表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
《獣人のこども》おねしょ敬太くんの大ぼうけん  作者: ケンタシノリ
第5章 敬太くんと人食いザメとの戦い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/115

その14

 「人食いザメを手懐けたって、まさかあのときの?」

 「そのまさかさ! 何を隠そう、人間になりすましてこの村に潜んでいたのはこのわしだぜ! ふはははは、ふはははは!」


 敬太は、人食いザメを手懐けたのが獣人だったことに驚きを隠せません。そして、敬太は留造と戦ったときに感じた衝撃的な事実を思い出しました。


 すると、獣人は敬太が思い出したことを察知するかのように、自らが留造の姿になりすまして潜んでいたことを不気味な笑い声で堂々と言い切りました。


 「獣人め、どうやってなりすましたんだ?」

 「おめえがそんなに言うなら、この場で言わせてもらうぜ。わしは、この島にやってきた村人の男をこの手で殺したのさ、ふはははは!」



 それは、今から2ヶ月近く前のことです。


 海の沖合いで漁をしていた留造は、浜ノ沖島に立ち寄って一休みすることにしました。留造は浜辺へ上がると、自分の腰に巻きつけているスカリの中身を確かめていました。


 「メバルやヒラメがこれだけ取れたことだし、これらの魚を天日干しにすれば、町のほうへ行って高く売ることができるぞ」


 留造は、スカリに入っている大量の魚を見ると、満面の笑みを浮かべながら浜辺を歩いていました。すると、前をよく見ていなかった留造は、突然何やら巨大な岩みたいなものにぶつかりました。


 「いてててて…。うわっ、うわああっ!」


 留造は、ぶつかったはずみで思わず尻餅をついてしまいました。そのとき、留造は目の前にいる巨大な岩の正体に恐れおののきました。


 「ふはははは! わしの顔を見たからには生かして帰るわけにはいかないぜ!」

 「うわわっ! いきなり何を…」

 「うりゃああ! うりゃああっ! うりゃああっ!」


 留造の目の前に現れたのは、でっかい体つきで鬼や雷様とぼぼそっくりの人間のようなものでした。それは、外見から見ても獣人であることは紛れもない事実です。


 獣人は、留造が抵抗する暇を与えることなく、いきなり自らの大きな拳で殴りかかりました。そして、獣人はこれでもかと言わんばかりに、殴る蹴るの激しい暴行を留造に食らわせ続けました。


 「ふはははは! これくらいのことでぐったりするとは、たわいもないやつだなあ」


 獣人は、自らによる一方的な攻撃でぐったり倒れて気絶している留造を見ながら、不気味な笑みを浮かべています。


 「あとは、こいつをどう始末するかだな。まあ、こいつだったらわしの手下がきっちりと始末してくれそうだな。ふはははは!」


 獣人は、気絶したままの留造を背負い上げると、不気味な笑いを響かせながら傾斜のきつい坂道を上って行きました。その長い坂道をしばらく上ると、巨大な岩がある島の頂上にたどり着きました。


 そのとき、気絶していたはずの留造が、獣人に背負われながら連れて行かれることに気がつきました。留造は痛みをこらえながら、どうにかしてこの状況から逃れたいと思案しています。


 「ちっ、もう気づいたのか。急いでこいつを始末しないといけないな」


 獣人は、留造が気づいてしまったことを察知したことから、留造をすぐにでも始末することを決心しました。


 「頼む…。頼むから、ここから放してくれ…」

 「おめえの叫びなど聞くわけなど無いわ! うりゃああ! うりゃああ!」


 留造はかすかな声で獣人に訴えかけましたが、獣人はそんな声に耳を傾けることは毛頭ありません。そして、獣人は背負っていた留造を目の前にある巨大な岩に何度も打ちつけました。


 大きな岩に背中を強打した留造は、地面にぐったり倒れるとそのまま動かなくなりました。これを見た獣人は、怪しげな笑みを浮かべ続けています。


 「ふはははは! いよいよ、こいつの最後の始末をわしの手下にしてもらおうかな。あの場所にずっと待っているから、かなり興奮しているだろうね」


 獣人は、ぐったり倒れたままの留造を持ち上げると、海に面する断崖の手前までやってきました。すると、獣人は冷酷な顔つきを見せながら、留造をいきなり断崖から投げ落としました。


