その9
それから数日が過ぎた日のことです。
「おっかあ、井戸へ行って桶の中にお水を汲んできたよ!」
「おっかあ、見て見て! 海の中へ入って、岩に生えていたわかめをこの手で2株採ってきたよ!」
敬太と新吉は、誰から言われなくても自分から家のお手伝いを行っています。いつものように、新吉は井戸での水汲みを、敬太は海に入ってのわかめ採りをそれぞれ終えておみかの家に戻ってきました。
「敬太くんも新吉くんも、いつもお手伝いありがとうね」
「おっかあ、大丈夫?」
「まだまだ大丈夫だよ。2人は、いつもあたしの体のことを心配しているけど、このくらいのことだったら大丈夫よ」
おみかは、家の土間からたらいを出してきました。おみかのお腹は、少し前よりも一回り大きくなっているので、いつ赤ちゃんが生まれてもおかしくありません。たらいをお庭へ持ってくるときでも、おみかは自分のお腹を大事そうにするためにゆっくりと歩きながら持ってきます。
敬太と新吉は、おみかの様子を見て心配そうな表情をしています。しかし、そんな2人の心配をよそに、おみかはたらいでの洗濯や晩ご飯を作るくらいのことなら大丈夫とやさしい表情で言いました。
「ふふふ、敬太くんと新吉くんはあたしのために何でも手伝ってくれるから助かっているわ。2人ともこんなに元気いっぱいだもの」
「でへへ、腹掛けの下がこんなにいっぱいぬれちゃったよ」
おみかは、敬太と新吉が何でも手伝ってくれるおかげで自分も大助かりしていると言いました。そして、おみかはたらいの中から、敬太と新吉がそれぞれつけていた腹掛けを2人に見えるように出しました。その腹掛けの下の部分には、いずれもおねしょで大きくぬれています。
おみかは、敬太と新吉の腹掛けを2人に見せながら、2人がいつも元気いっぱいであることに目を細めています。敬太は、おみかが持っている自分の赤い腹掛けを見て、おねしょで腹掛けがいっぱいぬれたことを照れた表情で言いました。
庭には、いつものように2人がやってしまったおねしょ布団が堂々と干されています。
そこへ、村の家々を見回っている長老がおみかの家へやってきました。長老は、すぐに物干しのほうを見ながら、敬太と新吉が今日も元気であることを再確認しました。
「敬太くんも、新吉くんも、お布団におねしょで大きな地図を見事に描いたんだなあ。いつものことながらすごいぞ!」
「長老さま、今日も海に飛び込む夢を見て、お布団に元気いっぱいのべっちょりおねしょをしちゃったよ!」
長老は、物干しに干されている敬太と新吉のおねしょ布団を見て、2人がでっかいおねしょを見事に描いたことを褒めています。敬太と新吉は、長老にお布団にべっちょりおねしょをしちゃったことを元気な笑顔を見せながら言いました。おねしょは元気な子供のシンボルでもあるので、2人は干されている自分たちのおねしょ布団を見ながら笑顔を見せています。
敬太は、すぐに家の土間へ入ると、登美蔵の形見であるモリとスカリを出しました。そして、スカリを腰のところに巻きつけてから、モリを右手に持って再び庭へ出ました。庭では、おみかが洗濯板を使ってたらいで洗濯をしています。
「おっかあ、これから海の沖合いで素潜り漁をしてくるよ! 海に潜ってお魚をたくさん取ってくるからね!」
「敬太くん、人食いザメにはくれぐれも気をつけてね」
「人食いザメが現れても、ぼくが立ち向かってやっつけるから大丈夫だよ!」
敬太は、これから海の沖合いまで行って、晩ご飯で食べるためのお魚を素潜り漁で取ってくるからとおみかに元気な声で言いました。これを聞いたおみかは、敬太がいつも元気であることに感心しながらも、沖合いに現れる人食いザメに十分注意してほしいと敬太に注意しました。それでも、敬太は人食いザメに立ち向かってやっつけるから大丈夫と自信満々におみかに言いました。
「ぼくも素潜りが上手になりたいから、いっしょに行ってもいいかな?」
「新吉くんもぼくといっしょに素潜りがしたいんだね。おっとうが乗っていた小舟を波打ち際まで出すから、いっしょに行こうね!」
海中での素潜りが上手になりたい新吉も、敬太といっしょに行くことになりました。敬太は、登美蔵が使った小舟が置いているところへ行きました。小舟の舟底に両手を入れると、敬太は両腕に力こぶを入れて持ち上げようとします。
