その20
敬太は引戸を開けると、ゆう蔵をおんぶしながら外へ出てきました。ワンべえも、敬太たちの後ろをついていくようにやってきました。
物干しには、敬太とゆう蔵が描いたおねしょ布団が干されています。敬太は、自分がやってしまったおねしょを見ながら堂々としています。
「明日も、今日みたいにでっかいおねしょをするようにがんばるぞ!」
おねしょは、敬太がいつも元気な子供であることを示す立派なシンボルです。ゆう蔵のほうも、自分のおねしょを見てはうれしそうに喜んでいます。
そのとき、敬太の耳に聞き覚えのある不気味な笑い声が入ってきました。後ろを振り向くと、そこには獣人たちが5人1組で待ち構えています。
「ふはははは! やっぱりここにいたのか」
「相変わらず大失敗したおねしょ布団を眺めているとはなあ……」
獣人たちは、処刑用の槍を持って敬太のそばへやってきました。すると、さっきまで笑顔を見せていたゆう蔵が大声で泣き出しました。
「この赤ん坊め、おれたちの前でまたビービー泣きやがって!」
獣人の1人がゆう蔵に槍を向けたことに、敬太は強い怒りをあらわにしました。敬太にとって、赤ちゃんや子供に牙を向ける獣人たちのやり方を許すわけにはいきません。
「獣人め、赤ちゃんを泣かせるやつは絶対に許さないからな!」
敬太はおんぶしていたゆう蔵をいったん下ろすと、前抱きにして持ち上げました。その間も、ゆう蔵は大声で泣き続けながら両足をバタバタさせています。
そんな敬太たちに対して、獣人たちの一団は冷酷な口ぶりを見せています。
「ふざけやがって! よくもまあ、おれたちの前で調子に乗るとはなあ……」
「こんな出来損ないの赤ん坊がそんなにかわいい……」
相変わらず泣き続けるゆう蔵に対して、獣人たちのいら立ちは頂点に達しています。そのとき、獣人たちの目の前にいるゆう蔵から不意打ちを突かれることになりました。
「ジョパジョパジョパジョパ、ジョパジョパジョジョジョジョジョ~ッ」
「い、いきなり顔におしっこを……」
ゆう蔵は大泣きしながら、獣人の顔面に向かっておしっこを見事に命中させています。獣人にとって、赤ちゃんが放った必殺技の命中はたまったものではありません。
一方、ゆう蔵のほうはおしっこを出し終わると、すっきりした様子でいつもの明るい笑い声に戻りました。
「キャッキャッ、キャッキャッキャッ」
「ゆう蔵くん、おしっこがいっぱい出てよかったね」
敬太は、笑い声が絶えないゆう蔵をやさしく抱いています。獣人の赤ちゃんは、そんな敬太に手足を動かしたりしながら喜んでいます。
しかし、獣人たちは思わぬ形で赤ちゃんにやられるのが面白くありません。ゆう蔵に気を取られている敬太を見た獣人たちは、一斉に槍で突き刺そうとします。
いきなりの攻撃に、敬太たちはしゃがみ込んで何とか難を逃れました。
「よくも、おれたちになめたようなマネしやがって!」
「う、うわっ! いきなり何をするつもりだ!」
「決まっているだろ! 縄で縛りつけた柱から逃れたって、そうはいかないぜ」
獣人たちは、その後も槍による攻撃を緩めることはありません。敬太は必死にその攻撃をかわしますが、死と隣り合わせの状況であることに変わりありません。
そんな中にあっても、敬太の支えとなっているのはゆう蔵の笑顔です。
「どんなことがあっても、ゆう蔵くんをこの手で守ってやるからね」
「キャッキャッキャッ、キャッキャッキャッ」
ゆう蔵やワンべえのためにも、敬太は獣人相手にくじけるわけにはいきません。敬太は立て続けに槍を繰り出す獣人たちの攻撃をかわすと、ゆう蔵を抱きかかえながら真上に向かって高く飛び上がりました。
「あのチビめ、どこへ逃げやがった!」
「あっ! あんなに高く飛びやがって!」
獣人たちが驚きを隠せない中、敬太は空に浮いた状態から一気に急降下しました。そこから、敬太は一気に強烈な蹴りを獣人たちに食らわせます。
「今度はこっちから行くぞ! え~いっ! とりゃとりゃああっ!」
「うわっ! わわわわわわっ!」
敬太による反撃に、獣人は仰向けでそのまま地面に叩きつけられました。その後も、敬太による攻撃はまだまだ続きます。
再び飛び上がるや否や、敬太は真下にいる獣人たちへ大きなおならを2連発しました。
「獣人め、これでも食らえ! プウウウウッ! プウウウウウウウウウウッ!」
「うっ! 死ぬほどくさいのをしやがって……」
「どうやったら、こんなおならを……。本当にくさいぞ……」
