その12
「いまだに雨が強く降り続いているなあ。風も強く吹いているし、波打ち際に次々と波が打ち寄せているぞ」
洞窟から出てきた敬太と常助ですが、鉛色の雲に覆われている空からは強い雨が断続的に降っています。その上、波打ち際には大しけに伴う波が次々と打ち寄せています。
「敬太くん、こんなに大しけの海の中へ入っても大丈夫なの?」
「常助くん、ぼくといっしょに手をつなごうよ! いっしょに海の中へ入れば、恐がらなくても大丈夫だよ」
常助は、波が打ち寄せている大しけの海に入ることに不安を感じています。常助の心の中では、わかめ採りの途中で深みにはまっておぼれてしまったときの様子が再び思い浮かびました。
そのとき、敬太は自分の左手を常助に差し出しました。敬太は、手をつないで海の中へ入れば、恐がらなくても大丈夫と常助に言いました。
「敬太くん、手をつなぐのはどうしてなの?」
「手をつなぐのは友達のあかしだよ。だって、常助くんはぼくの友達だもん!」
「敬太くん、ぼくと友達になってくれてとってもうれしいよ!」
常助は、どうして手をつなぐのか敬太に聞いてみました。すると、敬太は常助と手をつなぐのは友達のあかしであると明るい笑顔で答えました。これを聞いた常助は、敬太が友達になってくれると言ったのでうれしそうな表情を見せました。
「それじゃあ、いっしょに手をつないで海の中へ入るよ!」
敬太は、常助といっしょに手をつなぐと、すぐに波が打ち寄せる海の中へ入りました。普段なら、穏やかな海で2人で水遊びをしたいところです。しかし、今日は風を伴った強い雨が降り続いている大荒れの天気であることから、早いうちに浜辺へ戻らないと沖に流されてしまう恐れがあります。2人が海の中に入っている間にも、相変わらず大しけによる波しぶきが波打ち際に打ち寄せています。
「敬太くん、おもらししちゃったふんどしを海の中で洗ったよ!」
「海が大荒れだから、すぐに浜辺へ戻らないといけないなあ。常助くん、手をつないで海から上がろうね!」
常助は、ふんどしを付けたままで海の中で洗い流したことを敬太に言いました。これを聞いた敬太は、すぐに常助といっしょに海の中から浜辺へ上がることにしました。敬太と常助は、お互いに手をつないだままで海から上がりました。
すると、敬太のお腹からいつものでっかい音が鳴りました。
「ぐうううううっ~。でへへ、お腹から元気な音が鳴っちゃったよ。常助くんもお腹がすいたかな?」
「そういえば、ぼくもお腹がすいてきたなあ」
敬太は、お腹がすいた音が元気になったので、少し照れた表情を見せました。これを見た常助も、自分もお腹がすいたと感じている様子です。
敬太は、さっき出たばかりの洞窟の周りを見渡していると、砂浜の中央付近から島の頂上へ向かう山道を見つけました。その山道は、山林が数多く繁っている中を縫うように通っており、なおかつ急な傾斜を上らなければなりません。
それでも、敬太は何とかして今日の晩ご飯を探そうと1人で山道を上ることを決心しました。
「これから、ぼくがこの山道を上りながら晩ご飯があるかどうか探してくるよ! 常助くんは、このモリを持って先に洞窟の中へ戻ってね」
「敬太くん、まだ雨が強く降っているんだけど、本当に大丈夫なの?」
「ぼくは、こんなに急な山道であっても、雨でぬかるんでいるところであっても、全く苦にすることなく歩くことができるよ!」
敬太は、これからこの急な山道を上って晩ご飯を探しに行くので、自分が持っているモリを常助に手渡して先に洞窟へ戻るように言いました。しかし、常助はいまだに雨が強く降っている悪天候の中で敬太は本当に大丈夫なのかと心配そうに見ています。
そんな常助の心配をよそに、敬太は傾斜が急な山道であろうと、ぬかるみになっている道であろうと平気で歩くことができると常助に言いました。そして、敬太はいつもの明るい表情を見せながら、小さい島の急な山道を上り始めました。
「よいしょ、よいしょ! 雨が降っていて足がぬかるみにはまりそうだけど、こんな山道を歩くことぐらい全然平気だぞ!」
敬太は傾斜のきつい山道を上っていますが、強い雨が降り続いている中で山道も完全にぬかるんでいる状態になっています。このため、敬太は歩くたびに足がぬかるみの中にめり込みそうになります。しかし、そんな中であっても、敬太は持ち前の明るさで上り坂を1歩ずつ上がって行きました。
すると、山林が生い茂っている山道の途中に、何やら家らしきものが右側に見えてきました。これを見た敬太は、雑草をかき分けながら家のある方向へ進んで行きました。
「あんなところに家があるということは、昔はこの小さい島にも人が住んでいたということかな?」
敬太は、かつて浜ノ沖島は有人島であったと吉之助が言ったことを思い出しました。こんな小さい無人島であっても、家があるということはここで生活していた島民が存在していたという証拠です。
