その14
不気味さを漂わせる大きな城の中から、凄まじい怒号が鳴り響きました。
「大権官さま……。わしらが言う前にいきなり何を……」
「このバカものが! あんなチビにやられてここまでノコノコと戻ってきやがって!」
大権官は、ぶざまな姿で戻ってきた獣人たち3人をいきなり突き飛ばしました。突然の仕打ちに、頭領格の獣人は言い訳するような口ぶりを見せています。
「わしらも、あの敬太に尻叩きの拷問を何十回も行ったけど……」
「行ったけどじゃないだろ! どうせ、その後にそのチビから反撃を受けてコテンパンにやられたんだろ!」
「は、はあ……」
大権官は、小さい子供1人すら始末することができない獣人たちへのいらだちを隠せません。そして、その怒りの矛先は敬太に向けられています。
「おのれ、敬太め……。よくも、おれたちにたて突きやがって……」
怒りが充満する大権官の姿に、周りにいる他の獣人たちは一斉に震え上がっています。
そのとき、大権官の前に今まで見たことのない獣人が現れました。その獣人を見て、他の獣人たちは一斉にざわつきました。
「あんなチビ1人相手にこんなに手こずるとはなあ……」
「きさま! いきなりおれの前へ出てきて何が言いたいんだ!」
一介の獣人がいきなりしゃしゃり出ることに、大権官が面白いはずがありません。最高権力者にとって、見ず知らずの者が口にした言葉に腹の虫が治まりません。
しかし、謎の獣人はそんな大権官の様子を気にするそぶりを見せずに、再び口を開きました。
「そんなにカッカするなって。力ずくで攻撃したって、あの敬太という子には通用しなかったわけでしょ」
「じゃあ、きさまなら敬太を始末することができるとでも言いたいのか?」
そこには、怒りに満ちた大権官と常に冷徹な謎の獣人という対照的な2人が向かい合っています。謎の獣人は、敬太を倒すことに並々ならぬ自信を持っています。
「ここにいるやつらと違って、険しい山や森の中で修行を積んできたからな。飛び道具も使えるし、ここはひとつおれにまかせれば……」
「おれの前で言いたいことばかり言いやがって……。きさまの力を借りなくても、敬太みたいなチビはおれたちが始末してみせるわ!」
ここで謎の獣人の力を借りるようでは、大権官の威信が丸つぶれです。しかし、敬太を確実に倒すための効果的な攻撃方法があるわけではありません。
「まあ、敬太というちびっ子を確実に始末できるのであればそちら側にまかせるさ。おれには、おれのやり方があるけどね」
「うぐぐぐぐぐっ……」
謎の獣人から好き勝手なことを言われて、大権官は怒りをこらえながら歯を食いしばるしか他はありませんでした。
そのころ、お寺の隣にある大きな畑では、いつものように敬太たちが畑仕事に励んでいます。畑の中からは、ニンジンやネギといった野菜を収穫することができました。
「わ~い! ニンジン! ニンジン!」
「いままで食べられなかったネギだけど、がんばって食べたらおいしかったよ!」
敬太がいつも残さずに何でも食べるのを見て、男の子たちも大嫌いな野菜やサトイモをがんばって食べるようになりました。
そこへ、敬太がみんなに自慢しようと大きなサトイモを持ってきました。そのサトイモには、親イモの周りに恋もや孫イモがたくさんついています。
「みんな見て! 今日もこんなにでっかいイモがいっぱい採れたぞ!」
「敬太くんは、いつも大きな親イモを食べるのが大好きなんだね」
畑仕事は、農作物を収穫するだけが仕事ではありません。畑に栄養を与えるために、肥やしを入れて耕すことも大事な仕事です。
「うんっ! ううんっ! ううう~んんっ!」
敬太たちは、畑の上で並ぶようにしゃがみ込みました。そして、お腹に力を入れながらいきみ声を上げています。
「おっかあ、今日もこんなにいっぱい出たよ!」
敬太たちは、畑のそばで桑吉と津根吉のお世話をしているおせいに声をかけました。おせいは、畑の上に見事なうんちが一列に並んでいるのをやさしい笑顔で見つめています。
「好き嫌いしないで何でも食べるようになったから、うんちもこんなに元気いっぱい出るようになったね」
「これからも、畑の肥やしになるような元気なうんちが出るようにがんばるぞ!」
相変わらずでっかいうんちをみんなの前で見せる敬太はもちろんのこと、他の男の子たちのうんちも元気そのものです。
そこへ、牛助が牛小屋から畑のほうへやってくると、その場で必死にいきみ声を上げ続けています。
そこには、牛助らしい特大の牛フンが積み上げられています。それは、敬太のでっかいうんちと比べても一回りも大きいものです。
