その15
「ぼくの顔から光った何か光ったけど、もしかしてこれが獣人の紋章なのかな?」
自らの額が光っているのを感じた敬太は、峰紅村のイノシシ山で獣人たちと戦ったときのことを思い出しました。
このときも、獣人たち2人との間で壮絶な戦いを繰り広げている途中で、敬太の額から何やら光り出しました。そのときに獣人が敬太に向かって不気味な笑い声で言い放った言葉は、今でも敬太の脳裏に残っています。
「その紋章があるということは、獣人同士が人間の姿のままでおめえを産んだという証拠となるなあ、ふはははは」
「獣人の世界では、おめえのような紋章が額にあるようなちびっ子が存在していたら、絶対にこの世から消さなければならないんだよ! ふはははは」
獣人の紋章を持つ子供、それは人間の姿に変えた獣人同士からしか生まれてこない極めて稀な存在です。獣人への変身能力こそありませんが、かなり手ごわい獣人であっても一撃で倒すことができる能力を持っています。
しかし、獣人同士が人間の姿になって子供を生むことは、獣人たちの掟として固く禁じられています。この掟を破った場合には、子供も含めて獣人の手で皆殺しにされてしまいます。つまり、敬太は獣人の紋章が現れた時点で、獣人からいつ命を狙われてもおかしくありません。
海の真上に飛び上がった敬太は、頭の中で人食いザメをどうやってやっつけるのか考えています。人食いザメが1匹だけなら、そのまま急降下してサメの鼻面を強く蹴り上げることができます。しかし、今回は人食いザメが3匹も同じところに集まっています。
サメの鼻面を蹴り上げたはずみで、敬太が海の中へドボンと飛び込んでしまうと、他の人食いザメが敬太に向かって襲いかかってくる危険性が高くなります。
「ギュルギュル、ゴロゴロゴロッ、ゴロゴロゴロッ~」
「あっ、お尻が急にムズムズしてきたぞ。もしかしたら……」
そのとき、敬太は自分のお腹がゴロゴロと元気な音が鳴ると同時に、お尻のほうも急にムズムズしてきたことに気づきました。どうやら、敬太は昨日の晩ご飯からいっぱい食べたでっかい親イモがお腹に効いてきたようです。
すると、敬太はイノシシ山で獣人たちと戦ったときにも使ったあの方法を思いつきました。それは、すでに人食いザメにも使ったあの攻撃を応用したものです。
「そうだ! あれを使えば、真下にいる人食いザメをいっぺんにやっつけることができるかも!」
敬太はすぐにお腹に力を入れると、人食いザメが集まっている海面に向かって落下し始めました。人食いザメは敬太たちが海の中へ落下してきたのを見て、鋭い歯をむき出しにした大きな口を開けて再び待ち構えています。
「ふはははは! あのチビめ、おれたちの大きな口の中へ向かって落下してきたぞ!」
「今まで手こずってきたけど、これでようやくこの歯で……」
人食いザメたちは真上から落下する敬太を見ながら、これまで手こずった敬太を自分たちで噛み砕いて食べるのが今から楽しみにしているようです。しかし、敬太は海面から顔を出している人食いザメに目がけてお尻に大きな入れると、子供らしい元気いっぱいの大きな音が出ました。
「人食いザメめ、これでも食らえ! 特大元気噴出砲!!」
「プウッ! プウウッ! ププウウウッ! ププウウウッ! プププウウウウッ!」
敬太は、空中から落下しながらお尻を下に突き出す格好になりました。そして、でっかくて元気なおならの音を響かせながら、海面に顔を出している人食いザメに向かって敬太の得意技である特大元気噴出砲を発射しました。
敬太は、大好きなでっかい親イモをいっぱい食べたおかげで、特大元気噴出砲を人食いザメの顔面に5回も続けて命中させました。
「うわっ……。このチビめ、よくもおれたちの真上でくさいおならをしやがって……」
「うげげっ! おめえが何を食ったのか知らんけど、これは死ぬかと思うほど本当にくさいぞ……。とってもくさいぞ……」
特大元気噴出砲を直接食らった人食いザメたちは、死ぬほどくさい敬太のでっかいおならに気持ち悪そうな表情であわてふためいています。
「でへへ、イモをいっぱい食べたから、元気いっぱいの特大元気噴出砲がこんなに出ちゃったよ!」
敬太は、元気いっぱいのおならが特大元気噴出砲としていっぱい出ちゃったので、照れながらも明るい笑顔を見せました。そして、そのまま空中からサメの鼻面に強い蹴りを次々と食らわせました。
「えいえ~いっ! えいえ~いっ! えいえいえ~いっ!」
「グエッ! グエエエッ!」
「グエグエッ! いててっ、いてててててっ!」
人食いザメたちは、敬太から強烈なおならと蹴りによる攻撃を続けざまに食らったことで、海面をパシャッパシャさせながらもだえ苦しんでいます。敬太は、サメの鼻面を蹴り上げたときの反動で再び空中へジャンプしました。
「よ~し! これがとどめの一撃だ!」
敬太は、右手で持っているモリを握りながら、もだえ苦しむ人食いザメの鼻面に目がけて突き刺しました。
「ええ~いっ! えいえいえ~いっ!」
「グエグエグエッ! いたいっ、いたたたたたっ……」
鼻面をモリで突き刺された人食いザメは、死ぬほどの強烈な痛みでかなり苦しそうな表情を見せています。しかし、敬太は登美蔵をはじめとする村人たちが人食いザメの犠牲になったことを考えると、そう簡単に人食いザメを許すわけにはいきません。
「どうだ! もう二度と村人たちを襲わないと約束するか!」
「そんなこと、おれたちが約束なんかできると思っていないわ!」
敬太は、二度と村人たちを襲わないと約束するよう人食いザメに迫りました。しかし、人食いザメは敬太の言葉を聞いても悪びれる様子もなく、これまでと同じように村人へ集団で襲うことをやめるつもりはないとごう慢な態度で言い切りました。
これを聞いた敬太は、ごう慢な態度を取り続ける人食いザメへの強い怒りをあらわにすると、人食いザメの鼻面の奥までモリを強く突き刺しました。登美蔵の形見でもあるこのモリには、人食いザメに噛み殺された村人たちへの強い思いが込められています。
「人食いザメめ、これでも村人たちをまだ襲いかかるつもりか!」
「グエエエッ! グエエエッ! いてえええっ! いてててっ、いててててててっ!」
敬太は攻撃の手を緩めることなく、サメの鼻面に突き刺したモリを強く押し続けています。さすがの人食いザメも、ガマンできないほどの激しい痛みにこれ以上耐えることができません。
「えいっ! えいえいっ! これでどうだ!」
「いてててててっ! いててててててっ!」
「分かった、分かった…。もう二度と村人たちを襲うようなことはしません……」
敬太が何度も繰り返して人食いザメの鼻面へモリを突き刺すと、人食いザメは海面でのたうちまわるほどの激痛に襲われました。死ぬほどの激痛に耐えられなくなった人食いザメは、とうとう敬太の前で降参することになりました。
人食いザメは、次々に襲われる激痛に必死にガマンしながら、もう二度と村人たちに襲い掛かったりしないという約束を敬太に誓いました。そして、人食いザメは敬太の前から逃げるように去って行きました。
自分たちの仲間が敬太に撃退されてそのまま逃げて行ったのを見て、他の人食いザメ2匹はおののいている様子です。すると、敬太が人食いザメたちのいる方向へ振り向きました。その途端、人食いザメたちは敬太の怒りに満ちた目つきを見て、急に身震いをするほどの恐ろしさを感じました。
「村人たちを襲って噛み殺すようなことは二度としません……。どうか許して……」
