その15
太陽が西の空にあるとき、敬太はいつものようにまさかりで薪を割っています。敬太のそばには、手慣れた様子で割った薪が積まれています。
「おっかあ! きょうもこれだけ薪割りしたよ!」
「ふふふ、いつもお手伝いしてくれて本当にありがとうね」
敬太は誰から言われるでもなく、自分から進んでお手伝いをこなします。これは、小さい頃から当たり前にやっていることです。
しかし、晩ご飯の準備をするにはまだ早い時間です。敬太はそれまでの間、盛兵衛がいる畑のほうへ行くことにしました。
「おっかあ! おっとうの畑へ行って手伝ってくるからね」
「敬太くん、ぼくもいっしょに行くワン!」
敬太は、ワンべえとともに盛兵衛のいるイモ畑へ駆け足で向かいました。そのイモ畑には、盛兵衛に加えてげん吉もいます。
「キャッキャッ、キャッキャッキャッ」
げん吉は、4本足で歩きながら土の感触を確かめています。赤ちゃんにとっては、遊び場であればどんな場所も問いません。
そのとき、敬太は畑の前でお尻を押さえながら地団駄しています。
「おっとう! 今から畑に肥やしをしてもいいかな?」
「はっはっは! 敬太くんがお尻を押さえているのが何を意味しているのか、わしにはすぐ分かるぞ!」
「でへへ……。ギュルギュルギュルルル、ゴロゴロゴロゴロロッ……」
敬太は、必死にガマンしながら畑の中へ入って行きました。すると、げん吉のほうも急に苦しそうな表情に変わりました。
「ギュルギュルゴロゴロッ……。うんっ! うんっ! ううんっ! うううう~んっ!」
今までガマンしていたものを出そうと、敬太はしゃがみながら踏ん張っています。そばには、4本足で踏ん張るげん吉とワンべえの姿があります。
「おっとう、でっかいうんちがこんなにいっぱい出たよ!」
「おおっ! こうして見ると、敬太くんのうんちは本当にすごいなあ」
畑の上を見ると、そこには出たばかりのうんちが3つも乗っています。その中でも、真ん中にある敬太のうんちは他のと比べて一回りも二回りも大きいものです。
「敬太くんはいつもイモをよく食べているし、でっかいおならで恐ろしい獣人たちを撃退するぐらいだからなあ」
「おっとう! これからも大好きなイモをいっぱい食べて、うんちもおならも元気いっぱい出るようにがんばるからね!」
敬太は笑顔を見せながら、自分のうんちの前で得意げに仁王立ちしています。そして、盛兵衛はげん吉とワンべえのうんちと合わせて木ぐわで耕し始めました。
「これだけ立派な肥やしを出してくれて、本当にありがとうね」
畑の中でイモが大きく育つのは、いつも土に栄養が行き届いているおかげです。敬太たちも、自分たちのうんちが土と耕されているのを興味深く見入っています。
畑仕事の手伝いを終えると、敬太は田んぼのそばの水路でお尻を洗っています。
「げん吉くんもワンべえくんも、ちゃんときれいにしようね」
「キャッキャッキャッ、キャッキャッキャッ」
敬太はげん吉をおんぶすると、ワンべえといっしょに山へ向かって駆け出しました。山の中へ入った敬太たちは、果物の実がついている木を探しています。
そのとき、敬太は目の先に橙色の実がたくさんついている木を見つけました。
「わあ~い! 大好きな柿の実だ! 柿の実だ!」
敬太はげん吉を地べたに座らせると、柿の木に飛びついて登り始めました。枝先にある柿の実を見つけると、敬太はその実を採ろうと手を伸ばしました。
「よいしょ、よいしょ」
柿の実を次々と取っている敬太ですが、あまりにも夢中になり過ぎて木の枝から落ちてしまいました。
尻餅をついた敬太の姿に、げん吉はキャッキャッと笑い転げています。それでも、敬太は獣人の赤ちゃんの前でドジを踏んでも全く気にしません。
「ワンべえくん、柿の実がこんなに取れたよ!」
「敬太くん、固い実を丸かじりしても大丈夫なのかワン?」
「柿の実が固くたって、ぼくはへっちゃらだもん!」
敬太は、大好きな柿の実をおいしそうに丸かじりしています。ワンべえも、地面にある柿の実を少しずつ口の中へ入れています。
すると、柿の実を食べている敬太をげん吉がじっと見つめています。敬太はよく噛んだ柿の実を右手に出すと、それをげん吉の口のほうへ持って行きました。
