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《獣人のこども》おねしょ敬太くんの大ぼうけん  作者: ケンタシノリ
第7章 敬太くんと天狗の親子
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その6

 次の日の朝になりました。


 岩山の洞窟の中は、何やらにぎやかな声が聞こえてきました。


「大飛丸さま、お布団にでっかくて元気なおねしょをしちゃったよ!」


 敬太は布団から起き上がると、照れながらもいつもの笑顔を見せています。その布団を見ると、敬太がやってしまったでっかいおねしょが描かれていました。


「はっはっは! これほどまでに大きなおねしょをお布団にやってしまうとは、敬太らしさがあった見事じゃ!」


 大飛丸は、敬太が描いたおねしょを見ながら大絶賛しています。布団への大失敗は、昼間だけでなく夜中も敬太が元気であることがうかがえます。


 すると、隣で寝ていた伏丸が起き上がりました。伏丸は、着物を脱いで赤い締め込み1枚で寝ていました。


「あ~あ、きょうもやっちゃった……」

「伏丸くんもおねしょしちゃったの?」


 伏丸も、昨日と同様に布団へ見事なおねしょをしてしまいました。敬太とは対照的に、こちらのほうはおねしょでぬれた赤い締め込みを隠すしぐさを見せています。


「そんなに恥ずかしがらなくても……。おねしょしたって、敬太みたいに堂々とすればいいのに」

「だって、こんなに恥ずかしいの見せたくないもん……」


 布団に描かれた恥ずかしい証拠を前に、伏丸は顔を赤らめたままで下を向いています。これを見た敬太は、伏丸の手を軽く握りました。


「ぼくはねえ、元気いっぱいのおねしょ布団をいつもみんなに見せているよ! 伏丸くんもいっしょに干そうよ!」


 どんなにおねしょしようとも、敬太の明るい笑顔が変わることはありません。そんな敬太の笑顔に、伏丸も次第に落ち着きを取り戻しました。


「敬太の笑顔には、おれもかなわないなあ」


 伏丸は新しい締め込みをつけると、おねしょしたばかりの締め込みを大飛丸に手渡しました。


 そして、敬太と伏丸は洞窟の外にある物干しに自分たちがしちゃったおねしょ布団を干しています。2つの布団を比べると、やっぱり敬太のほうが伏丸よりも大きく描いていることが分かります。