敬太の顔つきを見て殺気を感じた人食いザメたちは、そのまま戦うことなく逃げ出しました。そして、人食いザメは2匹とも浜ノ沖島から沖合いに向かって去りました。
「よ~し! 今度はここから断崖のところまで登っていくぞ! ワンべえくん、絶対に離さないでね!」
「敬太くんのためだったら、どんなところでもついて行くワン!」
敬太はワンべえを右肩に乗せると、絶壁のところまで泳いで行きました。断崖がある島の頂上は、目の前にある絶壁から垂直に伸びたその先にあります。そのとき、敬太は獣人がいる頂上で取り残されている吉之助のことが心配になってきました。
「早くしないと、吉之助さんが危ない! 急がないと!」
島の頂上まで行くには、死と隣り合わせのかなり険しい岩壁を垂直に登って行かなければなりません。しかし、そこまでたどりつくためには、自らの力で絶壁を登り切った敬太であってもそれ相応の時間がかかります。その間にも、吉之助が獣人に襲われて命を落としている可能性も否定できません。
すると、敬太の額に現れた紋章が再び光りました。敬太はその紋章が光った意味を再確認するとともに、自らの手で獣人を絶対にやっつけようと決意を新たにしました。
「うんしょ! うんしょ!」
敬太は、海面から両手と両足を絶壁をつかみながら少しずつ登り始めました。すると、垂直に伸びている絶壁の中にあって、右足でジャンプできる数少ない場所を敬太が見つけました。
「ワンべえくん、手を離さないでね!」
「まさか、あそこまで飛び上がるのかワン?」
「行くぞ! え~いっ!」
敬太は、右足を踏み込んでジャンプすると、絶壁から生えている大きな木に向かって思い切り飛び上がりました。その大きな木がある場所は、海面から推定で約13尺(約40m)の高さのところにあります。普通に考えた場合、そんな高いところまで飛び上がることは完全に不可能であることは明白です。
そんな状況であっても、獣人の紋章が現れている敬太は恐がる気配を一切見せません。凄まじいジャンプ力で、敬太はあっという間に絶壁から伸びている樹木に手が届きそうなところまでやってきました。
「よ~し! これを使えばあの大きな木に届くぞ!」
「わわわっ! 敬太くん、敬太くん……。ここから海に落ちそうで恐いワン……」
「ワンべえくん、恐いけどしばらくガマンしてね! えいえ~いっ!」
敬太は、右手で握っているモリを目の前にある樹木に突き刺しました。そして、突き刺したモリで支えながら、敬太たちは絶壁から生えている樹木の上に飛び移ることができました。敬太は、さらに島の頂上へ一気に飛び上がろうと試みようとしますが、ワンべえはその間も高いところから落ちるのが恐くて体が震え続けています。
「敬太くん……。ここから飛び上がるのが本当に恐いワン……」
「ワンべえくん、恐がってしまってごめんね。もうちょっとのガマンだよ」
敬太は、恐がってばかりのワンべえに笑顔でやさしく語りかけました。それは、まるでお父さんやお母さんが自分の子供に接するような感じです。
「いよいよ、ここから獣人がいる頂上まで飛び上がるぞ! え~いっ! とりゃあっ!」
敬太は、幹の太い木の上で少しジャンプして再び着地しました。そして、ワンべえが右肩につかまっていることを確認すると、敬太は思い切り踏み込んでから頂上へ向かって飛び上がりました。
そのころ、浜ノ沖島の頂上では吉之助が痛々しい姿で大きな岩に寄りかかるように倒れていました。吉之助の体を見ると、あちこちに殴られてアザだらけになっているのが分かります。
そこへ、獣人が不気味な笑みを浮かべながらやってきました。
「あのチビは今ごろ人食いザメによって地獄の底へ沈んでいるだろうし、おめえのガキもチビ犬も噛み砕かれて赤い血の海になっているからなあ、ふはははは!」
「そんなことなんか信じないぞ……。敬太くんたちがここへ戻ってくるのを今でも信じているぞ……」
獣人は、敬太たちが人食いザメのエジキになってこの世にはもう存在しないと吉之助の前で笑いながら言い放ちました。しかし、吉之助はどんなに傷だらけになっても、敬太たちが再び戻ってくることを信じ続けています。
「ふはははは! おめえがどんなに願っても、あのチビが戻ってくることなんか……」
獣人は、吉之助が口にした敬太たちへの思いをあざ笑いました。そして、獣人がすぐさま吉之助に手をかけて攻撃を加えようとしたそのときのことです。
「獣人め、ぼくはここにいるぞ! とりゃああっ!」
「わわわっ! このチビめ、人食いザメのエジキになったはずじゃ……」
敬太はものすごいジャンプ力で、絶壁に生えている樹木から一気に島の頂上まで飛び上がりました。これを見た獣人は、人食いザメに噛み殺されてこの世にはもういないはずだと思っていた敬太がまだ生きていることに驚きを隠せません。
そんな獣人の様子をよそに、敬太は獣人に向かって真正面から右足で飛び蹴りを放ちました。
「えいっ! えいえ~いっ! とりゃああっ!」
「グエエエッ! いたたたたたっ! いたたたたたたっ!」
敬太は走りながら飛び上がった勢いで、とても強烈な飛び蹴りを獣人の胴体に命中させました。飛び蹴りを食らって地面に倒れ込んだ獣人は、あまりにも苦しい激痛になかなか起き上がることができません。
「吉之助さん、大丈夫?」
「敬太くん、助けにきてくれてありがとうな。ここへ戻ってくることをずっと信じていたぞ」
敬太は、巨大な岩に寄りかかるように倒れていた吉之助を起こしました。吉之助は、獣人による攻撃で受けたアザがいくつもあって少し痛々しい様子です。それでも、吉之助は敬太が無事に戻ってきた敬太の姿を見るのがとてもうれしそうです。
そこへ、常助が息を切らしながら島の頂上までやってきました。常助は、この島の傾斜のきつい上り坂に足を取られながらもここまで駆け上がってきました。
「吉之助さん、こんなにアザができているけど痛くない?」
「ははははは! そんなに心配しなくても大丈夫さ。おれは、これくらいのことで痛いというような弱々しい男じゃないぞ」
常助は、吉之助の体にアザがいくつもあったので心配そうに見ています。しかし、そんな心配をよそに、吉之助はこんな痛々しい姿を敬太や常助に見せまいと明るい笑顔を見せながら立ち振る舞っています。
「獣人がまた起き上がる前に、砂浜のところまで早く逃げて! 獣人は、ぼくがこの手で絶対にやっつけるからね!」
「そこまで言うのなら、おれたちも敬太くんに全てを託そうか」
敬太は、自らの手で獣人をやっつける間に、浜ノ沖島の入り口である砂浜へ早く逃げるように吉之助たちに促しました。敬太の表情には、何としてでも獣人を自分の手で絶対に倒したいという強い思いが現れています。これを見た吉之助は、獣人とのバトルを敬太に全て託すことにしました。
そのとき、敬太の強い蹴りで地面に倒れていた獣人がようやく起き上がってきました。これを察知した敬太は、吉之助たちに急いで逃げてと叫ぶように言いました。
「敬太くん、無事におれたちのところに戻ってこいよ! おれたちも、敬太くんが戦うのを遠くから見守っているぞ!」
吉之助は、常助やワンべえといっしょに下り坂を通って、島の入り口である浜辺まで逃げることにしました。吉之助は、敬太が果たして無事に戻ってくるのか心配しています。それでも、敬太に全てを託した以上、吉之助たちは敬太が獣人をやっつけるのを遠くから見守るしかありません。
「このチビめ……。まさか、わしが手懐けた人食いザメをやっつけたのはおめえか?」
