その17
「2人を助けて欲しかったら、今すぐおれたちへの攻撃をやめることだな」
双獣雷の脅し文句に、敬太はこれ以上の獣人への攻撃をやめざるを得ません。敬太は獣人の首を絞めていた両腕を解くと、すぐに双獣雷の近くに立ちました。
人質を助けるために攻撃をやめた敬太の姿に、牙吉たちは思わず涙を流しています。
「敬太、おれたちがふがいないばかりに……」
「あたしたちを助けるために……。ううっ、ううううっ……」
そんな獣人の夫婦の気持ちは、敬太のほうにも伝わっています。敬太は双獣雷の近くに立つと、その場で強い口調で言い始めました。
「言われた通りに獣人への攻撃はやめたから、さっさとこの2人を放せ!」
敬太の顔つきには、獣人の夫婦を助けようとする強い気持ちが表れています。しかし、獣人たちはそんな敬太の訴えを素直に従うはずがありません。
「おれたちの言うことを聞くとは、おめえは本当にバカだなあ」
「獣人め、それってどういう意味だ!」
すると、倒れていたはずの獣人の1人が敬太の背中に強く蹴りつけました。不意を突かれた攻撃に、敬太はうつ伏せになるように倒れ込みました。
「い、いきなり強く蹴りやがって……」
「ぐはははは! おれたちに攻撃できないとなれば、こんなチビなど小さいアリみたいにひねりつぶすことができるぜ」
双獣雷は不気味な笑みを浮かべながら、他の獣人たちが敬太を殴ったり蹴ったりしているところをたかをくくって見ています。
「おめえにはこうやってたっぷりと痛い目に遭わせてやるぜ! うりゃうりゃあっ!」
「どりゃあっ! どりゃあっ! おりゃあっ! おりゃあっ!」
「うぐぐぐぐっ、うぐぐぐぐぐぐっ……」
獣人の攻撃が次々と加えられるうちに。敬太の体は赤くはれ上がってきました。獣人の夫婦が人質に取られている以上、敬太は抵抗を試みることができません。
この様子を見たワンべえは、敬太を助けようと獣人たちに向かって飛びかかりました。
「ぼくの大切な友達を痛めつけるなんて、絶対に許さないワン!」
「よくもじゃましやがって! おめえも敬太みたいにしてやろうか!」
獣人はワンべえを地面に強く叩きつけると、その場で虫けらのように右足で踏みつけています。その間も、他の獣人による敬太への攻撃は緩める気配はありません。
「敬太くん……。あんな姿になってかわいそうだワン……」
「あんなチビにまだ未練があるのなら、おめえも地獄へ送ってやろうか!」
獣人は冷酷な表情を見せながら、小さなワンべえの体を何度も踏みつけています。ワンべえが泣きながら痛がっている様子に、獣人たちは不気味な笑い声を上げています。
「ふはははは! かわいい子犬のあんな姿を見てどう思うのかな?」
「よ、よくもぼくの大事な友達を……」
敬太は、傷ついたワンべえを見ながら必死に声を上げようとします。しかし、獣人たちは敬太が抵抗できないのをいいことに何度も強く踏み続けています。
あまりの激痛に、敬太はとうとうその場で気を失ってしまいました。ワンべえがどうなったかも、目の前が真っ暗になった状態では分かりようがありません。
「う、う~ん……。こ、ここはどこなの……」
ようやく気づいた敬太は、ゆっくりと目を開けました。そこで目にしたのは、柱に両手両足や胴体が縄で縛られた自らの姿です。
さらに周りを見回すと、獣人の夫婦である牙吉としの、そしてワンべえも敬太と同じように柱に縛りつけられています。敬太が下を向くと、そこには獣人たちが長い槍みたいなものを持ちながら不気味な表情を浮かべています。
「ふはははは! 自分がどんな状況にあるのか、ようやく気づいたようだな」
「獣人め、ぼくたちをこんなところに縛りつけて何をするつもりだ!」
「決まっているだろ! これを使って処刑するためさ!」
