その6
おせいは涙を流しながら、村人を失った深い悲しみや遠く離れたこの地へたどり着くまでの出来事を敬太に話しました。これを聞いた敬太は、おせいたちが村を離れてここへやってくるまでの数々の苦労にショックを受けて言葉も出ません。
「おっかあ…」
「敬太くんの前で涙を見せて本当にごめんね。子供の前でこんなに弱いところを見せてはいけないわね」
おせいは、敬太の前で流した涙を右手でぬぐいました。子供の前で涙を流したら、自分の弱いところを見せてしまうからです。
そのとき、敬太はある村で獣人たちと戦ったときのことをおせいに話し出しました。
「この前、ぼくはある村で獣人たちと戦ったことがあったぞ!」
「えっ、敬太くんがあんなに恐ろしい獣人と戦ったの?」
「ぼくはどう猛な獣人が襲ってきても、この手でやっつけることができるよ!」
おせいは、敬太がどう猛で凶暴な獣人たちと戦ったということを聞いて驚きを隠せません。こんなに小さい男の子が、あんなに恐ろしい獣人と戦ってやっつけたことにおせいは信じられないからです。
敬太は、さらに獣人と戦ったときの話を続けました。
「ぼくが獣人たちと戦っているときに、獣人の頭領が村人たちを大人も子供も関係なく皆殺しにしたと言っていたぞ」
「もしかして、そこは私たちの住んでいた矢林村のことかも…」
おせいは、獣人の頭領が発した内容を敬太から聞いて大きなショックを受けました。なぜなら、おせいが生まれ育った村で、獣人が村人たちを皆殺しにしているのを目にしたからです。
もちろん、敬太が獣人たちと実際に戦った場所は、矢林村とは別の村の可能性も否定できません。しかし、獣人の発言は敬太が耳にしているだけに、おせいにとっても気になるところです。
そして、おせいはもう1つ気になったことがありました。
「もしかして、敬太くんの足に何か所もマムシに噛まれたというのは…」
「実は…。僕が獣人を両腕で高く持ち上げて投げ飛ばそうとしたときに、いきなり噛みついたんだ。でも、ぼくはマムシに噛まれた痛みなんかに負けないで、獣人を思い切り投げ飛ばしてやっつけたよ!」
敬太は明るい顔つきで、マムシに噛まれても自ら持ち上げた獣人を投げ飛ばしてやっつけたことをおせいに話しました。これを聞いたおせいは、敬太がマムシに噛まれたのも、獣人たちと戦っている途中の出来事じゃないかと薄々感じていました。
「ふふふ、敬太くんがあんなに恐ろしい獣人たちをやっつけるくらいの強さを持っていることがわかったわ。でも、お布団のほうには、こんなにでっかいおねしょを見事にやっちゃったんだね」
「でへへ、ぼくは生まれたときから、いつもこのような元気いっぱいのおねしょをするんだよ! おっかあ、すごいでしょ!」
おせいは、お寺の庭にある物干しへ行きました。そこには、敬太と峰七のおねしょ布団が並んで干されています。
敬太は、どう猛な獣人に立ち向かってやっつける凄まじい力を持っている一方で、毎日のようにでっかいおねしょをお布団にしてしまう子供らしさも持っています。でも、どちらも敬太が元気いっぱいの男の子である立派なシンボルであることに変わりありません。
それは、おせいが敬太のお布団を見ながら、にっこりと笑顔を見せたことでもよく分かります。敬太も、足を引きずりながら物干しのところまでやってくると、改めてお布団にしちゃった大きなおねしょの模様を自慢げに言いました。
そして、敬太は少しでも体を動かそうとお寺にある大きな木のところへ行きました。敬太は両足に包帯が巻かれている痛々しい姿であっても、大好きなお相撲の稽古をいつも欠かすことはありません。
「おっかあ、これからお相撲の稽古をするからよく見ていてね!」
「敬太くん、マムシに噛まれたところがまだ治っていないでしょ。こんなときに無理をしたらいけないわ」
「獣人たちがまたやってくるかもしれないから、おっかあたちのかたきを討つためにも今からけいこをするぞ!」
おせいは、まだ大ケガが治っていない敬太に稽古をやめるように言いました。しかし、敬太はおせいたちの村を襲った獣人たちをやっつけるためにも、リハビリを兼ねて相撲の稽古に励むことにしました。
