その15
謎の獣人たちは、がんじがらめにしばられて動けない敬太の姿を見て不気味な笑い声を上げています。それは、同じ獣人であっても、自分たちがはるかに格上であることをその場で示しています。
「ぐはははは! おれたちの手でおめえを始末するのが今から楽しみになったぜ!」
「おれたちはなあ、こんなチビにあっけなくやられる獣人たちとは違うんだよ!」
大きな木の真上で敬太を見下している謎の獣人たちですが、こんなことで黙っている敬太ではありません。
「ぐぐぐぐっ……。よくもこんなことをしやがって、何をするつもりだ!」
「何をするつもりだと? おめえをこの場で地獄へ落ちてもらうためさ、ぐはははは!」
敬太は、自らの手足を鎖で拘束した謎の獣人に対する怒りで震えています。どんなに力を入れても、手足をしばられた鎖を外すことができません。
この状況を見た謎の獣人たちは、敬太への冷酷な言葉を浴びせ続けています。
「ぐはははは! 何度やっても、その鎖は外れないぞ!」
「鎖が外れない限り、おめえの攻撃は封じられたのも同然ということさ」
直接的な攻撃を行うことが不可能とあって、敬太は次第にあせりを感じるようになりました。一方、謎の獣人たちはいたぶり続けながら敬太を始末すればいいと考えています。
「どうあがいても、おめえはおれたちをやっつけることは無理だろうね。なぜなら、おれたちの手でおめえを始末するからさ」
「どうせ、おめえはここで死ぬ運命だからな。おめえが死ぬ前に、おれたちの名前を教えてやろうか」
ここで、謎の獣人たちは自分たちの名前を敬太の前で口にしました。
「おれの名前は双獣炎だ」
「おれは双獣雷という名前だぜ」
「ここで倒れたままのザコとは違って、双子のおれたちは常に2人で行動しながら修行に励んでいたわけさ」
「全ては、風のうわさに聞いていた敬太を叩きのめすためにな!」
双子の獣人は鎖が外れない限り、敬太が攻撃を仕掛けることはあり得ないとたかをくくっています。
すると、地面に倒れていた獣人たち3人が痛みをこらえながら立ち上がりました。頭領格の獣人は、自分たちより先に敬太を倒そうとしている双子の獣人に対して不快感をあらわにしています。
「おい! このチビはわしらが倒そうとしていた相手だ! どうしておめえらが……」
「それなりの結果すら出していないのに、よくそんな口をきけるものだなあ」
「おれたちは、おめえらができていないことをやってみたまでだ」
双子の獣人は、敬太を倒せない獣人たちの一団よりもはるかに役になっていることをその場で強調しています。
その間も、敬太は鎖を何とか外そうと何度も試みますが、一度絡みついた鎖を外すのは容易ではありません。
「ちっ、このチビは執念深いなあ。その鎖はどうあがいても外れないのに」
「ぐはははは! それなら、あのザコどもに敬太の始末をまかせるとするかな」
双子の獣人は、敬太の始末を頭領格の獣人にまかせることにしました。大権官の配下でない獣人からの命令に、獣人たち3人は複雑な思いを抱えながらも引き受けることにしました。
「このチビにはこうでもしないとな! うりゃあっ! うりゃあっ! うりゃあっ!」
「どりゃあっ! どりゃあっ! どりゃあっ! どりゃあっ! うりゃうりゃあっ!」
「うぐぐっ、うぐぐぐっ……。それぐらいのことで、ぼくはへこたれないぞ!」
頭領格の獣人は、敬太の後方から何度も強く蹴り上げています。その蹴り方は尋常なものではありません。
しかし、敬太はこれだけ獣人から何度も蹴られてもじっとガマンし続けています。こんなところで痛いとか言って、獣人たちの前で弱いところを見せたくありません。
「このガキめ、なかなかガマン強いなあ」
「さあ、いつまでガマンできるかなあ。ふはははは!」
