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《獣人のこども》おねしょ敬太くんの大ぼうけん  作者: ケンタシノリ
第8章 敬太くんと獣人の赤ちゃん

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その1

 普段は静かな山道に、いきなり怒号が鳴り響きました。そこへ現れたのは、図体の大きい獣人たちの一団です。


 5人組でやってきた獣人たちは、いらだちを見せながら誰かを探しているようです。


「おい! あの2人め、どこへ行きやがった」

「あと一歩のところだったのに……。ドジを踏むようなことをしやがって」

「す、すいません……。おれが足手まといになるようなことをしなかったら……」


 獣人たちは山道の周囲をくまなく探していますが、なかなか成果が上げることができません。獣人の1人は、あまりのいらだちに地面を蹴り上げるしぐさを見せています。


「鋼吾とおあゆめ……。どこへ逃げようたってそうはいかないからなあ」

「どこへ行きやがった! まだ遠くへ行っていないはずだ!」


 獣人の一団は怒りをこみ上げながら、その場から去って行きました。


 すると、草むらの中に誰かが隠れています。そこに隠れているのは、敬太の両親である鋼吾とおあゆです。


 鋼吾たちは、獣人たちの足音が聞こえなくなったのを見計らって山道へ出てきました。


「おあゆ、本当にすまない。赤ちゃんがお腹の中にいるのに……」

「そんなことないわ。どんなにつらいときだって、あなたといっしょだもの」


 おあゆは、少し大きくなったお腹を大事そうにさすっています。そのお腹には、2人の間にできた新しい命が宿っています。


 本来なら、獣人に追われるつらい思いをしたくありません。しかし、鋼吾たちは獣人に追われている身です。2人は、身を潜めて獣人たちが去るのを待つしか他はありません。


 おあゆは、自分が産んだ最初の子供ことを思い出しています。


「敬太くんはどうしているのだろうか……」

「ここにいなくても、敬太くんがぼくたちを見守っていると思うよ」


 鋼吾たちは、自分たちの元に敬太がいないことへの寂しさを感じています。それでも、2人は敬太に再び会いたいという思いを抱いていることに変わりありません。




 そのころ、敬太たちのほうも別の山道を進み続けています。お父さんとお母さんに会いたい気持ちは敬太も同じです。


「おっとう……。おっかあ……」


 明るくて元気いっぱいの敬太も、いつもそばにいてくれた両親のことを忘れることはありません。


 そんなとき、敬太のお腹から元気な音が鳴り出しました。


「ぐううううううううううううっ~」

「敬太くん、もしかしてお腹がすいたワン?」

「でへへ、こんなに歩いたからお腹がすいちゃったよ」


 この日も、敬太たちは朝から歩いたり走ったりしています。敬太は、山道の途中にある大きな岩を椅子代わりにして一休みすることにしました。


 そこで周りを見渡すと、橙色の実をつけた果物が数多くある大きな木を見つけました。それを見た敬太は、思わずはしゃぎ声を上げました。


「わ~い! 柿だ、柿の実がたくさんあるぞ!」


 敬太は、山道の向かい側にある柿の木に飛びつきました。木の幹にしがみついて上へ登ると、柿の実を次々と取って行きました。


「ワンべえくん、柿の実をあげるから食べてみて!」

「今まで食べたことがないけど、どんな味がするか楽しみだワン!」


 敬太は木から降りると、ワンべえに柿の実をあげました。初めて食べるその味に、ワンべえは満足そうな顔を見せています。


「少しすっぱいけど、甘くておいしいワン!」

「ワンべえくん、柿の実がまだあるからいっしょに食べようよ」

「まだ食べたいけど、1個食べたらお腹がいっぱいになっちゃったワン」


 敬太の手には、柿の実がまだ5個もあります。残った柿の実は、敬太が全部食べることにしました。


 夏のスイカと同様に、秋に実りを迎える柿も敬太の大好物です。敬太は、おいしそうな柿を口にほおばりました。


 柿の実を次々と食べ続ける敬太を見て、ワンべえはちょっと心配しています。


「山の中には、いろんな果物があって食べ物には困ることはないぞ!」

「こんなにたくさん食べたても大丈夫ワン? だって、敬太くんのお布団はいつもおねしょでベチョベチョなんだワン!」

「でへへ、これからも果物をいっぱい食べて元気なおねしょをお布団にするぞ!」


 敬太がいつも元気である証拠は、お布団に必ずやってしまうでっかいおねしょです。今日の朝も、敬太はいつも通りにお布団へのおねしょをしてしまいました。


 でも、そんなことを気にせずにいつも明るい笑顔を見せるのは敬太らしいところです。敬太は柿の実を食べ終わると、ワンべえとともに山道を再び歩き出しました。


 しばらくすると、山道の右側にお地蔵さんが並んでいるのが見えてきました。お地蔵さんは、厳しい道のりを歩むであろう敬太たちをやさしく見守っています。


 そんな敬太ですが、歩いている途中で赤い腹掛けの下を両手で押さえ始めました。どうやら、柿の実の食べ過ぎでおしっこがしたくなったからです。