「行くぞ! えいっ、えいっ、えいっ!」
「敬太くん、足のほうは本当に大丈夫なの?」
「これくらいの大けがで痛くても、ガマンして大好きなお相撲の稽古に励んでいるよ!えいっ、えいっ、えいっ!」
敬太は大きな木の太い幹に向かって、右手と左手を交互に突っ張りを繰り返すてっぽうという稽古を行っています。この稽古を行うことで、上半身と下半身の双方を鍛えていますが、まだ大ケガが治っていない下半身は力を入れるたびに強烈な痛みが全身に響いています。
おせいは敬太の稽古の様子をそばで見ていますが、両足の激痛で顔をゆがめている敬太を見てとても心配そうです。しかし、敬太はどんなに足が痛くても、相撲の稽古を続けることをやめることはありません。
てっぽうの稽古が終わると、続いて股割りの稽古に入ります。敬太は大きな木の手前にお尻をペタリと座ると、股割りの準備をするために両足を大きく広げています。しかし、両足を広げるときに包帯で巻いているところを地面につけるとかなりの痛みを伴います。
そして、敬太が股割りをしようとお腹に力を入れた直後のことです。
「どんなに足が痛くても、ちゃんと股割りの稽古を…。ギュルギュルゴロゴロゴロッ、ギュルルギュルルゴロゴロゴロッ…」
敬太はお腹に力を入れた途端、急にお尻がムズムズしてうんちが出そうになりました。しかし、そんな状況であっても敬太は歯を食いしばりながら、顔を地面につくように上半身を倒しています。
「んぐぐぐぐっ、んぐぐぐぐぐっ、んぐぐぐぐぐぐっ!」
敬太は、大けがをした足の痛みと今にも出る寸前のうんちをそれぞれガマンしながら、厳しい股割りの稽古を続けています。目の前に立ち塞がる恐ろしい獣人たちをやっつけるためにも、ここでへこたれてなんかいられません。
「いくら厳しい稽古だからといっても、何も歯を食いしばってまでしなくても…」
「ぼくはお相撲をするのが大好きだから、どんなにきつくてもがんばるからね!」
おせいは、大ケガが治っていない状態で稽古を続ける敬太を見守っています。どんなにきつくても、敬太は大好きなお相撲の稽古を熱心に行っています。
「んぐぐぐぐっ、んぐぐぐぐぐっ! プウッ! ププウウウッ! ププウウウ~ッ!」
敬太は一旦上半身を起こすと、再び地面に顔をつけながら上半身を倒しています。すると、お腹に力が入ったこともあり、お尻からでっかいおならが3回続けて出てしまいました。それは、うんちのガマンができない寸前であることを意味するものです。
そこへ、他の男の子たちとワンべえが引戸を開けて庫裏から次々と出てきました。男の子たちは、敬太とおせいが外に出て何をしているのか興味があるそうです。
「敬太くん、ここで何をしているの?」「何してるの? 何してるの?」
「ぼくはねえ、足を大きく開いて股割りの稽古をしているところだよ! ぼくがやっているのをよく見てね!」
敬太の周りにやってきた男の子たちは、股割りの稽古をしている敬太の様子を見ています。敬太も、男の子たちに股割りの稽古がどんなものなのかを見せようと、もう一度行うことにしました。
「んぐぐぐぐっ、んぐぐぐぐぐぐっ、んぐぐぐぐぐぐっ!」
「うわあっ、敬太くんはこんなことができるなんてすごいなあ」
「いつも稽古で股割りをしているから、このくらい…」
敬太は男の子たちにいいところを見せようと、両手を使いながら上半身を地面につけています。小さい男の子たちは、地面に顔をつけたままで股割りを行っている敬太の姿に歓声を上げています。
しかし、敬太が股割りの稽古を行っている最中に、ついにうんちのガマンができなくなりました。
「んぐぐぐぐ…。プウッププウウウウ~ッ! ギュルルギュルギュルゴロゴロゴロ…」
敬太は股割りの途中で大きなおならを2連発してしまったときに、思わずお腹に力を入れ過ぎてしまいました。そして、敬太が股割りの稽古を終えて再び立ち上がったとき、そばにいたおせいが敬太にやさしく話しかけました。
「敬太くん、自分から進んで厳しい稽古に励んだね。マムシに噛まれた傷口が治っていなくても、痛みをこらえながら歯を食いしばってよくがんばったね」
