本当に大丈夫かワン?」
「大丈夫だって! これだけ相手がいたって絶対に負けないもん!」
敬太は明るい顔つきを見せながら、拳を握りしめた右腕に力こぶを入れています。力こぶは、獣人への負けん気を示す敬太らしい立派な証拠です。
しかし、敬太たちの動きを封じようと橋のたもとで見張りをしている獣人たちが狭い雪道を塞ごうとしています。
「敬太よ、残念だったな」
「ふはははは! このつり橋を渡るんだったらおれたちを倒してからにするんだな!」
不気味な笑みをにじませる獣人たちですが、敬太はそんなことに動じる様子を見せません。このつり橋を渡るためにはどうするべきかは、敬太がよく知っています。
「獣人め! えいっ、えいっ! とりゃあっ!」
「いきなり何をしやがる……」
「んぐぐっ、んぐぐぐぐぐっ……。獣人相手に負けてたまるか!」
敬太は、目の前にいる獣人を力強く持ち上げてはポンポンと何度も上げていきます。こんな状態が続くと、さすがの獣人も反撃のしようがありません。
「や、やめろ! 頼むからやめてくれ……」
「まだまだやめないぞ! えいっえいっえいっ!」
「うわっ、うわわわわああああああああっ……」
敬太は軽々と空に浮かせた獣人に握りしめた右手で3回続けて強く殴りつけました。あまりの強烈さに、獣人は雪道から断崖を滑り落ちるように深い谷へ消えて行きました。
しかし、橋のたもとで塞いでいる獣人はもう1人います。敬太は先に倒した獣人に目を取られるあまり、もう1人の獣人が後方から手を伸ばしていることに気がつきません。
「敬太くん、危ないワン!」
「このチビめ! よくもおれたちの仲間を……」
「うぐぐぐぐっ……。息が苦しい……」
獣人は、敬太の首を右手でわしづかみにしてそのまま持ち上げようとします。けれども、ここでやられる敬太ではありません。
「プウッ! プウウウウウ~ッ!」
「く、くさい……。おれの顔の前で……」
敬太は、獣人に向かって元気なおならを2回も続けて発射しました。あまりのくさいおならに、獣人は首をつかんだ敬太を思わず放してしまいました。
この勢いで、敬太は一気に獣人を持ち上げては深い谷に向かって放り投げて行きます。
「え~いっ! とりゃあっ!」
「うわああああああああああああああっ……」
橋のたもとにいた獣人たちを倒した敬太は、ワンべえとともに橋の向こう側を見渡しています。つり橋を渡り切るためには、まだ多くの獣人たちを倒さなければなりません。
「おっとう、おっかあ……。必ず助けてやるからね」
敬太は自分のお父さんとお母さんに会いたいという気持ちを抱きながら、つり橋に足を入れようとしています。




