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《獣人のこども》おねしょ敬太くんの大ぼうけん  作者: ケンタシノリ
第8章 敬太くんと獣人の赤ちゃん

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その8

 敬太は、板の間でげん吉のお世話をしようと奮闘しています。いつもそこにいるおひさは、村の女の人たちが総出で稲刈りしたモミを取るために出かけています。


 まだ2本足でうまく歩けないげん吉ですが、4本足で板の間をグルグルと速く歩き回ります。これには、さすがも敬太も参ってしまうほどです。


「キャッキャッ、キャッキャッ」

「げん吉くん、今度はお外に出ようか」


 敬太はげん吉をおんぶすると、お庭にある1本の大きな木のほうへ行きました。これを見たワンべえも、敬太たちといっしょに歩いています。そこでげん吉を地面にペタリと座らせると、敬太はすぐにお相撲の稽古を始めました。


「えいっ、えいっ、えいっ、えいえいっ!」


 大きな木の太い幹に向かって、敬太は右手と左手の突っ張りを繰り返しています。げん吉はその様子を見ながら、キャッキャッと喜んでいます。


 獣人の赤ちゃんには、てっぽうの稽古がどういう内容なのかまだ分かりません。それでも、敬太の稽古をじっと見つめるげん吉にとっては面白い動きに見えるようです。


「よ~し! 次は股割りの稽古をするぞ!」


 敬太は休むことなく、次の稽古に移ります。これから行うのは、両足を広げて行う厳しい股割りの稽古です。


「んぐぐぐぐぐぐっ、んぐぐぐぐぐぐぐっ、んぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐっ!」


 どんなに厳しい修行や稽古であっても、敬太はへこたれる様子を見せることはありません。敬太は歯を食いしばりながら、顔を地面に付くように上半身を倒しています。


「敬太くん、こんなに稽古しても大丈夫なのかワン?」

「これくらいの稽古をしないと、恐ろしい獣人をこの手で倒すことができないからね」


 敬太は、ワンべえとげん吉の前で厳しい稽古を続けています。そこへやってきたのは、小さい男の子4人です。


 人間と獣人の男の子たちは、稽古を行う敬太に元気な声を掛けました。


「お相撲しようよ、しようよ」「お相撲! お相撲!」

「いっちょにちよう(いっしょにしよう)! いっちょにちよう!」


 子供たちのかわいい声に、敬太は木の枝で丸い線を引いて土俵を作りました。敬太をはじめとして、ここにいる子供たちは全員腹掛け1枚のかわいい姿です。


 豆力士たちは1人ずつ土俵に入ると、目の前にいる敬太を何度も押そうと試みました。でも、最後には敬太によって土俵の外へ寄り切られてしまいました。


 小さい子供たちにとって、横綱級の強さを持つ敬太といっしょにお相撲をするのが楽しくてたまりません。


「もっとやりたい! もっとやりたい!」

「おちゅもうちたい(お相撲したい)! おちゅもうちたい!」


 さすがの敬太も、子供たちのかわいい笑顔には参ってしまいそうです。


 その後も、敬太と小さい力士とのお相撲が続きました。あっと言う間に寄り切られた子供たちですが、敬太といっしょにお相撲することができてとてもうれしそうです。


 土俵の上での子供たちは、人間も獣人も関係ありません。かわいくて元気いっぱいの子供たちに、敬太もやさしい笑顔で見つめています。


「ねえねえ、もっと遊びたい! 遊びたい!」「いっしょに遊ぼう! 遊ぼう!」

「あちょぼうよ(遊ぼうよ)! あちょぼうよ」


 かわいい声での催促に、敬太はあることを思いつきました。


「それじゃあ、山へ入ってみんなで栗拾いをしようよ!」

「わ~い! 栗拾いだ! 栗拾いだ!」「ねえねえ、どこの山へ行くの?」」

「いちゅもいっちょ(いつもいっしょ)! いちゅもいっちょ!」


 敬太の提案に、小さい子供たちは足をピョンピョン跳ねながら大喜びしています。小さい子供たちにとって、山へ入ることはめったにありません。


 敬太は、土間から大きい竹かごを持ってきました。その竹かごにげん吉を座らせると、敬太はそれを背中にかつごうとしています。


 すると、おひさが土間から家の外へ出てきました。敬太が小さい子供たちといっしょにいるのを見て、すぐにそばへやってきました。


「敬太くん、山の中にはマムシや毒グモがいるかもしれないから十分気をつけるのよ」