 「ふはははは! わしらにとって、これは久々のごちそうだぜ!」

 「ごちそうを待っていた甲斐があったぜ、ふはははは!」


 そのとき、海面から背びれを出しながら泳いでいる人食いザメの姿がありました。人食いザメは、投げ落とされた留造が海中へ落下するのを見計らうかのように、海面から顔を出しながら鋭い歯をむきだしにしました。


 「それじゃあ、わしらが一気に噛み砕くとするかな、ふはははは!」


 人食いザメは大きな口を開けながら、海の中へドボンと落ちた留造に向かって行きました。すると、海の中は次第に赤い血の色で染まっていきました。


 「ふはははは! わしが手懐けた人食いザメで、この島の向かいにある漁民を噛み殺してやるぜ! ふはははは!」


 獣人は、血の色で染まった海を見ながら、自ら手懐いた人食いザメで浜岸村の漁民たちを噛み殺す計画を不気味な笑い声で言い放ちました。



 獣人は、自ら手懐けた人食いザメのエサとして留造を断崖から投げ落としたことを誇らしげに言い切りました。これを聞いた敬太は、獣人の冷酷な仕打ちで留造が犠牲になったことに怒りで体が震えています。そして、敬太はおみかが話した登美蔵のことを再び思い出しました。


 「まさか、新吉くんのおっとうが人食いザメに噛み殺されたのも獣人が差し向けた手下ということか?」

 「海の沖合いで漁をしているやつは、わしが差し向けた人食いザメが襲いかかって噛み殺してくれるからなあ。ふはははは! ふはははは!」


 敬太は口を震わせながら、登美蔵を噛み殺した人食いザメも獣人が差し向けた手下なのかと問い詰めました。すると、獣人は敬太が言っていることに耳を傾けつつも、自分が差し向けた人食いザメが村人を噛み殺したことを不気味な声で笑いながら言い切りました。


 「よくも、新吉くんのおっとうを、おっとうを…。獣人め、絶対に許さないぞ!」


 敬太は、獣人が差し向けた人食いザメによって登美蔵を噛み殺したことに対する憤りを隠すことができません。獣人に対する恨みを晴らそうと、敬太は絶壁から生えている木から険しい岩壁に飛び移ると、自分の両手と両足を使いながら少しずつ登り始めました。


 「こんなに険しい絶壁を無事に登り切ることができるかな、ふはははは!」

 「獣人がどんなことを言おうとも、ぼくは絶対に断崖まで登って見せるからな!」


 獣人は、必死に絶壁を登り続ける敬太を見て、無事に登り切ることなど不可能とせせら笑いました。しかし、敬太は獣人を絶対にやっつけるためにも、険しい絶壁を歯を食いしばりながら登り続けています。


 そのとき、敬太の脳裏におみかと新吉の姿が浮かび上がりました。脳裏に浮かんだ2人は、獣人をやっつけるために奮闘する敬太を励まそうと言葉をかけています。



 「あたしも元気な赤ちゃんを生まれるようにがんばるから、敬太くんもがんばって!」

 「敬太くん、がんばって! ぼくも応援するからね!」



 敬太は、自分を励ましてくれるおみかや新吉のためにも、獣人を絶対にやっつけてやると改めて心に決めました。おみかと新吉の気持ちを汲み取っているからこそ、敬太は死と隣り合わせの絶壁を必死に登っています。


 そして、敬太は自分の力で険しい絶壁を登り切ろうとしています。敬太は、もうすぐたどり着くであろう断崖のところに目をやりました。しかし、そこには獣人に捕まって叫び声を上げている常助とワンべえの姿がありました。


 「何をするんだ! 放してよ! 放してよ!」

 「早く放してくれワン! 放してくれワン!」

 「ここで騒いだら、人食いザメのいる海の中へドボンだぞ! ふはははは!」


 常助とワンべえは、獣人に何回もここから放してと叫び続けました。しかし、獣人は人質に取った常助たちの叫び声に耳を傾けようとはしません。それどころか、獣人は人食いザメのいる海へ落とすぞと不気味な笑いを交えながら常助たちを脅しています。


 「獣人め、常助くんとワンべえくんに何をするつもりだ! 早く放せ!」

 「ほうほう、おめえがそんなことを言うのなら、こいつらがどうなってもいいのかな? ふはははは!」

 「こんなところから落ちるのは本当に恐いんだワン…」


 敬太は断崖の頂上に手を掛けると、人質となっている常助とワンべえを早く放せと獣人に叫び声を上げながら言いました。しかし、獣人は敬太の声に傾けないで不気味な笑い声を上げると、人質である常助たちを海に突き落とすしぐさを見せました。そのとき、ワンべえは断崖の真下を見た途端、あまりの高さに恐怖で体が震えています。