「ワンべえくん、そこでちょっとおしっこをするから」


 敬太は、山道からちょっと入ったところにある大きな木へ行きました。そこで立ち止まると、勢いよくおしっこを木の根元に向かってしています。


「ジョパジョパ、ジョパジョパジョパッ、ジョジョジョジョ~ッ」


 おしっこは、敬太にとっていつも元気な子供である立派な証拠です。敬太の元気さは、こんなところにも表れています。


 敬太はおしっこがいっぱい出てすっきりすると、山道へ戻るために足を進めようとしました。そのとき、敬太の耳元に小さい子供の泣き声が聞こえてきました。


「どうして泣いているのだろう……」


 敬太が振り向くと、小さい子供が近くの木のそばで地べたに座りながら泣いているのを見つけました。よく見ると、その子供は人間の子供ではありません。


「これって、もしかして僕と同じ獣人の子供?」


 その子供は、肌色が青い獣人の赤ちゃんです。敬太は、自分の肌色を見ながらちょっと戸惑っています。


 敬太のお父さんとお母さんは人間体のままだったので、2人の間に生まれた敬太の外見は人間と全く同じです。しかし、目の前にいる獣人の赤ちゃんは外見からも獣人とはっきり分かる風貌です。


 そんな獣人の赤ちゃんを、敬太は両手でやさしく抱きかかえました。


「よしよし、そんなに泣かなくても大丈夫だよ」


 本来なら、獣人は敬太にとって目の前に立ち塞がる恐ろしい敵であるはずです。しかし、目の前に置き去りにされている獣人の赤ちゃんを見過ごすわけにはいきません。


 敬太は、腹掛け1枚だけの獣人の赤ちゃんをやさしくあやしています。すると、獣人の赤ちゃんはすっかり泣きやんでキャッキャッと笑い出しました。


「うわ~い! こんなに手足を動かして元気なんだね」


 数え年でまだ2歳ぐらいの赤ちゃんは、さすがの敬太も参ってしまうほどの元気さを見せています。でも、赤ちゃんの元気さはそれにとどまりません。


 敬太は、赤ちゃんを抱きながら何度も高く持ち上げています。そして、大喜びする赤ちゃんが手足を広げて大の字になったときのことです。


「ジョパジョパジョジョジョジョジョ~ッ」

「うわっ! 赤ちゃんにおしっこをかけられちゃった」


 不意を突かれた敬太は、獣人の赤ちゃんから顔におしっこを命中されてしまいました。これは。獣人の赤ちゃんにとってあいさつ代わりと言えるものです。


 獣人の赤ちゃんは、まだ自分の言葉をしゃべることができません。泣いたり笑ったりするなど、赤ちゃんは様々な表情や行動で相手に知らせます。


 おしっこがいっぱい出たおかげで、獣人の赤ちゃんは満面の笑みで喜んでいます。赤ちゃんらしい愛情表現に、敬太は顔をぬぐいながら照れています。


「それにしても、こんなところに置き去りにするなんて……」


 敬太が気になったのは、この赤ちゃんといっしょにいたであろう獣人のお父さんとお母さんです。いずれにせよ、しばらくは敬太が赤ちゃんのお世話をしなければなりません。


 獣人の赤ちゃんを抱えながら山道へ戻ると、そこで待っていたワンべえと再び合流しました。それを見たワンべえは、赤ちゃんの肌が青いことがどうしても気になるようです。


「敬太くん、本当に大丈夫なのかワン……。赤ちゃんといっても、どうしても獣人にしか見えないワン」


 そんなワンべえの言葉にも、敬太は決して動じることはありません。


「だって、このまま置き去りにしたらとってもかわいそうだもん! これは獣人の赤ちゃんだけど、とってもかわいいよ」


 敬太は山道の真ん中に座ると、獣人の赤ちゃんをワンべえに見せました。赤ちゃんはその場で立つことはできますが、まだ1人でよちよち歩きすることはできません。


 何とか歩こうとする獣人の赤ちゃんですが、足を踏み出したときに思わず転んでしまいました。


「うええええええええ~ん、うえええええええええええ~ん」


 大声で泣き出した赤ちゃんのもとへ、ワンべえがすぐに寄ってきました。そして、ワンべえは獣人の赤ちゃんをペロペロとなめ始めました。


 ワンべえの愛情は、赤ちゃんの表情にも変化が現れました。すぐに泣きやんだ獣人の赤ちゃんは、大きな口を開けながら笑い出しました。


 敬太は、獣人の赤ちゃんを両手で持つように抱きかかえました。体を動かすのが大好きな赤ちゃんの姿に、いつも元気な敬太も負けてしまいそうです。


 そこへ、ワンべえが敬太の足元へやってきました。どんな子供であっても、広い心で受け入れようとする敬太のやさしさは、ワンべえにも伝わっています。


 これを見ながら、ワンべえは獣人というだけで疑った自分の気持ちを恥じています。


「敬太くん、獣人の赤ちゃんとすぐ疑ってしまったワン……」

「そんなことを気にしなくても大丈夫だよ。だって、ぼくは小さい子供や赤ちゃんのことが大好きだもん!」


 子供や赤ちゃんを愛する気持ちに、人間も獣人も関係ありません。敬太もワンべえも、元気な笑い声が似合う獣人の赤ちゃんをやさしく見守っています。

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