「うぐぐぐぐぐっ、うぐぐぐぐぐ~っ! え~い!」
「おおっ、敬太くんはあれだけ重たそうな小舟を自分の力で持ち上げて歩くとは…。元気いっぱいなのはもちろんのこと、とてつもない強い力のある男の子じゃ」
敬太は、小舟を両手で真上まで持ち上げると、波打ち際まで歩いて持って行きました。小さい子供が重量のある小舟を自分の力だけで持ち上げて歩いていることに、長老やおみかはかなり驚いています。
小舟はかなりの重量があることから、大人であっても砂浜の上を2人がかりで押して行くのが普通です。しかし、敬太は25貫(約94kg)以上の重量がある岩石や動物であっても両腕で楽々と持ち上げることができるので、小舟を持ち上げることもたやすいものです。
「新吉くん、波打ち際に小舟を持って行ったから、早く行こうよ!」
「敬太くんも新吉くんも、人食いザメが現れないうちにここへ戻ってくるのよ」
「おっかあ、心配しなくても大丈夫だよ! ちゃんと新吉くんを守ってやるからね!」
波打ち際に小舟を持って行った敬太は、新吉にいっしょに小舟に乗って行こうと呼びかけました。おみかは2人の姿を見ながら、人食いザメが現れる前に再び戻ってくるように言いました。おみかは、敬太と新吉がかわいいからこそ、小さい子供が2人だけで海の沖合いに出ることが心配でなりません。
それでも、敬太は自分が新吉を守ってやるから心配しなくても大丈夫と言うと、2人は小舟に乗って沖合いに向かって漕ぎ始めました。2人が漕いでいる小舟は、少しずつ沖のほうへ向かって進んでいます。
「ぼくも、敬太くんみたいに素潜りが上手にできるようになりたい!」
「新吉くん、沖合いまできたら、ぼくが素潜りを教えてあげるからね!」
新吉は、敬太が上手に素潜りができるのを見ているので、自分も敬太みたいに素潜りができるようになりたいと願っています。敬太は、沖合いのところまで小舟を漕いだら、そこで素潜りを教えてあげると新吉に言いました。
敬太と新吉が乗った小舟は、しばらくすると海の沖合いまでやってきました。しかし、陸地からかなり離れた沖合いに小舟が進むにつれて、新吉は次第に不安を感じるようになりました。
「素潜りの途中で人食いザメに出くわしたらどうしよう…」
新吉のお父さんだった登美蔵は、素潜り漁の途中で人食いザメに襲われて命を絶たれたことを新吉は知っています。新吉の気持ちを感じ取った敬太は、新吉の右肩にやさしく左手を置きました。
「人食いザメが現れたら、ぼくが新吉くんを守ってあげるからね」
「敬太くんが言うのなら、ぼくもそのことを信じるよ」
敬太は、人食いザメが沖合いの海に現れたら新吉を全力で守ってあげると言いました。これを聞いた新吉は、敬太が言ったことを信じることにしました。
「それじゃあ、ぼくが最初に海の中に飛び込んで素潜り漁をするから、小舟の中で待っていてね!」
「敬太くん、早く戻ってきてね!」
敬太は、登美蔵の形見であるモリを右手に持つと、素潜りをする前に大きく深呼吸をしました。そして、敬太は素潜り漁をするために海の中へ飛び込んで行きました。新吉は、敬太に自分の素潜りを見てもらいたいので、早く小舟に戻ってほしいと言いました。
敬太は、海中の水深が深いところまで潜っていきました。そこには、ヒラメ、カレイ、メバルといったお魚がたくさん泳いでいるほか、ヤドカリ、サザエといった大きな貝が海底の大きな岩の間にちらほらとあります。
「うわ~い! いろんなお魚や大きな貝をこのモリでいっぱい取るぞ!」
敬太は、右手に持っているモリで岩の間にあるヤドカリやサザエを突くと、すぐに腰に巻きつけているスカリの中に入れました。そして、敬太は岩の近くを泳いでいるヒラメやカレイも、モリで次々と突いてはスカリの中に入れていきました。
スカリの中にお魚や貝をいっぱい入れた敬太は、呼吸をするために海面に向かって浮上しました。そして、敬太は海面に出ると、すぐに小舟に乗ってスカリの中身を新吉に見せました。
「新吉くん、お魚も大きな貝もこんなに取ることができたよ!」
「うわあっ、敬太くんはいろんなお魚をモリで突いて取ることができるからいいなあ」
敬太は、スカリに入っているメバル、カレイやヤドカリといったお魚や貝がいっぱい取れたことを新吉に言いました。これを見た新吉は、いろんなお魚を取ることができる敬太をうらやましいと思いました。
