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《獣人のこども》おねしょ敬太くんの大ぼうけん  作者: ケンタシノリ
第8章 敬太くんと獣人の赤ちゃん

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その3

 長く険しかった山道を下りて行くと、敬太たちの前に村の入口が現れました。敬太は、その村の名前が記された道標を見ています。


 その道標には、「穂代村ほだいむら」と記されています。しかし、漢字をあまり読めない敬太は上の2文字をなかなか読めません。


 すると、敬太に抱かれたげん吉が再び泣き出しました。


「うえええ~んっ、うえええええええええええええ~んっ」

「げん吉くん、いないいないばあっ! いないいないばあっ!」


 敬太はげん吉を何度もあやしていますが、さっきとは違ってなかなか泣きやもうとはしません。


「敬太くん、村へ行ったらだれかに聞いてみたほうがいいワン」

「ワンべえくん、急いで村の中へ入ろう」


 敬太たちは、急ぎ足で穂代村へ入って行きました。その間も、げん吉は大声で泣き続けるのをやめません。


「だれに聞いたらいいのかな? 獣人のことを快く思っていないだろうし……」


 げん吉はかわいくてあどけない顔をしていますが、獣人の赤ちゃんです。獣人の恐ろしさは、これまで何度も戦っている敬太なら当然分かるものです。


「高い高い~っ、高い高い~っ……」

「うえええええええええええ~んっ、うえええええええええええええ~んっ」


 相変わらず泣き声を上げる赤ちゃんに、さすがの敬太も困り果てています。


 そのとき、目の前に温和な顔をした女の人がやってきました。女の人は、やさしい声で敬太に話しかけてきました。


「あらあら、おっぱいが飲みたいのかな? ちょっと赤ちゃんを貸してごらん」


 敬太は言われるままに、げん吉を女の人に手渡しました。女の人が着物からおっぱいを出すと、げん吉はすぐに飲み始めました。


「ふふふ、やっぱりおっぱいが飲みたかったのね」


 おっぱいを飲み続けるうちに、げん吉は次第に泣きやみました。どうやら、げん吉はお腹がすいてたまらなかったそうです。


「キャッキャッ、キャッキャッキャッ」


 げん吉は、お腹がいっぱいになってとても満足しています。それは、手足を動かしながらあどけない笑顔を見せていることからも分かります。


「うふふ、こんなに元気な赤ちゃんは見たことがないわ」

「げん吉くんにおっぱいをあげてくれて、本当にありがとう!」

「そんなにかしこまらなくても大丈夫だよ。これくらいのことは当たり前のことだし」


 女の人にとって、赤ちゃんの求めに応じたあやし方はすっかり手慣れたものです。そんな赤ちゃんに対するやさしさに、敬太もすっかり脱帽しました。


 そんな敬太に、女の人は目を細めながら声をかけました。


「山道をずっと歩いてきたのでしょ。とりあえず、あたしの家で一休みしてみたら?」

「で、でも……。ぼくたちはただ……」

「そんなことで遠慮しなくてもいいのよ。あたしが家まで案内するから、ついておいで」


 敬太たちは、げん吉を抱きながら歩く女の人の後をついていきます。女の人は、一目見ただけで温かみのある表情をのぞかせています。


 敬太は歩きながら、旅に出る前におじいちゃんから聞いたことを思い出しました。


「おっかあのことはじいちゃから聞いているけど……。う~ん、どんな顔だったかなあ」

「敬太くん、どうしたのワン?」

「何でもないって、ちょっと考えごとをしただけだよ」


 敬太は、自分を産んでくれたお母さんの顔をなかなか思い出すことができません。自分のお母さんはどんな顔なんだろうと敬太は心の中で想像しています。


 村の中心には、小さい農家がいくつも集まっています。女の人は、その中にある1軒の農家を見つけるとすぐに入って行きました。


「ここがあたしの家なの。ご主人もいるから、さあ入って」


 敬太たちは、女の人の好意に甘えて家の中へ入りました。土間には、畑から帰ったばかりのご主人がいました。


 敬太のかわいい笑顔に、初対面となるご主人も柔和な顔立ちで出迎えました。


