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《獣人のこども》おねしょ敬太くんの大ぼうけん  作者: ケンタシノリ
第8章 敬太くんと獣人の赤ちゃん

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その18

「うぐぐぐぐぐぐっ! んぐぐぐぐぐぐぐっ……」


 敬太は両腕に力こぶを入れながら、凄まじい力で縄をひきちぎろうと試みています。しかし、何回やってもひきちぎることはできません。


 これでは、敬太と同じように柱に縛られているワンべえや獣人の夫婦を助けることができません。これを見た子供たちは、敬太たちを助けようと柱の後ろのほうへ行きました。


「敬太、今からぼくたちが助けるからな」


 柱の後ろには、縄で縛ったところに御札が5か所も貼られています。敬太たちは柱の高いところに張りつけられているので、2人がかりでなければそこまで手が届きません。


 岩五郎はその場でしゃがむと、勘太を肩車にして乗せてから立ち上がりました。今まで敬太に助けられてばかりなので、今度は自分たちが敬太を助ける番と意気込んでいます。


 肩車に載っている勘太は、柱の後ろにある御札を取ろうと手を伸ばしました。


「こ、この御札を取りさえすれば……。わわっ!」


 御札に手が触れた瞬間、強烈な電流のようなものに勘太は思わず手を離してしまいました。勘太は再び御札をはがそうと試みても、ちょっと手が触れただけで電流が走ったかのようにビクッとします。


「勘太、もたもたしてどうするんだ!」

「そ、そんなこと言っても……。手が触れただけで……」


 岩五郎のいら立ちに反応した勘太ですが、何度やっても御札に手を触れることすらできません。今度は、勘太が岩五郎を肩車にして再び立ち上がることにしました。


「お、おい! ふらついているようだけど大丈夫なのか?」

「大丈夫と言ったって……」


 勘太は、自分よりも体重が重い岩五郎を肩車で持ち上げるのが精一杯です。それでも、何とかして岩五郎を御札が貼られているところへ近づけようと支え続けます。


「この御札を取りさえすれば……。あとちょっと……」


 岩五郎は御札に手をかけようとした途端、電流が走ってそこから手を離してしまいました。岩五郎を乗せている勘太は、足元が不安定の中でどうにかして持ちこたえようと必死です。