「今度は、新吉くんもいっしょに素潜りをしようよ。ぼくがちゃんと見ているからね」
「敬太くんがそう言ってくれるなら、ぼくも海の中に飛び込んで見せるよ!」
「新吉くん、ここで大きく深呼吸してから海の中へ飛び込もうね!」
敬太は、新吉が自分で素潜りをしたがっていたので、今度は新吉といっしょに素潜りすることにしました。新吉は、自分で素潜りすることへの不安もありましたが、敬太がちゃんと見ているからという言葉を信じて、自分で海の中へ飛び込むことにしました。
でも、そのまま海の中に飛び込んだらおぼれてしまう可能性があります。そのため、海に飛び込む前に、新吉は小舟の上で大きく深呼吸をしています。
「それじゃあ、新吉くんから海に飛び込んでね! その後から、ぼくも海の中に飛び込むからね!」
「敬太くん、ぼくの素潜りをよく見ていてね!」
新吉は、自分が素潜りするのをよく見てと言うと、そのまま海の中へ飛び込んでいきました。敬太も、新吉が素潜りしたのを見て、その後を追うように海中へ飛び込みました。
「うわあっ、お魚がいっぱい泳いでいるぞ! 敬太くんもここまで潜ってお魚を取ったんだなあ」
新吉は、自分で素潜りをした経験はあまりありません。しかし、敬太が言った通りに深呼吸をしたおかげで、新吉は息を止めたままでも水深の深いところまで潜ることができました。
「新吉くん、ぼくよりも上手に素潜りすることができたね! とっても上手だよ!」
「敬太くんのおかげでここまで潜ることが…」
敬太は、新吉の素潜りを見ながら、自分よりも上手に潜ることができたことに目を細めました。新吉も、敬太から自分の素潜りを褒められてうれしそうな表情を見せました。
しかし、新吉は海中で息を止めるのが限界に達したので、すぐに海面に向かって浮上することにしました。
「やっぱり、あれだけ深いところまで潜るとすぐに息苦しくなるなあ。ぼくも、敬太くんみたいに長い時間潜れたらいいなあ」
海面から顔を出した新吉は、敬太と同じように水深の深いところまで潜ることができましたが、潜水時間はそんなに長くありません。新吉は、海中でモリ突きによる素潜り漁をしている敬太がうらやましいと感じるとともに、いつかは敬太みたいに海中で長く潜れるようになりたいと心に決めました。
しばらくすると、敬太も海面から顔を出すと、新吉といっしょにそのまま小舟の中に入りました。
「おっかあは、もうすぐしたら赤ちゃんが生まれるかもしれないから、そのためにもお魚をたくさん食べさせたいね」
「新吉くん、これだけお魚も大きな貝も取れたし、おっかあも大喜びすると思うぞ!」
新吉は、もうすぐ赤ちゃんがうまれるかもしれないおみかにお魚をたくさん食べさせたいと言いました。これを聞いた敬太は、スカリの中にいっぱい入っているお魚や大きな貝を新吉に見せながら、家へ持って帰ったらおみかも喜んでくれると言いました。
しかし、そのときのことです。新吉は、小舟に次第に接近している恐ろしいものを見て急に不安を感じました。
「敬太くん、ちょっと見て! 人食いザメが、人食いザメが!」
「新吉くん、人食いザメが現れたのか?」
「この小舟に人食いザメが近づいてきたよ! 早く波打ち際へすぐ戻ろうよ!」
新吉は、自分たちが乗っている小舟に人食いザメが接近してきたのを目撃しました。新吉が人食いザメに恐れをなしているのは、サメに襲われて命を落とした登美蔵の痛々しい遺体を見ているからです。
でも、敬太は目の前に近づいている人食いザメに恐れる様子はありません。
「ぼくは、人食いザメなんか全然恐くないぞ!」
「敬太くん、いくら何でも無茶だよ! 人食いザメをやっつけたからって、同じようなことをもう一度…」
敬太は、小舟に近づいてきた人食いザメに立ち向かっていくことにしました。これを見た新吉は、敬太が人食いザメをやっつけたことがあるといっても、同じことが通用するとは限らないと敬太に忠告しようとしました。しかし、敬太はそれを最後まで聞くことはありませんでした。
「人食いザメめ、また現れたか! この拳でやっつけてやるぞ!」
敬太は、小舟の上からそのままサメの背びれに向かってジャンプしました。これを見たサメは、海面から顔を出すと大きな口を開けて、鋭い歯で敬太に噛み付こうとしました。
