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《獣人のこども》おねしょ敬太くんの大ぼうけん  作者: ケンタシノリ
第8章 敬太くんと獣人の赤ちゃん

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その4

 敬太は、おひさの家の庭で薪割りをしています。すっかり手慣れた敬太の様子に、げん吉を抱いている盛兵衛も安心して見ています。


「小さいぼうやがこんなに薪割りをしてくれるから、わしらも本当に大助かりじゃ」

「これくらいのことぐらい、ぼくだったら何でもできるぞ!」


 敬太にとって、まさかりで薪割りをすることぐらい朝飯前です。家の土間では、おひさが晩ご飯の準備に余念がありません。


 赤ちゃんのげん吉が加わって大変ですが、忙しいときには手が空いている人がお世話をするなどお互いに協力し合っています。


「ふ~っ、ふ~っ、ふう~っ!」

「薪割りをしたり、火おこしをしたりと敬太くんは本当にえらいわ」


 おひさも盛兵衛も、敬太が何でも手伝ってくれるので大助かりです。おかげで、晩ご飯のほうもいつもより早くできあがりました。


 いつもはおひさと盛兵衛の2人でご飯を食べますが、今日は敬太とげん吉が加わってにぎやかになっています。


 今日の晩ご飯は、雑穀の多いご飯にネギとニンジンの味噌汁です。しかし、敬太にはそれに加えてあの大好物が用意されています。


「遠いところからここまで歩いてきて大変だったでしょ。ささやかだけど、敬太くんのために焼きイモを用意したからね」

「男の子だし、晩ご飯をお腹いっぱい食べないといけないぞ」


 敬太はおひさと盛兵衛の親心に応えようと、出された晩ご飯を次々と口に運んでいきます。その食べっぷりに、2人は敬太をわが子のようにやさしく見つめています。


 そのころ、ワンべえも土間で焼きイモ1本を少しずつ食べています。大好物の焼きイモが食べることができるので、ワンべえも大満足です。


 おひさは、そばにいるげん吉にお箸でご飯を与えようとしています。げん吉は赤ちゃんなので、自分で食べることがまだできません。


「げん吉くんの口にこの晩ご飯が合うのかな? あ~ん!」

「キャッキャッ、キャッキャッキャッ」

「うふふ、おいしそうに食べているわ」


 おいしそうに食べるげん吉の顔をみて、おひさもうれしそうです。その間も、敬太は大きな口を開けて晩ご飯を食べ続けています。


「おっとう! おっかあ! ご飯も味噌汁も全部残さずに食べたよ!」


 敬太が食べ終わった木の器には、ご飯つぶを1つも残していません。そして、敬太は晩ご飯で一番楽しみにしている大好物に手をつけました。


「この焼きイモ、こんなにホクホクしていてとってもおいしいよ!」

「はっはっは! 好き嫌いしないで何でも食べてくれるので、わしらにとって何よりもうれしいぞ」


 敬太は、大好きなイモを大きな口でほおばっています。元気のいい敬太の食べっぷりに、盛兵衛もおひさもやさしく見つめています。


 こうして、敬太は何も残さないで出された物を全部食べ切りました。そんな敬太ですが、食べ終わってからお尻に思わず力を入れたそのときのことです。


「プウウッ! プウウウ~ッ! プウウウウウウウウウウ~ッ!」


 敬太は、みんなの前で元気いっぱいのおならを3回も続けて出てしまいました。でも、盛兵衛もおひさも敬太のおならを気にすることはありません。


「おおっ! これまたでっかいおならがいっぱい出たなあ」

「うふふ、焼きイモをいっぱい食べたのが効いたのかな?」

「でへへ、元気なおならがこんなに出ちゃったよ!」


 でっかいおならは、敬太がいつも元気な男の子である立派な証拠です。しかし、敬太の元気のシンボルはこれにとどまりません。


 それが明らかになるのは、敬太たちが布団を敷いてぐっすりと寝ているときです。




 敬太が布団の中で目を覚ますと、急にモジモジし始めました。


「お、おしっこがもれそう……」


 まだ真夜中なので、家の中は真っ暗闇です。隣では、げん吉がかわいい寝顔ですやすやと眠っています。


「げん吉くんが起きないように、静かに……」


 掛け布団をめくった敬太は、自分が寝ていたお布団をそっと確認しました。どうやら、お布団におねしょはしていないようです。


「早く外に出ておしっこを……」


 敬太は、みんなを起こさないようにゆっくりと板の間から土間へ下りました。すると、その気配に気づいたワンべえが目を覚ましました。


「敬太くん、こんな夜中にどうしたワン?」

「お、おしっこが……。おしっこがしたくなったから、ちょっと外へ出て……」


 敬太のしぐさを見て、ワンべえもいっしょについて行くことにしました。引戸をゆっくりと開けると、敬太たちは家の外へ出ました。


 夜空には月の光が輝いていますが、敬太たちにとっては真っ暗闇であることに変わりありません。


 そんな暗闇の中から、不気味な笑い声が敬太たちの耳に入ってきました。


「ふはははは! まさかこんなところにいるとは、探す手間が省けたぜ」

「獣人め、いったい何をするつもりだ」

「決まっているだろ、あの赤ん坊をその場で始末するためさ」


 敬太の前に現れた獣人は、たとえ相手が小さい子供や赤ちゃんであっても冷酷な態度を崩しません。


「かわいい赤ちゃんに手を出す者は、ぼくが絶対に許さないぞ!」


 敬太は、獣人に向かって強烈な蹴りを食らわそうとします。しかし、獣人はその動きを見逃しません。


「おめえの攻撃などすでにお見通しさ! うりゃあっ! うりゃあっ!」

「うわっ! いててててっ……」


 獣人は敬太の飛び蹴りを右手でいとも簡単に受け止めると、そのまま地面に叩きつけました。いきなり不利な立場に立たされた敬太ですが、これくらいのことでめげることはありません。