「うわっ、こんなに草が生い茂ったところに家があるんだなあ。まるで、ぼくが村で暮らしていたときに住んだ家みたいだ」
敬太がその家を見つけると、自分が村でおじいちゃんやおばあちゃんと暮らしていた家に似た雰囲気を感じました。その家は、敬太が暮らした家と同じように壁がボロボロとなっています。しかし、外観を見る限り、空き家になってから年月が経過している家屋にしては、屋根が朽ち果てている様子はほとんどありません。
敬太は、その家の庭から見下ろすように浜辺のほうを眺めました。庭先には、推定で約10尺(約30m)の高さの崖があります。少しでも足を踏み外したら、急斜面から真っ逆さまに転落して命を落としかねません。
敬太は、空き家の庭からさらに奥のほうへ行きました。すると、そこには何やら大きな葉っぱが広がっている場所がありました。その葉っぱを見た敬太は、おみかや新吉といっしょに段々畑でサトイモを収穫しているときのことを思い出しました。
「もしかして、これはぼくの大好きなサトイモの葉っぱかな?」
敬太は、その葉っぱがあるところを両手で掘り出し始めました。敬太は、サトイモを掘り出すときも木くわを使わないで、そのまま両手を使って掘り出します。
すると、敬太はいつもよりも容易に土を掘り出すと、そのまま大きな親イモを2個も掘り出すことができました。その親イモの周りに子イモや孫イモが何十個もくっついているのを見て、敬太は思わず大喜びしました。
「うわ~い! こんなにでっかい親イモを掘り出したぞ! この親イモを吉之助さんや常助くんにも見せるぞ!」
敬太は、掘り出したばかりの親イモに見ながら目を輝かせています。敬太はどんなに強い雨に打たれても、いつも赤い腹掛け1枚だけなので全く平気です。
敬太は、雨が降り続いているにもかかわらず、獲れたての親イモを両手で1株ずつ持ちながら走り出すと、再び傾斜のきつい山道に出ました。敬太は、収穫したばかりの親イモを早く吉之助たちに見せたいので、下り坂になっている山道を駆け下りました。
そのころ、吉之助と常助が洞窟の中から浜辺のほうへ出てきました。ワンべえも、吉之助たちの後をついて行くように洞窟から出てきました。吉之助たちが洞窟から出てきたのは、晩ご飯を探しに行った敬太のことが心配になったからです。
「敬太くんは、この山道を上って晩ご飯を探しに行くと言っていたよ」
「こんなに雨が降っているのに、あんなに急な山道を上がって行ったのか」
吉之助は、敬太が山道の中へ入ったことを常助から聞くと、雨の中であるにもかかわらず晩ご飯の食べ物探しに行った敬太のことが心配になりました。
すると、吉之助たちがいつも聞いている元気な声が山道のほうから聞こえてきました。
「吉之助さん、吉之助さん! 敬太くんが戻ってきたよ」
「おおっ、敬太くんが何かを持って山道を下りてきたぞ!」
吉之助と常助は、山道から駆け下りる敬太が見えたので、急いで浜辺から山道の入り口の近くまでやってきました。そして、2人は自分たちの存在を気づかせるために、敬太に向かって手を振っています。
「吉之助さん、常助くん、見て見て! こんなにでっかい親イモを…」
敬太は、山道の入り口近くにいる吉之助たちがいるのが見えたので、晩ご飯として親イモを掘り出してきたことを元気な声で言おうとしました。しかし、敬太は山道の入り口に戻る手前で下り坂に右足を滑らせると、そのまま尻餅を突いてしまいました。
「敬太くん、大丈夫か? ケガは無かったか?」
「吉之助さん、常助くん、ぼくは大丈夫だよ。急な下り坂を駆け下りたら、つい足を滑らせて尻餅を突いちゃったよ」
吉之助と常助は、山道の入り口付近で足を滑らせた敬太のことが心配になったので、すぐに敬太のところへ行きました。しかし、敬太は急傾斜の下り坂を駆け下りて足が滑ったけど、尻餅を突いただけで何一つケガはありませんでした。
敬太は、足が滑って思わず尻餅を突いてしまったことを笑顔を見せながら言うと、この様子を見た吉之助と常助も一安心しました。
「敬太くん、駆け足で坂道を下りるときには気をつけてほしいワン」
「でへへ、これからはケガをしないように気をつけるよ」
ワンべえは、駆け足で坂道を下りるのはケガをするかもしれないので注意するように敬太に忠告しました。ワンべえからの忠告を聞いた敬太は、ケガをしないように十分気をつけると照れた顔つきを見せながら言いました。
「吉之助さん、吉之助さん! ぼくは山道の途中で小さい家を見つけたんだよ!」
「山道を上がる途中に小さい空き家を見つけたということか! ずっと暗い洞窟の中だと気が滅入るし、空き家があればそこで一晩過ごしてもいいかな」
敬太は、山道を上っている途中で小さい空き家を見つけたことを吉之助に言いました。これを聞いた吉之助も、暗い洞窟の中だと気が滅入ってしまうので、空き家があればそこで一晩過ごしてもいいかなと言いました。
「敬太くん、このでっかい親イモはどこで取ってきたの?」