「そのまさかだよ! ぼくがこの手でやっつけた人食いザメは、3匹とも沖のほうへ逃げて行ったぞ!」
ようやく立ち上がった獣人は、自分の真正面に敬太が堂々と勝ち構える姿を見て驚きを隠せません。人食いザメがいる海から敬太が無事に生還したことに、獣人はいまだに信じられない様子です。しかし、敬太が人食いザメをやっつけたというのは、紛れもない事実であることに変わりありません。
「今度は、この手で獣人を絶対にやっつけるぞ! え~いっ!」
「おいっ、わしの頭の上を飛び越えて何をするつもり……」
敬太は、勢いよく走りながら左足を踏み込むと、恐ろしい獣人の頭上をそのまま飛び越えました。獣人は、敬太による真正面からの攻撃を食い止めようと構えていたので、これには拍子抜けしてしまいました。しかし、この後の敬太による攻撃がどんなことになるのか、まだ知るよしもありませんでした。
獣人の背後に着地した敬太は、右手で握っているモリを見ながら、おみかと新吉のことを思い浮かべました。そのモリは、人食いザメに襲われて命を落とした登美蔵が必死に守り抜いた形見といえるものです。
「おっかあ、新吉くん……。今からこれを使って獣人へのかたき討ちをするからな」
村人たちの感情を逆なでするかのように平然と言い切った獣人の言動は、敬太の脳裏に今でも残っています。敬太は登美蔵をはじめとする村人たちのかたきを討とうと、獣人のお尻に思い切りモリで突き刺しました。
「えいえ~いっ! えいえいえ~いっ!」
「ウゲゲッ! ウゲゲゲゲッ! 痛い、痛い! いたたたたたたっ!」
敬太は、獣人のお尻にモリを繰り返し突き刺しながら集中攻撃を加えました。敬太による背後からの攻撃によって、獣人は何度も空中を飛び上がるほどの強烈な痛さに襲われました。
「とりゃああっ、これでも食らえ!」
「いてててててっ! やめろ! わしの顔に座り込んで何を……」
敬太は獣人がのたうち回るのを見るや否や、すぐさまにジャンプすると、真上から自分のお尻で獣人の顔を押さえ込みました。そして、敬太は自分のお尻がムズムズしてきたのを感じると、思い切りお腹とお尻に力を入れました。
「プウッ! プププププウウウウウウウッ!」
「うっ、本当にくさいおならをしやがって……。息ができない……」
「どうだ、特大元気噴出砲の威力を……」
敬太は、獣人の顔に座ったままで特大元気噴出砲を発射しました。これを食らった獣人は、敬太のとてもくさいおならのにおいに顔をゆがめました。しかし、敬太の攻撃はまだまだ緩めることはありません。
「ギュルギュルル、ギュルギュルルルル、ゴロゴロゴロゴロゴロゴロッ~」
敬太は特大元気噴出砲を思い切り発射したときに、お腹が急激に痛くなってうんちをするのをガマンできなくなりました。いきなり襲われた腹痛に、敬太はかなり苦しそうな表情を見せています。
しかし、獣人の顔面に座っている敬太は続けざまに攻撃を加える好機と見るや、自分のお尻に思い切り力を入れながら踏ん張り始めました。
「うんっ、ううんっ、ううう~んっ、うううう~んっ、ううううううう~んっ!」
「わわわわわっ、わしの顔に何を……。ギャッ、ギャアアアアアッ!」
敬太は額に汗を浮かべながら、お腹にたまっているものを全部出そうと踏ん張り続けています。すると、獣人はおならとはまた違ったくさいにおいに耐えられない様子です。
「でへへ、特大元気噴出砲に加えて元気なうんちがいっぱい出ちゃったぞ!」
「んぐぐぐぐ……。よくも、よくも、わしの顔に汚らしい大ぐそをしやがって……」
敬太は大きな親イモをたくさん食べたおかげで、獣人の顔に元気いっぱいのうんちを命中させることができました。
一方、敬太のうんちを顔面に命中された獣人は体を震わせながら怒りをにじませています。そうでなくても、獣人は敬太からおしっこやおならを次々と命中されているので、怒りがいつ爆発してもおかしくありません。
「わわっ! 獣人め、いきなり立ち上がりやがって!」
「くそっ! 人食いザメなんかいてもいなくてもどうせ同じことに決まっとるわ! こうなったら、わし1人でおめえを叩きのめしてやるからな!」
獣人は、敬太をそのまま地面に突き落としながら立ち上がりました。そして、獣人は顔面に命中した敬太のでっかいうんちを右手で拭い落としました。
自らが手懐けた人食いザメが去ってしまったことで、獣人はすっかり破れかぶれになっていきました。そして、やけっぱちになった獣人は、すぐさま地面に倒れ込んだ敬太に向かって飛び込んで行きました。獣人は、自分の大きな体で敬太を押しつぶしながら、息の根を止めようと試みます。
しかし、敬太は地面に突き落されて背中を強打しても、これくらいのことでへこたれることはありません。敬太はすぐに起き上がると、真上から押しつぶそうとする獣人の胴体を両手で受け止めました。
「んぐぐぐぐっ! どうだ、ぼくはどんなに重いものであっても楽々と持ち上げることができるぞ!」
「このチビめ、わしを持ち上げて何をするつもりだ!」
獣人は、自分を持ち上げようとする敬太に対して必死に抵抗しています。しかし、敬太は、わめき声を上げながら抵抗している獣人をそのまま持ち上げることができました。自らも人食いザメのエジキになりかけた敬太にとって、人食いザメを手懐けた獣人への憤りは計り知れないものがあります。
「よくも、ぼくたちを人食いザメのエサにしようとしたな! 獣人め、今度はこの手で海の中へ放り投げるぞ! え~いっ! とりゃあっ!」
敬太は両腕に力こぶを入れると、獣人を海のほうへ思い切り放り投げました。放り投げられた獣人は、空中からそのまま真っ逆さまに落下していきました。
「うわああああっ! 誰か助けて、助けて……」
獣人は手足をバタバタさせながら、海中へ落ちないように必死にもがいています。しかし、そこには絶壁から伸びている樹木らしきものは全くありません。
いよいよ、獣人へのとどめを刺すために、敬太は地面に置かれた登美蔵の形見であるモリを手に取りました。モリを右手で握りしめた敬太は、すぐさま断崖に向かって走り出しました。
「獣人め、これがとどめの一撃だ! 行くぞ、とりゃあっ!」
敬太は断崖から飛び降りると、その勢いで海中へ向かって落下しています。敬太の目には、真っ逆さまに落下している獣人の姿が次第に大きく見えるようになりました。
敬太は、獣人の真上へ次第に接近するにつれて、敬太はとどめを刺すタイミングを見極めました。敬太は獣人の背中に狙いを定めると、右手で握っているモリを真上から串刺しのように突き刺しました。
「これでとどめだ! 食らえ、貫通串刺し棒!!」
「グエエエエエエエッ!」
敬太は、貫通串刺し棒という必殺技で獣人の背中にモリを突き刺すと、そのまま水しぶきを上げながら海中へ飛び込みました。そして、敬太は獣人の胴体を串刺しのようにモリで突き抜きました。
「獣人め、どうだ! 貫通串刺し棒の威力を思い知ったか!」
「このチビめ……、覚えてろよ……。これで……終わったと思ったら……大間違い……」
敬太は、モリを思い切り深く突き刺して獣人の胴体を貫通することに成功しました。敬太が獣人に放ったこのモリには、新吉とおみかの気持ちが込められています。
一方、敬太の手によってモリで胴体を突き抜かれた獣人は、これまで以上に凄まじい激痛で意識がもうろうとする中で、敬太に対して精一杯言葉を絞り出しながら警告を発しました。その内容はどんな手段や手法を使ってでも、獣人たちの手で敬太を徹底的に始末することを示唆するものです。