 敬太は、獣人の脅しにおびえる常助やワンべえの姿を見て、獣人への怒りがふつふつと沸いてきました。すると、吉之助が獣人の人質になっている常助たちの姿を見て、申し訳なさそうな表情をしています。


 「敬太くん、本当にすまん…。おれがちょっと目を離した隙に、常助くんとワンべえくんが獣人の人質になってしまうなんて…」

 「吉之助さん、ぼくがこの手で常助くんもワンべえくんも助けてやるからね!」

 「ほれほれ、この手を放したら、こいつらは人食いザメがいる海に落ちてしまうことになるぞ。そうしたら、この海は真っ赤に染まることになるんだぜ、ふはははは!」


 吉之助は自分が一瞬目を離した隙に、常助たちが獣人の人質に取られてしまったことを後悔しています。これを見た敬太は頼もしげな表情で、吉之助に自分の力で助けてやると言いました。


 しかし、獣人はそんな敬太たちをあざ笑うかのように、海に落ちたら人食いザメによって真っ赤な血の海に染まることになると不気味な声で言いました。その言葉に、人質の常助とワンべえは恐怖で声も出せない状況です。


 敬太にしても、吉之助にしても、常助やワンべえを早く助けたい気持ちはもちろんあります。しかし、その前に常助たちを獣人が海に落としたら、その時点でいっかんの終わりとなることから、助けたくてもなかなか一歩が踏み出せません。


 「ふはははは! わしが言ったことを聞いてもうおじけついたのか?」

 「よくも、よくも、ぼくの大事な友達にひどいことを…。絶対に許さないぞ!」


 獣人は、恐怖で声も出せない常助たちを見ながら、不気味な笑い声を上げました。これを聞いた敬太は、大事な友達である常助とワンべえに恐怖に陥らせようとする獣人への怒りが爆発しました。


 「おっと、おめえがわしに攻撃を仕掛けようものなら、こいつらがどうなっても知らないぞ。ふはははは!」

 「んぐぐぐぐっ…。常助くんとワンべえくんがこのまま海に落ちたら、人食いザメに噛み殺されてしまうし…」


 敬太は、獣人を何としてでも倒そうと断崖の頂上へ上がろうとしました。しかし、獣人は敬太の表情を見て察知すると、人質である常助とワンべえを海へ突き落すしぐさを再び見せました。


 目の前で常助たちが海に落とされるかもしれないことを考えると、敬太は獣人への攻撃を加えることができないことに歯がゆさを感じています。そんな敬太の気持ちを察知した常助は、獣人への恐怖心を振り払いながら、敬太に自分の意思を伝えようと大きな声で言いました。


 「ぼくはどうなっても構わないから、早く獣人をやっつけて!」

 「常助くん、ワンべえくん、ぼくが今から助けに行くぞ! え~い! とりゃあっ! とりゃあっ!」


 常助の声を聞いた敬太は、断崖の頂上へそのまま飛び上がると、獣人に向かって強く体当たりしました。そして、敬太は獣人の両足太ももを両手で握ると、そのまま獣人を地面に押し倒しました。


 「常助くん、ワンべえくん、ケガは無かったか?」

 「敬太くん、助けてくれてありがとうワン!」

 「ぼくも、敬太くんならきっと助けてくれると信じていたよ!」


 獣人によって人質になっていた常助とワンべえは、獣人が地面に倒れているのを見て、すぐに敬太のところへ駆け寄りました。敬太は常助とワンべえに声をかけると、常助たちも敬太に助けてもらったことへの感謝の言葉を述べました。


 しかし、敬太たちが一息ついたのもつかの間、地面に倒れていた獣人が上半身を起こして立ち上がろうとしていました。


 「常助くん、ワンべえくん、急いで吉之助さんのところへ逃げて!」


 敬太は、これ以上常助たちが危険な目にあわせたくないとの思いから、急いで吉之助のいるところへ逃げるよう常助とワンべえに呼びかけました。その間にも、再び立ち上がった獣人は何の予告も無く、いきなり敬太たちに向かって突進してきました。


 「うりゃああっ! うりゃああっ! 地獄へ落ちてしまえ!」


 獣人は、敬太に対する今までの恨みを晴らそうと、ものすごい勢いで突進しています。獣人の狙いは、自らの突進で敬太を断崖から海に落下させ、それを待ち構える人食いザメによって徹底的に噛み殺すことです。