「この親イモは、さっき見つけた小さい家の奥のほうで掘り出したんだよ! これだけあったら、お腹いっぱい晩ご飯を食べることができるぞ!」
常助は、敬太が両手で持っているでっかい親イモを見ながら、その親イモをどこで取ってきたのか聞いてみました。敬太は、小さい空き家を見つけた直後に、その家の奥のほうで親イモを掘り出したと常助に言いました。親イモの周りには子イモや孫イモがたくさんくっついているので、敬太はお腹いっぱい晩ご飯を食べることができると元気な声で言いました。
敬太は、収穫した親イモが土で汚れているので、すぐに海の中で親イモの汚れたところを洗い流しました。そして、再び吉之助たちがいる山道の手前のところへ戻りました。
「それじゃあ、ぼくがその家のあるところを教えるから、吉之助さんも常助くんもついてきてね!」
敬太は、自分が見つけた小さい空き家のところまで案内することにしました。吉之助と常助、そしてワンべえの2人と1匹は、山道を上っている敬太の後をついて行きました。しかし、山道は雨が降っているので地面がぬかるんでいるので、吉之助たちは上り坂を進むのに一苦労しています。
「雨がいっぱい降っているから、山道がぬかるんで歩きにくくなるということは知っているけど…」
「こんなにぬかるんだ坂道だと、ぼくはなかなか先へ進めないよ」
吉之助と常助は、ただでさえ傾斜のきつい坂道である上に、雨が降り続くことで地面がぬかるんでいるので歩きづらそうな表情を見せています。そんな中にあって、敬太はぬかるんでいる上り坂であっても手慣れた様子で歩き続けています。
「吉之助さんも常助くんも、ゆっくり踏むように歩くようにすれば、こんなぬかるみの山道であっても上ることができるよ!」
敬太は、ぬかるんでいる山道の歩き方を吉之助たちに教えました。すると、吉之助たちは敬太のアドバイスを聞くと、地面のぬかるみに足を取られることなく上り坂を何とか歩くことができました。
そして、ワンべえもぬかるんだ山道をピョンピョン跳ねるように走っています。
「敬太くん、こっちを見て! こんなぬかるみであっても、ぼくはピョンピョン上ることができるワン!」
「ワンべえくん、パシャパシャと泥んこだらけになったけど、大丈夫かな?」
「ぼくは泥んこになっても大丈夫だワン! まだ雨が降っているから、これで泥んこを落とすことができるワン!」
敬太は、急な坂道を4本足で走りながら上っているワンべえを見ましたが、ワンべえの体はぬかるみで飛び散った泥でまみれています。でも、ワンべえは泥まみれになっても雨で洗い流すことができるから大丈夫と敬太に言いました。
「吉之助さん! 常助くん! ワンべえくん! ぼくがさっき行った家はこっちにあるよ!」
「うわっ、こんなに草木が生い茂った中を通って行くのか…。無人島になってから何年か経っているからなあ」
敬太は、傾斜のきつい山道から右側へ入りながら、自分が見つけた空き家を吉之助と常助、そしてワンべえに案内しています。吉之助たちも、草木の生い茂っているところをかき分けながら敬太の後をついて行きました。
「この空き家は壁がボロボロだなあ。だけど、一晩過ごすぐらいならいいかな」
吉之助は、敬太が案内した空き家をこの目で見て、どんな外観なのか確認しました。その家は、無人島になってから何年も経過していることもあり、壁がボロボロになっています。しかし、屋根が朽ちていないので、一晩過ごす程度なら空き家の中で間ってもいいかなと吉之助は言いました。
「それじゃあ、この家の引戸を開けるよ!」
敬太は、その空き家の引戸をすぐに開けると、吉之助たちといっしょにその家の中へ入りました。何年も家の主が不在であることを示すように、空き家の中にはクモの巣が天井のあちこちにあります。
「ここで一晩過ごすの? 薄暗くて気味が悪いよ…」
「常助くん、気にしなくても大丈夫だよ。ぼくが守ってあげるからね」
常助は、薄暗い室内ということも相まって、ここで一晩過ごすことに不安を感じています。すると、敬太はそんな常助の様子を見て、自分が守ってあげるから大丈夫だよと常助を励ましました。
敬太は、両手で持っている親イモを土間の床へ置くと、空き家の天井に張っていたクモの巣を何回もジャンプしながら取り除いています。高いジャンプ力がある敬太にとって、天井までジャンプするのはお手のものです。
「家の中にあったクモの巣は全部取ったから、もう大丈夫だよ!」
「敬太くん、ぼくのためにここまでしてくれて本当にありがとう。ぼくも、敬太くんみたいに頼もしくなりたいよ」
「ぼくがいろんなことができるようになったのも、生まれ育った村でじいちゃとばあちゃからいろいろ教えてもらったからおかげだよ。常助くんだって、そのうちぼくみたいに何でもできるようになるよ!」
常助は、敬太が空き家のクモの巣を全部取ったのを見て、自分も敬太みたいに頼もしい子供になりたいと言いました。すると、敬太は自分を育ててくれたおじいちゃんとおばあちゃんがいろんなことを教えてくれたおかげで、どんなことでもできるようになったと常助に言いました。そして、敬太は明るい笑顔を見せながら、そのうち何でもできるようになると常助を励ましました。
