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《獣人のこども》おねしょ敬太くんの大ぼうけん  作者: ケンタシノリ
第9章 敬太くん、獣岩城で最後の戦い

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その1

 どんよりと暗い雲に覆われた中、敬太とワンべえの前には謎の巨大な敵が待ち構えています。


「ふはははは! ここを通るにはこのおれを倒していくことだな」

「どんなに強い敵であっても、ぼくは絶対に負けないぞ!」


 その敵はまるで獲物を狙うかのように、敬太たちを見ながら不気味な笑みを浮かべています。


「やけに自信満々だなあ。まあ、おめえみたいなチビにおれを倒すことなどできないと思うけど、ふはははは!」

「ぐぐぐぐぐっ……」


 敬太は歯を食いしばりながら、目の前の巨大な敵に対する怒りで体が震えています。その怒りをぶつけようと、敬太はわき目もふらずに真正面からぶつかっていきます。


 しかし、敵のほうはそんな敬太の体当たりを食らっても全くビクともしません。それどころか、自らの強さを誇るかのように怪しげな笑い声を上げています。


「どうした! おめえの力など、おれには全てお見通しだぜ!」


 大きな敵は、何度も体当たりを繰り返す敬太を右足で強く蹴り飛ばしました。地面に叩きつけられた敬太ですが、こんなところでくじけるわけにはいきません。


「これならどうだ! とりゃあ~っ!」

「何度も言っているだろ! 他の獣人なら通用する攻撃であっても、このおれには通用しないとな!」


 敬太は、巨大な敵を倒そうと凄まじい力で持ち上げようとします。けれども、どんなに目いっぱいの力を入れても、敬太はなかなか敵を持ち上げることができません。


「ふはははは! 今度はこっちから立て続けに行くぜ!」

「これくらいのことで離れるもの……。うわわっ! わわわわわっ!」


 巨大な敵は、左足を持っている敬太を大きな右手でわしづかみしました。いきなりの出来事に、敬太は何とか脱出しようと必死に抵抗しています。


「早く放してよ! 早く放してよ……」

「おめえがどう言おうと、おれの知ったことじゃないぞ!」


 今までの獣人と比べてはるかに強い敵を前にして、敬太は手足をバタバタしながらここから脱しようとします。けれども、敵の大きな手で握りつぶされそうな状況から抜け出すのは困難を極めています。


 そんなとき、敬太の顔つきがさらに苦しそうな様子に変わってきました。その表情は、明らかに尋常といえる状態ではありません。


「お、おしっこが……。おしっこがもれそう……」


 敬太はおしっこをガマンしながら、敵の右手から何とか脱出しようと必死です。そして、ようやくその状況から脱出した敬太は巨大な敵の顔面に飛び移りました。


「お、おい! おれの顔にしがみつきやがって!」

「どんな敵だって……。も、もうガマンできない……」


 巨大な敵は、敬太にいきなり顔を塞がれて前が見えずにあわてふためいています。こうして反撃に転じた敬太は、おしっこがガマンできなくなったのを見計らってあの一撃を食らわそうとします。


「ジョパジョパジョパジョパ、ジョジョジョジョジョジョジョジョ~ッ」

「このチビめ! お、おれの顔におしっこをかけやがって……」


 敬太は、ガマンしていたおしっこを敵の顔面に大量に命中させています。強大な力を持つ敵といえども、敬太の不意打ちといえるおしっこ攻撃をかわすことはできません。


 おしっこをいっぱい出た敬太は、今までの苦しそうな表情からいつもの明るくて元気な表情に戻りました。


 その瞬間、今まで見えていた風景も巨大な敵もいきなり消えると、敬太とワンべえの周りは真っ白になりました。


「あれっ? 目の前が急に消えて……。うわっ、うわああああああっ!」




「ぼうや、ぼうや……」

「う、う~ん……。夢であって本当によかった……」


 敬太が目を開けると、そこには年老いた女の人がやさしい顔つきで見つめています。ワンべえも、敬太の様子を見ようと布団のそばへやってきました。


「どうしたの? ずっと苦しそうにうなされていたけど」

「夢の中で、とてつもなく強い敵と戦っている途中に捕まっちゃった」


 敬太は、目の前にいるおばあちゃんに夢の中の出来事を話し始めました。おばあちゃんも、敬太の言っていることに耳を傾けています。


 すると、敬太は顔を赤らめながらも夢の続きを話そうと口を開きました。


「それで……。でへへ、大きな敵の顔におしっこをいっぱいかけちゃったの」

「夢の中でおしっこをしちゃったのかな?」

「だって、本当にガマンできなかったんだもん」


 敬太は、自らの手で掛け布団をめくりました。そこには、いつものように敬太のでっかいおねしょが描かれたお布団があります。


「はっはっは! これだけのおねしょをするとは、本当にすごいわね」


 自分の元気さを示すように、敬太はおねしょでぬれた赤い腹掛けの格好で堂々と仁王立ちしています。敬太の朝は、やっぱり元気いっぱいのおねしょが欠かせません。




 敬太たちがいるのは、山道の途中にある1軒の小さい農家です。この家に普段からいるのは、おばあちゃんただ1人です。1人暮らしのおばあちゃんにとって、孫のようにかわいい敬太を温かく迎え入れています。