「グエグエエッ! グエエエエエッ! グエエエエエエエエエエエエッ!」
獣人は、自らがあと少しで命が尽き果てるということを知りながらも、敬太への警告を発しようと必死に口を開けました。しかし、獣人は限界を超えるほどの激しい痛みに耐えられずに力尽きてしまい、そのまま息を引き取りました。
「あれだけ手強かった獣人をついにやっつけることができたぞ!」
敬太は、獣人の胴体に串刺しのように突き刺したモリを強く引き抜きました。あれだけ強かった獣人を自らの手で倒すことができたことに、敬太は喜びを隠すことができない様子です。
敬太は急いで海面に向かって泳ぎながら浮上すると、呼吸をするためにすぐに海面から顔を出しました。目の前に広がる海面には、黒っぽい緑色で次第に染まっていきました。
「おっとう、人食いザメもそれを手懐けた獣人もぼくが全部やっつけたよ!」
敬太は、真上に広がる青空に向かって笑顔を見せながら、自らの手でかたき討ちをしたことを天国にいる登美蔵へ言いました。すると、誰もいないはずの青空に、敬太が夢の中で見たことのある大人の男性が浮かび上がりました。
「敬太くん、人食いザメのみならず獣人も見事にやっつけてくれて本当に感謝しているぞ!」
青空に浮かび上がったのは、新吉のお父さんである登美蔵です。登美蔵は、人食いざめや獣人と戦い続けた敬太の姿を天国から見届けていました。
「おっとう、ぼくが戦っているところをずっと見ていたの?」
「ははは、敬太くんのことはずっと見ていたぞ。とどめを刺す前にでっかいおならやうんちを見事に命中させるあたりは、敬太くんらしくてすごかったぞ!」
「でへへ、お腹が痛くなっちゃってうんちがいっぱい出ちゃったよ!」
登美蔵は敬太が獣人にとどめを刺すときに、特大元気噴出砲とでっかいうんちで獣人の顔面に続けざまに命中させたことに目を細めています。どんなに獣人との激しい死闘を繰り広げても、子供っぽいところは7歳児の男の子である敬太ならではの特権です。
「おみかさんの赤ちゃんがもうすぐ生まれるみたいだから、早く戻ったほうがいいよ」
登美蔵は、敬太に早くおみかのところへ戻るよう促しました。自分とおみかとの間にできた新しい命がまもなく生まれるからです。
「おっかあのお腹から赤ちゃんが生まれるのを、おっとうに代わってぼくが見守ってあげるよ!」
「敬太くんは、普段から畑仕事とか火おこしといったお手伝いを一生懸命してくれる思いやりのある男の子だもんね。赤ちゃんが生まれるのを楽しみにしているのかな?」
「もちろんだよ! 早くこの目で赤ちゃんを見てみたいな」
敬太は、おみかのためにイモ掘りなどの畑仕事はもちろんのこと、薪割りや火おこしなども自分から進んで行っています。天国から見守っている登美蔵も、敬太の元気いっぱいであどけない表情を見るたびにやさしい表情を見せています。
「おれはもう天国にいるから、自分の目で赤ちゃんを見ることはできないんだ」
「赤ちゃんが生まれたら、天国のおっとうにも伝えるからね!」
「そうか! おれも敬太くんからの報告を楽しみにしてるぞ!」
敬太は、小舟がある島の入り口まで泳いで戻ることにしました。赤ちゃんをこの目で見てみたい敬太は、天国にいる登美蔵に赤ちゃんが生まれたことを伝えると約束しました。すると、青空に浮かび上がっていた登美蔵の姿は次第に消えていきました。
「おっかあの赤ちゃんは、どんな赤ちゃんなのか今から楽しみだな。ぼくみたいな元気いっぱいの赤ちゃんだったらいいな」
敬太はこれから生まれるであろう赤ちゃんのことを空想しながら、今から心待ちにしています。そのとき、目の前から敬太を呼んでいる声が聞こえてきました。
「お~い! 敬太くん、ここにいたのか! 戻ってこないから心配していたぞ!」
「敬太くんがいなくて、ぼくはずっとさびしかったワン。でも、こうして無事に会うことができて何よりだワン!」
目の前に現れたのは、イルカに乗っている吉之助と常助、そしてワンべえの2人と1匹です。吉之助たちが乗っているイルカの右側には、イルカの子供がいっしょについてきています。吉之助たちは敬太を見つけるやいなや、敬太が無事だったことに喜びを隠せません。
「敬太くん、もしかしてあの獣人をやっつけたの?」
「ぼくは人食いザメを3匹とも撃退させたぞ! そして、このモリで獣人の胴体を思い切り突き抜いて倒したよ!」
手強い相手を次々とやっつけた敬太を見て、吉之助やワンべえも敬太のすさまじい力強さに改めて感心しました。
「敬太くんは、人食いザメも獣人も自分の力でやっつけたんだね。でも、人食いザメはまた襲ってきたりするのでは……」
「人食いザメは、もう二度と村人たちを襲うことはしないと言って逃げて行ったよ!」
「そうか、敬太くんが人食いザメをやっつけたおかげで、村人たちも安心して漁をすることができるな」
これまでのように人食いザメの脅威にさらされることがなくなったので、村人たちも平穏に漁をすることができます。
すると、イルカは敬太の顔を見ながらこう言いました。
「敬太くんは、どう猛な人食いザメを撃退してくれたのか! おれたちも、サメの出現を気にしないで泳ぐことがまたできるようになったし、本当に感謝しているぞ!」
「ぼくはどんなに手強い相手であろうと、自分の力を信じれば絶対にやっつけることができるよ!」
「敬太くんがいなかったら、おれたちも今ごろどうなっていたか……。敬太くん、本当にありがとうな!」
敬太が人食いザメを撃退してくれたおかげで、イルカたちも安心して広い海を遊泳することができるようになったので感謝の気持ちでいっぱいです。
「これから小さい島の入り口まで泳いで行くけど、イルカさんもぼくといっしょに泳ごうよ!」
「それじゃあ、おれたちも敬太くんの後をついて行くことにしようか。吉之助たちも、おれの背びれを絶対に放したらダメだぞ」
敬太は、砂浜が海に面している島の入り口に向かって再び泳ぎ出しました。吉之助たちを乗せているイルカも、自分の子供といっしょに敬太の後をついて行きました。
浜ノ沖島の入り口へ戻った敬太は、浜辺に置かれている2隻の小舟を次々と波打ち際まで運んでいきました。吉之助たちは、真上まで楽々と小舟を持ち上げる敬太の姿を見ながら目を細めています。
いよいよ、イルカたちと別れるときがやってきました。敬太は、再三のピンチを救ってくれたイルカへ感謝の気持ちを忘れることはありません。
「イルカさん、またここで会えるといいね」
「おれも、敬太くんたちとまた会えるのを楽しみにしているぞ!」
「敬太くん、今度はぼくといっしょに海で泳いだりして遊ぼうね!」
イルカは敬太たちと再び会えるのを楽しみにしながら、子供といっしょに小さい島から沖へ向かって離れて行きました。敬太たちも小舟にそれぞれ乗り込むと、すぐに浜岸村の浜辺に向かって漕ぎ始めました。
「今日は波も穏やかだし、このままいけばすぐに浜辺へ戻ることができるぞ」
「浜辺へ戻ったら、おっかあの赤ちゃんを早く見てみたいなあ」
「ははは、敬太くんは新しい赤ちゃんが生まれるのを楽しみにしているんだね」
敬太はいつになく明るい表情で、新しい赤ちゃんの顔を早く見てみたいと今からワクワクしています。吉之助は、いつも通りの明るい笑顔に戻った敬太を明るい表情で見つめています。
小舟を漕ぎ続けた敬太たちは、無事に浜岸村の浜辺へ戻ることができました。今まで獣人や人食いザメと壮絶な戦いを繰り広げた敬太にとって、海に面している漁村の風景はいつもの日常が再び訪れたことを示すものです。