「うわっ、うわわわっ! プウッ、プウウウウ~ッ!」
「くさいなあ! わしの顔にくさいおならをしやがったやつは!」
敬太は、自分のお尻がサメの鼻に少し接触すると、思わず元気なおならが2回続けて出てしまいました。人食いザメは、顔面に敬太のおならが命中したのでとてもくさくてたまらない様子です。
敬太は、あと少しでサメの鋭い歯に噛み付かれるところでしたが、サメの顔にでっかいおならを命中させたおかげで、辛うじて難を逃れることができました。こうして、敬太は人食いザメの背びれを見つけると、そこに両手で必死につかみました。
「おまえか! この前に続いてわしの顔にくさいおならをしやがって!」
「ぼくは、でっかい親イモが大好きだから、元気なおならやうんちが出るのは当たり前のことだい!」
人食いザメは、再び自分の顔面におならを発射した敬太への怒りが充満しています。しかし、敬太は大好きなイモを食べて元気なおならやうんちが出るのは当たり前といつもの元気な声で人食いザメに言い放ちました。
敬太は、サメの背びれを使って反転させて自分のお尻をサメの背中に座ると、サメの頭のところまで両手と両足を使いながら前へ進みました。
「とにかく、ぼくはこんな人食いザメなんか全然恐くないぞ! えいっ! えいっ! えいえいっ!」
「グエグエッ、グエグエグエッ!」
敬太は、サメの頭部を何回も両手の拳を使って殴り続けました。人食いザメは、敬太の強烈な拳を受けてかなり痛がっています。
「人食いザメめ、よくも、よくもぼくたちの小舟を襲いやがって! 絶対に…」
敬太は、再び小舟を襲い掛かった人食いザメが絶対に許すことができないので、再び右手の拳を強く握りしめました。そのとき、敬太の背後に何やら大きな影が少しずつ近づいてきました。
「ふはははは、海の中を泳いでいるサメは他にもいることを忘れたら困るぜ」
「おいしそうな人間の子供がいることだし、おれたちにとって最高のごちそうが目の前にいるからな。ふはははは!」
「わわわっ、人食いザメが後ろから2匹もやってきたのか!」
敬太の背後には、人食いザメが新たに2匹も現れました。これらの人食いザメも、目の前にいる敬太を見つけると、今にも大きな口を開けて噛み砕こうと待ち構えています。
敬太は、少しあわてながらも、両手と両足を使いながら自分がいるサメの背びれのところまで戻りました。そして、敬太はサメの体に自らうつ伏せに近い形にしてから、背びれを両手でつかみました。ここなら、いくら人食いザメが近づいてきても襲われる心配はほとんどありません。
「ちっ、おれたちの仲間の背びれにくっつきやがって!」
「まあまあ、落ち着けよ。あいつだって、同じ失敗を繰り返さないだろうし」
敬太が背びれをつかんでいる人食いザメを、仲間のサメたちも後ろから近づきながら様子をうかがっています。
人食いザメにとっては、目の前に獲物がいるにもかかわらず仲間のサメにへばりついているので、なかなか手を出すことができずにもどかしい思いをしています。しかし、人食いザメにも意地があるので、同じ失敗を繰り返すまいと敬太を狙うためのタイミングを待っています。
すると、敬太が背びれにしがみついている人食いザメが海中を速いスピードで遊泳し始めました。敬太は、人食いザメが急にスピードを上げたので思わず振り落とされそうになりましたが、何とか背びれを離すことなくそのままサメの背中にへばりついた状態を保っています。
「わわわっ、わわわわわっ!」
「おめえには、わしの仲間たちとともにこれから海の中でおいしいエサになってもらうからな! おりゃおりゃ! おりゃ~っ!」
人食いザメは、自分に痛い目を何度も遭わせた敬太に対する恨みを決して忘れることはありません。サメは、海底の深いところまで潜ったり、素早い速さで海面に向かって遊泳することを繰り返しながら、自分の背びれを持っている敬太を振り落とそうとします。
しかも、敬太の背後からは仲間の人食いザメ2匹も後からついてきており、これらの人食いザメも敬太の姿を見ながら鋭い歯を持った大きな口を開けています。
「おりゃあっ! おりゃおりゃあ~っ!」
「うわっ、しまった! サメの背びれから手を離しちゃった!」
人食いザメがさらにスピードを上げて遊泳するにつれて、敬太はしっかり握っていたサメの背びれから手が離れてしまいました。そして、敬太はそのまま海の中へ投げ出されました。