「こうして見ると、水の中に飛び込むときの大きな水しぶきをお布団にやってくれた敬太はやっぱりすごいと思うぞ」

「でへへ、夢の中で高いところから滝つぼに飛び込む夢を見ちゃった」

「夢の中でもこんなに元気だとは、こりゃあすごいなあ! はっはっは!」


 大飛丸はおねしょ布団を見ながら、いつも元気で無邪気な敬太のすごさに改めて感心しました。赤い腹掛け1枚だけという格好も相まって、敬太は今日も元気いっぱいです。


 すると、大飛丸は伏丸からの話をふと思い出したので敬太に聞くことにしました。


「それはそうと、わしも気になっていたけど……。敬太は、あの山道を通ってどこへ行くつもりかな?」

「おっとうとおっかあを探すために、いろんなところを旅しているの」


 敬太が自分の思いを大飛丸に伝えているとき、上空には黒いカラスの大群が次々と飛んでいます。しかし、それはいつものカラスの動きとは明らかに様子が違います。


 その様子の変化は、敬太が空を眺めてもすぐに分かるものです。数百羽も飛ぶカラスの姿など、今まで見たことがありません。


「いくらカラスの大群が飛んでいるといっても、あれだけ飛び回るのは……」

「あんなに飛び回るカラス、本当に不気味なんだワン……」


 空を覆いつくすカラスの大群に、ワンべえは敬太にしがみつきながら震えています。


 そのとき、敬太の背後に大きな影が徐々に近づいてきました。


「敬太、後ろ後ろ! イノシシがこっちへ突っ込んでくるぞ!」

「大飛丸さま、伏丸くん、洞窟のほうへ逃げて! イノシシはぼくが食い止めるから!」


 大飛丸たちが洞窟の中に逃げ込むと、敬太はすぐさまイノシシに向かって駆け出しました。目の前に迫るイノシシは、敬太をにらみつけながら突進してきました。


「え~いっ! んぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐっ……」

「よくもおれの獲物を逃がしやがって……。じゃまするやつは、例えチビであっても容赦しないからな……」


 敬太は、巨大イノシシの突進を両手で必死に食い止めています。そのイノシシは、ツキノワグマと同じぐらいの大きさでかなり興奮しています。


 そんなどう猛な相手であっても、敬太は凄まじい力で押し倒そうとします。


「ええ~いっ! とりゃあっ!」

「わっ、わわっ! 後ろへ押し倒すな……」


 敬太はそのままの勢いで、うつ伏せになりながらイノシシを押さえ込みました。しかし、そんなことでイノシシがへこたれることはありません。


「イノシシめ、これで……。うわっ! いててててっ、いててててててっ……」

「おれに真正面から突っ込んでくるとは……。本当にバカなガキだぜ」


 敬太はイノシシからお腹を強く蹴られると、そのまま後方へ突き飛ばされました。あまりの強烈な蹴りに、敬太はその場でのたうち回っています。


「いててててっ! いててててててててっ……」

「こんなに痛がっている敬太くん、今まで見たことがないワン……」


 洞窟に隠れているワンべえも、敬太の様子を心配そうに見ています。敬太のことが心配なのは、大飛丸も伏丸も同様です。


 でも、こんなところで弱気を見せる敬太ではありません。敬太は、痛みをこらえながら立ち上がろうとしています。


 先ほどまでせせら笑っていたイノシシも、歯を食いしばって立ち上がる敬太の姿に驚きを隠せません。


「ちっ、あれだけ強く蹴り上げても立ち上がるとは……」

「どんなことがあろうとも……。絶対にあきらめないぞ!」


 敬太は巨大イノシシに真正面から向かうと、その大きな図体を間髪入れずに持ち上げました。しかし、イノシシを真上へ持ち上げたそのときのことです。


「んぐぐっ、んぐぐぐぐぐぐぐぐっ! ギュルギュルゴロゴロゴロゴロッ……」

「ぐふふふふ! どうしたのかな、お腹から何か音が聞こえてきたようだけど」


 再び襲ってきたお腹の痛みに、敬太は顔をゆがめています。しかも、今度はお尻のほうもムズムズしています。


 そんな敬太の様子に、劣勢となっているイノシシは不気味な笑みを浮かべながら揺さぶりをかけています。


「これぐらいのこと、ぼくはずっとガマンできるもん! えええ~いっ!」

「うわっ、うわわああああああああああああっ!」