「こんなところに薪みたいなのがいくつかあるけど、これはボロボロになっているのばかりだなあ。まあ、あまり湿っていないからそのまま使うことはできるな」
吉之助は、土間に置いていた薪らしきものを手にしましたが、それは何年も土間に置かれたままだったので、シロアリに食われてボロボロの状態になっています。
幸いなことに、その薪は家屋の中にあったおかげで雨ざらしにならなかったので、そのまま火おこしをして使用することが可能です。
「吉之助さん、見て見て! 囲炉裏のところに鍋があるよ! この鍋の中にに海水を汲んだら、その海水でサトイモをゆでてから食べることができるよ!」
板の間へ上がった敬太は、囲炉裏の上にある自在鉤に掛けられた鍋を見つけました。そして、敬太は鍋を自在鉤から外してから持つと、海水を入れてサトイモをゆでれば晩ご飯として食べることができると吉之助に言いました。
「吉之助さん、今からこの鍋の中に海水を汲んでくるからね!」
「そんなに駆け足で行ったら、さっきみたいに足が滑ってこけてしまうぞ」
敬太は、鍋の中に海水を入れるために、再び外へ出て傾斜のきつい坂道を下りて行くところです。しかし、吉之助はいまだに雨が降り続いている状況であるにもかかわらず、駆け足で坂道を下りようとする敬太のことが心配です。
そんな吉之助の心配をよそに、敬太は傾斜のきつい山道を駆け足で勢いよく下りて行きました。そのとき、山道の左側に生い茂っている木々の間から、何やら不気味な笑い声がかすかに聞こえてきました。
「あのチビがこんなところへ本当にやってくるとは思わなかったぜ。この小さい島があのチビにとって最期の場所になるとも知らずにな、ふはははは」
草木が数多く生い茂っているところには、不気味な笑い声の持ち主である獣人が身を潜めています。その笑い声は、獣人が敬太のことを知っているかのような不気味なオーラを漂わせています。
そうするうちに、鍋の中に海水を汲んできた敬太が空き家へ急ぎ足で戻ってきました。でも、空き家へ戻ったときの敬太は、いつもの明るい顔つきとは違って何かガマンしている表情となっています。
「おしっこ、おしっこがもれそう…。もうガマンできないよ~」
敬太は、赤い腹掛けの下を押さえながら空き家から再び外へ出てきました。敬太が外へ出たのは、おしっこがもれそうになってガマンができなくなったからです。
「早くおしっこをしたいけど…。も、もうガマンできない…」
敬太は、腰のところまで無数に伸びている雑草に覆われているところを通って、傾斜のきつい山道へ出ました。その間にも、敬太はおしっこを必死にガマンし続けていますが、それもいよいよ限界になってきました。
「ジョジョジョ~ッ、ジョパジョパジョパパァ~」
敬太は自分の腹掛けを右手でめくると、山道の向かい側に数多く茂っている草木に向かって勢いよくおしっこを出し始めました。敬太は今までガマンしていたこともあり、草木が茂っているところに元気いっぱいのおしっこを大量に命中させました。
「でへへ、きょうも元気なおしっこがいっぱい出てすっきりしたぞ!」
敬太は、元気なおしっこがいっぱい出てすっきりしたので、いつもの明るい笑顔に戻りました。そして、敬太は晩ご飯のお手伝いをするために、吉之助たちがいる空き家のほうへ戻って行きました。
「くそっ! よくも、よくもわしの顔に…」
すると、無数に茂っている草木の中から獣人が顔を出してきました。獣人は、誰かに水を顔面にぶっかけられた様子で怒り心頭に達しています。
「あのチビめ! わしの顔に、よくもこんなに汚い小便を大量にぶっかけやがって…。 絶対に、絶対に許さないからな!」
獣人は、空き家のほうに戻って行く敬太の姿を見るたびに、怒りで身体が震えている様子です。獣人の顔面がいっぱいぬれているのは、敬太のおしっこが命中したからです。敬太が草木の繁みに向かって放出したおしっこは、そこに潜んでいた獣人の顔面に見事に命中する形になりました。
敬太は、草木が茂っているところに獣人がいることを全く知りません。しかし、獣人にとっては、敬太から顔面におしっこを命中されたことによって大きな屈辱を受けました。そして、獣人は自分の右手を握りしめながら、敬太を絶対に許さないと怒りに震えながら言いました。
一方、敬太たちがいる空き家のほうでは、鍋の中に入っている海水にサトイモを入れて煮ているところです。
「ふぅーっ、ふぅーっ、ふぅーっ!」
「敬太くんは、いつも火おこしをするから手慣れたものだね」
「ぼくは、おっかあが晩ご飯を作るときに火おこしの手伝いをいつもしているから、このくらいのことは当たり前にできるよ!」
敬太は、囲炉裏で火吹き竹を使って火を吹いているところです。吉之助は、手慣れた様子で火おこしをしている敬太の姿を見ながら目を細めています。敬太は、おみかが晩ご飯を作るときに火おこしの手伝いをいつもしているので、このくらいのことは当たり前のようにこなしています。
