その14
突然の出来事に、敬太は自らの手で鎖を外そうと試みます。しかし、縄とは違ってなかなか引きちぎることができません。
「おめえがどうあがこうと、この鎖を外すわけにはいかないんだよ!」
「敬太がちょこまか動き回ったら、おれたちにとって本当に邪魔な存在になるからな」
双子の獣人は、左右の大きな木の高いところへ飛び移りました。すると、鎖で縛られた敬太は手足が引っ張られながら一気に上へ飛び上がっていきました。
「双子の獣人め、いったい何をするつもりだ!」
「ここがどういうところかは、おめえの頭でも分かるだろ」
敬太は、獣人が放った鎖によって手足が縛られながら空に浮いています。その場所は、地面よりもかなり高いところです。
「うぐぐぐぐっ……」
「ぐはははは! やっと分かったか。ここから脱出しようとも、おめえは火山の溶岩の中でおだぶつになるのが目に見えるからなあ」
敬太の真下には、先ほどまで尻叩きのお仕置きが行われた場所があります。その周りには、火山の赤い溶岩が噴き出し続けています。
「下のほうばかり見とれているようだが、おれたちのことを忘れてもらっちゃ困るぜ」
「これでも食らって、地獄へ落ちやがれ! ぐはははははははは!」
「うわあああああああっ! うわああああああああああああ~っ!」
双獣雷は高らかに不気味な笑い声を上げながら、敬太へ向かって高圧電流を流し始めました。これをまともに食らった敬太は、空中で大きな悲鳴を上げています。
「うわああああああああああああああああ~っ!」
「どうだ、おれの高圧電力の威力は! 体の中で高圧電流を作り出すことができる以上、おめえが死ぬまでずっと流し続けることになるぞ」
敬太が抵抗を試みようとしても、現在の状況ではどうすることもできません。ひたすら高圧電流を浴びるのを耐え続けながら、敬太は何とかして反撃に転ずる機会をうかがっています。
「こ、こうなったら……。いちかばちか、あのやり方で……」
敬太は、電流を流している双獣雷が持っている鎖を左手で握りしめました。死と隣り合わせの中、敬太はその鎖を思い切り強く引っ張りました。
「え、え~いっ! えええ~いっ!」
「うわっ! うわうわわあああああああ~っ!」
敬太に鎖を引っ張られた双獣雷は、高い木から真っ逆さまに落下しました。すると、敬太と双獣炎もそれにつられるように次々と空中から落ちていきます。
「わわわわわわわわあああああああ~っ!」
「ぼくは最後まで絶対にあきらめないぞ!」
敬太は、鎖につながれたままで落下しながら反撃に転じようとします。空中で真っ逆さまになった双獣雷と双獣炎の片足をそれぞれ握ると、その落下の勢いで一気に地面へ強く叩きつけました。
「いてててててててっ……。このチビめ、よくもまあバカなことを……」
「獣人め、これでどうだ!」
「うぐぐぐぐぐっ……。やめてくれ、息が苦しい……」
敬太は双獣炎の上へ座ると、自らの両腕で相手の首を強く絞めています。さすがの獣人も、敬太の絞め技にはなかなか抵抗できません。
そのころ、双獣炎と同様に地面に突き落とされた双獣雷が必死に起き上がろうとしています。その目つきは、敬太に対する強い怒りで満ちています。
「あとちょっとで始末できたのに……」
双獣雷からすれば、敬太に再び高圧電流を流すことぐらいできるはずです。しかし、敬太が双獣炎に絞め技をかけている状態では鎖を通して電流を流すことができません。自ら放つその攻撃が、双子である双獣炎を巻き添えにしてしまうからです。
それを知ってか知らぬか、敬太は双獣炎への絞め技を緩めることはありません。あまりの苦しさに、双獣炎は降参する寸前まで追い込まれました。
このとき、双獣雷は仲間を助けようと敬太に巻きつけた鎖を強く引っ張りました。
「どうだ! これでとどめ……。うわっ! わわわわっ!」
「敬太よ、残念だったな! おめえには、これから味わう地獄がどういうものか思い知らせないといけないなあ」
わずかのところでとどめを刺せなかった敬太は、一転して最大のピンチを迎えることになりました。降参寸前だった双獣炎も立ち上がるや否や、敬太を鎖で引っ張り上げようとします。
「双子の獣人め、今から何をするつもりだ!」
「さっきも言っただろ! おめえが地獄へ落ちるまで、おれたちがたっぷりとかわいがってやるってな!」
「あの溶岩はなあ、このおれがおめえを始末するために作り出したものさ」
敬太たちがいる周りに噴き出している火山の溶岩は、双獣炎が人工的に作り出したものです。その溶岩は、先ほどと比べて激しく噴き出すようになりました。
「尻叩きでも音を上げなかったおめえでも、これはどうかなあ?」
「赤い溶岩におめえの体が溶けて行く様子を見るのを今から楽しみにするかな」
