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《獣人のこども》おねしょ敬太くんの大ぼうけん  作者: ケンタシノリ
第8章 敬太くんと獣人の赤ちゃん

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その12

 太陽が西のほうへ傾くと、いよいよ晩ご飯を作る準備に入ります。味噌汁を作っているおひさの横で、敬太は焚き口での火おこしを行っています。


「ふ~っ、ふう~っ、ふう~っ!」

「敬太くん、いつも火おこしをしてくれてありがとうね」

「これくらいのことぐらい、いつも当たり前のことだもん!」


 いつも熱心に手伝ってくれる敬太に、おひさはやさしく声を掛けています。


 引戸の手前では、げん吉がワンべえといっしょにじゃれ合っています。子犬と獣人の赤ちゃんの楽しげな様子に、敬太もおひさもうれしそうに見つめています。


「キャッキャッ、キャッキャッキャッ」

「わわわっ! げん吉くんがあまりにも元気すぎてたまらないワン」


 げん吉とワンべえは、4本足でグルグル回りながら歩き続けています。その姿は、敬太に負けず劣らずの無邪気さを見せています。


 そうするうちに、おひさが一生懸命に作った晩ご飯ができました。木の器に雑穀の入ったご飯と味噌汁を入れると、敬太は板の間の囲炉裏へ持って行きました。


 囲炉裏には、畑仕事を終えた盛兵衛がげん吉を抱きかかえながら座っています。敬太がみんなの食べる分を全部持ってくると、おひさも囲炉裏のところへやってきました。


「敬太くんはいつも家のお手伝いをたくさんしてくれるので、大好物の大きなイモを2本あげるからね」

「わ~い! 大好きなイモだ! 大好きなイモだ!」


 敬太は、ご飯と味噌汁とともに置かれた焼き立てのイモを見て大喜びしています。どんなに質素な食事であっても、敬太は大きなイモがあればそれで大満足です。


「ぼくにもイモを出してくれて、本当にありがとうワン!」


 イモが大好きなのは、敬太だけではありません。土間にいるワンべえも、おひさからもらったイモをおいしそうに食べています。


 敬太たちのほうも、できたての晩ご飯に手をつけはじめました。大きな口を開けて晩ご飯を食べている敬太の姿に、盛兵衛もおひさも目を細めています。


「敬太くんがいつも元気なのも、好き嫌いをしないでお腹いっぱい食べているからだね」

「だって、おっかあがいつも作ってくれるご飯はとってもおいしいんだもん!」


 敬太は、おひさが作ってくれた晩ご飯を残すようなことは一切しません。雑穀入りのご飯と味噌汁を食べ終わると、いよいよ大好物の焼きイモを右手でつかみました。


「おっとう! おっかあ! 今日の晩ご飯もとってもおいしかったよ!」

「はっはっは! 敬太くんはいつもよく食べてくれるから、わしらも本当にうれしいよ」

「敬太くんは家の手伝いや畑仕事もしてくれるし、元気な子供だったらこれくらい食べないとね」


 敬太がいつも元気いっぱいなのは、大好物のイモを毎日のように食べているからです。でも、それは同時に敬太の元気のシンボルといえるあの音が出る前ぶれでもあります。


「プウウウウウッ! プウウウウウウウウウッ! ププウウウウウウウウウ~ッ!」

「おっ! 今日もこんなに元気なおならがいっぱい出るとは、敬太くんはすごいなあ!」

「でへへ、いつも大きなイモをたくさん食べるおかげだもん!」


 敬太が元気でなかったら、こんなにでっかいおならの音が鳴り響くことはありません。これも普段からイモだけでなく、野菜もしっかり食べているからです。


 そして、敬太はげん吉にもイモを少しずつ与えることにしました。げん吉はまだ赤ちゃんなので、敬太のように大きな口を開けて食べることはできません。


 それでも、げん吉は敬太が手にしたイモを食べるたびにキャッキャッと喜んでいます。


「うふふ、イモを食べるのが大好きなのは敬太くんもげん吉くんも同じだね」


 げん吉はイモを食べ終えると、おひさのところへ行こうと4本足で歩いています。おひさは自分のところへきたげん吉を大事そうに抱きかかえました。


 おひさが着物からおっぱいを出すと、げん吉はすぐに飲み始めました。その姿に、おひさもうれしそうな顔つきを見せています。


「おっぱいをいっぱい飲んで、すくすくと育つといいね」


 かわいい赤ちゃんの笑顔に、人間も獣人も関係ありません。おひさは、赤ちゃんがどんなな気持ちなのか手に取るように分かります。


 げん吉は、おっぱいを飲み終わるとそのままぐっすりと眠りの中に入りました。安心して眠っているげん吉に、おひさはやさしい笑顔で見つめています。


「げん吉くんも寝ていることだし、敬太くんもそろそろ寝ないといけないぞ」

「おっとう! おっかあ! 明日も家のお手伝いは、ぼくにまかせてね!」

「敬太くんのおかげで、あたしたちも大助かりしているわ。明日もよろしく頼むね」


 こうして、敬太とげん吉はかわいい寝顔を見せながらぐっすりと夢の中へ入って行きました。2人が夢で見た出来事がどんなものかは、布団から起き上がってからのお楽しみです。