「おっ、これだけ煮ればイモもおいしく食べることができるぞ」
吉之助は、自在鉤からサトイモを煮た鍋を外すと、土間の床に置いてしばらくさますことにしました。そのまま鍋の中に手を入れると、大やけどをしてしまうからです。
しばらくすると、鍋の中に手を入れても大丈夫な温度になったので、吉之助は鍋を持ちながら再び板の間へ戻りました。
「これだけサトイモを煮れば、今日はお腹いっぱい食べることができるぞ」
吉之助は、自在鉤に鍋を再び掛けると、すぐに鍋の中に入っているサトイモを取り出しました。鍋の中には、親イモから孫イモまで大量のサトイモが入っています。これだけあれば、今日の晩ご飯はお腹いっぱい食べることができそうです。
「このサトイモは、敬太くんがここで見つけて掘り出したものだもんね。掘り出したばかりの親イモは、敬太くんに食べさせてあげるから、ちょっと待ってね」
「わ~い! 吉之助さん、早くイモを食べよう! 食べよう!」
「ははは、敬太くんはイモを食べるのが大好きだもんね」
吉之助は、敬太が掘り出したサトイモのおかげで、みんなが晩ご飯を食べることができるので感謝の気持ちでいっぱいです。そして、吉之助は鍋からでっかい親イモを取り出すと、敬太はその親イモを早く食べようと言いました。敬太にとっては、サトイモにかぎらずイモ類を食べるのが一番の大好物であるからです。
「常助くん、敬太くん、このサトイモをみんなで食べようかな」
「吉之助さん、いただきます!」
晩ご飯のあいさつをすると、鍋の中にあるサトイモを1人ずつ順番に右手で取り始めました。吉之助は、土間のところにいるワンべえにもサトイモをあげると、ワンべえはうれしそうにイモを食べ始めました。
「わ~い! 敬太くんが掘ったイモは本当においしいワン!」
ワンべえは、敬太が掘ったばかりのサトイモをおいしそうに食べています。敬太も、すぐに鍋の中から大きな親イモを右手でつかみ取りました。
「吉之助さん、常助くん、獲れたてのイモはとってもおいしいよ!」
「サトイモはぼくもよく食べるけど、本当においしいね。敬太くんもイモを食べるのが大好きなのかな?」
敬太は、大好きな親イモをほおばるようにして食べるたびに、おいしそうな表情を見せています。これを見た常助も、サトイモを口の中に入れておいしそうに食べながら、敬太にイモを食べるのが大好きなのか聞いてみました。
「ぼくは、大きな親イモを食べるのを楽しみにしているんだ。だって、ぼくが一番大好きな食べ物がイモなんだもん!」
イモを食べるのが大好きな敬太は、自分が掘り出した親イモを食べることが何よりも楽しみであると元気な声で言いました。そして、親イモを食べた敬太は、再び鍋の中に入っているサトイモを取り出しました。
「敬太くん、イモが大好きなのは分かるけど、お腹のほうは大丈夫なのかな?」
「吉之助さん、心配しなくても大丈夫だよ! だって、ぼくはイモさえあれば…」
吉之助は、敬太が続けてサトイモを食べ続けているのを見て、これ以上食べてもお腹が大丈夫なのか心配そうな様子で敬太に言いました。しかし、敬太は笑顔を見せながら、イモをいっぱい食べても大丈夫と吉之助に言いました。敬太にとっては、イモさえ食べることができればそれだけで十分満足なのです。
そのとき、敬太がイモをほおばっている途中で、いつもの元気な音が空き家の中を響かせました。
「プウウウッ! プッ! プウウッ! プウウウウ~ッ!」
「あっ、敬太くんったら、でっかいおならを4回も出ちゃったのか」
「でへへ、今日もイモを食べている途中で元気なおならがいっぱい出ちゃったよ」
敬太は、でっかくて元気なおならを4回も続けて出てしまいました。敬太のおならの音は、吉之助と常助の耳ではっきりと聞こえるでっかい音です。
「敬太くんは、イモをいっぱい食べるから、その分だけおならもいっぱい出るんだね」
「でっかいおならが何度も出るということは、それだけ敬太くんのお腹の調子がいい証拠といえるぞ」
吉之助と常助は、でっかいおならが出ちゃった敬太の照れた表情を見ながら目を細めています。でっかいおならが何度も出るのも、敬太のお腹がいつも丈夫であるからです。
「吉之助さん、これからも大好きなイモを残さずにいっぱい食べて、元気なおならやうんちが出るようにがんばるからね!」
「ははは、いつもイモを食べている敬太くんの元気さにはかなわないなあ」
敬太は、イモを残さずにいっぱい食べて、元気なおならやうんちが出るようにがんばると吉之助に言いました。これを聞いた吉之助も、イモをよく食べる敬太の元気さにはかなわないと笑いながら言いました。敬太の明るい笑顔のおかげで、空き家の中はにぎやかな笑い声に包まれています。
そうするうちに空のほうも暗くなってきたので、吉之助たちは寝るための準備をすることにしました。すると、敬太は板の間の隅っこに布団らしきものを見つけたので、すぐにその場所へ行きました。