「敬太もいつも元気なうんちがいっぱい出ているけど、おれのはもっとすごいのが出たぞ!」
「でへへ、牛助くんのでっかいうんちにはかなわないよ」
敬太と牛助は、お互いのうんちや牛フンを見せ合っています。どちらも、いつも元気でお腹の調子がいい証拠といえるものです。
「さてと、今日はみんなのうんちが並んでいるところを耕せばいいんだな」
牛助は、手慣れた様子で畑を耕しています。耕すうちに、牛助の牛フンや敬太たちのうんちは肥やしとして土とよく混ざるようになりました。
「牛助くん、いつも畑を耕してくれて本当にありがとう!」
「はっはっは! 畑を耕すことぐらい、このおれにまかせれば大丈夫さ」
これだけの大きな畑でサトイモや野菜が収穫できるのも、縁の下の力持ちである牛助がいつも耕してくれるおかげです。敬太たちも、牛助の頼もしい姿に感謝の気持ちでいっぱいです。
太陽が真上に近づくにつれて、焼けつくような夏の暑い日差しが照りつけています。
「畑仕事も終わったことだし、みんなも大きな池のほうへ行って水遊びとかしたらどうかな?」
「おっかあ、大きな池へ行って遊んでもいいの?」
「ふふふ、敬太くんは池の深いところまで潜ったりして遊んだりするものね」
敬太たちは、一斉にお寺から出ると大きな池があるところへ向かって歩き始めました。赤ちゃんの桑吉や津根吉も、峰七と菜八がおんぶしながら連れて行きます。
「そんなに急がないの! 足からこけてケガをしたら痛いでしょ」
いつもはお寺からあまり出ないおせいですが、今日はみんなを見守るためにいっしょについて行きます。おせいは、風呂敷に何か入れて腰につけています。
すると、大きな池へ行く道が矢印で示されている道標があります。これを見た敬太たちは、その道標に従って進むことにしました。
しかし、歩いているうちに敬太は行く道が違うのではと気づきました。
「あれっ? この前行ったときはここを通ったのかな?」
「敬太くん、敬太くん、早く行こうよ!」「早く行こ! 早く行こ!」
紺次郎と貫吉は、大きな池でいっしょに水遊びがしたいと敬太にせがんでいます。男の子たちは大きな池へ早く行こうと、道標の方向へ駆け出して行きました。
「みんな、そんなに急がなくてもいいのに」
敬太はおせいの右手をつなぎながら、男の子たちから目を離さないように後ろからついて行きます。
しかし、草木の茂みの中に獣人たちがいることを敬太たちは知りません。獣人たちは、目の前を通って行く子供たちの様子に不気味な笑みを見せています。
「あんなに簡単なワナに引っかかるとは思わなかったぜ」
「おれたちが立てた道標に、あのチビどもが全然気づかないとはなあ。ふはははは!」
獣人たちは、敬太たちをまとめて始末する絶好のチャンスだと考えています。獣人たちが指をポキポキと鳴らす様子は、敬太を亡き者にしようとする執念の現れです。
敬太たちは、道標に従いながら大きな池へ出るところを探しています。しかし、いつまで経っても池のほうへたどり着くことができません。
「敬太くん、早く池に行きたい! 行きたい!」
「大きな池、まだ着かないの?」「早く遊びたい! 早く遊びたい!」
なかなかたどり着かないので、小さい男の子たちは敬太のそばで泣きながら訴えかけています。すると、敬太は周りをお見渡すと殺気のようなものを感じました。
「みんな、目の前に何かいるから気をつけて!」
敬太の言葉を聞いて、いっしょにいるおせいや男の子たちは戸惑っています。そんな様子をよそに、敬太はジャンプして大きな木の太い枝をつかみました。
そして、勢いをつけてそのまま草むらへ向かって飛び蹴りしました。
「獣人め、こんなところに隠れやがって! え~いっ! とりゃああっ!」
「グエッ、グエグエッ! おれがここに潜んでいるのをどうして……」
「あの道標を立てたのも、ぼくたちをここへおびき寄せるためだったのか!」
草むらから現れたのは、敬太に持ち上げられた獣人の姿です。どんなに足をバタバタさせて抵抗しても、敬太は獣人のことを許すことができません。
「これでどうだ! んぐぐぐぐっ、ええ~いっ!」
「うわあああっ! グエッ! グエエエエッ……」
「どうだ! 獣人め、よくもぼくたちをこんなところへ……」
大きな木に強く叩きつけられた獣人は、そのままぐったりと倒れ込みました。この様子を見た敬太ですが、ここにいる獣人は1人だけではありません。
「おっと、それはこっちのセリフだぜ! ふはははは!」
「敬太くん、獣人が恐いよう……。うえええええ~ん!」「うえええ~ん!」
