その16
敬太は、今日も山の中へ入るといつものように稽古をこなしています。高い木のてっぺんを目指して、敬太は太い枝を見つけては上のほうへ次々と飛び上がっています。
「敬太くん、あんなに高いところへ行ったらダメだワン!」
「これくらいのことぐらいで恐がっているぼくじゃないぞ!」
ワンべえの心配をよそに、敬太は手足を使って垂直に飛び移っています。しかし、てっぱんに到達する一歩手前で、敬太は太い枝をつかみ損ねてしまいました。
「う、うわっ! わわわわわわわあ~っ!」
高いところから一気に落下した敬太ですが、このまま手をこまねいているわけではありません。その途中で太い枝を見つけると、敬太は両手で何とかつかむことができました。
「敬太くん、大丈夫ワン?」
「ちょっと失敗したからって、ぼくはへっちゃら……。ギュルギュルゴロゴロッ……」
敬太は下へ落ちないように、何とか両手で支えようとしています。しかし、あまりにもお腹のほうに力を入れ過ぎて、思わずあの音が出てしまいました。
「プウウウ~ッ! プウウウ~ッ! プウウウウウウウウウウウウウ~ッ!」
3回も続けて大きなおならが出た敬太ですが、それはいつもイモを食べている敬太にとっては当たり前のことです。そして、敬太は振り子のように揺らして太い枝から手を放しました。
「今日もでっかいおならがこんなにいっぱい出ちゃったよ」
「敬太くんのおならは本当にくさくてたまらないワン……」
「ワンべえくん、ごめんごめん」
逆立ちで着地した敬太は、ワンべえの前で相変わらずの元気さを見せています。すると、敬太の赤い腹掛けが下のほうへめくれていることにワンべえが気づきました。
「敬太くん、おちんちんが丸見えになっているワン」
「でへへ、ワンべえくんの前で見られちゃった」
どんなに凄まじい力を持っていても、敬太はいつも腹掛け1枚の7歳児の男の子です。敬太のあどけない笑顔は、元気で明るい子供である一面をそのまま示しています。
「よ~し! もう1回挑戦するぞ!」
「敬太くん、また挑戦するのかワン? これ以上やったら危ないから……」
敬太は、ワンべえが止めるのも聞かずに再び高い木の頂上へ向かいました。軽い身のこなしで、敬太は太い枝を小刻みにジャンプしながら上がっています。
「今度こそ、木のてっぺんまで登っていくぞ」
高い木の頂上へ目指して、敬太は手足を使って登り続けています。やがて、敬太は木のてっぺんへたどり着くことができました。
敬太は、ひと際高い木の頂上から周りの景色を眺めています。そこからは、村の中にある家々も田んぼも小さく見えます。
「うわ~い! 向こうにも山が見えるぞ」
村の方向を見ると、その先には別の山々が見えます。いつもとは違う風景に、敬太は無邪気な顔つきで喜びを表しています。
敬太は、高い木のてっぺんから太い枝に沿って降りています。しかし、敬太の大冒険はこれで終わったわけではありません。
「ワンべえくん、こっちを見て!」
「敬太くん、今度は何をするつもりなんだワン?」
敬太は太い枝の付け根のところに立つと、そこから別の木へ向かって飛び移りました。その後も、敬太は片足でジャンプしながら木から木へ飛び移って行きます。
敬太のあまりの軽い身のこなしに、ワンべえも驚きを隠せません。これも、敬太が普段から大自然の中で遊んだりしているからこそなせるものです。
「ワンべえくん、山奥のほうへ行くからついてきてね!」
「敬太くん、そんなに先へ行かないでほしいワン」
敬太は、まるでサルのように手足を自由自在に使いながら山奥へと進んで行きます、すると、敬太の目に草むらが見えてきました。
その草むらにある大きな穴の地下には、獣人の夫婦である牙吉としのが身を潜んでいます。敬太は木から飛び降りると、後ろからやってきたワンべえとともに草むらの前で立ち止まりました。