しかし、ホッと胸をなでおろす暇はありません。敬太は浜辺に小舟を置くと、急いでワンべえといっしょにおみかの家へ走って行きました。家の入り口には、新吉が手を振りながら敬太たちが帰ってくるのを待っています。新吉は、大好きな敬太が約束通りに戻ってきたことが何よりもうれしそうです。
「敬太くん、約束通りここへ戻ってきたんだね! 早く家の中へ入って! 入って!」
「新吉くん、どうしたの?」
「もうちょっとで、おっかあのお腹から赤ちゃんが生まれそうなの」
おみかのお腹にいる赤ちゃんがもうすぐ生まれるとあって、新吉は興奮している様子で敬太たちを家の中へ入れました。そこには、おみかが力綱を使って必死にいきみ続けながら、元気な赤ちゃんを産むためにがんばっています。
「おみかさん、半日近くも力綱を握り続けているけど大丈夫か?」
「かなり苦しいのはよく分かるけど、あと少しの辛抱じゃ」
「うううんっ、ううううううう~ん、ううううううう~ん」
家の中には、長老とおたつがおみかの様子を見守っています。おみかは、ムシロの上に座ったままで力綱を持ちながらいきみ続けています。元気な赤ちゃんを産み落とそうと、おみかは顔から汗がにじみ出るほどの苦しそうな表情を見せながら出産に臨んでいます。
これを見た敬太は、赤ちゃんを生むために必死にがんばっているおみかを励ますことにしました。敬太は、力綱を強く持ち続けているおみかの前へやってきました。
「おっかあ、吉之助さんと常助くんは無事にここへ帰ってきたよ! そして、恐ろしい人食いザメも手強い獣人もやっつけたからね!」
「敬太くん……。よくがんばったね……。あたしも、敬太くんに負けないように元気な赤ちゃんを生むからね……」
おみかは、無事に戻ってきた敬太の姿を見て表情が柔らかくなりました。新吉と同じように、敬太もおみかにとって大事な子供だからです。
敬太は吉之助と常助を無事に見つけたことや、恐ろしい人食いザメや獣人を自分の力でやっつけたことを元気な声でおみかに伝えました。これを聞いたおみかは、敬太の元気いっぱいの表情を見て、改めて元気な赤ちゃんを生むようにがんばることを誓いました。
そのとき、力綱を持っていきみ続けるおみかに強い痛みが襲ってきました。おみかはかなり苦しそうな表情ですが、登美蔵との間にできた赤ちゃんを必死に産み落とそうとしています。
そこへ、新吉がおみかの目の前にいる敬太の隣へやってきました。新吉も、敬太と同じように赤ちゃんが生まれるのが待ちきれないそうです。さらに、敬太に助けられた吉之助や常助も家の中へ入ってきました。
「おっかあ、ぼくたちも赤ちゃんがうまれるのを応援しているからがんばってね!」
「うううんっ、うううう~ん、ううううう~ん!」
必死に赤ちゃんを産もうとするおみかを励まそうと、敬太と新吉はしゃがみ込んで手を後ろに組みました。これを見たおみかは大粒の汗をにじませながらも、かわいい2人からの応援を励みに赤ちゃんを産み落とそうと必死にがんばっています。
「おっかあ、もうちょっとで赤ちゃんが生まれるからがんばって!」
「あとちょっとだから、がんばって! がんばって!」
「うううううう~んっ! うううううう~んっ! ううううううううううう~んんっ!」
敬太と新吉は、赤ちゃんを産もうとするおみかの姿を見ながら応援し続けています。おみかは、赤ちゃんを産むために最後のひと踏ん張りを試みようと強くいきみ続けました。
そして、いよいよそのときがやってきました。それは、おみかにとっても、敬太や新吉にとってもうれしい知らせです。
「おぎゃあっ! おぎゃあっ! おぎゃあっ!」
「おっかあ、赤ちゃんが、赤ちゃんが生まれたよ! こんなにほっぺがかわいい男の子だよ!」
おみかが産み落とした赤ちゃんは、ほっぺたがかわいい元気な男の子です。生まれたばかりの赤ちゃんは、とても元気な泣き声が家屋全体に響き渡りました。
「こりゃあすごいことじゃ! こんなにふっくらした元気な赤ちゃんは初めてじゃ」
「ふふふ、敬太くんや新吉くんみたいな元気いっぱいの子供にすくすくと育ってくれるといいね」
おみかを見守っていた長老とおたつもやさしい眼差しで、泣き声をあげる赤ちゃんの元気さに感心しています。おたつは赤ちゃんのへその緒をすぐに切ると、たらいの中に入っている温めのお湯に赤ちゃんを入れました。
「おめでとう、これがおみかさんと登美蔵さんの赤ちゃんだよ」
「天国にいる登美蔵さんも、赤ちゃんが生まれたことを喜んでいるんじゃないかな」
おたつは、おみかに生まれたばかりの赤ちゃんを見せました。その赤ちゃんは、まるまるとした男の子でおちんちんがついています。
おみかはやさしい顔立ちを見せながら、登美蔵との間に生まれた新しい命を見て思わず涙を流しました。赤ちゃんの誕生はおみか自身にとってはもちろんのこと、天国にいる登美蔵にとってもうれしいことに変わりありません。
「敬太くんも新吉くんも赤ちゃんを抱いてごらん。とってもかわいい赤ちゃんだよ」
「うわ~い! この赤ちゃんがぼくの弟になるのか! これから、ぼくがちゃんとお世話をするからね」
おたつは、自分が抱いている赤ちゃんを新吉に渡しました。新吉は、赤ちゃんを抱きかかえるのが初めてなので少し不安です。
しかし、新吉は両手で抱きかかえた赤ちゃんの笑顔を見て安心しました。これからは、この赤ちゃんもおみかたちの家族に仲間入りするので、一層にぎやかになりそうです。
「敬太くんも、早く赤ちゃんを抱いてみて! こんなにかわいい男の子だよ!」
「おっかあが、ぼくたちのために命がけで生んだ赤ちゃんだもの! ぼくもこの手で赤ちゃんを抱いてみたいよ!」
敬太は、赤ちゃんを抱いている新吉の姿を見て、自分も赤ちゃんを抱いてみたくなりました。そうするうちに、今度は敬太が赤ちゃんを抱くことになりました。
敬太は、新吉から手渡された赤ちゃんを両手で抱きかかえました。赤ちゃんのふっくらとした顔を見て、敬太は改めておみかと登美蔵との間に生まれた新しい命であることを実感しました。かわいい赤ちゃんが生まれるのを、敬太は誰よりも楽しみにしていたのです。
しかし、敬太が両手で赤ちゃんを持ち上げようとしたそのときのことです。
「ジョジョジョ~、ジョパジョパジョパ~」
赤ちゃんは、生まれて初めてのおしっこを敬太の顔面に命中させました。そして、赤ちゃんはおしっこが出てすっきりしたのか、敬太の顔を見ながらうれしそうに喜んでいます。
「きゃっきゃっ、きゃっきゃっ」
「でへへ、赤ちゃんから元気なおしっこをいっぱいかけられちゃったよ」
敬太は、赤ちゃんからおしっこをひっかけられてもめげることは決してありません。少し照れた表情を見せながらも、敬太は普段通りの元気な笑顔を赤ちゃんに見せています。赤ちゃんのほうも機嫌がよくて好奇心がおう盛なので、手足をバタバタさせながら敬太にすっかりなついている様子です。
この様子を見ていた長老は、敬太が赤ちゃんに対してやさしい気持ちを持っていることに目を細めています。
「はっはっは、敬太くんは子供が大好きでいっしょに遊んだりしているからなあ。この赤ちゃんも、敬太くんみたいな元気いっぱいの男の子に育ってほしいぞ」
あれだけ力強くて心のやさしい子供は敬太くんにおいて他はありません。長老は、生まれたばかりの赤ちゃんが敬太みたいな元気な男の子に成長してほしいと願っています。
「それはそうと、おみかさんはこの赤ちゃんにどんな名前を考えているのかな?」
