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《獣人のこども》おねしょ敬太くんの大ぼうけん  作者: ケンタシノリ
第2章 敬太くんとサルの群れたち
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その1

 敬太は、自分が生まれ育った村を離れて、お父さんとお母さんを探しに出かける旅に出ています。おじいちゃんやおばあちゃんとの楽しい思い出がつまった村を離れるのは少し寂しいけど、お父さんとお母さんを探すためなら寂しさを顔に出すことはしません。


「おっとうとおっかあに一日でも早く会いたいなあ~」


 敬太は、明るい笑顔で一日でも早くお父さんとお母さんに会えるのを楽しみにしています。


 これから訪れる困難な道のりであっても、敬太の明るくて元気いっぱいの笑顔は旅に出てからも変わることはありません。




 敬太は、山林に覆われている険しい山道を歩き続けています。そこにはもちろん人家などはなく、歩けど歩けど目の前は山林だらけです。


 しかし、敬太はどんなに歩き続けても相変わらず元気いっぱいです。


 手首と足首に紺色の布を巻いているとはいえ、敬太の体には赤い腹掛け1枚つけているだけです。歩くときや走るときであっても、何も履かずにはだしで歩いたり走ったりしています。


 そうはいっても、そこは自分の家の近くにある山道とは比べ物にならないくらいの険しさがあります。山道が進んでも進んでも、まだまだ上り坂が続いています。


 敬太は、このような山道をずっと歩き続けています。険しい山道であっても、敬太はいつものように明るくてあどけない表情を見せながら駆け上がっています。


「ぐうううっ~」


 しかし、さすがの敬太も山道を長い間歩いたり走ったりしたので、お腹がすいてきました。敬太は、切り倒されて横たわったままの木が山道の途中にあったので、そこに座ると右手に持っていた小さい風呂敷を開きました。


 小さい風呂敷の中には、木の皮に包んだお弁当があります。木の皮を開けると、そこにはおばあちゃんが握ってくれたおにぎり5個とたくあんが入っています。


 敬太は大きな口を開けて、おにぎりをとてもおいしそうに食べています。すると、目の前の木から小さい動物が落ちるのを目撃しました。


 敬太が行ってみると、そこには小さいサルがとても痛そうな表情をしています。


「サルさん、どうしたの?」

「痛いよ~、痛いよ~、痛いよ~」


 小さいサルは、あまりの痛さに泣きながら訴えています。よく見ると、小さいサルの左足には血が出るほどのケガを負っています。


 これを見た敬太は、急いで薬草として使える草を探し始めました。


 すると、他の草よりも少し高さのある草を見つけました。その草は、オトギリソウという草であり、夏になると草がもっと高く伸びるとともに、黄色い花が開花します。


 敬太は、おじいちゃんから薬草のことについて教えてもらったことがあります。そのため、敬太はいろんな草の中から薬草を探すことができます。


 敬太はオトギリソウを採取すると、その葉っぱを全部取ってから揉み始めました。葉っぱを揉むと、薄緑色の液体が染み出してきました。


 敬太は、小さいサルの左足に薄緑色の液体が染み出した葉っぱを当てました。そして、小さい風呂敷から出した手ぬぐいを小さいサルの葉っぱを当てている左足に巻きつけてから、傷口が開かないように手ぬぐいの両端同士で結びました。


 ケガをした左足が痛くてずっと泣いていた小さいサルは、敬太がケガの手当てをしたおかげで痛みが次第に治まってきました。


「ケガを治してくれたの? もう痛くなくなったよ、どうもありがとう!」


 小さいサルは、ケガの手当てをしてくれた敬太に感謝しました。


「ぼくの名前は敬太。いつも明るくて元気いっぱいの7歳の男の子だよ!」

「敬太くんっていうの? ぼくはサル助っていうの」


 敬太とサル助はお互いに自己紹介をしています。敬太がサル助に年齢を尋ねると、サル助は2歳と答えました。サルで2歳というのは、人間でいうところの5歳児ぐらいに相当します。


