その9
「どんなことを言われようとも、ぼくは絶対に負けないぞ!」
敬太は怒りを表情に出すと、その勢いで獣人の胴体をつかんで後方へ思い切り投げ飛ばしました。続けざまに獣人への攻撃を加えようとする敬太ですが、仲間がやられる様子に他の獣人たちが黙って口をくわえているわけではありません。
「うわっ! いきなり何をするんだ!」
「ふはははは! おめえには、これから徹底的にかわいがってやるのさ」
獣人の1人は、敬太をわしづかみで無理やり持ち上げるとそのまま地面に強く叩きつけました。そして、起き上がろうとする敬太の背中を右足で思い切り踏みつけています。
「うぐぐぐっ……。うぐぐぐぐぐぐぐっ……」
「これで分かっただろ! おれたちの力がどれだけ凄まじいものかをな!」
「それくらいのことで……。絶対に負けるものか……」
獣人は、自らの力を誇らしげに敬太に見せつけようとします。しかし、敬太はどんな状況であっても獣人の力に屈するつもりはありません。
「うぐぐぐぐぐぐぐぐぐっ! え、ええ~いっ! ええ~いっ!」
「うわっ! うわわっ! あれだけ踏み続けたのに……」
敬太は四つんばいの姿からようやく脱出すると、すぐさまその獣人の右足をつかんで後方へ押し倒しました。これを見た敬太は、獣人にさらなる攻撃を加えていきます。
「どうだ! ぼくの力はこんなものではないぞ! えいっ! えいっ! えいえいっ!」
「いてててっ! いててててててっ! いててててててててててててっ!」
敬太は、仰向けに倒れている獣人の右足を伸ばしたままで曲げています。何度も強く曲げるうちに、獣人は死ぬほどの激しい痛みに襲われています。
「どんなことがあっても……。参ったなどとは言わないからな……」
獣人は、敬太からこれ以上の屈辱を味わいたくありません。ものすごい痛みに耐えながら、獣人は必死に口を開きました。
そんな獣人の開き直った発言にも、敬太はさらなる攻撃を加えようと獣人の左足を思い切り曲げています。再三にわたる激しい痛みに、獣人はついに大きな悲鳴を上げてしまいました。
「それなら、これはどうだ! え~いっ! えいえ~いっ! えいえいえいっ!」
「いてええええええええっ! いてええええええええええええええっ!」
獣人はガマンのできない激痛に耐えられずに、そのまま一目散に山から逃げ出しました。その様子を見ながら、敬太は両腕を曲げて力こぶを入れながら勝ち誇っています。
そのとき、子供たちの泣き声が敬太の耳に入ってきました。敬太が振り向くと、獣人たちが泣き叫ぶ子供たちを無理やり持ち上げています。さらに、地面に座っているげん吉やワンべえも獣人たちは平気で踏みつけています。
「うえええええええええ~んっ、うえええええええええええええええ~んっ」
「ビービービービー泣きやがって! 下へ叩きつけてやろうか!」
子供たちの泣き声は、山の中に大きく響き渡っています。敬太は、獣人たちが子供たちやワンべえにむごいことをしているのを見て黙っていることができません。
「獣人め、よくも子供たちにひどいことをしやがって! 絶対に許さないぞ!」
「よくもまあ、そんなことを言える……。うわわわっ! いきなり何をするんだ……」
敬太は、獣人に向かって頭から突っ込んで行きました。あまりの勢いに、獣人はわしづかみにしていた子供たちを離してしまいました。
「たちゅけてくれてありがとう(助けてくれてありがとう)」「恐かったよ~」
「仁助くん、虎丸くん、恐い思いをさせちゃってごめんね」
人間の子供たちは、敬太の姿に安心してしがみついています。しかし、まだ助けなければならない子供が残っています。
「獣人の子供のくせに泣きやがって! 泣いてばかりの子供なんか死んでしまえ!」
「痛いよう~。うええええええええええ~んっ!」
獣人による子供たちへの仕打ちに、敬太は振り向きざまに獣人の真横から強く蹴り上げました。そして、獣人のお腹に強烈な拳を何度も続けて食らわせています。
「獣人め、よくも子供たちを泣かせやがって! えいっ! ええいっ! えいえいっ!」
「あんな小さな体からどうやって……。グエッ、グエグエッ……」
獣人は敬太による連続攻撃を受けると、その場で膝をつきながら前のめりに倒れてしまいました。獣人の子供たちとワンべえは、敬太にへばりつくと離れようとしません。
「うえええええええええええ~んっ!」「敬太くん、ありがとうワン」
「本当に恐かったんだね。そんなに泣かなくても、ぼくが守ってあげるからね」
敬太のそばには、人間の子供たちも集まってきました。さらに、げん吉も4本足で敬太のところへ進んでいます。