 敬太は、巨大イノシシを森の出入り口に向かって大きく投げ飛ばしました。イノシシは、なすすべもなくそのまま大きな木の幹に激突しました。


「グエグエッ、グエエエエエエエエエッ……」


 あれだけの巨体といえども、大きな木にぶつかればひとたまりもありません。巨大イノシシは、その場で仰向けになってぐったりしています。


 敬太は、イノシシへのとどめを刺そうと森の出入り口へ向かって走っています。その姿を見ると、苦しい顔つきでお尻を押さえている様子です。


「お、お腹が痛くてうんちがもれそう……。ギュルゴロゴロゴロゴロゴロッ……」


 敬太はうんちが出るのをガマンしながら、森の手前にある大きな木を見つけました。大きな木の前で倒れているイノシシを見つけると、敬太はそれを飛び越えようとします。


 すると、巨大イノシシは激痛に耐えながら敬太の右足をつかみました。


「わわっ、いきなり何を……。わわわわわわわわわわわっ!」

「よくもおれにこんな痛い目に遭わせやがって……」


 いきなり足をつかまれた敬太は、イノシシの上へそのまま崩れ落ちました。イノシシはこれを見るやいなや、すぐさま反転攻勢をかけようとします。


 そして、巨大イノシシが敬太の首に手を伸ばそうとしたそのときのことです。


「プウッ! ププウウウウウウウウ~ッ! ププウウウウウウウウウウウウ~ッ!」

「い、いきなりおれの前で……。本当にくさくてたまらない……」


 敬太は、イノシシの顔面に特大のおならを3回続けて出てしまいました。不意をつかれたイノシシは、敬太のおならの強烈なにおいに顔をゆがめています。


 そんなイノシシに攻撃を仕掛けようとする敬太ですが、ここで再びお腹が痛くなってきました。必死にガマンしようとしても、ここで再びあの音が鳴り響くことになります。


「ギュルギュルゴロゴロゴロッ……。プウウウウウ~ッ! プウウウウウウウウ~ッ!」

「も、もう勘弁して……。ここにいたら何されるか分からない……」


 巨大イノシシは、これ以上敬太からのおなら攻撃に耐えられません。こうして、イノシシは急いで逃げるように走り去りました。


 突如現れたイノシシを撃退した敬太ですが、これでピンチが終わったわけではありません。むしろ、敬太自身にとってのピンチはまだ続いています。


「う、うんちが出る……。ギュルギュルゴロゴロゴロゴロッ……」


 敬太はお尻を押さえながら、岩山の洞窟のほうへ戻ろうとします。一方。イノシシがいなくなったのを確認した大飛丸たちは、次々と洞窟から出てきました。


 すると、敬太が戻ってきたのを見た大飛丸は手を振って呼びかけました。


「お~い! 大きなイノシシがいなくなったけど、もしかして敬太がやっつけたのか?」

「大飛丸さま、あんなにでっかいイノシシであっても……」


 大飛丸の呼びかけに敬太は答えようとしましたが、うんちのガマンに気を取られて前をよく見ていません。


 そんなとき、敬太は目の前にいる大飛丸たちにぶつかりかけました。それに気づいた敬太は、あわてた様子で後方に思わず尻餅をついてしまいました。


 その瞬間、敬太はついにうんちのガマンが限界に達しました。


「ギュルルゴロゴロゴロッ……。プウッ! プウッ! プウウウウウウウ~ッ!」


 おならが次々と響き渡った途端、敬太は今までとは一変してすっきりした気持ちになりました。でも、それは大飛丸や伏丸の前で大失敗したことをあらわにするものです。


「おおっ! 敬太はおねしょに続いて、でっかいうんちの大失敗をしたのか」

「ヤマノイモをいっぱい食べすぎちゃって、こんなにいっぱい出ちゃったよ!」


 尻餅をついた敬太の手前には、でっかくて元気なうんちがあります。どうやら、敬太が尻餅をついたときにガマンしていたうんちが出てしまったようです。


「あれだけ強い相手をやっつけても、おねしょやうんちを大失敗をするところは敬太らしいなあ」

「わ~い! 見事にうんちのおもらしをやったな!」

「もうっ、伏丸くんったら! うんちぐらいもらしちゃっても平気だぞ!」


 伏丸にはやし立てられて、敬太は顔を赤らめて思わず声を上げました。とはいえ、敬太が大失敗しちゃったうんちは元気のシンボルであることに変わりありません。




 敬太がフキの葉っぱで汚れたお尻をふいていると、大飛丸の声が耳に入りました。


「お~い! 敬太に見せたいものがあるから、こっちにきてくれないか」