「そうねえ……。やっぱり、登美蔵さんとの間に編まれた子供だから、富次郎という名前はどうかしら」
おみかは、新しい赤ちゃんの名前に今は亡き登美蔵の名前を入れることにしました。漢字は違っても、同じ「とみ」という読み方には赤ちゃんが登美蔵の生まれ変わりであることを示しています。そして、すでに新吉が長男であることから、赤ちゃんの名前は次男である「次郎」を加えて「富次郎」としました。
「おっかあ、赤ちゃんの名前をつけてくれたんだね。これからは富次郎くんと呼ぶことにするよ!」
「ぼくも、これからは富次郎くんのお世話ができるようにがんばるからね」
「敬太くんも、新吉くんも、いつも本当にありがとうね」
敬太と新吉は、富次郎という名前をつけてくれたおみかに感謝の言葉を述べました。赤ちゃんを生んだばかりのおみかには、これ以上負担をかけるわけにはいきません。2人は自分たちで富次郎を抱っこしたり、いっしょに手遊びをしたりしておみかの負担を少しでも減らそうとしています。
「おっかあが産んでくれた赤ちゃんを抱いたら、とってもかわいかったよ。おっかあも早く抱いてみて」
「じゃあ、あたしもこの赤ちゃんを抱いてみるね」
おみかは敬太から富次郎を両手で受け取ると、すぐに富次郎をやさしく抱きかかえました。初めて富次郎を抱いたおみかは、富次郎のかわいいほっぺを見ながらすくすくと成長してほしいと願わずにはいられません。
おみかは富次郎のあどけない笑顔を見ると、すぐに顔を上げて正面を向きました。すると、さっきまで元気で明るい笑顔を見せていた敬太と新吉は座ったままでぐっすりと眠っています。
「おれたちを助けたのみならず、獣人や人食いザメを見事にやっつけたからなあ。あれだけ元気いっぱいの敬太くんも疲れていたんじゃないかな」
「新吉くんのほうも、おみかさんの赤ちゃんが元気に生まれたから安心してぐっすりと眠っているね。2人ともよくがんばったことだし、わしらの手でお布団に寝かせるとするかな」
長老と吉之助は、敬太と新吉のすやすやとした寝顔を見ながら、2人が寝るための布団を敷くことにしました。
「わしらがずっと恐れていた人食いザメをやっつけたということだけでもすごいことだが、その人食いザメ以上に強くて恐ろしい獣人もやっつけたとは……」
長老は、人食いザメも獣人も撃退した敬太の凄まじい力に驚嘆しました。そんな敬太も、普段はかわいくてあどけない7歳児の男の子です。こんなにかわいい男の子が、どうしてあれだけの強大な敵をやっつけることができるのか不思議でなりません。
いずれにせよ、あれだけの壮絶なバトルを繰り広げれば、いつも元気いっぱいの敬太だって疲れないわけではありません。今ごろ、敬太はすやすやと楽しい夢を見ているのは間違いなさそうです。
こうして、敬太にとっても、新吉やおみかにとっても長かった1日はこうして終わりを告げることになりました。
東の空から、いつものように再び太陽が昇り始めました。おみかの家では、新しく家族の一員となった富次郎が加わってにぎやかになっています。
「富次郎くん、わしの顔を覚えている……。わわっ、わわわっ!」
「きゃっきゃっ、きゃっきゃっきゃっ!」
長老は富次郎を抱きかかえると、自分の顔の近くまで高く上げました。そのとき、富次郎は長老の顔面に元気なおしっこを見事に命中させました。
「はっはっは、こんなに元気なおしっこが出たらとてつもない大物になるぞ!」
長老は、富次郎におしっこをひっかけられてたじたじになりながらも、敬太たちと同じようにやさしい笑顔で富次郎に接しました。そのとき、囲炉裏の近くで寝ていた敬太と新吉が自分から起きて待っている様子を長老が目にしました。
「おっ、敬太くんと新吉くんがお布団から起きてわしを呼んでいるなあ。ちょっと行ってみようか」
長老は富次郎をおたつに預けると、すぐに敬太たちが呼んでいる囲炉裏の近くへやってきました。敬太たちが長老を呼んだのは、どうしても見せたいものがあるからです。
「長老さま、これを見て! これを見て!」
「敬太くんも新吉くんも、わしを呼んだのはこのことだったんだね」
長老は敬太と新吉の腹掛けを見て、2人が自分を呼んだ理由がすぐに分かりました。敬太たちは、少し照れた表情を見せながらもかわいい笑顔を見せています。
「ぼくたちは、寝ているときに赤ちゃんだったときの夢を見たんだよ」
「そのときにねえ、思い切り噴水のようなおしっこが出ちゃったよ。そして、こんなに元気いっぱいのおねしょをお布団にしちゃったよ! すごいでしょ!」
敬太と新吉が長老に見せたかったのは、見事にやってしまったでっかいおねしょのお布団です。2人とも、お布団に噴水が命中したかのような大量のおねしょをやってしまいました。
「はっはっは、敬太くんも新吉くんも、生まれたばかりの赤ちゃんに負けず劣らずの見事なおねしょをお布団に命中させちゃったなあ」
「長老さま、今から物干しにおねしょのお布団を干してくるからね。元気いっぱいのおねしょをみんなにも見せてあげるよ!」
長老は、敬太と新吉のおねしょ布団を見ながら目を細めました。2人が描いたおねしょは、長老の顔に元気よく命中させた富次郎のおしっこに匹敵するほどの元気さです。
赤ちゃんが生まれても、毎朝必ずやってしまう敬太と新吉のおねしょは一向に治る見込みがありません。それでも、2人はそんなことを気にしないで、いつものようにおねしょで描かれた布団を物干しに干しています。
そのとき、敬太は青空に登美蔵の姿が再び浮かび上がるのを見ました。敬太は、登美蔵との約束した通りに赤ちゃん誕生の報告をしました。
「おっとう、赤ちゃんが生まれたよ! とってもかわいくて元気な男の子だよ!」
「おおっ、元気な男の子なのか! 敬太くんや新吉くんみたいにすくすくと育ってほしいなあ」
おみかが生んだ赤ちゃんが元気な男の子とあって、登美蔵は喜びもひとしおです。そして、登美蔵は物干しに干されている敬太と新吉のおねしょ布団のほうに目を向けました。
「えへへ、赤ちゃんになった夢を見ちゃって、噴水みたいなおねしょをしちゃったよ」
「ははは、敬太くんも新吉くんも見事にでっかいおねしょをやっちゃったんだね。すぐに治るのは難しいけど、ちょっとずつでもおねしょが治るようにがんばろうね」
敬太たちは、物干しのおねしょ布団を登美蔵に見られたので、少し照れた表情で笑顔を見せています。
「それじゃあ、敬太くんも新吉くんも元気でな! おれは天国から家族のことをずっと見守っているぞ!」
「天国のおっとうに会うことができて、本当にありがとう!」
登美蔵は、敬太たちに天国からずっと見守っているからと言うと、青空に浮かんでいた姿が次第に消えていきました。新吉も、大好きだった登美蔵に会うことができたことに感謝の気持ちを伝えました。
しばらくすると、おみかの出産にも立ち会った吉之助と常助がやってきました。吉之助は、おねしょ布団が干されている物干しの横に敬太たちがいることに気づきました。
「でへへ、吉之助さん、常助くん、今日のおねしょはこんなにすごいぞ!」
「敬太くんも新吉くんも、見事にでっかいおねしょをしちゃったんだね」
敬太は笑顔を見せながら、お布団にベッチョリと描いちゃったおねしょを吉之助たちに見せています。吉之助も、でっかいおねしょをお布団に描いた敬太と新吉に感心することしきりです。
すると、敬太と吉之助が会話している中長老が割って入りました。長老は、敬太にどうしても伝えたいことがあるからです。