獣人は、自ら手にしている槍を処刑するための道具として敬太に見せつけました。これを見た敬太は、体を震わせながら怒りをあらわにしました。
敬太たちの周りには、数多くの村人たちが集まっています。村人たちは、鋭い目つきでにらみつける獣人たちの姿に恐れおののいています。
「うええええ~んっ! うええええええええええ~んっ!」
「敬太くん……。ワンべえくん……。うううっ、ううううううっ……」
敬太の耳には、子供たちの泣き叫ぶ声やおひさの悲しむ声が入ってきます。何とかしてこの状況から脱しようと、敬太は必死に縛られた縄を引きちぎろうとします。
そんな敬太を見て、獣人たちは両手をポキポキさせながらせせら笑っています。
「そんなことをしたって無理だぜ。なぜ無理なのか、おめえに教えてやろうか」
「それって、いったいどういう意味なんだ!」
「この柱に縄を縛ったところに、この御札で封印しているのさ。ふはははは!」
獣人たちの不気味な笑い声を横目に、敬太は歯を食いしばりながら脱出しようと試みます。しかし、何回やっても縄を引きちぎることはできません。
「うぐぐぐぐっ……。よくも汚い手を使いやがって……」
「汚い手だと? おめえらを始末するためだったら、どんな手だって使うのは当然だろ」
獣人たちは、敬太を始末するという目的を達成するのが目前とあって勝ち誇った表情を見せています。こ連載を見た敬太は、脱出することができないことにもどかしさを感じています。
そのとき、敬太は顔に汗をにじませながら苦しそうな表情に変わりました。必死にガマンしようとしている敬太ですが、この様子を獣人たちが見逃すはずはありません。
「ふはははは! どうしたのかな、そんな顔をして」
「うぐぐぐぐっ……。こんな縄ぐらい簡単にひきちぎってみせるぞ!」
獣人たちの前で強がっている敬太ですが、本当の理由は別のところにあります。本当の理由は、敬太がおしっこをもらさないようにガマンし続けているからです。
「お、おしっこ……。絶対にガマンするぞ……」
敬太は体を震わせながらもおしっこのガマンを続けましたが、それもついに限界のときがやってきました。
「も、もうガマンができない……」
その瞬間、敬太の赤い腹掛けの下からおしっこがもれ出してきました。敬太が張りつけられている柱の真下には、おしっこの水たまりが広がっています。
獣人たちの前でおもらしをしちゃったことに、敬太は思わず顔を赤らめています。獣人たちは、不気味な声を上げながら敬太の周りを取り囲んでいます。
「このチビめ、おねしょのみならずおもらしもまだ治っていないとはなあ……」
「お、おもらしをしちゃっても、ぼくは全く気にしないもん!」
弱いところを見せたくない敬太ですが、獣人たちはそんな敬太に現実を突きつけようとします。
「本当だったら、この場でおしおきをしないといけないけどなあ」
「まあ、おめえも含めて明日にはこれであの世へ行くことが決まっていることだし」
「この槍で一突きされて死んでいくのを今から楽しみだぜ! ふはははは!」
獣人たちは不気味な笑い声を敬太に掛けると、勝ち誇った表情で去って行きました。その様子を一部始終見ていた村人たちは、獣人たちの恐ろしさに声が出ないほどです。
「敬太くんが死ぬところなんか見たくないよ! うえええええええ~ん!」
「敬太くん! ワンべえ! うえええええ~ん!」
柱に縛られた敬太とワンべえのそばには、いつも遊んでくれる子供たちが泣きながら駆け寄っています。子供たちにとっては、自分たちの目の前で敬太が殺されるところなんか見たくないと考えるのは当たり前のことです。
「おれたちが捕まらなければ、敬太たちもこんなことにならなかったはずなのに……」
獣人の夫婦が後悔の念を表しているのを見て、敬太は何とかここから無事に脱出したいと改めて心に誓いました。