敬太のおならを直接食らった獣人たちは、鼻をつまんで地面に倒れ込んだまま身動きが取れません。そんな獣人たちを前に、敬太は明るい顔立ちで堂々と仁王立ちしています。
「どうだ! ぼくの元気いっぱいのおならの威力はこんなにすごいぞ!」
敬太がでっかいおならが出るのは、普段から大好きなイモや野菜をたくさん食べたおかげです。あまりのおならの威力に、敬太はゆう蔵を抱きながら自慢げに誇っています。
そんなとき、図体の大きな男らしき野太い声が敬太の耳に入ってきました。その声を聞いた瞬間、敬太はすぐに正面に目をやりました。
「よくもまあ、こんなにくさいおならをおれたちの仲間に食らわせやがって……」
そこに現れたのは、全身が筋肉のかたまりである大きな体の獣人です。あれだけ恐ろしい獣人といえども、これだけの筋肉を持つ獣人は他にいません。
「おれの名前は力獣だ! おめえがどんなに力強くても、このおれに勝てると思ったら大間違いだぜ、ぐはははは!」
「力獣め! どんなことがあっても、ぼくが絶対にやっつけてやるからな!」
敬太は自分の力を見せつけようと、力獣に向かって突進しています。しかし、力獣はゆう蔵を両手で抱いている敬太の動きを見逃すはずがありません。
「これでも食らえ! うりゃああっ! うりゃうりゃああっ!」
「うわっ、うわあああっ!」
力獣は、頭突きをしようとした敬太を右足で強く蹴り上げました。その威力に、敬太は背中から地面に叩きつけられました。
「いててっ、いてててててっ……。ゆう蔵はぼくが守ってあげるからね」
敬太はかなり痛そうな表情を見せながらも、大事な赤ちゃんに一切かすり傷もないことにホッとしています。ゆう蔵も、やさしく抱かれた敬太の温もりにキャッキャッと喜んでいます。
一方、力獣にとっては赤ちゃんに気をとられている敬太を倒す絶好の機会です。これに気づいた敬太は、近くにいるワンべえに声を掛けました。
「ワンべえくん、ゆう蔵くんといっしょに他のところへ逃げて!」
「敬太くん、ものすごく強いから気をつけてほしいワン」
ワンべえは、ゆう蔵といっしょに獣人たちに見つからないところへ隠れることにしました。ゆう蔵は、4本足で早く歩きながらワンべえの後をついていきます。
1人になった敬太は、目の前にいる力獣に飛びかかって行きました。敬太は拳や蹴りを使った攻撃を何度も加えますが、力獣には全くといっていいほど効きません。
「どうした? おまえの攻撃はこんなものなのか?」
力獣が敬太を見下すように言い放ったその言葉に、敬太は怒りを抑えながら歯を食いしばって震えています。
「ぼくの力はこんなものじゃないぞ! んぐぐぐぐぐっ! んぐぐぐぐぐっ……」
敬太は力獣を両手でつかむと、凄まじい力でそのまま真上まで持ち上げました。本来なら、敬太の力に相手もあわてふためくはずです。
ところが、力獣はこの状況にあっても全く動じる様子を見せません。
「おめえの攻撃など、おれから言わせればお見通しだってことを分からないようだな」
「どんなことを言われても、決してあきらめるもんか! ええ~いっ!」
敬太は、小さな体から繰り出しながら力獣を投げ飛ばしました。地面に強打した力獣ですが、何ごともなかったかのようにすぐ立ち上がりました。
「おれが、他の獣人とどれだけ違うのか今から見せるとするかな!」
力獣は間髪入れずに敬太をつかむと、仰向けの状態で何度も叩きつけています。その間も、力獣は敬太に向かって平然と冷酷な言葉をかけています。
「おめえみたいな人前でおならを平気でやっている子供には、こうやって叩き直さないといけないなあ! うりゃああっ! うりゃああっ!」
「い、いててててっ! いてててててっ……」
力獣による敬太へのお仕置きは、これで終わったわけではありません。敬太の周りに立ちはだかるのは、5人組の獣人たちです。
「よくもまあ、おれたちにくさいおならを放ちやがって……」
「そんなことをしてただで済むと思ったら大間違いだぞ!」
獣人たちは、地面に倒れ込んだ敬太を持ち上げては次々と殴りつけていきます。その殴り方は、今までと比べても激しいものです。
何回も殴られて無数のあざができた敬太ですが、こんなところでくじけるわけにはいきません。
「どんなことがあっても、獣人たちに負けるもんか……」
敬太は歯を食いしばって拳を握りしめながら、決してあきらめない気持ちを獣人たちの前で見せています。