この様子を見ていた敬太ですが、げん吉の後ろからは獣人が大きな足で踏みつぶそうと待ち構えています。
「みんな! 早くここから逃げて!」
敬太の叫び声に、小さい子供たちは駆け足で山の出入り口に向かって行きました。その間にも、獣人は右足でげん吉を踏みつぶそうとしています。
「げん吉くん、危ない!」
敬太のとっさの機転で、げん吉は辛うじて踏まれずに済みました。げん吉を大事そうに抱きかかえると、敬太は真正面にいる獣人と向かい合っています。
げん吉を始末するチャンスをつぶされて、獣人は敬太へ怒りをにじませた言葉を発しました。
「おい! このチビめ、よくも邪魔しやがったな!」
「よくも、こんなにかわいい赤ちゃんを踏みつけようとしやがって……」
敬太は、赤ちゃんや小さい子供を平然と傷つけようとする獣人たちを許すことができません。それにもかかわらず、獣人たちは信じられないことを敬太の前で言い放ちました。
「そんなことで怒るとは……。おれたちは、この赤ん坊をたっぷりとかわいがろうとしていたのになあ、ふはははは!」
「うええええええええええええ~ん! うえええええええええええええええ~ん!」
獣人たちの不気味な顔つきと笑い声に、げん吉は大声を上げて泣き出しました。敬太は何回もあやしますが、げん吉の泣き声はやむことがありません。
この様子に、獣人たちは両手の指をポキポキさせながら再び口を開きました。
「だから言っただろ! おれたちがちゃんとあやしてあげるって、ふはははは!」
その言葉に、げん吉の泣き声はさらに大きくなりました。激しい泣き声が耳に入るたびに、獣人たちのイライラは募るばかりです。
「大声で泣きやがって! やかましいわ!」
「やかましい声を上げやがって! 赤ん坊もチビもまとめてぶっ殺してやる!」
獣人たちは拳を握りしめると、敬太たちを狙って前方と後方の双方から殴りかかってきました。敬太はその動きに反応すると、すぐさまその場にしゃがみ込みました。
「いてててててっ……。殴る相手が違うだろ!」
「そんなこと言っても……。いたたたっ、いたたたたたたたっ……」
敬太がいないことに気づかなかった獣人たちは、同士討ちになって仰向けに倒れてしまいました。これを見た敬太は、どうにかして獣人への攻撃を加えようとします。
「うえええええええええええ~んっ、うえええええええええええ~んっ」
しかし、げん吉は手足をバタバタさせながら激しい泣き声が続いています。それは、敬太でさえも手がつけられません。
「うわっ! げん吉くん、そっちへ行ったらダメ!」
敬太の叫びも空しく、げん吉は倒れ込んだ獣人の体の上を4本足で歩いています。これには、獣人も絶好のチャンスとばかりに鋭い目でげん吉をにらみつけています。
「ふはははは! ようやくやってきたのか。それじゃあ、今からたっぷりとかわいがってやろうかな」
「うええええ~んっ、うええええええええ~んっ、うええええええええええ~んっ!」
獣人は、泣き叫ぶげん吉を左手でわしづかみにしながら起き上がりました。すると、げん吉が鋭い目で顔を近づける獣人の前で手足をバタバタさせているときのことです。
「ジョパジョパ、ジョジョジョジョジョジョジョジョジョ~ッ」
「うわっ! おれの顔におしっこをかけやがって!」
げん吉は、ガマンしていたおしっこを獣人の顔に命中させ続けています。突然の出来事に、獣人はなすすべもありません。
「キャッキャッ、キャッキャッキャッ」
おしっこがいっぱい出てすっきりしたげん吉ですが、これで攻撃が終わったわけではありません。げん吉は、獣人の顔にへばりつくと同時にあの音を鳴り響かせました。
「プウッ! プウウッ! プウウウッ! プウウウウッ! プウウウウウッ!」
「わわわわっ! く、くさい……。本当にくさい……」
獣人の顔に命中したのは、げん吉のおなら5連発です。赤ちゃんのおならは、獣人が顔をゆがめるほどのくさいにおいです。
げん吉は元気なおならが出たことにキャッキャと喜んでいると、思わずお腹に力が入ってしまいました。
「うわあああああああああっ! お、おれの顔にうんちをするな……」
獣人がどんなに叫んでも、赤ちゃんがところ構わずうんちをしてしまうのは当たり前のことです。
「げん吉くん、ちょっとこっちで待っててね」
敬太はげん吉を抱きかかえると、山の出入り口にいる小さい子供たちのそばにちょこんと座らせました。一方、獣人たちのほうも敬太たちのいるところに向かって突進してきました。
「ふはははは! 逃げようたってそうは行かないぜ!」
「こうなったら、ここにいるチビどもをまとめて始末してもらうぜ」