「こんなことで絶対に負けるもんか! え~いっ!」

「だから何度も言って……。う、うわわわっ!」


 敬太は、真っ暗闇の中で獣人の大きな体を真上まで持ち上げました。小さい体でも、敬太の凄まじい力強さは健在です。


 ところが、今日の敬太はどこか様子が違います。敬太の顔つきも、いつもと違って苦しそうな表情となっています。


 この様子に、獣人は不気味な表情でせせら笑っています。


「も、もう……。ガマンできない……」

「ふはははは! おめえ、もしかしておしっこをガマン……」


 敬太はおしっこのガマンを気にするあまり、獣人のことを忘れて腹掛けの下を両手で押さえながら走り出しました。両手の支えがなくなった獣人は、仰向けのままで地面へ落下しました。


「いてててっ、いててててててっ……。いきなり下へ落としやがって……」

「お、おしっこが……。おしっこがもれる……」


 獣人が背中を強く打って痛々しい表情を見せる中、敬太はおしっこを必死にガマンしようとその周りを走り回っています。しかし、そのガマンも限界に近づいています。


「も、もう……。ガマンできない……」

「わっ! わわっ! おれの体の上を何回も踏みやがって……。いてっ、いてててっ……」


 敬太は、仰向けになった獣人のお腹の上で足を上げ下げするように踏み続けています。そして、赤い腹掛けを少しめくると獣人の顔にめがけておしっこをし始めました。


「ジョパジョパジョジョジョ~ッ、ジョジョジョジョジョ~ッ」

「うわっ! やめろ、やめてくれ! おれの顔におしっこをかけやがって……」


 敬太は、おしっこを勢いよく獣人の顔に命中し続けています。さすがの獣人も、これにはたまらない様子です。


 そのとき、敬太は聞き覚えのあるあの泣き声が耳に入ってきました。それは、げん吉が大声で泣いている声です。


「うえええええええええ~んっ! うええええええええええええ~んっ!」

「げん吉くん、どうしたの? あれっ、げん吉くんは家で寝ているはずなのに……」


 敬太は、暗闇の中に浮かぶ家の方向を見ました。でも、普通に考えても赤ちゃんの泣き声がこんなに大きく響き渡るとは考えられません。


 その間も、げん吉の泣き声は激しくなるばかりです。そのとき、敬太は今まで見ていた風景が一瞬で真っ暗になりました。




「うええええ~んっ! うえええええ~んっ! うええええええええええ~んっ!」

「う~ん……。げ、げん吉くん! どうして泣いているの?」


 敬太は目を覚ますと、自分がお布団の中にいることに気づきました。どうやら、今までの出来事は全て夢の中のことのようです。


 それよりも気になるのは、家中に鳴り響く泣き声を上げているげん吉の様子です。敬太は自分の布団から出ると、隣で泣いているげん吉をあやそうと掛け布団をめくりました。


「なあんだ、げん吉くんが大泣きしていたのはこのことだったのか」


 敬太に抱きかかえられたげん吉は、今まで泣いていたのがウソのように満面の笑顔を見せています。そばにあるげん吉の小さいお布団には、赤ちゃんらしい見事なおねしょの地図が描かれています。


「うふふ、赤ちゃんだからこんなにおねしょしても当たり前だよね。おっぱいをいっぱい飲んだことだし」


 おひさと盛兵衛も、げん吉の激しい泣き声で目を覚ましました。しかし、そんなことで動揺するそぶりを見せることはありません。


 意思を伝えるために泣き声を上げるのは、赤ちゃんにとっては当たり前だからです。


「敬太くん、げん吉くんはあたしが抱いてあげるからこっちへ持ってきてごらん」


 おひさは、敬太から手渡されたげん吉をやさしく抱いています。お母さん同然のやさしさに、げん吉はすっかり安心しています。


 すると、おひさは敬太の姿を見ながらやさしく微笑んでいます。


「もしかして、敬太くんもおねしょをしちゃったのかな?」

「でへへ、今日もおしっこをした夢を見ちゃっておねしょしちゃったよ」


 敬太のおねしょは、赤い腹掛けの下がぬれていることで分かりました。その後ろでは、盛兵衛が掛け布団をめくって敬太のお布団を見ているところです。


「はっはっは! 敬太くんがでっかいおねしょを盛大にするとは、本当にすごいぞ」


 敬太のお布団には、今日も元気いっぱいのおねしょが見事に描かれています。盛兵衛は、その大きく描かれたおねしょの地図に目を細めています。


「それにしても、小さい赤ちゃんと大きい赤ちゃんのおねしょの地図がそろい踏みになっているのは立派なものじゃ」

「おっとう、これからもお布団にでっかいおねしょを描いて見せるからね」

「おねしょをしてもこんなに元気いっぱいとは、こりゃあまいったわ。はっはっは!」


 あれだけ凄まじい力を持つ敬太ですが、お布団に毎日のように大失敗しているようでは大きい赤ちゃんと言われても仕方ありません。それでも、敬太とげん吉が元気な笑顔を見せていることに、おひさも盛兵衛もすっかり安心しました。

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