 「獣人がものすごい勢いで突っ込んでくるワン! ぼくといっしょに早く逃げてほしいワン!」

 「常助くんたちの気持ちも分かるけど…。それでも、ぼくは獣人をこの手で倒すまで、絶対にここから逃げたりしないよ!」


 常助もワンべえも、獣人との激しいバトルで傷だらけの体となっている敬太を見て、いっしょにここから逃げてほしいと促しています。それでも、敬太は獣人をやっつけるまで決して逃げないという意思が変わることはありません。


 すると、常助は自分で持ってきた親イモを見ながら、ふと昨日の晩ご飯のことを思い浮かべました。そこには、大好物であるでっかい親イモをおいしそうに食べたり、でっかくて元気なおならが出ちゃったりしながら、明るい笑顔を見せる敬太の姿がありました。


 敬太が凶暴な獣人に堂々と立ち向かうことができるのも、いつも大好きなイモをたくさん食べているおかげなのではないかと常助は思い始めました。


 「敬太くん、でっかい親イモ大好きでしょ! これをあげるから食べてね!」

 「常助くん、どうもありがとう!」


 常助は思い切って右手にある親イモを差し出すと、敬太も喜んでその親イモを受け取りました。それは、友達である敬太への強い思いがあるからこその行動です。常助の思いを感じ取った敬太は、でっかい親イモを受け取るとすぐに感謝の言葉を述べました。


 そのとき、猛然と突進してきた獣人が敬太たちに迫ってきました。獣人の突進は、今までとは考えられないほどの素早さです。


 「常助くん、ワンべえくん、急いでここから…」

 「ふはははは! ふはははは! そんなことを言ったってもう遅いわ!」


 敬太は、常助とワンべえに急いで逃げるように言おうとしました。しかし、素早い突進による獣人の体当たりは、ものすごい威力で敬太たちを突き飛ばしました。獣人に突き飛ばされた敬太たちは、そのまま断崖から真っ逆さまに海に向かって落ちていきます。


 「わわわっ! こんなところで死にたくないワン!」

 「うわああっ! このまま海に落ちて人食いザメのエジキに…」


 常助とワンべえは、自分たちが海に落ちて人食いザメのエサとなってしまうのかという絶望感に包まれました。常助たちが口にした絶望感は、敬太の心の中にも伝わりました。


 「ふはははは! 海の中にドボンと落ちれば、人食いザメがおいしそうに噛み砕くことになるからなあ。今から、赤い血の海を見るのが楽しみだな、ふはははは!」


 獣人は不気味な笑い声を上げながら、真っ逆さまに落下する敬太たちを見ています。そして、人食いザメが敬太たちを噛み砕いて、赤い血で海が染まるのを今から楽しみにしている様子です。



 一方、そのころ海面からは、どう猛な人食いザメ3匹が次々と顔を出してきました。人食いザメは、敬太たちを噛み砕くために、鋭い歯を持つ大きな口を開けながら待ち構えています。


 「おれたちにとってのごちそうがようやくここへやってきたか! あの忌々しい子供を骨まで噛み砕いて血の海に染まるのが今から楽しみだな、ふはははは!」

 「頭領も、あの子供には相当手間取ったみたいだな。まあ、この鋭い歯で他の子供もろともたっぷりと味わうとするか、ふはははは!」


 人食いザメにとっても、敬太から何度も散々な目に遭っています。これまでの恨みを晴らすためにも、敬太たちがそのまま海に落下したら、すぐにでも骨まで砕きながら食べ尽くすつもりです。



 「敬太くん、短い間だったけど友達になってくれてありがとう」

 「本当にありがとうワン。敬太くんのことはずっと忘れないワン」

 「おっとう…。おっかあ…。ごめんね、もう会うことができなくて…」


 常助とワンべえは、もう自分たちが人食いザメに食われることを覚悟した様子で、敬太に友達になってくれたことへの感謝の言葉を述べました。その言葉を聞いた敬太は、お父さんとお母さんに会うことができなくなることや、常助やワンべえを守ることができなかったことへの無力さをまざまざと感じています。