おせいは、大ケガを負ったままの敬太の様子を心配していましたが、その心配は杞憂に終わったようです。そして、敬太も厳しい稽古を終えて再び明るい笑顔に戻りました。
そのとき、敬太は今までうんちをガマンしていたはずのお尻がすっきりしたことに気づきました。それは、おせいが敬太の足元にあるものを見ながら、にこにこと微笑んでいることですぐに分かりました。
「ふふふ、敬太くんは股割りの稽古をしているときに、こんなにでっかいうんちが出ちゃったんだね」
「でへへ、地面に体を前に倒しているときに力を入れ過ぎちゃって、思わず元気いっぱいの黄色いうんちが出たよ! おっかあ、すごいでしょ!」
敬太の足元には、とぐろ巻きのでっかい黄色いうんちがありました。敬太のうんちは、股割りの稽古に励んでいる途中で見事に出たものであり、それは元気な男の子である証拠といえる立派なものです。
敬太の周りにいる男の子たちも、敬太の元気なうんちを興味深く眺めています。
「敬太くんのうんちはでっかくて元気だね」「わ~い! 敬太くんのうんちだ!」
「何を食べたら、こんなに元気なうんちが出るのかな?」
「ぼくは、いつも大好きなイモを食べるおかげで、こんなにでっかい黄色いうんちがいっぱい出るんだよ!」
小さい男の子たちは、敬太のうんちを見てとてもうれしそうです。敬太も元気な声を出しながら、イモをたくさん食べることでうんちがいっぱい出ることを男の子たちに教えています。
「敬太くんはおイモをいっぱい食べてお腹の調子がいいから、こんなにうんちがいっぱい出たね。これだけあれば、畑の肥やしとしてぴったりだわ」
「これからもイモをたくさん食べて、元気なうんちが出るようにがんばるからね! そのときには、おっかあにも見せてあげるよ!」
「ふふふ、敬太くんが呼んでくれたらすぐに行くからね」
おせいは木ぐわを持ってくると、敬太のでっかいうんちをすくい上げました。敬太のうんちを見たおせいは、敬太の元気さに改めて感心しています。そして、敬太は元気なうんちがいっぱい出たら、おせいにも見せてあげると笑顔を見せながら言いました。
敬太は、おせいといっしょにお寺の横にある畑へ行っています。その畑は、おせいと男の子たちが力を合わせて、荒れ地だったところを耕したところです。
おせいは、早速木ぐわに乗せた敬太のうんちを畑の土といっしょに耕しています。敬太の黄色いうんちは、肥やしとして畑の土と混ざっていきました。
「うわあっ、ぼくのうんちが畑の肥やしになったんだね」
「敬太くん、この畑で思い切りでっかいうんちが出るといいね。そうしたら、そのうんちが畑の肥やしとなってお野菜やおイモといった食べ物がよく育つのよ」
おせいは、畑の上でのうんちがそのまま肥やしとなって、いろんな作物が育つことを敬太に教えました。これを聞いた敬太も、朝ご飯や晩ご飯で出されたものは好き嫌いしないで何でも食べることの大切さを学びました。
「それじゃあ、ここにはイモ畑があるの?」
「私たちが作った畑はここだけでなく、向こうにも広がっているのよ。そして、ここにはサトイモをたくさん植えているわ」
「うわ~い! ぼくの大好きなサトイモ、早く掘り出したいなあ」
「ふふふ、敬太くんは本当にイモを食べるのが大好きだね。それじゃあ、サトイモの塩ゆでを今日の晩ご飯に出すとするかな」
敬太は、自分が大好きなサトイモの畑があることを知ると、元気な笑顔を見せながら大喜びしています。これを見たおせいも、敬太のために晩ご飯にサトイモの塩ゆでを作ろうとはりきっています。
お寺に隣り合ったところにあるおせいたちの畑は、敬太もびっくりするほどの広さがあります。しかし、おせいや小さい男の子たちの力だけでは、これだけの広い畑をつくることはできません。
そのとき、敬太は少し離れたところにいる牛助の姿を目撃しました。
「おっかあ、向こうにいるのは牛助くんなの?」
「敬太くん、まだ大ケガが治っていないし、そんなに急がないでも…」
敬太は大ケガをしている足を引きずりながらも、牛助のいるところまで急いで歩いて行きました。牛助をこの目で実際に見るのは初めてなので、敬太も早く見ようとわくわくしています。