「それくらい分かってるって! それじゃあ、山へ行ってくるからね!」


 おひさは、小さい子供たちだけで山へ入るのがやっぱり心配です。そんな心配をよそに、敬太は自ら先頭に立って山を目指して歩き出しました。


「敬太くん、どこの山へ行くの?」「どこなの? どこなの?」

「ぼくの後をついて行けばすぐに分かるよ!」


 小さい子供たちは、早く栗拾いがしたくてたまりません。敬太は、そんな子供たちを引っ張って歩き続けています。


「キャッキャッキャッ、キャッキャッキャッ」


 竹かごの中にいるげん吉も、子供たちの歓声にうれしそうな表情を見せています。


 しばらく歩くと、木々がずらりと並んでいる山の入口が見えてきました。その山に入った敬太は、少し先に大きな栗の木を2本見つけました。


「みんな早くきて! 大きな栗の木があったぞ!」


 敬太の元気な声に、小さい子供たちも急いで駆け上がりました。子供たちが集まると、敬太は竹かごを少し離れた場所で下ろしてからげん吉を出しました。


「今から栗の木を揺らすから、ちょっと離れたところから見てね」


 敬太は子供たちに注意を促すと、お相撲の稽古と同様に右手と左手の突っ張りで大きな木を揺らせています。


 そうしたら、大きな木から大量の栗が落ちてきました。これを見て、敬太は思わずはしゃぎ始めました。


「わあ~い! こんなにたくさん栗が転がっているぞ!」


 敬太の大きな声に、小さい子供たちもすぐに反応しました。木の周りには、イガから転がり出てきた栗の実があります。


「イガイガがあるから、踏まないように気を……。いてっ! いてててててててっ!」


 敬太は注意することに気を取られて、地面のイガを踏んでしまいました。あまりにも痛がる敬太の姿に、小さい子供たちは面白がるように笑い転げています。


「でへへ、みんなの前でこんな姿を見られちゃった」


 敬太は顔を赤らめながらも、すぐに気を取り直して栗を拾い始めました。子供たちも、地面のイガに気をつけながら手で拾っています。


 そんな栗拾いに夢中になっている敬太たちを、周囲の大きな木の上からのぞき見ている一団がいます。


「敬太め……。あんなチビたちとにぎやかにしやがって……」

「大風邪でずっと苦しみながら寝込んだこと……。絶対に忘れてないからな……」


 獣人たちは、元気な笑顔で栗拾いしている敬太たちを見てかなりいらだっています。


 「今度は、他のチビもまとめて徹底的に始末してやるからな……」


 怒りをにじませた獣人は、拳を握りしめながら体を震わせています。すると、敬太が獣人が潜んでいる木の方向へ行きました。


「ねえねえ、どうしたの?」

「今度は、ここで栗の木を揺らしてみるからね!」


 敬太は、大きな木の幹を両手で強く揺らしています。すると、たくさんの栗の実とともに図体の大きな獣人らしきものが落ちてきました。


「いててっ! いてええええええっ! いてええええええええええっ!」


 背中から落ちた獣人は、大量のイガが刺さって痛がりながら飛び上がりました。思わぬ形で現れた獣人に、敬太はすぐさまに飛び掛かりました。


「え~いっ! とりゃあっ!」

「いきなり何を……。いてててっ! いてええええええええええっ!」


 敬太は、獣人への凄まじい拳と蹴りを続けざまに食らわせています。何度も攻撃を食らった獣人は、木の幹にぶつかると同時にその場でぐったりしました。


 獣人を倒した敬太は、子供たちといっしょに栗拾いを再開しようとします。しかし、この周りにいる獣人は1人ではありません。


 敬太の背後には、獣人らしきものがもう2人現れました。敬太が振り向くと、獣人たちが指をポキポキさせながら不気味な笑みを浮かべています。


「ふはははは! そのくらいで倒したと言えるのかな?」

「獣人め、どういうことだ!」


 獣人たちの挑発に、敬太は歯を食いしばりながら怒りをこらえています。そんな敬太の前へ出てきたのは、ぐったりしていたはずのもう1人の獣人です。


「よくも、このおれを痛めつけやがって……。おめえには、今からたっぷりとかわいがってやるからな」

「今まで受けた数々の屈辱を晴らさないといけないからなあ、ふはははは!」


 獣人たちの不気味さは、敬太にこれから迫りくるであろう暗雲を示しているかのような雰囲気です。

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