 すると、敬太とサル助がいる山道の木々に子ザルが次々とやってきました。


「サル助く~ん、ここにいたの?」

「みんな、心配してごめん」


 木々に集まってきた子ザルたちは、どうやらサル助の友達であるようです。子ザルたちは、見た感じではサル助と同じくらいの年齢です。


「あっ、サル助くん、左足に何か巻いているけど、ケガでもしたの?」

「さっき木から落ちてしまって、左足をケガしちゃったの。でも、敬太くんがケガをしちゃった左足を治してくれたよ」


 サル助は、敬太が治してくれたからケガは大丈夫と他の子ザルたちに言いました。


「敬太くんって、もしかして人間の?」

「そうなの。赤い腹掛け1枚だけ付けている元気いっぱいのやさしい男の子だよ」


 サル助から紹介された敬太は、ちょっと照れながらも子ザルたちに話しかけました。


「みんなはいつも仲良く遊んでる?」

「いつも遊んでいるよ。だって、みんな友達なんだもん」


 敬太は、子ザルたちが本当に仲良しなんだなあと思いました。子ザルたちは、サル助のまわりを離れようとしないからです。


 そのとき、サル助のほうから「ぐぐうううっ~」という音が聞こえました。どうやら、サル助はお腹がすいているようです。すると、他の子ザルたちも次々とお腹がすいた音が聞こえるようになりました。


 敬太は、サル助を含めた子ザルが8匹いるのを見て、子ザルたちに竹の皮で包んであった自分のおにぎり4個を子ザル全員に分け与えました。


「このおにぎりは敬太くんが食べるやつでしょ。ぼくたちが食べていいの?」

「ぼくはもうおにぎりを一つ食べたし、お弁当に残っているたくあんだけで十分満足しているよ」


 敬太は、小さい子供ながら力がとても強いのはもちろんですが、小さい動物たちに対する心のやさしさも備わった男の子です。子ザルたちは、敬太からもらったおにぎりをとてもおいしそうに食べています。


「敬太くん、おにぎりをくれてありがとう! お礼にぼくたちがいつもいるところへ案内するよ」

「みんなのいるところへ行ってもいいの?」

「ケガを治してくれたり、おにぎりを分けてくれたりしたんだもん。今度はぼくたちが敬太くんに恩返しをするよ」


 子ザルたちは、敬太に恩返しをしようと自分たちがいつもいるところへ案内することにしました。子ザルたちは、木をスルスルと登るとすぐに木の枝に上がりました。


 これを見た敬太は、暗号文の入っている小さい木箱を小さい風呂敷で包んで脇に抱えながら、目の前にある木を登りはじめました。敬太は、木登りをするのもお手の物とあって、あっという間に少し高いところにある太い枝のところまで登りました。


「さあ、敬太くんもぼくたちの後についてきてね」


 子ザルたちは、身軽な動きを生かして木から木へと飛び移っていきます。敬太も片足でジャンプすると、子ザルたちの後を追うように自由自在に飛び移ります。でも、普段から木々への飛び移りが慣れている子ザルたちにはちょっとかないません。


「お~い、ちょっと待ってよ~」

「敬太くん、ぼくたちに追いつけるかな?」


 敬太は大好きなかけっこなら、かなりの距離があっても速く走ることができますが、山の中でいろんな木々に飛び移ることに関しては、身軽な動きをする子ザルたちに一日の長があります。