「牛助くん! 牛助くん! ぼくは敬太という名前で7歳児の男の子だよ!」
「敬太という名前なのか。強くて元気いっぱいの男の子にぴったりの名前だし、おれも敬太の元気なところが気に入ったぞ」
敬太は牛助の前に立つと、元気いっぱいの声で自分の名前を言いました。これを見た牛助は、小さい子供なのに堂々としている敬太の元気さに感心しました。
「本当だったらおれとお相撲で戦いたいところだが、それは敬太が足の大ケガを治してからにしようかな」
「敬太くんは強いところを見せたくてお相撲がしたいだろうけど、牛助が言うようにちゃんと大ケガを治さないといけないよ」
「おっかあ、牛助くん、お相撲ができるようにちゃんと大ケガを治すからね!」
敬太は相撲が大好きなので、本当だったら牛助と力いっぱい戦いたいところです。しかし、まずはマムシに噛まれたところを治すのが先決とおせいと牛助から言われたので、敬太と牛助との対決はお預けとなりました。それでも、敬太は大ケガしたところを早く治して、牛助と相撲で対決するのを心待ちにしています。
そのとき、おせいは何か言い忘れたことを思い出すと、すぐに敬太に声をかけました。
「それはそうと、敬太くんのお尻にはうんちがいっぱいついたままだから、後でちゃんと水洗いしようね」
「でへへ、お尻にうんちがついたままだったのをすっかり忘れちゃった」
おせいは、敬太のお尻にうんちがいっぱいついているのを見ると、すぐに水を汲んだ桶を持ってくるためにお寺のほうへ戻りました。
「あらあら、うんちがいっぱい出たのでかなり汚れているね。水で洗ってお尻の汚れを落とすからね」
「おっかあ、お尻をきれいにしてくれて本当にありがとう!」
水汲みした桶を持ってきたおせいは、すぐに左手を使って敬太のお尻をきれいに洗っています。敬太も、自分のお尻を洗ってくれたおせいに感謝の気持ちでいっぱいです。
太陽が西のほうへ傾くと、庫裏に戻ったおせいは台所で今日の晩ご飯を作る準備に入ります。ここでは、おせいが小さい男の子たちのために毎日ご飯を炊いたり、みそ汁をつくったりしています。
その間、菜八や峰七といった年上の男の子たちもおせいを手助けするために水汲みや火おこしといったお手伝いをしています。
敬太も、1人でやりくりしているおせいを手助けしたいと、自らお手伝いをしたいと申し出ました。すると、おせいから意外な答えが返ってきました。
「敬太くんのやさしい気持ち、私にも分かるわ。でも、今はちゃんと大ケガを治すことが大切だよ」
おせいは敬太の気持ちを理解しながらも、痛めている足に負担がかかるお手伝いはしないようにと敬太にやさしい口調で伝えました。
敬太は、おじいちゃんやおばあちゃんといっしょに暮らしたときも、旅に出て農村や漁村でお世話になったときも、自分から率先してお手伝いを積極的に行ってきました。それだけに、おせいの言葉はちょっと予想外でした。
でも、おせいが敬太にかけた言葉の意味はすぐに分かりました。
「敬太くん、ぼくたちが晩ご飯のお手伝いをするから大丈夫だよ」
「水汲みや火おこしとかのお手伝いは、ぼくたちが協力してやっているから、敬太くんはゆっくり休んでね」
菜八と峰七は、板の間に上がってゆっくり休んでほしいと敬太に声をかけました。晩ご飯のお手伝いでは、菜八と峰七の他に、居六や紺次郎といった年上の男の子が分担して協力しながら行っています。男の子たちが敬太にかけた言葉には、マムシに噛まれた足を早く治してほしいというやさしい気遣いが込められています。
この様子を見たおせいは、敬太に声をかけました。それは、敬太にお手伝いしてほしいことがあるからです。
「ここは、みんなが手伝っているから大丈夫だよ。それよりも、板の間で小さい子供たちがいるから、敬太くんはそのお世話をしてくれないかな」
「おっかあ、分かった! 子供が大好きだから、ちゃんとお世話をするからね!」
お手伝いは、水汲みや火おこしといった仕事だけではありません。小さい子供をお世話することも立派なお手伝いといえるものです。
おせいは、板の間にいる小さい男の子たちのお世話をしてほしいと敬太に言いました。子供が大好きな敬太は、喜んでそのお世話を引き受けることにしました。