 岩山の洞窟の手前へ向かうと、大飛丸が何か大きなものを持って待ち構えています。敬太は、それがどんなものか気になっています。


「大飛丸さま、その手に持っているのはなあに?」

「はっはっは! 敬太が見るのは初めてだろうなあ。これは、わしらが使っている隠れ蓑というものじゃ」

「隠れ蓑? 隠れ蓑ってどんなものなの?」


 敬太は、初めて見る隠れ蓑に興味津々です。天狗にとってはよく使うものであっても、敬太にとってはどのように使うのかまだ分かりません。


「隠れ蓑も知らないとはなあ。どうやってつけるのか、おれがやるのをよく見るんだな」


 伏丸は生意気なことを言いながら、敬太の前で隠れ蓑の手本を見せました。すると、伏丸の姿が急に消えて見えなくなりました。


「あれあれっ? 伏丸くん、どこにいるの?」

「敬太、おれはここにいるぞ」


 伏丸の姿が見えないので、敬太は周りをキョロキョロ見ながら戸惑っています。すると、伏丸は隠れ蓑で姿が見えないのをいいことに何かいたずらしようと考えています。


 もちろん、そんなことを敬太は全く知ることはありません。


「ははは、はっははは! く、くすぐったくて笑いが……。はははっはっは……」


 敬太は、あまりにもくすぐったくて笑いをこらえることができません。その周りには、誰もいないように見えます。


 しかし、敬太の後ろにいるのは姿が消えている伏丸です。伏丸は、敬太の足やお尻をところ構わずくすぐっています。


 調子に乗っている伏丸ですが、敬太へのくすぐり攻撃は思わぬ形で終わります。


 あまりにも笑いが止まらない敬太は、そのまま後ろへよろけてしまいました。そして、後ろのほうへ倒れたときのことです。


「いててっ……。急に後ろへ倒れないでよ」

「えっ? その声は伏丸くんなの?」


 敬太が起き上がると、そこには仰向けに倒れている伏丸の姿がありました。倒れたときのはずみで、伏丸がつけていた隠れ蓑は外れていました。


「敬太、どうしておれがここにいるのが分かったんだ」

「だって、伏丸くんの姿が見えているんだもん!」


 自分の姿が見えたことでいたずらがばれた伏丸は、その場から逃げようとします。


「へへっ、ここまでおいで」

「どんなに逃げたって、かけっこなら絶対負けないぞ!」

「うわわっ! あっと言う間に追いつかれちゃった」


 どんなに逃げようとしても、かけっこが得意な敬太の足の速さにはかないません。結局、伏丸は敬太に捕まってしまいました。


 この様子を見ている大飛丸は、2人の無邪気な姿にやさしい眼差しで見つめています。敬太も伏丸も、お互いにふざけ合うところはどこにでもいる子供と同じです。


 再び洞窟の前へ戻った敬太は、大飛丸から隠れ蓑を手渡されました。


「大飛丸さま、どうもありがとう! 大切に使うからね!」

「この隠れ蓑は、いざというときに役に立つものじゃ。これから先、さらに強い獣人たちと戦うことがあるだろうし」


 敬太は、大飛丸がどうして獣人のことを知っているのか不思議そうな顔をしています。


「大飛丸さま、ぼくが獣人と戦ったことを知っているの?」

「はっはっは! 敬太のことは風の便りで知っているからなあ。こんなに小さい体で獣人たちを何人も撃退したと聞いてわしもびっくりしたけど」


 大飛丸は、ツキノワグマをやっつけた敬太の様子をひそかに見ていました。力強さはもちろんのこと、自ら危険な修行に挑戦したことへの敬太の心意気を絶賛しました。


 でも、敬太は大人顔負けのものを持っている一方で、まだまだ治る気配を見せないものもあります。


「これだけ獣人をやっつけている敬太も、うんちの大失敗やお布団へのおねしょをする赤ん坊っぽいところは相変わらずだなあ」

「おねしょやうんちを失敗したって、元気な子供だったらこのぐらい当たり前だもん!」

「はっはっは! 敬太の元気さにはわしも参ったなあ」


 どんなに大失敗をしようとも、いつも明るい笑顔を見せる敬太に天狗たちはかなうはずがありません。


 敬太とワンべえは、修行をともにした天狗たちと別れると森の中を通って山道へ出ました。そして、お父さんとお母さんを見つけるために再び歩き出しました。

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