「おっ、これはかわいいぼうやだね。ここへきたのは初めてなのかな?」

「うん! ここへきたのは初めてだよ!」

「さあさあ、狭いところだけど板の間のほうへ上がってお休みくださいな」


 敬太は板の間へ上がると、囲炉裏の周りに座っている女の人のそばへ行きました。女の人の両腕に抱いているのは、ぐっすり眠っているげん吉です。


「おっぱいをいっぱい飲んだから、赤ちゃんも安心して眠っているわ」


 女の人は、やさしい笑顔でげん吉を見つめ続けています。あまりのかわいい寝顔に、敬太もその様子をのぞき見ています。


「そうそう、ぼうやは何という名前かな?」

「ぼくの名前は敬太で、7歳児の元気いっぱいの男の子だよ! 土間にいるのは、ワンべえという子犬だよ!」


 女の人は、敬太の子供らしい元気な声を聞いてやさしい笑みを浮かべています。


「うふふ、元気いっぱいのちびっ子にかわいい子犬なんだね。敬太くんの赤い腹掛けもかわいいね」

「夏であっても冬であっても、ぼくはこの腹掛け1枚だけでへっちゃらだぞ!」


 敬太はその場で立ち上がると、元気のシンボルである腹掛け姿を女の人に見せびらかしています。


 そこへ、ご主人が板の間に上がって囲炉裏のところへきました。女の人は、ご主人とともに敬太に自己紹介することにしました。


「紹介するわ。あたしの名前はおひさと言うの。こちらは、ご主人の盛兵衛もりべえ

「敬太くんという名前か。こりゃあ、元気な男の子にぴったりの名前じゃ」


 盛兵衛は、敬太の明るい顔を見ながら顔がほころんでいます。すると、敬太はおひさと森兵衛の前で逆立ちをしました。


 2人の前で得意げになる敬太ですが、逆立ちのままなので腹掛けがめくれています。


「あらあら、おちんちんが丸見えになっているよ」

「でへへ、腹掛けがめくれて見えちゃった」

「はっはっは! やっぱり、子供は元気が一番だからなあ」


 敬太は、おちんちんが見えてしまって思わず照れ笑いをしています。でも、敬太の子供らしい無邪気さはおひさたちに十分伝わりました。


「敬太くんがいるだけで、家の中もにぎやかになりそうだなあ。どうじゃ、わしらの家にしばらく泊まったらどうかな?」

「で、でも……。ぼくはちょっと一休みをしようと……」

「そんなことを言わなくても、敬太くんがずっとここにいてくれたほうがうれしいわ」


 おひさたちは、かわいくて元気な敬太をわが子のように見つめています。子供に恵まれない2人にとって、敬太とげん吉の存在はかけがえのないものです。


「しばらくここで暮らすことになるだろうから、わしらを呼ぶときにはおっとうやおっかあと言っていいぞ」

「おっとう! おっかあ! しばらくお世話になるけど、よろしくね!」

「うふふ、子供ならこれくらい元気でなきゃね! 赤ちゃんも目を覚ましたことだし、敬太くんも抱いてごらん」


 敬太は、おひさから手渡されたげん吉をやさしく抱きかかえています。げん吉も、敬太の目の前でキャッキャッと笑顔を振りまいています。


「この赤ちゃんはねえ、山の中に置き去りになっていたのをぼくが見つけたの! げん吉くんという名前もぼくが名づけたよ!」

「まあ! こんなにかわいい獣人の赤ちゃんを……。げん吉くんを無事にここまで抱いてくるなんて、敬太くんは本当にえらいわ」


 げん吉は、敬太に抱かれても手足をバタバタ動かして元気いっぱいです。あまりの元気さに、敬太はげん吉を両手で持ち上げました。


 そのとき、げん吉が大の字になった瞬間のことです。


「ジョパジョパジョジョジョ~ッ、ジョジョジョジョジョ~ッ」

「わっ! げん吉くんにおしっこを思い切りかけられちゃった」


 敬太は、げん吉のおしっこを自分の顔に命中されてしまいました。げん吉の愛くるしい笑顔には、元気さでは負けない敬太もたじたじです。


「はっはっは! おっぱいを飲んでおしっこをするのが赤ちゃんの仕事だからなあ」

「でへへ、赤ちゃんは人間だろうと獣人だろうと本当にかわいいんだもん!」


 げん吉は、敬太に抱かれながら満面の笑顔を見せています。言葉はしゃべれなくても、大好きな敬太への愛情表現は相手にも伝わっているようです。

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