「いよいよおれたち3匹でおめえを食べ尽くそうかなあ。ふはははは!」
「わわわっ! 人食いザメがぼくのほうへ向かってきたけど、もうこれ以上息を止めるのも限界…」
敬太が海の中に投げ出されたのを見て、人食いザメは3匹そろい踏みで敬太に襲い掛かろうとしています。敬太も本来なら目の前にいるサメに立ち向かうところですが、敬太といえども素潜りができる時間は限られています。
海中に漂っている敬太にとって、これ以上素潜りで息を止めるのはもはや限界にきています。
「じゃあ、おれたちの大きな口でおめえをガブリッと行こうかな、ふはははは!」
「も、もうだめだ…。こんなところでおっとうとおっかあを探す旅を終えるなんて…」
人食いザメは、3匹が一斉に鋭い歯をむき出しにしながら大きな口を開けました。絶体絶命の大ピンチに陥った敬太は、新吉やおみかたちといっしょに海辺で楽しく過ごしたことを思い浮かべながら、もうお父さんとお母さんに会うことができないことへの無力さを感じました。
「おっとう! おっかあ!」
「それじゃあ、わしらのこの歯でおめえを一気に噛み砕く…」
目の前に迫ってきた人食いザメを見た敬太は、もうどうすることもできないと思いつつも、最後の力を振り絞ってお父さんとお母さんのことを大声で叫びました。人食いザメたちはこの様子を見ながら、薄ら笑いを浮かべながら大きく開けた口で一気に敬太を噛み砕こうとします。
そのとき、人食いザメの目の前に何かが素早い動きで通り過ぎました。すると、今までサメたちの目の前にいた敬太の姿はどこにも見当たりません。
「あれっ? おれたちの獲物が急に消えたぞ!」
「そういえば、おれたちの目の前を何かが素早く通ったぞ!
「いずれにしても、獲物はまだ近くにいるはずだ! しらみつぶしに早く探せ!」
人食いザメ3匹は、自分たちの獲物だった敬太がいないことに気づくやいなや、各々が敬太を探すために岩場を含めてしらみつぶしに探し出そうとしています。人食いサメにとっても、もうすぐ食べることができた自分たちの獲物を再び見つけようと必死です。
「危なかったな、あと一歩遅かったら今ごろは人食いザメの胃袋の中だぞ」
「イルカさん、ぼくを助けてくれて本当にありがとう!」
敬太は、イルカの背びれを持ってまたがりながら海面のほうへ向かっていきます。イルカは、間一髪のところで敬太を人食いザメから救い出すことに成功しました。敬太は、自分を助けてくれたイルカに感謝の思いを伝えました。
そして、敬太はイルカに乗ったままで海面から出ると、すぐに大きく深呼吸しました。深呼吸したおかげで、敬太はいつもの明るい笑顔に戻りました。
「たまたま沖合いの海を遊泳していたら、敬太くんが人食いザメに襲われそうになっているのを目撃したから、おれは素早い速さで敬太くんを助けたんだ」
イルカは、沖合いの海を遊泳していると、人食いザメに襲われる寸前の敬太を偶然見つけました。これを見たイルカは、すぐに機転をきかせて素早い動きで敬太を助けました。
イルカが遊泳する場合の速さは、通常時速10~15km程度ですが、本気で泳いだときの最高時速は約50kmに達します。これだけの素早い速さだったら、あれだけ恐ろしい人食いザメであっても、イルカの姿を瞬間的に見ることはほとんど不可能です。
「でも、イルカさんはどうしてぼくの名前を知っているの?」
「ははは、おれは敬太くんがこの沖合いで吉之助といっしょに素潜り漁をしているのを見ていたからさ。それと、あのときも敬太くんは人食いザメと戦ったそうじゃないか」
敬太は、イルカがなぜ自分の名前を知っているのか不思議そうな表情をしています。すると、イルカは少し前に吉之助といっしょに沖合いで素潜り漁をしていたところや、敬太が人食いザメと戦って撃退したところを見ています。
「ぼくだけでなく、吉之助さんのことも知っているということは、もしかして登美蔵さんの生まれ変わりなの?」
「えっ? 登美蔵という名前は初めて聞くなあ。敬太くんはどうしてその名前を知っているのかな?」
「登美蔵さんは、ぼくの友達である新吉くんのおっとうで素潜り漁の名人だったよ。でも、海の沖合いで素潜り漁を行っている途中で、いきなり人食いザメに襲われて死んでしまったんだ」
