その4
どこまでも続く山道ですが、敬太は決して音を上げることなく足を進めています。ワンべえも、敬太に遅れないように必死に後をついて行きます。
「ワンべえくん! 早く早く!」
「敬太くんの足は速くてついて行けないワン……」
雪道であっても、敬太の元気さは相変わらずです。しかし、ただ歩くだけでは面白くありません。
「雪を集めて、ぎゅっぎゅっとぎゅっと……」
「敬太くん、何を作っているワン?」
「これはねえ、雪で玉を作っているの。冬になったら、これを使ってみんなと雪遊びをするんだよ」
ワンべえは、生まれてから初めて見る雪玉の形を興味深く見ています。夏の暑いときに楽しむ川遊びや池遊びと同じように、冬の間は雪玉を投げ合ったり、雪だるまを作ったりするのが子供たちの楽しみです。
敬太が無邪気になってはしゃぐ姿は、どこにでもいる小さい子供と全く同じです。しかし、それをあざ笑う一団の影が敬太たちの前に現れました。
「こんなところでまた会うことができるとはなあ、ふはははは!」
「獣人め! 山道をふさいで何をするつもりだ!」
「決まっているだろ、おめえを通らせないためさ。ここを通るのなら、おれたちを倒してからにするんだな」
この先へ行くには、3人組の獣人たちを倒さなければなりません。敬太は、先頭にいる獣人へ猛然と向かって行きました。
「んぐぐぐっ! これでどうだ!」
敬太は獣人を両手でつかむと、そのまま上手投げで山道の左側にある木に叩きつけました。その途端、木に降り積もった雪が獣人の体の上へ次々と落ちてきました。
その後も、敬太の獣人への攻撃は続きます。雪道であっても、敬太は稽古で鍛えた凄まじい力で獣人の体を楽々と持ち上げて行きます。
「お、おい! 何をするつもり……」
「んぐぐぐぐぐぐっ! えいえ~いっ!」
敬太が力いっぱい放り投げると、獣人たちは悲鳴を上げながら木の幹に強くぶつかりました。これを見て、敬太はさらなる攻撃を仕掛けていきます。
「ぐぐぐぐっ……。息ができない……」
「まだまだ! 降参するまで首絞めはやめないぞ!」
敬太は、獣人の体の上に乗っかっては首絞め攻撃を続けています。この攻撃で、獣人は声を出せずに息が苦しそうになっています。
そんな敬太の背後には、別の獣人が両手をポキポキさせながら迫ってきました。けれども、そんな気配を敬太は見逃すはずがありません。
「えいっ! えいっ! えいえいえいっ!」
「わっ、わわわわわわわっ……」
敬太は、振り向きざまに獣人へ強烈な頭突きを何度も食らわせました。不意打ちを受けた獣人は、よろけるように雪道へ後ろから倒れ込んでしまいました。
その獣人の上で、敬太はピョンピョンと勢いよく飛び跳ねています。
「えいっ! えいっ! えいえいっ!」
「お、おい、頼むからやめて……。いてっ! いてててててっ!」
敬太の飛び跳ね攻撃に、獣人はあまりの苦痛に顔をゆがめています。この様子に、他の獣人たちは痛みをこらえて立ち上がると、2人組で敬太に襲いかかります。
「このチビめ、今度はそうはいかないぜ」
「どんなにしぶとくても、ぼくは負けないぞ! とりゃあっ! とりゃあっ!」
敬太は、自らの拳と蹴りを獣人たちに命中させると、雪道で倒れたままのもう1人の獣人の上に折り重なるように投げつけました。
すると、敬太は3人が重なっている上へ乗っかるようにまたがりました。その瞬間、敬太は元気いっぱいのあの音をその場で放ちました。
「プウウウウッ! プウウウウウウウッ! プウウウウウウウウウウ~ッ!」
「く、くさい……。本当にくさい……」
「よくもくさいおならをしやがって……」
敬太は、獣人たちの真上ででっかいおならの3連発をしてしまいました。さすがの獣人たちも、敬太の放った必殺技の前に立ち上がることができません。
「どうだ! ぼくのでっかいおならは今日も元気いっぱいだぞ!」
イモをたくさん食べたおかげで、獣人たちにおなら攻撃を食らわせたことに敬太は笑顔を見せながら満足しています。
そんな敬太ですが、背後から不気味さを漂わせる笑い声に振り向いたそのときです。そこには、力獣とその手下らしき獣人が縄できつく縛られた大人の男女2人を人質に取っています。
人質を見た途端、敬太はお父さんやお母さんといっしょにいたときのかすかな記憶を思い浮かべました。
「敬太よ! この2人がどうなってもいいのかな」
「おっとう! おっかあ!」
敬太の叫び声に、人質になっている鋼吾とおあゆは涙を流しながらうなずいています。
「敬太くんに再び会いたいと思っていたのが、こんなことになるとは……」
「置き去りにしたまま逃げて本当にごめんね……」
幼いときに置き去りにしていろんな場所を逃げ回っていた2人ですが、敬太と再会したいという思いはずっと持ち続けていました。そんな鋼吾たちが人質になっている状況に、敬太は力獣たちへの怒りをあらわにしています。
「力獣め! ぼくのおっとうとおっかあを早くここから放せ!」
「おっと、この2人がどうなってもいいのかな」
敬太が駆け出そうとした途端、力獣とその手下は鋼吾とおあゆの首を大きな手で絞めようと待ち構えています。少しでも攻撃を仕掛けようものなら、敬太のお父さんとお母さんの命が危うくなります。
「ぐぐぐぐぐっ……」
「ふはははは! どんなに凄まじい力を持っても、人質がいる前では無力とはなあ」
高らかに不気味な笑い声を上げる力獣の姿に、敬太は歯を食いしばって怒りを抑えようとしています。
「そんなに人質を返してほしければ、おれたちがいる獣岩城へくることだな。そこで大権官様を倒せば、この2人を返してもいいかな」
「大権官をやっつければ、おっとうもおっかあも返してもらえるんだな!」
「まあ、そういうことだ。もっとも、おめえが大権官のいるところまでたどり着けることはまずあり得ないことだけどね」
力獣をはじめとする獣人たちの一団は、不気味な笑い声を響かせると山道から姿を消しました。敬太とワンべえは、雪が積もった道にポツンと立ち尽くしています。
「よくも、おっとうとおっかあを……」
敬太は、両手の拳を握りながら怒りに震えています。なぜなら、自分の命と同じくらい大事なお父さんとお母さんが人質になっているからです。
そんな敬太に、ワンべえがそばに寄ってきました。
「敬太くん、ぼくもいっしょに戦うワン! 少しでも敬太くんの力になりたいワン!」
「ワンべえくん……」
敬太は、いっしょに行動するワンべえを両手で持ち上げて抱きしめています。ワンべえの強い気持ちは、敬太も痛いほどよく分かります。
「ワンべえくんのためにも、獣岩城へ行っておっとうとおっかあを助けに行くからね」
鋼吾とおあゆを助けるためには、大権官という名前のとてつもない敵を倒さなければなりません。敬太は、わずかな可能性を信じて獣岩城へ向かうことを決意しました。