 すると、敬太にとって聞き覚えのある声がどこからともなく聞こえてきました。



 「ここであきらめるなんて、敬太くんらしくないぞ! 敬太くんだったら、どんなことだってできる男の子であると信じているぞ!」

 「おみかさんも、元気な赤ちゃんを生むためにがんばっているからね。敬太くんたちが無事に戻ってくるのを祈っているからね」

 「恐ろしい人食いザメをやっつけた敬太くんなら、どんなことがあっても大丈夫と信じているよ!」

 「敬太くん、がんばって!」

 「ぼくたちも、敬太くんをずっと応援しているよ!」



 「長老さま…。ばあちゃ…。新吉くん…。そして、子供たち…。みんながぼくを応援しているんだ…」


 敬太の耳に入ってきたのは、長老やおたつ、そして新吉をはじめとする子供たちからの応援や励ましの声です。ここにはいなくても、自分を応援してくれる人がいる以上、敬太は絶対あきらめないで獣人をやっつけることを再び心に誓いました。


 そして、敬太は常助から受け取ったばかりのでっかい親イモを見ると、そのまま自分の大きな口にほおばりました。敬太が大好きなでっかい親イモは、自分の歯で丸かじりしながら全部食べ終えました。敬太がいつも力強くて元気いっぱいなのは、いつも大好きなイモを食べているおかげです。


 しかし、断崖から一気に海に向かって落ちていく敬太たちにとっては、もうなすすべもありません。このままだと、人食いザメの鋭い歯で噛み砕かれて血の海に染まるのが身に見えています。常助とワンべえは、鋭い歯を見せている人食いザメの姿が恐くなったので、思わず目をつむりました。


 「ふはははは! ごちそうをたっぷり噛み砕いて、この海を大量の赤い血で…」


 敬太たちの真下にいる人食いザメ3匹は、鋭い歯で噛み砕こうと口を開けたままで待っています。血に飢えているサメたちにとって、敬太たちを早く噛み砕きたいのが待ちきれない様子です。


 しかし、海面に落下するであろうその目前で、敬太たちが突然姿が消えました。これには、頭領である獣人からの最高のごちそうをいただくはずだった人食いザメたちも驚きを隠せません。


 「おい、せっかくのごちそうが急にいなくなったぞ」

 「そういえば、おれたちの目の前で何かが通った気が…。以前にも獲物を噛み砕く目前でじゃまが入ったことがあるからなあ」

 「まだ遠くへ行っていないはずだ! 早くごちそうである獲物を徹底的に探せ! 見つけたら、その場で噛み殺せ! 噛み殺せ!」


 人食いザメたちは、自分たちの手で噛み殺すつもりだった敬太たちがいなくなったことにあわてふためいている様子です。そして、人食いザメは鋭い目つきで激しい怒りをあらわにすると、すぐさま断崖直下の海面を隅々まで探し始めました。今度こそ敬太たちを見つけたら、その場で噛み砕こうとサメたちは鋭い歯を見せています。



 「何とか間に合ったな。もうちょっとで、人食いザメに噛み殺されるところだったぞ」

 「イルカさん、また助けてくれてありがとう!」


 敬太たちを救ってくれたのは、少し前に人食いザメに襲われる寸前で敬太を助けてくれたイルカでした。どんなに困難なことであっても絶対にあきらめないという敬太の強い気持ちが、そのままイルカに伝わったようです。



 イルカは、たまたま浜ノ沖島の断崖付近を泳いでいた最中に海面から顔を出すと、断崖から落下する敬太たちの姿を見つけました。敬太たちの真下には、人食いザメ3匹が大きな口を開けて待ち構えていました。


 「あれは、もしかして敬太くんでは? それに、別の子供と子犬も…。このままだと、あの人食いザメのエジキになってしまうぞ」


 イルカは、とっさの判断で海面から素早くジャンプしました。そして、鋭い歯を見せている人食いザメたちを飛び越えると同時に、真っ逆さまに落下した敬太たちを背中で受け止めることができました。イルカの素早い動きには、どう猛な人食いザメであっても敬太たちが姿を消したとあわてふためくのも無理もないことです。



 「恐がずに真正面から立ち向かっていくのが敬太くんのいいところだけど、あまり度が過ぎて無茶なことをしてはダメだぞ」

 「イルカさん、無茶なことをしちゃってごめんなさい」

 「ははは、そんなにかしこまらなくても大丈夫だよ。ただ、おれにも子供がいるし、そう考えると敬太くんのことがどうしても心配になってしまうさ」


 イルカは、恐がらずに立ち向かっていくが故に無茶なことをしてしまう敬太のことが心配でたまりません。しかし、村人たちが恐れるどう猛な人食いザメをやっつけたのが敬太であるというのもまた事実です。そう考えると、イルカは少し複雑な心境を感じているようです。