小さい子供たちを守ろうと、敬太はワンべえといっしょに立ち向かいます。敬太は栗の木の太い枝に手をつかむと、獣人に向かって強烈な飛び蹴りを放ちました。
「うわっ! いててててててっ……」
「どんなにしぶとい相手でも、ぼくは絶対に負けないぞ! んぐぐぐぐぐっ……」
敬太は重量のある獣人の体を持ち上げると、勢いよく後方の地面に叩きつけました。背中を叩きつけられた獣人は、あまりの痛さに立ち上がることができません。
しかし、敬太の後ろにはもう1人の獣人が攻撃を加えようと近づいています。これに見たワンべえは、獣人の左太ももに鋭い牙で噛みつきました。
「いててててててててててっ……。何をするんだ! いきなり噛みつきやがって……」
「敬太くんに手を出すやつは許さないワン!」
獣人はワンべえを振り払おうとしますが、ワンべえは噛みついたまま離れようとしません。これに力を得た敬太は、振り向きざまに獣人の体をつかみました。
「ワンべえくん、ありがとう! あとは、ぼくがこの手でやっつけるからね!」
ワンべえが小さい子供たちのところへ戻ると、敬太は獣人を一気に持ち上げて後方へ叩きつけるように投げつけました。
そこには、起き上がろうとしたもう1人の獣人がいます。突然のことにあわてふためいた獣人ですが、結局はよけ切れることができずに折り重なってしまいました。
「いてててててててっ……。あのチビめ……」
「お、おい……。わしの上に重なったら起き上がれない……」
「まだまだ、ぼくの攻撃は終わっていないぞ! それっ! それっ! それそれっ!」
敬太は、折り重なった獣人たちの上で飛んだり跳ねたりしています。何度も繰り返すうちに、獣人たちはあまりの激しい痛みで声を出すことができません。
一方、攻撃を繰り返す敬太のほうも急にお腹が痛くなってきました。それとともに、お尻のほうもムズムズしてきました。
「ギュルギュルギュル、ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロッ……」
敬太は何とかガマンしようとしますが、それも限界に達しています。そこで、敬太は獣人へのとどめを決めようと高く飛び上がりました。
「獣人め、とどめの一発を受けて見ろ! ギュルルル、ゴロゴロゴロッ……」
敬太は一気に急降下すると、獣人たちが折り重なっているところへ尻餅をつくように着地しました。そのとき、敬太がガマンしていたものが見事に出てしまいました。
「プウウウウウウッ! プウウウウウウウウウッ! プウウウウウウウウウウッ!」
「うっ! く、くさい……。本当にくさいぞ……」
「うわうわっ! 何をするんだ! おれの体に大きなうんちをしやがって……」
敬太は獣人たちの上でおなら3連発を食らわすと、続けざまにでっかくて元気なうんちをしてしまいました。今までガマンしていた敬太にとって、これほどにとどめ技が決まったことに満足しています。
「わわわっ! よくも汚らしいことをしやがって……」
「今度会ったら、敬太も赤ん坊も全員殺してやるからな! 覚悟しとけよ!」
獣人たちは、敬太への怒りをにじませながら山奥へ去って行きました。敬太がげん吉を抱きかかえると、小さい子供たちが駆け寄ってきました。
「敬太くん、やっつけてくれて本当にありがとう!」
「つおい! つおい!」「ちゅごい! ちゅごい!(すごい! すごい!)」
あれだけ恐ろしくて強い獣人を敬太が撃退してくれたことに、子供たちもうれしさを隠せません。すると、虎丸が右手に持っているものを敬太に手渡しました。
「敬太くん、これでお尻をきれいにふいてね」
「でへへ、みんなにうんちがいっぱい出たところを見られちゃった」
虎丸が持ってきたのは、お尻をふくためのフキの葉っぱです。敬太の相変わらずの元気さに、子供たちやワンべえのうれしそうな笑い声がこだましています。
そんな様子を高い木の上から見ているのは、双獣炎と双獣雷の双子の獣人です。双子の獣人は、苦虫をつぶしたような顔を見せています。
「獣人が3人がかりでやっても、あんなチビ1人すら始末することができないとは……」
「まったく、あの役立たずが」
双獣炎と双獣雷は、互いに握手を交わしながら不気味な笑みを浮かべています。2人の視線は、赤い腹掛け姿の敬太に向けられています。
「おれたち2人が力を合わせれば、敬太なんかこの手でひねりつぶしてやるわ!」
「敬太の死に顔を見るのが今から楽しみだなあ、ぐはははは! ぐはははは!」
敬太をこの手で倒すことを確認すると、2人は高い木の上から姿を消しました。