 次の日、敬太はいつものようにお布団の上で照れながらも堂々と立っています。今日もお布団に描いたものを盛兵衛とおひさの前で見せようとしています。


「おっとう! おっかあ! 今日もこんなに元気なおねしょをしちゃったよ!」

「おおっ! これだけ見事なおねしょをしたということは、どんな夢を見たのかな?」

「高い滝の上まで自分で登って、そこから滝つぼへ思い切り飛び込んだ夢を見たよ!」


 敬太が夜中によく見る夢は、おしっこの夢と水中に飛び込む夢です。お父さんとお母さんを探す旅に出てからも、敬太が起きたときにお布団への大失敗をするのはおなじみのことです。


 それでも、敬太はおねしょの大失敗を繰り返しても気にするそぶりを見せることはありません。盛兵衛もおひさも、おねしょは元気な子供であり立派な証拠としてやさしく受け止めています。


「うふふ、敬太くんがこれからもどんなおねしょをするのか楽しみにしているわ」


 おひさは敬太の頭をなでなですると、隣で寝ているげん吉を抱き上げました。げん吉のほうも、お布団には見事なおねしょが描かれています。


「はっはっは! 大きな赤ちゃんと小さな赤ちゃんがそろっておねしょをするのはさすがじゃ!」


 こうして、家の中では今日も朝からにぎやかな声で1日が始まります。


 物干しには、大きな絵を描いた敬太とげん吉のおねしょ布団が干されています。敬太はおねしょ布団の前に立つと、相変わらずの大失敗にも明るい笑顔を見せています。


「明日も、今日みたいなでっかいおねしょをするようにがんばるよ!」

「敬太くんがいつも元気なのは、いつもおねしょをするおかげだものね」


 おひさはげん吉を抱きかかえながら、敬太の姿に目を細めています。ワンべえが土間から出ると、敬太は庭にある大きな木へ走ることにしました。


「えいっ、えいえいっ、えいえいっ、えいえいっ!」


 敬太は、木の幹に両手の突っ張りを繰り返すてっぽうの稽古を行っています。お相撲の稽古は、敬太が毎日のように欠かさず行っている日課です。


 どんなにきつい稽古であっても、敬太は決して笑顔を絶やすことはありません。強くて恐ろしい獣人たちの集団をやっつけるためにも、最後まで稽古をやり遂げようと意気込んでいます。


「敬太くん、本当にきつそうだけど大丈夫ワン?」

「これくらいのことでめげないもん! んぐぐぐぐぐっ、んぐぐぐぐぐぐぐぐぐっ!」


 股割りの稽古も、毎日続ける敬太にとってはもう手慣れた様子です。でも、これだけではまだ物足りません。


 そこへ、子供たちが一斉に敬太のところへやってきました。敬太は、自分と同じ腹掛け姿の小さい子供たちに囲まれています。


「早くあちょぼ! あちょぼ!」「ねえねえ、いっしょにお相撲しようよ!」


 かわいいちびっ子たちの勢いに、敬太は思わず尻餅をついてしまいました。力強さでは誰にも負けない敬太ですが、幼い子供たちの前では思わぬドジを踏むこともしばしばあります。


 一方、年上の子供たちは物干しに干されている布団を眺めています。子供たちの目の先には、敬太のでっかいおねしょがあります。


「わ~い! 今日もおねしょしたの?」「おねしょだ! おねしょだ!」

「でへへ、こんなに元気いっぱいのおねしょをしちゃったぞ! すごいでしょ!」


 みんなからはやしたてられても、敬太は布団に描かれた元気のシンボルを隠すことなく堂々と自慢しています。


 そのとき、敬太は何か殺気らしきものを感じるとすぐに大きな声で叫びました。


「みんな! 引戸の前のほうへ早く行って! 早く行って!」


 敬太の叫び声に、子供たちはおひさがいる引戸のところへあわてて走り出しました。ところが、その途中で仁助とこん蔵が足をつまずいて転んでしまいました。


「うううっ、うええええええ~んっ!」「うええええええ~んっ!」

「仁助くんもこん蔵くんも、ぼくがついているから泣かなくても大丈夫だよ」


 小さい子供が泣いているのを聞いて、敬太はすぐに2人のところへ行きました。敬太のやさしい掛け声に、仁助とこん蔵はすぐに泣きやみました。


「あわてなくてもいいから、向こうのほうへ早く行こうね」


 仁助とこん蔵は、他の子供たちが待っている引戸の前へ向かいました。子供たちの様子に安堵した敬太ですが、敵はすぐ近くまでやってきています。


「うわっ! うわうわっ!」


 敬太は次々と襲いかかる鎖による攻撃をかわすと、目の前に飛んできた鎖を右手でつかみました。


 これを見た瞬間、敬太は庭にある大きな木に向かって強い口調で発しました。敬太が握りしめているその鎖は、大きな木から伸びているのは確かだからです。


「双子の獣人め、大きな木にいるのは分かっているぞ! ぼくの前へ早く出てこい!」


 敬太が大声を上げても、大きな木から誰も現れる気配はありません。そして、もう一度声を上げて叫ぼうとしたそのときのことです。


「うわっ、うわわわっ! うわああああああああああああああ~っ!」


 敬太は長い鎖から大賞の高圧電流を浴び続けると、その場でぐったりと倒れました。すると、大きな木の太い枝に双子の獣人が現れました。


「ぐはははは! おれが放った強烈な電流がいとも簡単に食らうとはなあ」

「これからどのように始末するのか、本当に楽しみになってきたぜ」


 双獣雷と双獣炎は、地面に倒れたままの敬太を見下すように笑っています。意識を失った敬太は、この後自分がどうなるのか知る由もありません。

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