「わしは、敬太くんにどうしても……。どうしても伝え……」
長老は、敬太に何か伝えようと口を開けようとしましたが、なかなか言い出すことができません。これを見た敬太は、長老に自分の気持ちを率直に伝えました。
「ぼくは、自分を産んでくれたおっとうとおっかあが今でも大好きだよ。でも、おっとうとおっかあは、獣人たちに命を狙われていることに気づいてどこかへ逃げて行っちゃったんだ」
敬太は、長老たちの前で自分の生みの親のことを話し始めました。
「おっとうとおっかあがどこにいるのか、ぼくは全然知らないんだ。それでも、ぼくはもう一度おっとうとおっかあに会うために旅を続けながら、目の前に立ちふさがる獣人たちをこの手でやっつけているよ!」
敬太は、自分の目で大好きなお父さんとお母さんに会いたいという一心で旅を続けています。長老たちも、こうした思いを話す敬太の姿に思わずうなずきました。
「敬太くんはいつも明るくて元気いっぱいだけど、大好きなお父さんとお母さんに会いたいという思いはずっと持っているんだね」
「長老さま、ぼくはもうすぐこの村を離れて、おっとうとおっかあを探すために再び旅に出なければならないんだ。でも、この村のみんなといっしょに過ごした思い出は決して忘れないよ!」
敬太は、あと数日で浜岸村を離れて再び旅に出ることを決心しました。再び旅に出るということは、おみかや新吉をはじめとする村のみんなと別れることを意味します。
だからこそ、敬太はこの漁村でみんなと過ごした夏のいろんな思い出を改めて思い浮かべています。
そのとき、敬太の言葉を聞いた新吉が、感情を抑えられずに思わず涙が出てきました。
「敬太くんと別れるなんて考えられないよ! 敬太くんは、ぼくにとって兄弟と言っていいくらいの仲良しなんだもん……。ううっ、ううううっ……」
「新吉くん、ごめんね。ぼくも、新吉くんや村の子供たちとずっといっしょに暮らしたいよ。でも、ぼくはどうしても、どうしても本当のおっとうとおっかあに会いたいの…」
「敬太くん……」
新吉は、泣きながら敬太の胸に飛び込んでいきました。いつもいっしょに暮らす敬太とは、兄弟以上の強い絆で結ばれています。
その敬太と別れなければならないという現実は、新吉にとって受け入れがたいものです。新吉が涙声で言った敬太への思いは、敬太にも十分伝わりました。
「この村を離れても、ぼくは新吉くんのことを絶対に忘れないからね! だって、新吉君のことがとても大好きだもん!」
「敬太くんのおかげで、ぼくも素潜りが上手にできるようになったよ! 敬太くんがいなくなっても、自分でモリ突きができるようにがんばるからね!」
敬太は、離れ離れになっても永遠に友達であることを新吉と誓いました。そして、2人はお互いに笑顔を見せながら、友達のしるしである握手を交わしました。
「もう二度と敬太くんと会えないというつらい気持ちはあるけど、それを乗り越えて新吉くんは笑顔で送り出そうと心に決めたみたいだね」
「敬太くんと新吉くんが握手を交わすのを見ると、2人が少しずつ成長しているのが分かるなあ」
長老と吉之助は、つらい気持ちを乗り越えて笑顔で握手する敬太と新吉を見ながら、小さい子供である2人が成長している姿に感心しています。しかし、長老が物干しのほうに目をやると、そこに干されているものを改めて見ながら目を細めています。
「でも、わしは小さい子供のようにかわいい敬太くんと新吉くんのほうがいいと思うぞ。あれだけでっかいおねしょをお布団に描けるのも、2人がいつも元気でかわいい男の子である証拠じゃ」
「長老さま、きょうもこんなにいっぱいおねしょをしちゃったよ! すごいでしょ!」
「はっはっは、やっぱり敬太くんは明るくて元気いっぱいの男の子じゃ!」
長老は敬太と新吉のおねしょ布団を見ながら、いつも元気でかわいい敬太たちをやさしい表情で見つめています。すると、敬太はいつも通りの元気な笑顔で、大きく描かれたおねしょ布団を長老たちに自慢しました。
敬太のおかげで、村人たちも以前のようなにぎやかさが戻ってきました。沖合いで素潜り漁をするときも、人食いザメがいなくなったので安心して潜ることができるようになりました。
「う~んっ、よいしょ! よいしょよいしょ! よいしょよいしょ!」
そして、敬太たちは村人たちといっしょに地引き網に参加しています。敬太は、村人たちと一斉に掛け声を上げながら引き網を力強く引っ張りました。
「うわ~い! こんなにいっぱいお魚が取れたぞ! これだけあれば、おっかあも喜んでくれるぞ」
敬太は、網の中にお魚がいっぱい入っているのを確認すると、あまりのうれしさに足をピョンピョン跳ねながらはしゃいでいます。敬太の明るい笑顔に、新吉をはじめとする子供たちも大喜びです。
そんな子供たちも、もうすぐ訪れる敬太との別れはつらいものがあります。子供たちの多くはまだ幼いこともあり、敬太が村からいなくなると寂しくなってしまうからです。
「敬太くん、どこにも行かないで! 行かないで!」
「行っちゃいや(行ったらいや)! 行っちゃいや!」
清三郎と辰六は、敬太の体にしがみついたままで離れようとしません。2人は、敬太が再び旅に出るために村から去るということが信じられない様子です。さちとなつの女の子2人も、敬太の背中にしがみつこうとします。
子供たちは、いつまでも敬太の明るい笑顔を見てみたいという思いから、この村から絶対に離れたらダメの一点張りです。
敬太も、本当はずっとここで子供たちといっしょに暮らしたいのが本音です。しかし、お父さんとお母さんが獣人に狙われている以上、敬太は再びここから旅に出なければなりません。
すると、その様子を見ていた新吉が敬太にへばりついている子供たちに何か言い始めました。
「ぼくも、敬太くんと別れるのは寂しいよ。でも、敬太くんだって、どこにいるのか分からないおっとうとおっかあを探している途中なんだ」
新吉は、敬太と別れるのがつらい子供たちに、やさしく語り掛けるように言いました。子供たちは、新吉が伝えようとしていることに耳を傾けています。
「だから、敬太くんと最後にお別れするときには、ぼくたちも笑顔で送り出そうよ!」
敬太と別れるのが寂しいのは新吉も同じです。だからこそ、最後は敬太を笑顔で送り出すことを子供たちに言いました。
「ぼくが恐ろしい獣人や人食いザメをやっつけることができたのも、みんながずっと応援してくれたおかげだよ! 本当にありがとう!」
子供たちの応援は、獣人や人食いザメと戦い続けた敬太にとって大きな励みになりました。敬太は、自分を励ましてくれた子供たちに感謝の言葉を述べました。
「わ~い! 敬太くん、だいちゅき(大好き)! だいちゅき!」
子供たちは、敬太から感謝されたのがとてもうれしそうです。あまりのうれしさに、子供たちは大好きな敬太といっしょに遊びたがっています。
すると、辰六が敬太に抱っこをしてほしいと何度も言い出しました。
「抱っこ! 抱っこ! 抱っこ!」
「辰六くん、ぼくに抱っこされるのが大好きかな?」
「だいちゅき! だいちゅき!」
敬太は、すぐに辰六を両手で抱っこをし始めました。辰六は、敬太にやさしく抱かれているので気持ちよさそうです。
今度は、辰六を敬太の顔の手前まで持ち上げました。辰六は、両足をバタバタさせながらうれしそうな笑顔を見せています。しかし、敬太が辰六の笑顔に見とれているそのときのことです。
「ジョジョジョ~、ジョパジョパジョパパァ~」