「うりゃあっ! どりゃあっ! どりゃあっ! うりゃあっ! どりゃどりゃあっ!」
獣人たちは、攻撃を何度も加えても弱音をはかない敬太へ3人がかりで殴ったり蹴ったりしています。再三にわたる獣人たちの攻撃で、敬太の体は何ヶ所も赤く腫れ上がりました。
「そんなことぐらい……。ぼくは痛いとも何とも思っていないぞ!」
「敬太よ、本当はものすごく痛いんじゃないのかな? ふはははは!」
「おめえが痛かろうかどうかは関係ないんだよ! うりゃあっ! うりゃうりゃあっ!」
獣人の部下は、痛みを必死にこらえようとする敬太への攻撃を緩めません。さすがの敬太も、これだけ攻撃を受け続けて苦痛に耐えられるわけがありません。
「ふはははは! あんなにガマン強かった敬太も、ついに弱音をはくとはなあ」
「い、いてててて……。ぼくは絶対に弱音なんか……」
「これなら、おれたちの手で敬太へのとどめを刺すことができるな、ふはははは!」
あまりの強烈な痛みに苦しむ敬太を横目に、獣人たちはとどめの一撃を食らわそうと指をポキポキと鳴らしています。
「これでとどめだ! 敬太め、地獄へ落ちやがれ!」
「行くぜ! うりゃああっ……」
獣人の部下は、これまでの恨みを強く握りしめた拳に込めました。そして、敬太に向かって強烈な拳を放ちました。
しかし、とどめを刺す目前で思わぬ邪魔者が入ってきました。
「うわっ! だれだ、敬太へのとどめに横やりを入れやがって!」
敬太へのとどめを阻んだのは、突如投げ込まれた菅笠です。獣人たちが横に振り向くと、そこには旅人の姿をした男が2人います。
「かわいい子供をこんなに痛めつけやがって……。大人げないぞ!」
「このままでは子供が危ないぞ! 急いで助けないと!」
旅人たちは、自らの危険をかえりみずにそのまま獣人たちに向かって行きました。頭領格の獣人は、自分たちの邪魔をする旅人2人の始末を部下に命じました。
「くそっ! 敬太を始末する前に、まずはこいつらをここから追い出せ!」
獣人の部下は、目の前にやってきた旅人たちを思い切り突き飛ばしました。旅人2人は地面に倒れ込んだ途端、その場でドロンと煙を上げました。
「ほうほう、旅人に化けていたのはキツネとタヌキということか」
「どこかで見たかと思えば、敬太といっしょにいたキツネとタヌキとはなあ……」
旅人2人に化けたキツネとタヌキは、目の前にいる獣人たちを見て逃げ出しました。これを見た双獣炎は、木の上で仁王立ちになって不気味な笑みを浮かべています。
双獣炎は、握っていた右手を開きました。手のひらには、赤く燃え上がった大きな炎が現れました。
「ここから逃げようたってそうはいかないぜ! これでも食らえ!」
双獣炎は、すかさずキツネたちの方向へ大きな炎を次々と投げつけました。すると、キツネとタヌキのしっぽに火がつきました。
「わわわっ、しっぽに火がついてとても熱いよ! あちちっ、あちちちちっ!」
「あちちちちっ! しっぽが熱い! 熱い! あちちちちっ!」
キツネとタヌキは、しっぽについた火が広がってあたふたしています。そして、獣人たちのところへ真正面から再び突っ込んできました。
「うわわわっ! おれの着物に火が燃え移った!」
「こっちにくるな! くるな! わわわっ、おれたちを火だるまにする気か!」
突然の事態に、獣人たちは敬太の周りであわてふためいています。まさかの出来事に、火を放った双獣炎も大きな誤算です。
一方、キツネとタヌキは鎖につながれた敬太のところへきました。そこには、敬太を助けたいキツネたちの強い思いがありました。
「キツネくん、タヌキくん、しっぽが黒こげになったけど大丈夫?」
「ごめんなさい……。でも、敬太くんがあんなに痛めつけられているのがかわいそうだったから……」