「吉之助さん、常助くん、ここにお布団があったよ! これを板の間に敷いてみんなで寝ようよ!」
「敷き布団がちょうど3枚あるなあ。これなら、暑い時期だから掛け布団が無くてもそのまま寝ることができるぞ」
敬太は、板の間の隅っこにあった布団を取り出すと、すぐに板の間の広いところに布団を次々と敷きました。板の間に敷いた布団はちょうど3枚あります。
吉之助は、暑い時期なので掛け布団無しでも寝ることができると言うと、そのまま布団の上で寝ることにしました。敬太と常助の2人も、布団の上で寝転ぶとそのまま眠りの中へ入って行きました。敬太は、かわいい寝顔を見せながら、赤い腹掛け1枚だけの姿で大の字になって眠っています。
そして、敬太たちがすやすやと夢の中へ入っていくのと同時に、ずっと降り続いた雨もやんで、空のほうも月が見えるようになりました。
そのころ、敬太たちがいる空き家が静まり返るのを見計らって、何者かが空き家がある方向へ雑草をかき分けながら進んでいます。月に照らされたその影は、敬太も見たことがある大きな人影です。
「あのチビめ、よくもわしの顔に小便をぶっかけやがって…。このままで済むとは思うなよ…」
大きな人影の正体である獣人は、自分の顔におしっこを命中させた敬太への恨みを忘れていません。獣人は、雑草が茂っているところを通り抜けると、ゆっくりと物音を立てずに空き家の引戸の前までやってきました。
獣人は、空き家の引戸をそっと開けました。すると、布団の上ですやすやと眠っている敬太たちの姿がありました。
「ふはははは! あのチビがぐっすりと寝ているぞ。わしにとって、このほうが一番好都合だからなあ、ふはははは!」
獣人は、敬太がぐっすり眠っているのをこの目で確認しました。そして、獣人は引戸をもう少し開けてから、土間の中へ音を立てないでゆっくりと入りました。獣人は、すやすやと眠っている敬太に襲いかかる最大のチャンスと不気味な笑いを浮かべています。
「しかし、土間で寝ているあの子犬がじゃまなんだよなあ…。家の中はかなり暗いし…」
獣人にとって一番のネックとなるのが、土間にいるワンべえの存在です。人間たちと同様に、ワンべえも土間に横たわりながら寝ています。仮に音を立ててしまったら、子犬といえども獣人に飛びかかってくる可能性があります。それに、獣人にとって最も恐れているのは、敬太たちに自分の存在が気づかれてしまうことです。
「子犬が眠っている今のうちに、音を立てないでゆっくり歩いて…」
獣人は、眠っているワンべえのそばを音を立てずにゆっくりと歩いています。そして、獣人が板の間へ上がろうとしたそのときです。
「むにゃむにゃ…」
「うわっ、あの子犬が目を覚ましたのか…」
獣人は、むにゃむにゃという声を耳にしたので、ワンべえが寝ている土間のほうへ顔を振り向きました。もしかして、ワンべえが獣人の足音で目を覚ましたかもしれないと一瞬頭をよぎりました。
しかし、ワンべえはそのまま横になって眠ったままです。これを見て、獣人はひとまずホッとしている様子です。
「なんだ、まだ寝ているのか。子犬に気づかれたら、あのチビもそれに気づいて起きてしまうからなあ」
獣人は、ワンべえが寝ているのを改めて確認すると板の間に静かに上がりました。板の間には、掛け布団を掛けないでぐっすり眠っている敬太たちの姿がありました。吉之助と常助はいずれもふんどしだけの姿で、敬太は腹掛け1枚だけの姿でそれぞれ寝ています。
「このチビは大の字になってぐっすりと眠っているな。もうすぐ、わしがこの手で永遠に眠り続けることになるとも知らずにな、ふはははは!」
獣人は、敬太がすやすやと寝ているのを見ると、次第に不気味な表情に変わりました。そして、獣人は手を握ったり開いたりしながら、寝ている敬太をこの場で始末しようと笑みを浮かべながら言いました。
そんな状況にあっても、敬太はかわいい寝顔ですやすやと眠っています。
「まずは、あのチビの首をわしづかみして強く締めつけるとするかな」
獣人は両手をポキポキと鳴らしながら、右手を大きく開きました。敬太の首に狙いを定めると、獣人は自らの手で敬太を絞め殺そうと異様な笑みを漂わせています。
「うりゃああっ! これでおめえの息の根を止めて…」
獣人は、敬太の首を強く絞めつけるために自分の右手を振り下ろしました。しかし、敬太の首を右手でわしづかみしようとしたそのときのことです。
「ぐえっ、ぐええっ! 何でおめえは寝たままで強く蹴り上げるとは…」
獣人は、いきなり自分の腹部を強く蹴られたので、思わず倒れ込んでしまいました。倒れこんだ獣人は、敬太がぐっすり眠ったままで自分を蹴り上げたことに驚いています。
「まさか、あのチビは夢の中でも戦っているとでもいうのか? いや、そんなことなどあり得ないはずだ」
