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《獣人のこども》おねしょ敬太くんの大ぼうけん  作者: ケンタシノリ
第1章 敬太くん、生まれ育った村からの旅立ち
5/115

その5

 太陽が西に傾いて、山のほうから夕焼け空が徐々に広がっているころ、敬太の家では晩ご飯の準備をしています。


 ご飯を釜で炊くとき、焚き口に薪や焚き木を火の中に入れてから火吹き竹で吹いて火をおこします。ご飯を炊くときに火吹き竹で吹くのは敬太の仕事です。


「ふう~っ、ふう~っ、ふう~っ!」


 敬太は薪や焚き木を焚き口に入れると、おいしいご飯や味噌汁ができあがるまで火吹き竹で吹き続けています。


 その間に、おばあちゃんは敬太が川で取ってきたイワナを火で焼いています。敬太の家では、魚を焼いたものが晩ご飯での最高のおかずとなります。


 晩ご飯ができあがると、家族3人そろって「いただきます」と言ってから食べはじめます。今日の晩ご飯は、麦入りご飯と味噌汁、そしてイワナの塩焼きです。


「じいちゃ、ばあちゃ、今日のご飯もおいしいよ」


 敬太は、いつものように大きな木の器にいっぱい盛り付けた麦入りご飯を喜んで食べています。これを見たおじいちゃんとおばあちゃんは、いつもご飯をいっぱい食べてくれるのでうれしそうです。


 イワナの塩焼きも味噌汁もおいしく食べた敬太は、寺子屋で康之助先生にお相撲で勝ったことやおじいちゃんといっしょに木を切りに行ったことなどについて楽しそうに話しています。そして、敬太は自分より二回りもでかい獣人が目の前にいたことについて話しているときのことです。


「敬太、実は……」

「じいちゃ、どうしたの?」

「敬太、実は今まで黙っていたことだけど、この際だから言わないといけないことがあるんだ」


 おじいちゃんは、敬太に今まで黙っていたことを言い出そうとしています。


「亡くなったはずの父ちゃんと母ちゃんなんだが……。実は、2人ともまだ生きているんだ」

「じいちゃ、ぼくのおっとうもおっかあもまだ生きているの?」

「ああ、どこかで暮らしているかもしれないなあ。でも、その場所がどこにあるのかは父ちゃんも母ちゃんも一切言わなかったなあ……」

「でも、でも……。どうして、おっとうもおっかあも黙ってぼくを置いていったの……」


 亡くなったはずのお父さんとお母さんがまだ生きている……。敬太はおじいちゃんの言葉を初めて聞いた途端、思わず涙を流しました。


「敬太、強くて元気な男の子が涙を流すのはみっともないぞ。父ちゃんも母ちゃんも、敬太のことをとってもかわいがって育ててくれたし」


 おじいちゃんは、敬太のお父さんとお母さんが愛情を持って敬太を育ててくれたことを言いました。涙を流していた敬太は手で涙を拭くと、いつものように明るい表情になりました。


「そうだ、敬太には、敬太が生まれたときからのことを話そうかな」


 おじいちゃんは、敬太が生まれてからのことを敬太に話しました。




 それは敬太が生まれる前までさかのぼります。


 敬太の家からだいぶ離れた、ひと山越えたところに小さい家がありました。そこには、その家以外に人家はなく、周りには田んぼや畑が広がっていました。


 その家に住んでいたのは、まだ20代後半ぐらいの若い男と20代前半ぐらいの若い女です。若い男は袖なしの法被みたいな着物を着ており、着物の下にはふんどしが見える格好になっています。


 そんなある夏の日のことです。


「おぎゃあ、おぎゃあ、おぎゃあ」


 そこには、新しい命である男の子の赤ちゃんが元気な泣き声とともに生まれてきました。


「これが、ぼくとあなたの赤ちゃんだよ。元気いっぱいの男の子だぞ」

「かわいくて元気な男の子だね」


 若い男は、生まれたばかりの赤ちゃんを若い女に見せました。若い女も、赤ちゃんが生まれたことにやさしい笑顔を見せました。


 しかし、若い男が赤ちゃんを抱きかかえたそのときのことです。


「ジョパパパア~、ジョパジョパ~」


 赤ちゃんは、生まれてから初めてのおしっこを若い男の顔面に命中しました。これには、若い男も思わずびっくりしました。


「うふふ、生まれたばかりの赤ちゃんはおしっこも元気いっぱいだね」

「ぼくは、この子がこれから元気な子供にすくすくと成長してほしいな」


 2人は赤ちゃんを見ながら、元気な子供に早く成長してほしいと期待しています。そして、若い男はこの赤ちゃんの名前を考えています。


「そうだ! お父さんやお母さんへの思いやりがあって、元気いっぱいの子供に成長してほしいから敬太という名前にしようかな」

「あっ、その名前いいね! 私もその名前を考えていたのよ」


 こうして、2人の間にできた赤ちゃんの名前は敬太に決まりました。この名前は、元気な子供への成長と親への思いやりという期待が込められています。


 敬太は、お母さんが作った赤い腹掛けをつけてすくすくと成長して行きました。そこには、いつもやさしいお父さんとお母さんがそばにいました。


 そう、あの日の出来事が起きるまでは……。

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