敬太は、イルカが登美蔵の生まれ変わりではないかと聞いてみました。しかし、登美蔵という名前はイルカにとって初めて聞く名前です。
どうして敬太が登美蔵の名前を知っているのかイルカが尋ねると、敬太は登美蔵のことをイルカにいろいろと話しました。
「だから、ぼくは登美蔵さんみたいに素潜り漁が上手にできるようになったよ! そして、目の前に人食いザメが現れても、ぼくはこの拳と足蹴りでやっつけるんだ!」
「敬太くんは、人食いザメであっても全く恐がらずに立ち向かっていくからね。でも、さっきみたいに突然襲ってくることがあるから十分気をつけないといけないぞ」
「でへへ、これから気をつけます」
敬太は、登美蔵と同じように素潜り漁が上手にできるようになったとともに、人食いザメが現れても自分の握り拳と足蹴りでやっつけるとイルカに言いました。
これを聞いたイルカは、敬太が人食いザメを恐がらずに立ち向かっていく姿を絶賛しながらも、サメがいきなり襲ってくることがあるので十分注意するよう忠告しました。敬太も、イルカからの忠告を受けて、これから人食いザメによる襲撃に十分気をつけると照れた表情を見せながら言いました。
「ところで、敬太くんはどうやってここまでやってきたのかな?」
「今日は新吉くんといっしょに小舟で沖合いまでやってきたんだ。ぼくは、そこで素潜り漁をしてお魚や大きな貝をいっぱい取ったよ!」
イルカは、どのようにして沖合いまでやってきたのか敬太に聞いてみました。敬太は、新吉といっしょに小舟を漕いでやってきたと言うとともに、沖合いの海底で素潜り漁をしてたくさんのお魚や大きな貝を取ったことを言いました。
「それだったら、小舟には新吉くんしかいないぞ。もしかしたら、人食いザメが小舟に接近していきない襲うかもしれないし」
「新吉くんに危険な目に遭わせたくないよ! イルカさん、ぼくを小舟のところまで連れてって!」
「敬太くんがそう言うのなら、急いで小舟のところまで連れて行くぞ! 泳ぐのが速いから、敬太くんは両手を背びれにしっかり持ってへばりついていてね!」
敬太は、新吉が人食いザメに襲われるかもしれないというイルカからの指摘を受けて、すぐに小舟があるところまで連れて行ってほしいとイルカに言いました。これを聞いたイルカは、敬太に両手をしっかりと背びれに持ってへばりつくように言いました。
「敬太くん、遅いなあ。人食いザメの背びれにつかまったままで海の中に潜ったまま帰ってこないし、どうしたんだろう」
そのころ、小舟で1人で待っている新吉は、敬太がまだ戻ってこないことに不安を感じていました。
「もしかして、敬太くんもおっとうと同じように人食いザメに襲われたとかじゃ…」
新吉は、自分のお父さんだった登美蔵が海の沖合いで人食いザメによって命を落としたことを知っているので、敬太も海の中で人食いザメに襲われたかもしれないのではと表情を曇らせています。
すると、小舟の近くに再び人食いザメの背びれが次々と現れました。
「おっ、小舟に小さい子供がいるみたいだぞ」
「せっかく食べようとしていた獲物が急にいなくなったからなあ。まあ、おれたちにとって食べごたえのあるやつだったらだれでもいいさ」
人食いザメたちは、小舟に新吉が乗っているのを発見しました。人食いザメにとって、自分たちの獲物だった敬太が急にいなくなったことから、次なるターゲットとして新吉に照準を合わせました。
「うわっ、うわっ! 人食いザメが何匹もいるぞ! こっちにこないで!」
「ふはははは! おめえがどう言おうと、獲物である以上はおれたちが歯をむきだしにして食い尽くしてやるぜ!」
新吉は、小舟の目の前にサメの背びれが接近してきたのを見て、あまりの恐怖で腰が抜けてしまいました。この姿を見た人食いザメたちは、海面から顔を出すのと同時に鋭い歯をむき出しにしながら大きな口を開けました。
「敬太くん! 敬太くん!」
新吉は、小舟の周囲に大きな口を開けた人食いザメが海面から出てきたので、敬太の名前を思わず叫びました。
そのころ、敬太がイルカの背びれをつかみながら小舟の近くまでやってきました。すると、人食いザメが小舟の周りをぐるぐると回っているのを敬太が目撃しました。
「新吉くん! 今から小舟の周りにいる人食いザメをやっつけてやるからな!」