目が覚めているときだったらともかく、眠っているままの状態で相手に攻撃を食らわすことは普通あり得ないことです。しかし、獣人は敬太が夢の中でも戦っているから、たまたま強い蹴りが自分の腹部に命中したに過ぎないと気持ちを切り替えることにしました。
もっとも、この空き家には敬太のほかに吉之助と常助も布団の上で寝ています。ここで音を立てて他の2人が気づいたら、就寝中の敬太を襲って始末する計画が台無しになってしまいます。
「こうなったら、これでどうだ! どりゃああっ!」
獣人は右足をステップすると、ぐっすり寝ている敬太の上にうつ伏せするように押さえ込みました。
「どんなにおめえが凄まじい力を持っていようとも、寝ているときにはそんなものなんか無力なんだよ! ふはははは!」
獣人は、敬太が大きな岩を持ち上げる凄まじい力を持っていようとも、寝ているときにはそんな力など無力であると言い切りました。しかし、獣人が自らの力で敬太を押しつぶそうとしても、なかなか押しつぶすことができません。それどころか、今度は敬太が自分の両腕と両足を使って、うつ伏せになっていた獣人をそのまま持ち上げています。
「おいおい、寝たままでわしを持ち上げているのか! いくら何でもそんなことができるとは…」
敬太は、かわいい寝顔でぐっすりと眠っているにもかかわらず、大相撲の力士並みの体重がある獣人の胴体を手足を使って持ち上げています。獣人は、うつ伏せで敬太を押しつぶすつもりが、逆に敬太がものすごい力で持ち上げたことに驚きを隠せません。
すると、敬太は獣人の体を両手で持ち続けながら、獣人のお腹を両足を使って交互に蹴り始めました。
「ぐえっ! わしのお腹を足で何回も蹴りやがって! いたたっ! いたたたたっ!」
敬太から何度も繰り返して腹部を蹴られ続けた獣人は、激しい痛みに耐えられずに板の間に倒れ込みました。倒れ込んだ獣人は、あまりの痛さに板の間を苦しみもがいて転げ回っています。
そんな獣人の様子をよそに、敬太は布団の上ですやすやと眠り続けています。これを見た獣人は、痛々しい表情を見せながら必死に立ち上がろうとします。
「あのチビめ…。わしをこんなに痛めつけやがって…。絶対にこの手で地獄送りにしてやるからな!」
何とか立ち上がることができた獣人は、敬太のかわいい寝顔を見るたびに、散々と痛めつけられたことへの恨みと怒りがこみ上げてきました。そして、獣人は鋭い目つきで怒りに震えながら、自らの右手を強く握りしめました。
「うりゃああっ! これでも食らえ!」
左足でジャンプした獣人は、これまでの敬太への恨みを込めながら、右手の握り拳を布団の上で寝ている敬太に向かって放ちました。
「ふはははは! この拳でおめえの体をぶち抜いてやるぜ! とっとと地獄へ…」
獣人は、今度こそ敬太を始末するために、渾身の一撃を食らわそうと強烈な拳を素早く繰り出そうとしました。ところが、獣人は右手の握り拳を繰り出すのと同時に、いきなり想像もつかないような凄まじい痛みを感じました。
「うげげげっ! うげげげっ! わ、わしの急所を思い切り蹴りやがって…」
敬太は、布団でぐっすり寝たままで獣人の急所を右足で強く蹴り上げました。急所を蹴られた獣人は、もだえ苦しみながらそのままうつ伏せみたいな格好で倒れ込みました。その痛みは、獣人が思わず涙が出てしまうほどの経験したことの無い痛みです。
「うげげげげっ…。よくも、よくも急所を蹴ってくれたな…」
本当だったら、獣人はこの手で敬太を徹底的に始末したいところですが、急所の痛みが続いているのでなかなか動くことができません。それでも、獣人は敬太によって蹴られた股間の痛みに耐えながらも、どうにか四つんばいの状態で起き上がりました。
かわいい寝顔を見せる敬太は、大の字になってすやすやと眠り続けています。敬太は、ぐっすりと眠ったままで布団の上で獣人と戦い続けたので、赤い腹掛けからおちんちんが見えています。
「あのチビめ…。わしは絶対に許さんぞ…。おめえを本当に殺して…」
獣人は、急所の痛みをガマンしながら、布団で大の字になって寝ている敬太のところへ四つんばいで進んで行きました。そして、獣人が敬太の両脚の太ももを必死に持ち上げようとした次の瞬間のことです。
「ジョジョジョ~ッ、ジョパジョパジョパ~、ジョパジョパジョジョジョ~ッ」
「わわわっ、わしの顔に何をするんじゃ! やめろ! やめろ!」
敬太は布団の上ですやすやと眠りながら、獣人の顔面に元気いっぱいのおねしょを命中し始めました。獣人にとっては、雨が降り続く中で草木の繁みに潜んでいたときと同じように、敬太からおしっこを顔面にかけられました。
「うわわっ、うわわっ! 寝小便をわしの顔にぶっかけやがって!」
敬太のおねしょは、勢いよく獣人の顔面に次々と命中し続けています。これには、さすがの獣人もたまらずにその場から逃げるように立ち去ろうとします。
「くそっ! 寝小便をかけられた恨みは忘れないからな! おぼえてやがれよ!」