 家から出てきた敬太は、庭にある物干しに自分のお布団を干しているところです。そのお布団には、敬太が元気な証拠である大きなおねしょが見事に描かれています。


 そんな敬太の様子を見ようと、おばあちゃんとワンべえが家から出てきました。


「ぼうやはまだ小さいし、おねしょしたって全然気にしていないよ」

「でへへ、こんなにでっかいおねしょをするのはいつものことだもん!」


 敬太はおねしょをしても、決してお布団を隠すようなしぐさを見せません。お布団のおねしょを他の人に見せるのは、敬太自身が今日も元気であることを示すためです。


 家へ戻って朝ご飯を食べ終えると、敬太は竹かごを背負って家の近くにある柿の木へ向かいました。ワンべえも、敬太に置いて行かれないように4本足で後を追っています。


「これから、ばあちゃのためにおいしい柿をいっぱい取るぞ!」


 竹かごを下ろすと、敬太は木の幹から手足を使ってよじ登っていきます。柿の木の太い枝に差し掛かると、敬太はその枝を強く揺らしています。


 すると、枝についていた柿の実が地面にたくさん落ちて行きました。敬太は木から飛び降りると、地面に転がっている柿の実を次々と竹かごの中へ入れていきました。


「うわ~い! 柿の実がこんなにかごいっぱいに取ることができたぞ!」


 敬太は、大好きな柿の実が竹かごに入っているのを見て大喜びです。そばで見ているワンべえも、しっぽをピュンピュン振りながらうれしい表情を見せています。


「これだけあれば、ばあちゃも喜んでくれるぞ!」


 竹かごを背負った敬太は、ワンべえとともにおばあちゃんの家へ戻りました。敬太が柿の実をいっぱい取ったのは、これからおばあちゃんといっしょに干し柿を作るためです。


「ぼうや、干し柿は大好きかな?」

「うん! そのままかじってもおいしいけど、干し柿にしてもおいしいぞ!」


 柿の実は、敬太にとってスイカとともに大好きな果物の1つです。おばあちゃんは、柿の実の柄を残したままで皮を手慣れた様子でむいています。その様子を、敬太はずっと目を離さずに見続けています。


「ぼうや、皮むきをやってみるかい」

「うん! ぼくも柿の実をむくのをやってみるよ!」


 敬太は、見よう見まねで柿の皮をむいていきます。おばあちゃんは、敬太の皮むきの手つきを感心そうに見ています。


「ぼうや、初めてなのに皮を上手にむけるんだね」

「でへへ、育てのじいちゃとばあちゃから教えてもらったんだ」


 敬太が手慣れた様子で柿の皮をむいているのは、小さいときにやり方を教えてもらったおかげです。こうして、敬太はおばあちゃんと2人で柿の皮むきを全部終えることができました。


 皮をむいた柿の実は、柄の部分に1つずつていねいにひもで結んでいきます。


「これを軒下へつるすから、ぼうやもいっしょに外へ出ようかな」

「うん! ばあちゃといっしょにやったら早く済むもん!」


 小さい子供にとって、お手伝いは遊びのように楽しみながらやるものです。軒下は、敬太の身長ではまだ届きません。それでも、敬太はおばあちゃんにひものついた柿の実を渡したりしています。


 こうして、2人で皮をむいた柿は軒下にずらりと並ぶようにつるされています。木の葉が色づく、秋が深まるこの時期ならではの光景です。


「ぼうや、どうもありがとうね。冬は作物が取れないから、野菜や果物を干し柿とか漬物にして長持ちさせるの」


 おばあちゃんは厳しい冬に備えて、食べ物をどのように保存するかを敬太に教えています。敬太は、おばあちゃんのやさしい声に耳を傾けながらあのことを思い出しています。


「おっとうとおっかあに早く会いたいな」


 敬太が思い浮かべるその言葉とは裏腹に、お父さんとお母さんは獣人たちから逃れようと必死になっています。

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