敬太は、新吉の叫び声を聞くと、イルカの背びれから両手を離しました。そして、敬太はイルカの背中の上に立ちました。
「おいおい、まさかここから人食いザメに向かって行くのか?」
「イルカさん、ぼくの友達である新吉くんが目の前にいる人食いザメに襲われるかもしれないし、黙って見るわけにはいかないよ!」
イルカは、敬太がもう少しで襲われる寸前だった人食いザメに再び立ち向かっていくことに大きな懸念を持っています。しかし、敬太は友達である新吉が人食いザメに襲われる危機を迎えているのを見て、このまま黙って見るわけにはいきません。
「それじゃあ行くぞ! それっ!」
「敬太くん! 敬太くん! これじゃあ、そのまま人食いザメの大きな口の中に入ってしまうよ!」
敬太は、イルカの背中をステップしてから、そのまま小舟の方向へジャンプしました。イルカがいる位置から小舟へは少し距離があるので、このままでは人食いザメにそのまま食べられてしまうとイルカは大きな声で言いました。しかし、敬太は人食いザメがいるところであっても恐がる気配はありません。
「おっ、さっきの獲物がまたやってきたぞ。これはわしらにとって好都合だな」
「それなら、おれたちが大きな口でそのまま噛み砕くだけさ、ふはははは!」
人食いザメたちは、敬太が小舟の方向へジャンプするのを見ました。しかし、あのジャンプの仕方だと小舟に届かないと見るや、サメは再び海面から顔を出しながら大きな口を開けました。人食いザメは、敬太が自分たちのいるところへ落ちると同時に鋭い歯で噛み砕こうと待ち構えています。
しかし、敬太はジャンプすると同時にお腹から何やら音が聞こえてきました。
「ギュルギュルゴロゴロッ、ギュルギュルギュル、ゴロゴロゴロッ」
「ありゃ、でっかい親イモをいっぱい食べちゃったからなあ」
敬太は、ジャンプの途中でお腹から何やら音が聞こえてきました。昨日の晩ご飯で、大好きな主食のでっかい親イモをいっぱい食べすぎてしまったのが原因です。でも、ここでやめたら、海面から顔を出している人食いザメのエジキになるだけです。
そして、敬太のジャンプは人食いザメのいる海面に向かって落ちていきました。そのとき、敬太はお腹のところに思わず力が入ってしまいました。
「プウッ、ププウ~ッ、プププウウ~ッ!」
「うわっ、おめえはおれたちにでっかいおならを3回もしやがって…」
「本当にくせえなあ…。よくも、わしの前でまたおならを…」
敬太は、人食いザメの真上のところで元気いっぱいのおならを3回続けて出てしまいました。人食いザメたちは、でっかいおならが見事に食らったので、海面に顔を出しながらあわてふためいています。
「今のうちに、人食いザメの弱点である鼻面に強く蹴り上げるぞ! どりゃああっ!」
「グエッ、グエエッ! グエエエッ!」
敬太は、海面に向かって急降下しながら、人食いザメの鼻面に右足で強く押し付けるように蹴りました。人食いザメは、敬太に鼻面を強く蹴られたことで混乱してしまい、そのまま逃げ出しました。
敬太は、人食いザメのうち1匹を撃退することができましたが、サメの鼻面を強く蹴ったはずみでそのまま海の中へドボンと入りました。
「よくも、おれたちの、おれたちの仲間を…」
「でも、あの獲物が小舟の手前でドボンと海の中に入ったぞ。今のうちに、おれたち2匹で食い尽くそうか、ふはははは!」
人食いザメは、仲間が敬太によって撃退されたことで強いいらだちを抱いています。しかし、敬太は小舟の手前で海中に飛び込んだのを見て、人食いザメは自分たちにとって敬太を再び襲う大きなチャンスと不気味な笑いを見せながらうかがっています。
一方、海の中に飛び込んだ敬太は、再び海面から顔を出してから、すぐに新吉のいる小舟のそばに行きました。
「敬太くん、早く上がって! すぐ後ろに人食いザメが迫ってきているよ!」
「新吉くん、そこにあるモリで人食いザメをやっつけるからね!」
新吉は、小舟に戻ってきた敬太に人食いザメが迫ってきているので、早く小舟に上がってほしいと叫ぶように言いました。すると、敬太は小舟の中にある登美蔵の形見であるモリが置いているのを見ると、左手で小舟を持ちながら右手でモリをつかみました。
その間にも、人食いザメ2匹が次第に小舟に近づいてきています。
