その23
「キャッキャッキャッ、キャッキャッキャッ」
「ペロペロペロペロペロペロ~ッ」
「ワンべえくんになめなめされたら、本当にくすぐったいよ」
ゆう蔵のあどけない笑顔とワンべえのなめなめ攻撃は、敬太にとってもうれしいことです。子供の明るい表情は、動物であろうと獣人であろうと変わりありません。
そのとき、獣人たちの人影が敬太たちの前に現れました。そこには、力獣を中心に双子の獣人が両側に従えています。
双子の獣人は、自分たちへの屈辱を与えた敬太たちへの強い怒りをにじませています。
「汚いものを食らわせやがって……」
「このチビめ……。このままで済むとは思うなよ……」
敬太は、獣人たちのしぶとさに気を引き締めています。しかし、これ以上ゆう蔵を危険な目に遭わせるわけにはいきません。
「どうした! そんなところで立ったままで攻撃しないのか!」
「ぐぐぐぐぐっ……」
これを反応したのは、敬太の右肩に乗っているワンべえです。ワンべえは、すぐに飛び降りると4本足で家へ向かって駆け出して行きました。
「ぐははははは! あのチビ犬め、おれたちにおじけついて逃げ出すとはなあ」
この様子に、力獣は大きな口を開けて不気味な笑い声を上げました。それに呼応して、双子の獣人も力獣とともに大笑いしています。
そんな獣人たちの笑い声に対して、敬太は歯を食いしばりながら怒りの表情を見せています。敬太にとっては、大好きなワンべえのことをバカにする獣人たちの一団の言葉に拳を握りながら震えています。
「よくも、ぼくの大切な友達をバカにするなんて……。絶対に許さないぞ!」
「それなら、おれがどういう攻撃をするのか、おめえにたっぷりと教えてやるぜ!」
力獣は、敬太たちに向かって凄まじい蹴りや拳を食らわそうとします。敬太は後すさりしながら、力獣の攻撃を何とかかわしています。
「これじゃあ、力獣に立ち向かいたくてもできないし……」
敬太はゆう蔵を抱いているので、力獣への攻撃をなかなか仕掛けることができません。この様子に、力獣は敬太を倒そうと攻め続けています。
「ほれほれ、どうした! そんなに逃げるばっかりなら、おれの攻撃がいつまでも終わらないぜ」
「力獣め、よくも……。わっ、わわわわわっ!」
敬太は劣勢になりながらも、力獣から繰り出される攻撃をよけようと必死です。ところが、その途中で後ろから尻餅をつくように倒れ込んでしまいました。
敬太は、自分が後ろからこけてもゆう蔵を地面に落とさないようにしようと懸命です。そんな敬太の前で、ゆう蔵は再び大声を上げて泣き出しました。
「うっ。うっ、うえええええええええええ~んっ!」
「ゆう蔵くん、こけてしまって本当にごめんね。そんなに泣かなくても大丈夫……」
敬太がゆう蔵を何とかあやそうとすると、自分の足元に力獣がやってきました。力じゅうはまるで獲物を狙うように鋭い目つきで敬太をにらみつけています。
「おめえはそんなに赤ん坊のほうが大事なのか……。おれたちと戦っている最中にもかかわらず、そっちばかり目に行くとはなあ……」
力獣は、戦いそっちのけで赤ちゃんを大事そうに抱える敬太に対して不気味な声を発しました。そんな力獣の態度に、敬太は怒りの感情をあらわにしました。
「獣人の赤ちゃんの気持ちは力獣には分からないけど、ぼくにとってゆう蔵くんはとっても大切な友達だぞ!」
赤ちゃんが動物であろうと獣人であろうと、敬太が友達として大切にしたい思いは同じです。敬太が怒りをにじませたのは、力獣がゆう蔵のことを虫けらのようにしか見ていないからです。
しかし、そんな敬太の思いは力獣には一切通用しません。力獣は、起き上がろうとする敬太を何度も強く蹴り上げています。
力獣による強烈な蹴りは、敬太にとって尋常なものではありません。それでも、敬太は痛みをこらえながらゆう蔵を必死に守り続けています。
「ぼくがゆう蔵くんのことを守ってあげるからね」
「うええええええええええええ~ん、うええええええええええええ~ん!」