「げん吉くん、おいしいかな?」
「キャッキャッ、キャッキャッキャッ」
げん吉の大喜びする顔を見て、敬太はとてもうれしそうです。その後も、敬太は柿の実をちょっとずつげん吉の口に入れています。
甘くておいしい柿の実のおいしさに、げん吉もすっかり気に入りました。こうして、残った柿の実は敬太とげん吉の2人で食べ切りました。
でも、この辺りにはまだまだおいしい果物が実っている木があります。敬太は山ぶどうの木を見つけると、草むらの中へ入ろうとします。
そのとき、敬太の足元のほうには恐ろしい毒グモが近づいてきました。しかし、敬太はまだそれに気づく様子はありません。
「敬太くん、気をつけてワン! 足元に何かがいるワン!」
ワンべえの声に気づいた敬太は、自分の足元をのぞいて見ました。そこには、毒グモが何匹も敬太の足から太ももに向かってはい上がっています。
小さいクモを決してあなどってはいけません。小さい体の中にある強力な毒で刺されたりしたら、いつも元気な敬太といえども大変なことになります。
「んぐぐぐぐっ……」
敬太の両足太ももには、毒グモが2匹も張りついています。しかも、他の毒グモも敬太の足元から次々と登ってきます。
このくらいのことで恐がる様子を見せない敬太ですが、それ以上に気になってしまうことがあります。それは、赤い腹掛けの下のほうを両手でずっと押さえていることです。
「お、おしっこがもれそう……」
敬太は、柿の実をたくさん食べすぎて急におしっこがしたくなりました。そうは言っても、毒グモが次々とへばりついたままではおしっこをすることができません。
「おしっこ、もうガマンできない……」
敬太は顔に汗をにじませながら、おしっこをガマンしようと必死です。しかし、いくらガマンしようとも限界があります。
そのとき、敬太は腹掛けを押さえたままで地団駄を踏み出しました。
「え~い! この毒グモめ!」
地団駄を繰り返すうちに、敬太の両足に張り付いた毒グモは全部払い落としました。そして、敬太はその足で毒グモを踏みつけています。
「えいっ! えいっ! えいっ!」
毒グモの脅威から脱した敬太は、今までガマンしていたおしっこを木の根元に向かって命中し始めました。
「ジョパジョパジョパジョパ、ジョボジョボジョボジョジョジョジョ~ッ」
敬太は勢いよくおしっこを出し続けたおかげで、次第にいつもの明るい表情を取り戻しました。木の根元には、敬太がしたばかりのおしっこの水たまりがあります。
すぐそばにいるワンべえは、敬太が無事だったことがとてもうれしそうです。あまりのうれしさに、ワンべえは敬太の体に思わず飛びつきました。
「敬太くん、毒グモがたくさんいたけど大丈夫だったワン?」
「刺されるかもしなかったけど、これくらいのことで恐がっていたら獣人たちをやっつけることができないもん!」
敬太は危機一髪のところで難を逃れましたが、獣人たちとの壮絶な戦いはこの比ではありません。敬太が獣人たちと戦い続けるのも、自分のお父さんとお母さんを見つけるためです。
けれども、獣人のすべてが悪いやつというわけではありません。敬太は、獣人の赤ちゃんであるげん吉を上へ抱き上げるたびにあどけない笑顔を見せています。
「キャッキャッ、キャッキャッキャッ」
人間であろうと獣人であろうと、敬太にとっては子供や赤ちゃんがかわいいことには変わりありません。もちろん、赤ちゃんのかわいさに見とれてしまって思わぬ攻撃を食らってしまうこともあります。
「ジョパジョパジョパジョパ、ジョジョジョジョジョジョジョ~ッ」
「わわっ! げん吉くんにまたおしっこをかけられちゃった」
げん吉が、敬太の顔面におしっこをひっかけるのは相変わらずのことです。思わぬ出来事に敬太もタジタジです。でも、それは敬太のことが大好きであるという意思表示を示すものです。
敬太とげん吉の明るい笑顔は、まるで実の兄弟と見違えるほどの強い繋がりを持っています。こうして、敬太はがん吉を抱きかかえると、ワンべえといっしょにおひさが待つ家のほうへ戻ることにしました。