キツネとタヌキの思いを聞いた敬太は、何とかこの状況を脱したいと考えています。すると、敬太はある方法を思いつきました。
「もしかしたら、あれを使えば……。ギュルル、ギュルギュル、ゴロゴロゴロッ……」
敬太は鎖につながれて緊張するあまり、急にお腹の調子が悪くなりました。しかし、それは同時に形勢逆転を目指すチャンスでもあります。
「キツネくん、タヌキくん、できるだけ遠くへ離れて!」
「敬太くん、どうして離れないといけないの?」
「それはすぐに分かるから、ここから早く離れてね!」
キツネたちは、とりあえず少し離れた草むらに隠れることにしました。その間も、獣人たちは火の広がった着物を脱ごうと必死になっています。
そして、敬太が鎖につながれたままで大の字になったときのことです。敬太はタイミングを見計らいながら、獣人たちに向かって大きなおならを発射しました。
「プウウッ! プウウウッ! ププウウウウウウ~ッ! プウウウウウウウウウ~ッ!」
「うわっ! うわあああああああっ……」「いきなり何を……。わああああああっ……」
敬太が続けざまにおならが出た瞬間、凄まじい大爆発を引き起こしました。その大爆発は、敬太の手足にしばられていた鎖が外れるほどの威力です。
大爆発で煙に包まれているのを見て、双子の獣人も信じられない様子です。自分たちが放った技が、敬太が獣人を撃退するために利用されたからです。
すると、煙の中から敬太が再び現れました。敬太はすすだらけになりましたが、そんなことを気にする様子はありません。
周りには獣人たちもいたはずですが、もうそこに獣人たちの姿はありません。
そこには、大量に積もった黒い色の砂と焼けこげた獣人たちの着物が残っています。何はともあれ、敬太は獣人たちをこの手で倒したのでうれしさを隠せません。
「やったぞ! 獣人たちをこの手でやっつけることができたぞ!」
敬太の元気な声は、森の中に響き渡りました。草むらに隠れていたキツネとタヌキも、敬太のそばへすぐ戻りました。
キツネとタヌキは、敬太の赤く腫れ上がった姿に心配そうに見ています。でも、敬太はそんな心配をよそに仁王立ちしています。
「でへへ、でっかいおならを4連発したらこんなに大爆発しちゃったよ!」
「元気なおならで獣人たちをやっつける敬太くんって、やっぱりすごいなあ!」
でっかいおならは、元気な子供の特権といえるものです。そのためにも、敬太はいつも欠かさずにイモを食べ続けています。
「だって、大きなイモを食べるのが大好きなんだもん!」
「ははははは! あれだけ食べたら、おならがいっぱい出るのは当たり前だよ」
楽しそうな笑い声を響かせる敬太たちですが、そこへ水を差すように双子の獣人が不気味な雰囲気を漂わせています。
「敬太よ! 戦いはまだ終わってないぜ!」
「あんなザコみたいな相手をやっつけても意味をなさないからなあ、ぐはははは!」
双子の獣人は、自分たちこそが真の強さを持つ獣人であると誇らしげに言っています。しかし、敬太も決してまぐれで獣人たちを倒したわけではありません。
「よくも好き勝手言いやがって! 双子の獣人なんか、ぼくがこの手で倒してやるぞ!」
敬太は自分の力を見せつけようと、双獣炎に向かって高く飛び上がりました。これを見た双獣炎は、敬太の攻撃パターンを見逃すはずがありません。
「だから言っているだろ! おれたちはあんなザコと違うとな!」
「いきなり何をするんだ! うわああっ!」
双獣炎は、飛び道具である鎖を使って敬太に何度も叩きつけました。いきなりの先制攻撃に、敬太はそのまま背中から地面に落下しました。
双子の獣人は、自分たちの力強さを敬太にまざまざと見せつけました。それでも、敬太は相手が強いからといってその場から逃げ出すことはありません。