獣人は、敬太に向かって恨みつらみを吐き捨てるように言いながら、そのまま立ち去ろうとしました。
そのとき、獣人は何か踏んだような感触を感じました。いやな予感がした獣人は、そっと後ろを振り向きました。そこには、ものすごい剣幕で吠えているワンべえの姿がありました。
「ぼくの大事なしっぽをどうして踏むんだワン! 絶対に許せないワン!」
「わわわっ、本当に噛み付いてきやがった…。いたたっ! いたたたたっ!」
ワンべえは怒りの表情を見せると、自分のしっぽを強く踏みつけた獣人に向かって飛び掛りました。そして、ワンべえは獣人に飛びつくと、足や腕に次々と思い切り噛み付きました。獣人は、ワンべえに噛み付かれて痛々しい表情を見せると、ワンべえを振り落としながら空き家から出て行きました。
敬太たちが一晩過ごした浜ノ沖島にも、再び朝がやってきました。雨が降り続いて大荒れの天気だった昨日とは一転して、今日は青空が広がって晴れ渡っています。
山道のほうからセミの鳴き声が聞こえる中、空き家の庭にある物干しには見覚えのあるものが干されています。その横には、敬太がいつものように照れた表情を見せながら、元気いっぱいの笑顔を見せています。
「吉之助さん、常助くん、こっちを見て見て! 今日もでっかくて元気なおねしょをしちゃったよ!」
敬太は、今日も見事にでっかいおねしょをお布団にやってしまいました。でも、敬太にとって、おねしょは元気な子供であるシンボルなので、吉之助と常助の2人にも自分のおねしょ布団を見てほしいと明るい笑顔で言いました。
「おおっ! こんなにでっかいおねしょをするとは、いつものことながらすごいなあ」
「敬太くんは、おねしょをしてもしょんぼりしないでいつも明るい笑顔なんだね。ぼくも、敬太くんみたいな明るい男の子になるようにがんばるよ!」
吉之助は、敬太のおねしょ布団を見ながら、いつものことながらすごいことであると敬太を褒めました。そして、常助はおねしょをしてもいつも明るい笑顔を見せる敬太の姿を見て、自分も敬太みたいな明るい男の子になるようにがんばると言いました。
そこへ、ワンべえが空き家から庭のほうへ出てきました。庭へやってきたワンべえは、おねしょ布団が干されている横にいる敬太のところへきました。
「ワンべえくん、ぼくはいつもでっかいおねしょをするから元気いっぱいだよ!」
「夜中に目が覚めたから敬太くんのところへ行ったら、見事に元気いっぱいのおねしょをしちゃったお布団を見たんだワン!」
ワンべえは、でっかいおねしょをしても元気いっぱいの敬太を見ながら、夜中に敬太が寝ている布団のところへ行ったときのことを思い出しました。
ワンべえは、しっぽを踏んだ獣人に噛み付いて追い払うと、再び眠りにつくために空き家へ戻りました。その際、敬太たちが起きていないか確かめるために、ワンべえは板の間へ飛び上がりました。
ワンべえは、布団で寝ている敬太のところへ行きました。すると、敬太はかわいい寝顔を見せながら、見事に元気いっぱいのおねしょをお布団に描いていました。
「これだけのでっかいおねしょをしちゃったということは、敬太くんはどんな夢を見たのかな?」
「ぼくは寝ているときに、獣人にいきなり襲われる夢を見たんだよ。でも、どんなに強い獣人が襲ってきても、ぼくは足で何回も繰り返して強く蹴ったりしたんだ」
吉之助は、どんな夢を見たのか興味があったので敬太に聞いてみました。敬太が見た夢の内容は、獣人にいきなり襲われながらも、それに負けることなく足を使って何回もけり続けたというものです。
「そして、途中でおしっこがガマンできなくなったから、最後は獣人の顔におしっこをいっぱい命中させたんだよ!」
「敬太くんらしい元気な夢なんだね。敬太くんのおねしょも、男の子らしく元気いっぱいに描いたからすごいなあ」
敬太は、獣人との戦いの途中でおしっこがガマンできなくなったので、夢の中で獣人の顔面におしっこを見事に命中させたことを笑顔を見せながら言いました。これを聞いた吉之助も、敬太のおねしょ布団を見ながら、改めて敬太がいつも元気な男の子であることに感心しています。
そのとき、どこからか怒声が聞こえてきました。その怒声は、どこかで聞いたような声です。
「あのチビめ…。よくも、よくも、わしの顔に寝小便を大量にぶっかけやがって…」
敬太は、山道に出る雑草の茂った方向に振り向きました。そこには、頭から湯気を立てるほどの強い怒りをあらわにしている獣人の姿がありました。獣人の顔面には、敬太のおねしょで大量に命中したのでかなりぬれています。その上、獣人の手足にはワンべえが噛み付いた痛々しい跡がかなりあります。
「ここがおめえにとっての墓場にしてやるからな! 今までの獣人と同じ力だと思ったら大間違いだからな!」
獣人は、自分の顔面におねしょを大量に命中された屈辱を決して忘れていません。そして、おねしょ布団の前にいる敬太に向かって、自分は他の獣人よりも強い力を持っていることを堂々と宣言しました。