双子の獣人は、鎖につながれた敬太を溶岩が噴き上げる目の前へ無理やり連れて行きました。2人の笑い声は、自分たちを苦しめた敬太を始末できるとあって不気味さを一層漂わせています。
「えいっ! えいっ! うぐぐぐぐっ……」
「ぐはははは! おめえがどんなにあがいたって、手足に巻きついた鎖を外すことはできねえんだよ!」
獣人たちは、鎖を外そうと必死の敬太を見ながらせせら笑っています。それでも、敬太はこの状況から脱出することを決してあきらめません。
「敬太め、どうやったって無理なことをするとは……」
「そんなことよりも、このチビを早いところ始末しないと……」
双子の獣人の声が聞こえる中、敬太は歯を食いしばりながら何とか鎖を外そうと試みています。すると、双子の獣人は噴き出している溶岩の中へ落とそうと敬太の両腕を強引に持ち上げました。
「うわわっ! ちょっと放してよ! 放してよ!」
「敬太め! とっとと地獄へ落ちやがれ!」
敬太の叫びを無視するかのように、双子の獣人は溶岩が流れているところへそのまま投げ落としました。真っ逆さまに落下した敬太ですが、ここであっけなくやられるわけにはいきません。
「ま、まだあきらめないぞ……」
敬太は、溶岩の中に落ちる寸前で突き出た岩を右手で支えています。しかし、溶岩の熱が鎖に伝わってかなり熱そうです。
「うぐぐっ……。熱くて上へ登ることができない……」
敬太の体からは、大量の汗が流れ落ちています。しかも、溶岩の凄まじい熱さに加えて硫黄のくさいにおいも周りに漂っています。
双子の獣人は、そんな敬太の様子を見ながら不気味な笑みを浮かべています。
「ぐはははは! あのチビが地獄へ落ちるさまを目に焼きつけておかないとな」
「もうすぐしたら、敬太もドロドロの溶岩の中に溶けていくだろうし」
敬太は、この状況から脱しようと必死にはい上がろうとします。あまりの緊張に、敬太は思わずお腹のほうへ力を入れてしまいました。
「プウウウウウウッ! プウウウウウウウウウッ! プウウウウウウウウウ~ッ!」
敬太は、溶岩が流れているところへでっかいおならを3回も続けて放ちました。その瞬間、敬太の周りで赤く燃え上がった溶岩を飛び出すほどの大爆発を引き起こしました。
「うわっ! お、おれたちに向かって……」
「いきなり赤い溶岩が……」
双子の獣人たちの前には、赤い溶岩とともに飛び出してきた敬太が迫ってきました。この大爆発によって、敬太につながれた鎖は粉々になりました。
高みの見物をしていた獣人たちも、次々と飛んでくる赤い溶岩から逃げ出すことができません。
「獣人め! これでどうだ!」
「わわわわっ! こっちにくるな! くるな!」
敬太は大爆発の勢いをそのままに、双子の獣人に向かって体当たりで強くぶつかりました。獣人たちが折り重なって倒れたのを見て、敬太はその上にお尻をペタリとつけて座り込みました。
「プウウウウウウウウウウ~ッ! プププウウウウウウウウウウウウ~ッ!」
「グエグエッ! く、くさくて息が……」
「グエグエグエッ……」
敬太が大きなおならを2連発した瞬間。双子の獣人は鼻をつまみながらのたうち回っています。そのにおいは、でっかいおならと溶岩から発生する硫黄のにおいが混ざって獣人たちに襲いかかっています。
「でへへ、ぼくのでっかいおならの威力はこんなにすごいぞ!」
「く、くそっ……。お、おぼえてろ……」
「敬太め、このままで済むとは思うなよ……」
あまりのくさいにおいに、双子の獣人は敬太をにらみつけながら山奥のほうへ去りました。獣人たちを撃退した敬太は、溶岩が流れているところを飛び越えてみんながいるところへ行きました。
これを見たおひさと子供たちも、草むらから出て一斉に敬太のほうへ駆け寄りました。敬太が無事に戻ってきたことに、みんなも一安心です。
「あんなに大きな獣人をやっつけるなんてすごいなあ」
「敬太くん、ちゅごいちゅごい(すごいすごい)!」
子供たちにもみくちゃになりながらも、敬太はあどけない笑顔でとてもうれしそうな表情を見せています。
そこへ、おひさに抱かれたげん吉が敬太の前でキャッキャッと喜んでいます。それは、まるで敬太の活躍を予感していたかのような笑顔です。
敬太は、おひさから手渡されたげん吉を両手で持ち上げています。かわいい赤ちゃんの笑顔に、敬太は思わず見とれています。
しかし、赤ちゃんといえども油断していたら大変なことになります。
「ジョパジョパジョパ、ジョジョジョジョジョ~ッ」
「うわっ! げん吉くんにおしっこをかけられちゃった」
そんな敬太の顔面に、げん吉は元気いっぱいのおしっこを命中させました。赤ちゃんからの思わぬ攻撃に、敬太も照れた表情で苦笑いしています。
この様子に、周りの子供たちも笑いが止まりません。凄まじい力で恐ろしい獣人たちをやっつけた敬太ですが、小さい子供のかわいい攻撃には負けてしまいそうです。