敬太は負けん気を示そうと、痛みをこらえながら立ち上がりました。そして、双獣炎に立ち向かおうと再びジャンプしました。
「いててててっ……。こんなことぐらいでくじけないぞ! え~いっ!」
「そんなに言うのなら、おめえにはもっと痛い目に遭わないと……」
双獣炎は鎖を振り回しながら、敬太に目掛けて叩きつけようとします。しかし、同じことが続けて通用するわけではありません。
敬太は、双獣炎が放った鎖を片手でつかみました。
「今度はこっちからだ! え~いっ! とりゃあっ!」
「うわっ! わわわっ、うわあああああ~っ!」
敬太は鎖を持ちながら、振り子みたいに揺らしています。そこから勢いをつけて飛び上がると同時に、強烈な飛び蹴りを双獣炎に命中させました。
飛び蹴りを食らった双獣炎は、木の上からそのまま落下しました。これを見て、敬太は続けざまに双獣炎への攻撃を加えようとします。
「えいっ! えいっ! え~いっ!」
「グエッ! 敬太め、何度も痛めつけ……。グエッ! グエグエッ!」
敬太は、双獣炎の体の上で何度も飛んだり跳ねたりしています。攻撃を何度も食らうにつれて、双獣炎は次第に苦痛に耐えられなくなりました。
さらなる攻撃を続ける敬太ですが、戦うべき敵は1人だけではありません。
「どうだ! ぼくの力はこんなもんじゃない……。わあっ! わわわわっ!」
「ぐはははは! そっちばかりに気に取られているようだが、双子の獣人はもう1人いるということを忘れちゃいけないぜ!」
敬太は攻撃の最中に、いきなり左足に鎖がからまって後ろへ転んでしまいました。これを見た双獣雷は、鎖を強く握りしめた拳から高圧電流を流しました。
「これでも食らって地獄へ落ちろ! ぐはははは!」
「うわっ、うわわっ! うわあああああああああああ~っ!」
強力な電流を直接浴びた敬太は、その場でぐったりと倒れ込みました。その様子を見ていたキツネとタヌキは、急いで敬太のところへ駆け寄りました。
「敬太くん、ここで死ぬなんて絶対いやだ!」「敬太くん、死なないで!」
倒れたままの敬太を見て、キツネとタヌキは大きな声で叫びながら泣いています。そこへ現れたのは、せせら笑いを見せている双子の獣人です。
双獣雷は、不気味な笑みを見せながら冷酷な言葉を次々と口にしました。
「どんなに泣いてもわめいても、敬太は二度と目を覚ますことはないさ」
「おれを散々痛めつけやがって……。いい気味だぜ」
あまりにも冷たいその言葉に、キツネたちは敬太にすがりながら泣き続けました。
「敬太くん、目を開けて! 目を開けて!」「敬太くんが死ぬのを見たくないよ!」
キツネとタヌキが流した大粒の涙は、敬太の体にポタポタと落ちました。すると、その想いが敬太にも伝わりました。
「う~ん……。あれっ、キツネくんとタヌキくんはどうしてここにいるの?」
「気がついて本当によかった……。敬太くんが倒れていたから、ずっと心配していたの」
「敬太くん、無事だったのね! だって、敬太くんがいないとさびしいもん」
敬太が目を開いたのを見て、ずっと心配していたキツネとタヌキは一安心しています。大事な友達である敬太が無事だったことに、2匹にとっては何よりもうれしそうです。
すぐに立ち上がった敬太は、双子の獣人へ向かって強い気迫を見せています。双子の獣人は、あれだけ攻撃を食らっても立ち上がる敬太の姿に驚きを隠せません。
「あれだけ強い電流を流したらくたばるはずなのに……。なぜだ?」
「どんなことがあっても、ぼくは絶対にあきらめないぞ!」
敬太は、どんなに困難な状況であっても決して弱気を見せることはありません。そこには、いっしょに暮らすおせいや男の子たちの思いが込められています。