 しばらくして、子ザルたちは山の中の木々を抜けていきました。少し遅れて、敬太も子ザルたちと合流しました。


 敬太や子ザルたちの目の前には、大きい広場みたいなのがあります。そこには、サルたちが数十匹の群れを成しています。


 その中心にいるのが、リーダーであるボスザルです。その周りにはメスザルや子ザルが、さらにその外側には若者ザルや大人ザルがいます。


 子ザルたちは、すぐにボスザルのところへ行きました。子ザルたちとボスザルとの間で何やら話しています。


「敬太くん、サル左衛門から群れの中心に入ってもいいって言ったよ」


 敬太は、子ザルたちから入ってもいいと言われたので群れの中心に入りました。敬太の目の前には、ボスザルが堂々とした体つきで立っていました。


「わしの名前はサル左衛門というものじゃ。この周りにいるサルたちをまとめて率いているんじゃ。ところで、お前の名前はどんな名前じゃ?」

「ぼくの名前は敬太。サル左衛門さま、よろしくお願いします」


 サル左衛門が敬太に、自分の名前とサルたちを率いるリーダーであると自己アピールすると、敬太もかしこまりながら自分の名前をサル左衛門に言いました。すると、敬太を見たサル左衛門は、温和な表情でこう言いました。


「そんなにかしこまらなくてもいいぞ。わしが見たいのは、敬太が元気いっぱいの男の子であるところなんじゃ。それよりも、背負っている大きな風呂敷とかは下ろしたほうがいいぞ」


 敬太は、背中に背負っている大きな風呂敷と脇に抱えていた小さい風呂敷をサル左衛門に預けました。そして、敬太はサル左衛門の前で両腕を曲げると、ぷっくりと膨らんだ力こぶを見せました。


「おおっ、敬太はまだ小さい男の子なのに、すごい力こぶを持っているなあ! それじゃ、向こう側にかなりでかい岩があるけど、持ち上げることはできるか?」

「サル左衛門さまが言うのなら、あの岩を持ち上げて見せるぞ!」


 敬太のすごい力こぶを見たサル左衛門は、敬太にかなりでかい岩を持ち上げることができるかと尋ねたら、敬太はその岩を持ち上げるために、サルたちの群れから少し離れた丘の斜面へ行きました。


 そこには、小柄な大人ザルの身長(約48cmぐらい)とほぼ同じくらいの高さと幅がある、かなりでかい岩がどっしりと居座っていました。その岩は、見た感じからしてゴツゴツとした外観です。


「うぐぐっ、うぐぐぐぐっ!」


 敬太は、目の前にあるでかい岩を持ち上げるために、腰に力を入れて持ち上げようとします。


 そして、敬太は「え~いっ!」と気合を入れました。すると、これまで誰もが持ち上げてもビクともしなかった岩を両手で頭上まで持ち上げることができました。


 敬太は、その岩を持ち上げているのをサル左衛門に見せようと群れの中心まで戻ってきました。


「うおっ、あんなにでかい岩を持ち上げることができるとは……。敬太が力持ちで元気いっぱいの男の子というのに偽りは無いということがはっきりしたなあ」


 サル左衛門は、あれだけでかい岩を両手で持ち上げる子供は他にはいないと驚いています。敬太が持ち上げたでかい岩の重量は、大相撲の力士並みの重さだからです。


「サル左衛門さま、この岩はどこへ置けばいい?」

「そうじゃな、わしが今いるところに置いてくれないかな」


 サル左衛門が横へよけるように移動すると、敬太は持ち上げていた岩を置きました。そして、サル左衛門は敬太が置いたでかい岩の上に飛び乗りました。


「子ザルたちからも、敬太が左足のケガを治したり、おにぎりを分け与えたりしたのを聞いておるぞ。敬太ほど力が強いだけでなく、子供へのやさしさがあるのは他にはいないと思うぞ」