 そのとき、目を開けた常助とワンべえがびっくりした様子でイルカの背びれを見ています。ワンべえは、その背びれが人食いザメの背びれに見えたようで少し恐がっています。


 「わわわっ! この背びれって、まさか…」

 「常助くん、ワンべえくん、この背びれはイルカさんの背びれだから大丈夫だよ。イルカさんはとってもやさしいんだよ」

 「なんだ、イルカさんだったのかワン。人食いザメじゃなくて本当によかったワン」


 敬太は、常助やワンべえが座っている手前の背びれがイルカの背びれであると教えました。これを聞いたワンべえは、イルカの背びれだったので一安心しました。


 「これから海の中へ潜り込むから、手を離したらダメだぞ」


 イルカは、人食いザメの群れを飛び越えた勢いで海の中へ潜っていきました。敬太たちは、手を離さないようにイルカにへばりついています。ここで手を離して海中に投げ出されると、血に飢えた人食いザメが即座に襲いかかるリスクが大きくなります。


 「わ~い! イルカさんは泳ぐのがとっても速いね!」

 「ははは、敬太くんはおれの背中に乗ったことがあるから、イルカが海の中を早く泳ぐというのはよく知っているね」


 獣人との壮絶な戦いが続いている敬太にとって、イルカにまたがりながらの海中遊泳はつかの間の休息となりました。


 敬太は、常助とワンべえがいるイルカの背びれの方向へ振り向きましたが、そこにはワンべえの姿が見当たりません。


 「敬太くん、ワンべえくんが急にいなくなってしまった…。どうしよう…」

 「まさか、海の中に投げ出されておぼれているのでは…。このままではワンべえくんが危ない!」


 常助は、自分といっしょに背びれのところにいたはずのワンべえが急にいなくなったことに気付いて困り果てています。これを聞いた敬太は、ワンべえが海中に投げ出されておぼれているのではと心配になりました。


 しかも、断崖の真下には、獣人が手懐けた人食いザメ3匹がうようよと泳いでいます。このままでは、人食いザメたちがワンべえに襲いかかってきてもおかしくありません。


 「敬太くん、人食いザメが襲ってくるだろうから、このモリを持っていくといいよ」


 常助は、左手で持っていたモリを敬太に手渡しました。そのモリは、敬太が持ってきた登美蔵の形見といえるものです。鋭い歯をむき出しにする人食いザメとの戦いでは、このモリを使うのが不可欠となります。


 「常助くん、ありがとう! おっとうの形見であるこのモリで、どう猛な人食いザメに堂々と立ち向かっていくぞ!」


 敬太は、登美蔵の形見であるモリを握りしめながら、ワンべえを助けるときに人食いザメが襲い掛かっても自ら立ち向かっていくことを誓いました。


 「イルカさん、常助くんを島の入口の砂浜のところまで連れて行ってね! ぼくは、これからワンべえくんがどこにいるのか捜してくるよ!」

 「そこまで強い気持ちがあるのなら、おれは敬太くんに行くなと止めるようなことはしないよ。だけど、くれぐれも無茶なことは絶対に…」


 敬太は、常助を浜ノ沖島の入り口である砂浜のところへ連れていくようにイルカにお願いしました。そして、敬太自身はワンべえの行方を捜すために、モリを右手で持ちながら海中を泳いで行きました。


 イルカは、ワンべえを一刻も早く助けたいという敬太の強い気持ちを汲み取ったので、決して敬太を止めるようなことはしませんでした。しかし、敬太がこの前と同様に人食いザメをやっつけることができるとは限りません。


 イルカは、敬太が危険で無茶なことをしないように忠告しようとしました。しかし、敬太はすでにワンべえを捜すべく海中を泳いでおり、イルカが発した忠告が敬太の耳に入ることはありませんでした。


 「敬太くんは黙って見過ごすのが大嫌いだから、助けるためだったら人食いザメに真正面から立ち向かう気持ちはよく分かるけど…」


 イルカは、どう猛な人食いザメが周囲にいても真正面から突っ込んでいく敬太のことが気になって仕方がありません。それでも、断崖の真下で人食いザメが遊泳している以上、ワンべえを救うことができるのは敬太しかいません。


 イルカは心の中で、敬太が何ごともなく無事であってほしいと祈ると、常助を自分の背びれに乗せました。そして、イルカは島の入り口にある浜辺のところまで常助を連れて行きました。