敬太もワンべえもその地下で2人と会ったことがあるので、その後どうなっているのか気になります。
「ワンべえくん、草むらの中へ入るからね」
敬太は、獣人の夫婦に早く会いたいと草むらの中へ入りました。そして、大きな穴のそばに足を踏み入れたときのことです。
「うわっ、うわわわっ!」
「敬太くん! どうしたワン?」
敬太は突然太い網に捕われると、そのまま木の上へと吊るされてしまいました。そこへ現れたのは、双子の獣人を筆頭にした獣人たちの集団です。
「獣人め! こんなものを仕掛けやがって、ひきょうだぞ!」
「ぐはははは! ひきょうという言葉は、おれたちにとって最高の褒め言葉だぜ」
不気味な笑い声を上げる獣人たちを横目に、敬太は太い網の中から何とかして抜け出そうと試みます。しかし、そんな暇を与えるほど獣人たちは甘くありません。
双獣炎は手のひらから赤く燃え上がった炎が現れると、その炎を捕われた敬太のいる方向へ向けました。
「敬太よ! 炎の中に包まれて地獄へ落ちやがれ!」
草むらに投げ込んだ炎は、またたく間に火の手が広がりました。それとともに、敬太が捕らわれている太い綱のほうも赤い炎に包まれようとしています。
「こんなところで丸焼きになってたまる……。ギュルギュルゴロゴロゴロッ……」
敬太は突然のピンチにあっても、網の中からどうにかして抜け出そうと必死になっています。そんな折、敬太のお腹が急に痛くなってきました。
「こ、こうなったらこれで一気に脱出してやるぞ……」
その場で思いつくと、敬太はお尻に力を入れながら大きな音を鳴り響かせました。
「プウウウッ! プウウウウッ! プウウウウウッ! プウウウウウウウウウウ~ッ!」
敬太は自ら捕らわれている太い網が炎に包まれる寸前で、大きなおならを4回も続けて出てしまいました。その瞬間、燃え広がっていた敬太の周りで凄まじい大爆発を引き起こしました。
「自ら墓穴を掘るとは、本当にバカなチビ……。うわわわっ!」
「うわっ、うわわっ! こんなに爆発の威力が大きいとは……」
大爆発の威力は、獣人たちを巻き込むほどの凄まじいものです。獣人たちは、爆発に伴う白い煙に包まれて周りがよく見えません。
そのとき、煙の中から敬太の姿が現れると、双獣炎に向かって強烈な飛び蹴りを繰り出してきました。双獣炎は敬太による攻撃をいきなり食らうと、仰向けのままで後方へ倒れ込んでしまいました。
「グエエッ、グエグエグエグエッ……」
双獣炎に先制攻撃を仕掛けた敬太ですが、獣人たちへの攻撃はまだ続きます。敬太は獣人を真上まで一気に持ち上げては、そのまま双獣炎の上へ叩きつけました。
「んぐぐぐぐぐっ! えいえ~いっ!」
その後も、敬太はあらゆる技を繰り出しながら獣人たちに向かって行きます。獣人たちに次々とパンチやキックを命中させては、力技でそのまま後ろのほうへ投げ飛ばしていきます。
「うぐぐ……。息が苦しい……」
「獣人め、降参するまでまだまだ続けるぞ!」
敬太は、仰向けに倒れた獣人の首を両腕で強く絞めています。獣人は、敬太の首絞め攻撃になすすべもありません。
そして、敬太が首絞め攻撃を続けているそのときのことです。
「敬太よ! こっちを見ろ!」
敬太が顔を上げると、双獣雷が牙吉としのを人質に取っています。獣人の夫婦は鎖で縛られており、自分たちのそばで両手をポキポキと鳴らす双獣雷の姿におびえています。
「この2人の命がどうなってもいいのかな?」
「獣人め、よくもこんなひきょうな手を使いやがって……」
双獣雷は、敬太の前で不気味な笑みを浮かべながら鎖を握りしめています。鎖から高圧電流が流れたら、獣人の夫婦は死んでしまいます。
敬太は、人質を助けたいという強い思いがあります。このため、獣人たちへの怒りをあらわにしたくても、歯を食いしばりながら押し殺すしか他はありません。