「サル左衛門さま、ぼくは子供が大好きだから当たり前のことをしただけだよ。子供がケガをしているのを見たらかわいそうだもん」


 サル左衛門は、敬太ほど心のやさしい子供は他にいないと敬太を絶賛しました。


「ところで、わしが預かっている風呂敷が二つあるけど、ちょっと開けていいかな?」

「開けてもいいけど、サル左衛門さまはどうして開けるの?」

「敬太が大事そうに持ってきたものだから、何が入っているのかなと思って」


 サル左衛門は、まず最初に小さな風呂敷を開けると小さい木箱が入っています。その木箱の中には、敬太のお父さんとお母さんの居場所を記した暗号文があります。


 しかし、サル左衛門に限らずサルたちには人間の文字は全く読めません。サル左衛門は、暗号文を見ても何のことかさっぱり分かりません。


「敬太、この暗号文に書かれている内容はなんじゃ」

「サル左衛門さま、この暗号文にはおっとうとおっかあの居場所が書かれているみたいだけど、書かれているのが数字ばかりだからぼくも分からないよ」


 書かれている内容が暗号文ということもあり、数字だらけの暗号文の解読は敬太にはまだまだ無理みたいです。


「暗号文が分からないと居場所がどこかは分からないが、いずれにしても敬太の父さんと母さんの居場所に関係することは確かなようだな」


 サル左衛門は暗号文を小さい木箱に戻すと、そのまま小さい風呂敷を結びました。そして、その隣にある大きい風呂敷を開けました。


 大きい風呂敷の中には、敬太が使うお布団と掛け布団、そして赤い腹掛けが2枚入っています。


「腹掛けは着替えるためだろうけど、お布団と掛け布団が入っているのは?」


 サル左衛門は、敬太の大きな風呂敷にお布団と掛け布団が入っていたのが気になりました。


「でへへ、サル左衛門さま、ぼくはいつも朝に元気いっぱいのおねしょをべっちょりとやっちゃうの」

「おおっ、敬太はお布団へのおねしょをいつもしているのか。でっかいおねしょは小さい子供が元気である証拠だぞ」


 敬太は、いつもお布団におねしょをしちゃうことをサル左衛門に言いました。すると、サル左衛門はお布団へのでっかいおねしょは小さい子供の元気のシンボルであると敬太を褒めています。


 すると、敬太くんのそばにサル助やその他の子ザルたちが寄ってきました。


「ねえねえ、敬太くんもおねしょするの?」

「ぼくがいつもでっかいおねしょをしちゃったときでも、じいちゃとばあちゃは、ぼくのおねしょを褒めてくれるよ。子ザルたちもよくおねしょをするのかな?」

「ぼくたちも、床のところによくおねしょをするよ。でも、サル左衛門さまや母ちゃんたちがいつもやさしくしてくれるので、おねしょしても気にしないよ」


 敬太と子ザルたちにとっては、よくおねしょするけどいつも笑顔いっぱいです。こうして、すっかり仲良くなった子ザルたちは敬太の体にへばりついて離れません。


「ねえねえ、敬太くん、あそぼ」

「あそぼ、あそぼ」


 子ザルたちが敬太に遊んでほしいと言うので、敬太は子ザルたちといっしょに遊ぶことになりました。敬太も子ザルたちも、まだまだ小さい子供なので無邪気な表情を見せながら遊んでいます。


「敬太くん、こっちへおいでおいで」

「もう、子ザルたちにはかなわないよ~」


 子ザルたちは、身軽であることもあり木登りするとすぐに木から木へ飛び移っていきます。敬太も木登りが得意なのですが、木から木へ飛び移るのは子ザルたちにはかないません。


 そして、子ザルたちが木から飛び降りるとすぐに逆立ちをはじめました。敬太も木から飛び降りると、子ザルたちに負けじとすぐに逆立ちをしました。


「子ザルたちは逆立ちするのも上手だね」

「敬太くんも、逆立ちしながら両手を使って歩いているのがうまいね」


 敬太も子ザルたちも逆立ちをしたままで、お互いに逆立ちが上手であることを話し合っています。しかし、敬太はいつも赤い腹掛け1枚だけの格好です。逆立ちしている間に、敬太は自分の腹掛けがめくれてしまいました。


「敬太くん、腹掛けがめくれてかわいいおちんちんが見えているよ」

「でへへ、おちんちん見えちゃった」


 大人であってもお相撲で勝つくらいの力強さがあっても、敬太はまだまだ7歳児の男の子です。かわいい顔つきであどけないところは、敬太が獣人の血を引いているとは思えません。子ザルたちと遊んでいる敬太の姿を見ると、農村や漁村にいるような普通の小さい子供そのものです。

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