「わわわっ……。でへへ、辰六くんのおしっこが顔にかけられちゃったよ」
辰六は、敬太の顔面に元気いっぱいのおしっこを見事に命中させました。さすがの敬太も、顔面へのおしっこ命中には照れた表情を見せながらもすっかり参っている様子です。
そして、いよいよ敬太が村人たちと別れる日がやってきました。
敬太は、再び旅に出る準備をするために、奥の方へ置いていた大きい風呂敷と小さい風呂敷を土間のところへ置きました。小さい風呂敷の中には、獣人のそばにあった石板が入っている小さい木箱があります。
本当だったら、すぐにでも大きな風呂敷を背負ってから、家の外でみんなに別れを言うところです。しかし、敬太には風呂敷をそのまま置いたままで外へ出ました。
「おっかあ、庭へ出ても大丈夫なの?」
「ふふふ、敬太くんが言わなくてもあたしは大丈夫だよ。富次郎くんも、あたしのおっぱいをいっぱい飲んでいるみたいだね」
庭には、おみかが富次郎を大事に抱きかかえながら立っています。富次郎は小さい腹掛けをつけた姿で、おみかのおっぱいをチュパチュパと飲み続けているところです。
苦しみながら産み落とした赤ちゃんであるだけに、おみかは富次郎が元気であることが何よりもうれしいそうです。
「敬太くんのおかげで、あたしも新吉くんも寂しい思いをしないで過ごすことができたよ。敬太くんがいなくなるのはつらいけど、これからは新吉くんと富次郎くんと力を合わせてがんばるからね」
いつも明るくて元気な敬太の姿は、登美蔵を失って沈んだ気持ちになったおみかにとっても大きな励みになりました。もし敬太がいなかったら、おみかのお腹から富次郎が無事に生まれることができなかったかもしれません。
「おっかあ、今日もこんなにベッチョリとでっかいおねしょをしちゃったよ!」
「ふふふ、あたしは敬太くんがお布団に描くおねしょを見るのが楽しみだったけど、これを見るのも今日で見納めになるね。だって、こんなにでっかいおねしょをするのは元気な子供だったら当たり前のことだもの」
おみかは、いつものように明るくて元気な敬太の姿を見ながら目を細めています。しかし、そんな敬太の姿を見るのが今日で最後であることに、おみかは一抹の寂しさを感じています。
そこへ、新吉や子供たちが敬太と遊ぶために駆け寄ってきました。
「敬太くん、お別れする前にいっしょに遊ぼうよ!」
「敬太くん、遊ぼ! 遊ぼ!」「いっしょに遊びたいよ!」
「それじゃあ、みんなとお別れする前に海で遊ぼう!」
子供たちは、敬太といっしょに遊ぶのはこれが最後になります。敬太も、二度と会えなくなる子供たちのためにみんなで波打ち際まで行って遊ぶことにしました。
「敬太くん、ぼくもみんなといっしょに遊びたいワン!」
敬太たちが波打ち際までやってくると、ワンべえも仲間に入りたくて砂浜までやってきました。そして、ワンべえは敬太の右肩に飛び乗ると、敬太の顔をペロペロとなめ始めました。
「ペロペロペロペロペロッ~」
「くすぐったいよ~。ワンべえくんは村の子供たちと同じように、ぼくにとって大切な友達だもんね」
ワンべえが敬太の顔をなめるのは、これからも敬太とワンべえがずっと友達であることを示すための愛情表現です。
そのとき、新吉をはじめとする子供たちは、敬太とワンべえに向かっていきなり海水をパシャパシャとかけてきました。
「パシャパシャパシャ!」「パシャパシャパシャ~ン!」
「新吉くん、今度はこっちからお返しだぞ! パシャパシャパシャパシャパシャ!」
「わわわっ! 敬太くんったら、パシャパシャパシャ!」
敬太たちは、海の中に入って水遊びを楽しんでいます。お互いに遊ぶことができるのもこれが最後となりますが、子供たちは敬太と楽しく暮らした思い出をずっと忘れないと決心しました。
そこへ、敬太たちの様子を見るためにおみかが砂浜へやってきました。おみかは富次郎を抱きながら、波打ち際で遊んでいる子供たちの様子を見ています。
敬太たちが砂浜に上がると、敬太と新吉が逆立ち歩きの競争を始めました。2人は逆立ちで腹掛けがめくれておちんちんが見えても気にしません。
「新吉くん、早くしないと先に行っちゃうよ!」
「もうっ、敬太くんったら、先に行かないでちょっと待ってよ~」
逆立ち歩きに慣れている敬太は、両手で楽々と歩き続けていますが、新吉は逆立ち歩きができるようになったばかりなのでなかなか歩を進めることができません。
敬太のあまりの速さに、新吉は敬太にもう少し手加減してほしいと懇願しています。
「ふふふ、敬太くんも新吉くんも、子供たちといっしょに元気に遊んでいるね」
「あれだけ体いっぱい動いていれば、敬太くんたちがいつも元気なのも納得だなあ」
おみかの隣には、長老やおたつ、そして吉之助が次々とやってきました。長老たちも敬太とお別れするのはつらいところですが、最後は笑顔で送り出そうと一斉に集まってきました。
「敬太くん、次は何して遊ぼうかな?」
「ぼくといっしょに遊ぼ!」「遊ぼうよ、遊ぼうよ!」
「新吉くん、今度は……」
子供たちは、敬太とまだまだ遊びたいと駄々をこねています。敬太がこの村を後にするともう会うことができないので、新吉をはじめとする子供たちは敬太と少しでも長く過ごしたいと考えています。
敬太は、何をして遊ぼうか新吉に言いかけた途端、急にお腹が痛くなってきました。
「ギュルギュルゴロゴロゴロッ、ギュルギュルギュルル~」
「敬太くん、もしかして……」
「う、うんちがガマンできないよ……」
新吉は、敬太がお尻を両手で押さえているのを見て、どういう状況なのかすぐに分かりました。敬太は、お尻を押さえながらうんちが出るのを必死にガマンしています。
そのとき、敬太の足元にカニが近づいてきました。しかし、敬太はうんちをガマンしているのに気を取られて、カニが近づいていることに気がついていません。
「いてて、いてて、いてててててっ! カニさんに挟まれちゃった!」
右足をカニに挟まれた敬太は、あまりの痛さに耐えられずに真上へ大きく飛び上がりました。そして、砂浜の上に尻餅をついてしまった敬太は、思わずいつもの元気な音を大きく響かせました。
「プッ、ププッ、プウウ~ッ! ププウウウ~ッ! プププッ、プウウウウウ~ッ!」
元気なおならの音が敬太がいる方向から聞こえたので、おみかたちは尻餅をついた敬太のところへ駆け寄りました。そこには、敬太の様子が心配になった新吉たちも集まっています。
すると、敬太は照れた表情を見せながら、みんなにある物を見せようとしています。
「でへへ、カニさんに足を挟まれて飛び上がったときに力が抜けちゃって、こんなに元気なうんちがいっぱい出ちゃったよ!」
敬太は、尻餅がついたときと同時に元気なうんちがいっぱい出てしまいました。うんちがいっぱい出るのは、敬太が大好きな親イモをいっぱい食べたという立派な証拠です。
「ふふふ、敬太くんは昨日も親イモをいっぱい食べたもんね。でっかいうんちがいっぱい出るのは、好き嫌いなく何でも食べるおかげだよ」
「これだけのうんちがあれば、イモ畑の肥やしとしてたっぷり使えるぞ」
敬太は尻餅をついた状態から立ち上がると、でっかくて元気いっぱいのうんちをみんなに自慢するように見せています。おみかたちもでっかいうんちを見て、敬太がいつものように今日も元気であることがうれしそうです。
敬太の明るい笑顔は、新吉をはじめとする子供たちも大喜びです。そして、村人たちのにぎやかな笑い声に励まされた敬太は、ワンべえといっしょに浜岸村から再び旅立っていきました。