 ところが、岩五郎のあまりの体重の重さに勘太は次第に足がふらついてきました。あまりにも岩五郎のことを気にするあまり、勘太は足を取られてこけてしまいました。


「うわわっ! わわわわわわっ!」

「お、おい! こんなところで後ろにこけて……。わわわわわわわわわあ~っ!」


 勘太が後方に尻餅をついてこけると、肩車に乗っていた岩五郎もそれにつられて背中から地面に落ちてしまいました。


「いててててっ……。勘太! おれをちゃんと上まで持ち上げないからこんなことになったんだぞ!」

「そんなこと言ったって、岩五郎の体はとても重いんだもん……」


 結局、後ろに貼られた御札がはがれないまま日が暮れようとしています。それでも、子供たちは敬太やワンべえのところから離れようとしません。


「敬太くん……。ぼくたち、どんなことがあってもここから離れないからね……」

「う、ううっ……。うええええええええええ~んっ!」

「死ぬのを見たくないよ……。ううううっ……」


 子供たちが大声で泣き叫んでいる様子は、集まった村人たちにも伝わっています。柱に縛られた敬太たちが処刑されることは、大人たちにとっても心配でなりません。


 そんなとき、村人の1人が空のほうを見上げました。空のほうは、すっかりあかね色に染まって日が暮れようとしています。


 いくら敬太たちのことが心配だといっても、子供たちが真っ暗闇の中にいるのはとても危険です。


「お~い! そろそろ家へ帰らないと……」

「帰らないもん! 敬太くんといっしょにいたいもん!」


 村人たちがぞろぞろと帰る中、子供たちは柱に縛られた敬太やワンべえのところにずっといます。家へ帰るよう促しても、子供たちはここから動こうとしません。


 そんな子供たちに、村人の男はつい声を荒げてこう言い出しました。


「真夜中になっても帰らない子は、恐い犬やオオカミに食べられても知らないからな」


 脅しともいえるこの言葉に、小さい子供たちは涙をこらえながら駄々をこねています。


「やだ! いっちょにいたいもん!」「いっちょにいたい!」


 決して離れようとしない子供たちの気持ちに、敬太はその思いに対してやさしい言葉で返しました。


「みんなの気持ちは、ぼくたちにも十分伝わっているよ。はやくここから抜け出すようにがんばるから!」


 敬太は自らを励ますことで、困難な状況からの脱出を子供たちの前で誓いました。柱に手足が縛られようとも、敬太は元気で前向きなところを見せています。


 それでも、子供たちは敬太たちのことが心配でその場から離れる様子はありません。


「本当に大丈夫? 明日には、獣人が敬太くんたちを処刑するって言っているし……」

「敬太くんが死ぬところなんか見たくないもん……。うううううっ……」


 敬太は、自分の周りから一向に離れようとしない子供たちの様子に複雑な思いで見つめています。逆に考えると、子供たちがそれだけ敬太のことが大好きであることを示しています。


 そのとき、日が沈んだばかりの空にどす黒い雲に覆われると、敬太たちの真上でいきなり雷がゴロゴロと鳴り始めました。その音が耳に入るたびに、小さい子供たちは体を震えながら恐がっています。


「雷が恐いよう……。恐いよう……」

「雷にへそを持っていかれるのが恐いんだもん……」


 近くの山へ激しい音とともに落ちる稲光を見て、雷におびえる子供たちはしゃがみ込んで耳をふさいでいます。雷の音がひっきりなしに鳴るうちに、空からは激しい雨が叩きつけるように降ってきました。


「土砂降りの雨だ! 早く帰らないと大変なことになるぞ」


 あまりにも凄まじい雨の降り方に、村人たちは急ぎ足でそれぞれの家へ駆け出して行きました。そんな中にあっても、子供たちは敬太のそばから決して動こうとしません。


 すると、柱に縛られた敬太たちの後方に貼られた御札が大雨で次々とはがれるようになりました。地面には、何枚ものはがれた御札が大量の雨に打たれています。


 敬太は、何とかしてここから抜け出そうとありったけの力を振り絞りました。敬太の持っている凄まじい力は、それまでビクともしなかった縄をいとも簡単にひきちぎることができました。


 その瞬間、敬太は大の字になって自由の身になった喜びを爆発させました。


「やった! 御札の封印が解けたおかげで、ここから抜け出すことができたぞ!」

「敬太くんが無事でぼくたちもうれしいよ!」

「敬太くん! 敬太くん!」「もう敬太くんとは離れたくないよ」


 土砂降りの中、子供たちは敬太が無事だったことにうれしさを隠せません。しかし、柱にはワンべえや獣人の夫婦がまだ縛られたままです。


「今からぼくが助けてやるから、もうちょっとガマンしてね」


 例え大雨が降ろうとも、敬太は目の前で苦しんでいる人間や動物を助けようと一生懸命になっています。敬太は両手両足を使って柱を登ると、きつく縛った縄を次々とほどいていきました。


「敬太くん、助けてくれて本当にありがとうワン!」

「おれたちのために助けてくれるとは……。感謝の気持ちでいっぱいだぜ」


 牙吉としの、そしてワンべえを助けた敬太ですが、ここにいたら獣人たちが戻ってくるのは必至です。相変わらず激しい雨が降り続く中で、敬太は獣人の夫婦が隠れる場所を探さなければなりません。


「それなら、ぼくのところへおいでよ! おっとうもおっかあもやさしいから!」


 敬太とワンべえは雨に打たれながらも、盛兵衛とおひさの家へ獣人の夫婦を連れて行くことにしました。同じ獣人でも赤ちゃんであるげん吉と違って、大人である牙吉としのをすんなりと受け入れるかどうかは分かりません。


 それでも、獣人の夫婦は他の恐ろしい獣人とは全く違います。獣人の夫婦が人間のようなやさしい心を持っているのを敬太は知っているからです。

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