板の間には、4人の小さい男の子たちがいます。4人の中で年上の貫吉と扇助が、赤ちゃんの桑吉と津根吉のお世話をしています。
貫吉と扇助は、自分たちがお兄ちゃんとなって赤ちゃんをお世話しようとしますが、手足を使って4本足で歩く桑吉と津根吉のあまりの元気さにはかないません。
「敬太くん、赤ちゃんのお世話をいっしょにしようよ」
「いっちょにちよう、いっちょにちよう(いっしょにしよう、いっしょにしよう)!」
板の間へ上がった敬太は、貫吉と扇助から赤ちゃんのお世話をしてほしいとせがまれました。貫吉と扇助のそばには、床の上で仰向けになって泣き出している桑吉と津根吉の姿がありました。
「うえええええ~んっ、うええええええ~ん!」「うえええ~ん、うええええ~んっ!」
赤ちゃんたちは、まだ言葉をうまく発することができません。相手にどうしても強く訴えかけるときには、大きな声で泣き出すことで相手に伝えようとします。
普段はおせいが赤ちゃんたちをあやしたりしていますが、おせいは晩ご飯を作っている最中で手が離せません。貫吉たちも、赤ちゃんが泣き止むように手を尽くしていますが、なかなかうまくいきません。
敬太は、仰向けになって泣き続ける赤ちゃん2人の手前で、あぐらをかくように座りました。大ケガした足が治っていないので、あぐらをかくのは足に負担の少ない方法だからです。
「どうしたのかな? 桑吉くん、そんなに泣かなくても…」
敬太は、最初に桑吉のほうから泣きやまそうと、赤ちゃんみたいな四つんばいになって桑吉に近づこうとしました。すると、桑吉は敬太のやさしい顔を見た途端に、すぐ泣きやむことができました。
桑吉は、あんよ(両足)を上げてキャッキャッと笑顔を見せるようになりました。そして、敬太は桑吉を喜ばそうと、そのあんよを軽く握りながら上げ下げしようとしたときのことです。
「桑吉くん、今からあんよを上げ下げするよ。いくよ! それっ…」
「ジョジョジョ~ッ、ジョパパジョジョジョ~ッ!」
「わわっ、わわわわっ!」
敬太は、桑吉からいきなりおしっこを勢いよく顔面に命中してしまいました。桑吉は、自分が元気な男の子であることを示そうと、あいさつ代わりであるおしっこ噴水を敬太の顔に命中させたのです。
「でへへ、桑吉くんのおしっこ噴水はとっても元気いっぱいだね」
「キャッキャッ、キャッキャッキャッ」
桑吉は、おしっこがいっぱい出てすっきりすると笑顔を見せながら喜んでいます。これには、さすがの敬太も笑顔で照れながらもすっかり参っている様子です。
一方、津根吉のほうは泣きやみません。敬太は桑吉に命中されたおしっこを右手でぬぐうと、すぐに津根吉を両手で持ち上げました。
敬太は自分と同じように腹掛け1枚だけの津根吉を見ながら、泣きやむようにゆっくりとあやしています。しかし、敬太はここでも赤ちゃんから思わぬ不意打ちを食らうことになります。
「よしよし、よしよし、津根吉くん、もう泣かなくても…」
「ジョパパジョジョジョ~ッ、ジョジョジョジョ~ッ」
敬太は、桑吉に続いて津根吉からもおしっこを命中されてしまいました。しかも、津根吉のほうは真正面からおしっこをいきなり命中されたのでどうすることもできません。
「わ~い! 敬太くん、桑吉くんと津根吉くんからおしっこをひっかけられた!」
「おちっこ(おしっこ)、おちっこ! かけられた! かけられた!」
「でへへ、赤ちゃんはとっても元気が良すぎて参っちゃうよ」
おしっこを命中された敬太の顔を見て、貫吉と扇助は喜びながら面白がっています。どんなに恐ろしい獣人と堂々と戦い続ける敬太ですが、あどけない笑顔でおしっこ噴水による顔面攻撃をされた赤ちゃん2人には完全に降参してしまいました。
それでも、敬太は津根吉を抱きかかえながら、2人の赤ちゃんの元気さに笑顔で見つめています。
「桑吉くんも津根吉くんもこんなに元気いっぱいだし、ぼくも小さい赤ちゃんに負けないようにがんばるぞ!」
敬太は、桑吉と津根吉から元気をもらうとともに、自分も大ケガを治して獣人たちをやっつけるための稽古に励むことを改めて誓いました。