 「断崖の真下まであと少しだけど、あそこには人食いザメが待ち構えているからなあ。早くワンべえくんを見つけ出さないと…」


 敬太は、人食いザメたちが襲ってくることを見越して、右手にモリを握りながら海中を遊泳しています。もしかしたら、イルカが海中に飛び込んだときの弾みで海中に投げ出されたのではと敬太は少し不安になってきました。海中でおぼれたり、人食いザメに襲われたりするようなことがあったら、ワンべえが命を落とす可能性が高くなるからです。


 すると、海面で誰かがおぼれているのを敬太が目撃すると、急いで海面まで浮上しました。そこには、今にも力尽きそうな様子のワンべえの姿がありました。


 「あっぷ、あっぷ…。だれか、だれか助けて…」

 「ワンべえくん、今すぐ助けるからな!」


 まだ自分の力で泳ぐことができないワンべえは、海水を飲み込んでそのままおぼれてしまいました。その表情は、あっぷあっぷと苦しそうな様子です。これを見た敬太は、目の前にいるワンべえをすぐに抱きかかえました。


 「ワンべえくん、大丈夫か?」

 「イルカさんから手を離しちゃったので、海の中でおぼれて本当に苦しかったワン…。でも、敬太くんのおかげで何とか助かったワン」


 ワンべえが海でおぼれたのは、イルカの背びれから手を離して海中に投げ出されたからです。ワンべえは、自分を助けてくれた敬太に対して感謝の気持ちでいっぱいです。


 「人食いザメめ、今度こそ絶対にやっつけてやるぞ! ワンべえくん、ぼくの右肩につかまってね!」


 そのとき、敬太たちの前方から人食いザメたちの背びれが突然現れました。これを見た敬太は、しつこく襲い掛かってくる人食いザメを絶対にやっつけると決心すると、ワンべえを自分の右肩に乗せました。


 すると、人食いザメは間髪を入れずに海面から顔を出しました。そして、敬太たちがいることを確認すると、鋭い歯を見せながら大きな口を開けました。


 「ふはははは! おれたちのエサになるために自分からやってくるとはなあ!」

 「この子犬といっしょに噛み砕くとするかな! 今までで最高のごちそうになるのは間違いないことだし、ふはははは!」

 「こんなところで人食いザメのごちそうになってたまるか!」


 人食いザメは、自分たちの獲物である敬太とワンべえを見つけると、不気味な笑みを浮かべながら素早い動きで噛みつこうと襲ってきました。しかし、敬太はどう猛なサメたちが相手であっても、右手で握っているモリを持ちながら立ち向かっていきます。


 「え~い! えいえ~いっ! とりゃあっ! とりゃあっ!」

 「ウギャアアア! いてててて! いてててて! いててててて!」


 人食いザメ3匹は横一列に並ぶように遊泳しながら、鋭い歯をむき出しにして敬太たちに迫ってきました。敬太は、真ん中にいる人食いザメの鼻面に狙いを定めると、モリで思い切り鼻面を何回も突き刺しました。鼻面を突き刺された人食いザメは、かなり痛々しそうに海の中でパシャパシャとのたうち回っています。


 「人食いザメめ、どうだ! これでも、まだ村人たちを襲って噛み殺す気か!」

 「ふはははは、おれたちがまだいることを忘れたらいけないぜ!」


 敬太は、のたうち回る人食いザメを見ながら、他の人食いザメ2匹に村人たちを襲うのをやめるよう強い口調で言いました。


 しかし、そんな敬太の声に、人食いザメは一切耳を傾けようとはしません。そして、人食いザメ2匹は大きな口を開けながら、敬太とワンべえを挟み撃ちするように噛みつこうとしています。


 「このままじゃ、ぼくもワンべえくんも人食いザメに噛み砕かれてしまうぞ。かといって、海の中からだとそのまま飛び上がることも難しいし、どうすればいいんだ」


 敬太は、人食いザメに挟み撃ちされたら、ワンべえともどもサメに噛み砕かれて命を落としてしまうのは間違いありません。しかし、海中からそのまま大きくジャンプすることは非常に困難です。これまでの獣人たちを含めた数々の戦いの中で、敬太は最大の危機を迎えています。


 「ふはははは、もうおじけついたのか! それじゃあ、おれたちがこの歯でおめえに噛みつくとするかな、ふはははは!」


 人食いザメたちは、もうなすすべもない敬太たちを見て不気味な笑い声を上げています。そして、自らの鋭い歯で赤い血をたっぷりと含ませて食べ尽くすのを心の中で想像しているところです。