その間も、ゆう蔵は大声で泣き叫んでいます。ゆう蔵の泣き叫ぶ姿は、敬太の心の中にも伝わっています。
「力獣を倒すにはこっちから立ち向かわないといけないけど、これ以上ゆう蔵くんを危険な目に遭わせるわけにはいかないし……」
敬太は何とかして力獣へ反撃を仕掛けたいところですが、今の状況ではゆう蔵を守ることだけで精一杯です。そんなとき、敬太の耳元にあの声が聞こえてきました。
「敬太くん、これを持ってきたから早く使ってワン!」
その声は、まさしくワンべえの声そのものです。でも、地面に倒れた敬太が家のほうを向いても誰もいません。
すると、敬太のそばで再びワンべえの声がしました。そこには、天狗の隠れ蓑の中から出てきたワンべえの姿があります。
「わっ! ワンべえくん、もしかして……」
「敬太くん、ゆう蔵くんをこの隠れ蓑の中に早く入れてほしいワン!」
ワンべえは、ゆう蔵を助けるために天狗の隠れ蓑をつけて敬太のところまでやってきました。この隠れ蓑の大きさであれば、子犬と赤ちゃんが入っても力獣をはじめとする獣人たちに見つかることはありません。
そして、ワンべえが持ってきたのはこれだけではありません。ワンべえの口にくわえているのは、敬太が大好きな大きなイモ1本分です。
「ワンべえくん、本当にありがとう! でっかいイモをかじって、獣人たちに負けないように体いっぱい使って戦うからね!」
「敬太くん、獣人たちに負けないでほしいワン!」
敬太は、ゆう蔵をワンべえのいる隠れ蓑の中に隠すことにしました。天狗の隠れ蓑に入ると、ゆう蔵はワンべえとともにその場から姿を消しました。
ワンべえから励ましを受けた敬太ですが、力獣による攻撃は間髪を入れることなく続いています。
「ごちゃごちゃしゃべっているようだが、おめえの戦う相手がこのおれであることを忘れたら困るぜ」
敬太は、力獣の強烈な蹴りで仰向けのまま地面に叩きつけられてしまいました。けれども、敬太はそんなことでくじけるないで立ち上がろうとします。
「どんなに痛めつけられても、ぼくは最後まであきらめないぞ!」
「何回痛めつけても、おめえにはまだ分からないようだな。それだったら、もう一度おれがこの手で教えないといけないな」
力獣は敬太をにらみつけながら、両手をポキポキと鳴らしながら不気味かつ冷酷な言葉を発しています。その言葉には、敬太よりも格上という力獣の持つ自信がそのまま表れています。
そんな中にあっても、敬太はあざだらけになっても堂々と立ち向かって戦う姿勢を見せています。敬太は大きなイモを1本丸かじりすると、力獣に向かって一気に走り駆け出しました。
「力獣め、今度は絶対に負けないぞ!」
「まだ分からんのか! おめえの攻撃などお見通しって……。う、うわわっ!」
敬太は力こぶを入れた両腕で力獣をつかむと、その凄まじい力によって真上まで持ち上げています。いくら力獣が筋肉のかたまりと言っても、敬太の力からすれば持ち上げることぐらいたやすいものです。
不意を突かれた力獣ですが、敬太に持ち上げられてもその表情は相変わらず強気です。
「凄まじい力を持っていようとも、おれに通用すると思ったら大間違いだぜ」
「んぐぐぐぐぐっ! どんなことを言われようとも、ぼくは絶対に負けないもん!」
敬太は、自分の思いをぶつけようと力獣を思い切り地面に叩きつけました。力獣はすぐさま起き上がろうとしますが、その動きを敬太は見逃しません。
「とりゃあっ! とりゃあっ!」
敬太は、力獣へ強い蹴りを次々と食らわせています。間髪入れずに攻撃を加える敬太に対して、力獣は何とかして反撃に転じようとします。
「他の獣人とは違うということがまだ分からんのか! うりゃうりゃあっ!」
力獣は、強烈な蹴りを敬太の真正面から食らわそうと試みました。しかし、敬太はそんな力獣の攻撃を両手で必死に食い止めています。
「な、なぜだ……。おれの蹴りをそのまま受け止めるとは……」
「どんなことがあろうとも、ぼくはこの手で絶対にやっつけるぞ!」