敬太が目にしたのは、獣人たちに脅されているおせいと男の子たちの姿です。男の子たちは、獣人たちの恐い顔を見て大声で泣き出しました。
すると、獣人たちは泣き続ける子供たちを見ながら、不気味な声であざ笑っています。
「ほれほれ、おめえらは弱虫なんだろ! もっと泣け! 泣け!」
「よくも、ぼくの大事な友達を泣かせやがって……。絶対に許さないぞ!」
男の子たちがひどい目に遭っているのを見て、敬太も黙っていられません。敬太は、すぐさま獣人に立ち向かって行きました。
「行くぞ! え~いっ! とりゃあっ、とりゃああっ!」
「グエッ、グエエッ! いきなり飛び蹴りしやがって……」
獣人は、敬太が繰り出した蹴りの強烈さにその場で倒れ込みました。
「みんな、早くここから逃げて! ここから逃げて!」
「敬太くん、大丈夫かなあ……」
おせいと男の子たちは、敬太の指示に従ってここから逃げることにしました。敬太にとっても、おせいたちにこれ以上危険な目に遭わせるわけにはいきません。
すると、敬太の攻撃を受けて倒れていた獣人の部下が再び立ち上がりました。3人そろった獣人たちは、鋭い目つきで敬太をにらみつけています。
「おのれ、おれたちをこれでもかと痛めつけやがって……。ここから生きて帰れると思うなよ……」
「敬太よ! この場で徹底的に叩きのめしてやるからな! 覚悟しやがれよ!」
敬太は、獣人たちに向かって真正面から突っ込んで行きました。これを見た頭領格の獣人は、左足に力を込めて敬太を蹴り倒そうとします。
しかし、敬太は歯を食いしばりながら強烈な蹴りを全身で受け止めました。頭領格の獣人は、自らの攻撃を食い止めた敬太を見て驚愕しています。
「わしの強い蹴りをまともに受けたのに、どうして平気なんだ……」
「これくらい、ぼくはどうってことないぞ……」
敬太はありったけの力を込めて、頭領格の獣人を何度も地面に叩きつけました。
「えいっ! えいっ! えいえいっ! えいえ~いっ!」
「うわっ、いきなり何を……。グエッ! グエエエッ! グエエエエッ……」
あまりの強打に、頭領格の獣人も死ぬほどの痛みで地面をのたうち回っています。しかし、敬太が一息つく暇はありません。
敬太の背後には、獣人たちの部下がひそかに迫ってきました。部下たちは、敬太に聞こえないように小声でひそひそと話しています。
「敬太め、後ろが隙だらけになっているのを知らないとはなあ」
「おれたち2人で敬太の頭をかち割るとするかな、ふはははは!」
獣人たち2人は、敬太の背後から頭を強く殴りつけようとします。その動きに気づいた敬太は、すかさず真上へ高くジャンプしました。
「うわっ、おれたちの動きなど見えないはずなのに……」
「獣人め、今度はこっちからだ! とりゃああっ!」
敬太は、そのまま急降下しながら強烈な蹴りを獣人の頭に食らわせました。不意を突かれた獣人は、後頭部を蹴られると地面にうつ伏せるように倒れました。
これを見たもう1人の獣人は、敬太を無理やりわしづかみして持ち上げました。でも、敬太はそんな状況であってもあわてるそぶりを見せません。
「くそっ、小さい子供のくせによくもやってくれたな!」
「獣人め、ぼくの力はこんなものじゃないぞ! とりゃああっ! とりゃああっ!」
敬太は、獣人の体を何度も強く蹴り続けました。獣人は、敬太の蹴りが命中するたびに後ろへ倒れそうになるのを必死にこらえています。
これを見た敬太は、右足からの強烈な蹴りを獣人に食らわせ続けました。
「これでどうだ! え~いっ! とりゃあっ! とりゃああっ! とりゃああっ!」
「わわっ、わわわっ、うわわわわわ~っ!」
強烈な蹴りを食らった獣人は、そのはずみで後ろからそのまま倒れ込みました。さすがの獣人も、立て続けに繰り出す敬太の攻撃になすすべもありません。
敬太は、自分の力強さを獣人たちに示そうと両腕を曲げて力こぶを入れています。そのとき、木々が茂っている森の中から新たなる魔の手が迫ってきました。
「どうだ、思い知ったか! これがぼくの……。うわっ! うわあっ!」
敬太は、目の前からいきなり万力鎖で両手両足をしばられてしまいました。鎖を外そうと試みる敬太ですが、がんじがらめにしばられた鎖をなかなか外すことができません。
すると、大きな木の上に2人の獣人らしき者が現れました。しかし、この2人は今まで見た獣人たちとはどこか雰囲気が違います。
「獣人たちがあんなものと思ったら大間違いだぜ!」
「敬太よ! 獣人の本当の力を、おめえにたっぷりと思い知らせてやるわ!」
新たに現れた獣人たちの言葉に、鎖でしばられたままの敬太は怒りを押し殺しながら聞くしか他はありません。