 そのとき、敬太は非常に困難とされる海中からのジャンプに、自分の力で思い切って挑むことを決意しました。


 「こうなったら、いちかばちか海の中から思い切り飛び上がるぞ! ワンべえくん、ちょっと海の中へ潜るけど大丈夫?」


 敬太は、ワンべえが再びおぼれてしまうのではと少し不安を感じつつも、人食いザメの襲撃をかわすためには海中からのジャンプしか方法がありません。不安要素ばかり考えていたら、敬太たちは鋭い歯を持ったサメのエジキになってしまいます。


 「敬太くんのためだったら、どんなことがあってもついて行くワン!」


 それでも、敬太が危険と隣り合わせの挑戦を決意したことに、ワンべえも敬太の行動を信じていっしょについて行くと言いました。


 「ワンべえくん、いったん海の中に潜ってから飛び上がるから、手を離さないでね!」

 「敬太くん、今度は絶対に手を離さないワン」


 敬太はワンべえが右肩に乗っているのを確認すると、すぐに海の中へ潜りました。ワンべえも絶対に手を離さないと心に誓いながら、敬太の右肩につかみ続けています。


 この動きを見た人食いザメたちも、敬太たちを追うように海中へ潜って行きました。人食いザメにとって、目の前にいる敬太たちを噛み殺すチャンスをこれ以上逃すわけにはいかないからです。


 「どこへ逃げようと、おれたちから逃れることなんか絶対に…」

 「行くぞ! え~い! え~い!」

 「グエグエッ! いたたたたたっ! いたたたたっ!」


 人食いザメたちは、海中で再び敬太たちを挟み撃ちにして、自分たちの鋭い歯で噛み殺そうと迫ってきました。すると、敬太は右手で握っているモリを使って、一方の人食いザメの鼻面に思い切り強く突き刺しました。サメは、敬太の攻撃によって鼻面に突き刺されたのでかなり痛がっている様子です。


 「今のうちに飛び上がるぞ! え~いっ!」

 「グエッ! グエッ! グエグエグエッ!」


 人食いザメは、あまりの痛さに敬太へ攻撃を加えることができません。敬太はそのタイミングを見計らうと、すぐさまにサメの鼻面に右足を何度も強く踏み続けました。敬太に鼻面を強く踏まれるたびに、人食いザメはガマンできないほどの強烈な痛みで顔をゆがめています。


 そのとき、この様子を見ていたもう一方の人食いザメが、敬太たちの目の前で大きな口を開けながら襲ってきました。こんな小さい子供1人を相手に仕留めることができないことに、人食いザメたちは完全に焦っています。


 「おれの仲間をこんな目に遭わせやがって…。どんなことがあっても、おめえを絶対に許さない…」


 もう一方の人食いザメは大きな口で鋭い歯を見せながら、敬太を一気に噛み砕こうと試みようとします。敬太に対するサメの鋭い目つきは、殺気に満ちた表情そのものです。


 しかし、その動きを察知した敬太は、すぐさまに目前に迫ってきた人食いザメの鼻面めがけてモリを突き刺そうとします。


 「えいえ~いっ! よくも、よくも、新吉くんのおっとうを噛み殺しやがって…」

 「グエグエッ! グエグエグエッ! グエグエッ…」


 敬太は、人食いザメに噛み殺された登美蔵の無念を晴らそうと、登美蔵の形見であるこのモリでサメの鼻面を突き刺しました。鋭くとがったモリを突き刺されたサメは、想像もできないほどの痛みに襲われました。これでは、敬太を噛み砕こうとしても、強烈な痛みで攻撃どころではありません。


 「ここを踏み台にすれば、思い切り飛び上がることができるぞ! え~いっ!」


 敬太はもう一方の人食いザメの鼻面へ飛び移りました。そして、サメの鼻面を思い切り踏みつけると同時に、敬太たちは海面から飛び上がることができました。


 そして、海面から飛び上がると同時に、敬太の額が突然光り始めました。


 「いててててっ…。あのチビめ…」

 「おい、あそこを見ろ! 真上の空中に何か光っているのが見えるぞ!」

 「わわわっ、あれは目があけられないほどまぶしい」


 人食いザメは、敬太の攻撃で痛めているのをこらえながら海面から顔を出しました。すると、自分たちの真上に飛び上がった敬太を見た途端、まぶしい光がサメたちの目に入りました。


 そして、まぶしく光っていた敬太の額には、獣人の紋章が現れました。この獣人の紋章こそ、人間の姿に変えた獣人同士から生まれた子供である立派な証拠です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