「敬太くん、人食いザメが、人食いザメが後ろに…」
「ぼくは、恐ろしい人食いザメが目の前にいても負けないぞ!」
新吉は、敬太が登美蔵と同じように人食いザメのえじきになるのを見たくないので、早く小舟の上に戻ってほしいと思っています。しかし、敬太はどう猛な人食いザメが目の前にきても絶対に負けないという自信があります。
「ふはははは! おれたちのエサになるために自らやってくるとはなあ」
「よくも海の中でぼくたちに襲いかかりやがって、絶対に許さないぞ!」
人食いザメたちは、敬太が自分たちのエサになるためにやってきたと思って、大きな口を開けながら不気味な笑いを見せました。敬太は右手にモリを持ちながら、自分や新吉に襲いかかった人食いザメを絶対に許せない気持ちでいっぱいです。
「それじゃあ、まずはおれがおめえを噛み砕いて…」
「え~いっ! どりゃああっ!」
人食いザメは、鋭い歯をむき出しにして敬太を噛み砕こうと大きな口を開けました。敬太はこれを見計らうと、即座にモリを思い切りサメの鼻面に突き刺しました。
「グエグエッ、いててててっ! グエッグエッグエッ、いててててっ!」
「よくもやりやがったな! こうなったら、おれがおめえを食いちぎってやろうか!」
「人食いザメであろうと何であろうと、ぼくはおっとうが残したこのモリで倒してみせるぞ!」
人食いザメは、敬太が突き刺したモリで鼻面を大きな傷を負ったので、かなり痛がっています。これを見たもう1匹のサメは、完全に怒り狂った様子で鋭い歯をむき出しにすると、敬太に真正面から襲いかかりました。
すると、敬太も登美蔵が形見として残したモリを右手に持つと、人食いザメの正面に向かって行きました。そして、敬太はサメの鼻面を見つけると、そこに狙いを定めました。
「えいえ~いっ! とりゃああ~っ!」
「ウギャアアッ! いててっ、いててててっ! いててててててっ!」
敬太は、鋭い歯をむき出しにした人食いザメに対して、真正面からモリで鼻面を強く突き刺しました。人食いザメは、モリで鼻面を突き刺されたので、かなり痛がっている様子で混乱しています。
「人食いザメどもめ、もう二度と村人たちを襲いかかるんじゃないぞ!」
敬太は人食いザメに向かって、二度と村人たちに襲いかかることをするなと言い切りました。人食いザメたちは、敬太によるモリの一突きで鼻面を突かれたことで、これ以上の戦闘は不可能と判断したようです。
「くそっ! おぼえてやがれよ!」
「次に会ったときには、おれたちの頭領も連れてくるからな! そして、おめえをこの鋭い歯で噛み殺して血の海にしてやるからな! 覚悟しとけよ!」
人食いザメたちは、敬太を鋭い目ににらみつけるとともに、次は自分たちのボスといっしょに敬太を噛み殺して血の海にしてやると怒りに震えた声で脅し文句を言いました。そして、人食いザメたちは、敬太への恨みつらみを吐き捨てながら去って行きました。
「敬太くん、無事に戻ってきてくれてありがとう! ずっと1人で待っていたから、ぼくはとても心細かったよ」
敬太は、再び海面から顔を出すと、すぐに新吉がいる小舟に再び乗り込みました。新吉はずっと1人で待っていたので、小舟に戻ってきた敬太を見てうれしそうな表情を見せています。
「新吉くん、ここに1人で待って恐い思いをさせてごめんなさい」
「そんなことは気にしなくてもいいよ。だって、敬太くんはあんなに恐ろしい人食いザメを3匹もやっつけてくれたんだから!」
敬太は、人食いザメで恐い思いをさせてしまった新吉に頭を下げて謝りました。これを見た新吉は、敬太に気にしなくてもいいよと笑顔を見せながら言いました。新吉は、敬太が恐ろしい人食いザメを3匹とも撃退してくれたことに対して、感謝の気持ちでいっぱいです。
すると、小舟のそばにイルカがやってきました。イルカは、赤い腹掛け1枚だけの格好でモリを右手に持っている敬太を見ています。
「敬太くんは、どう猛な人食いザメであっても全く恐がらないから、サメの弱点である鼻面を真正面から一撃で食らわせてやっつけたそうだな」
「人食いザメをやっつけることができたのは、イルカさんがぼくを助けてくれたおかげだよ。本当にありがとう!」
イルカは、敬太が人食いザメを恐がらずに、弱点である鼻面を一撃でやっつけたことに感心しました。敬太は、イルカが自分を助けてくれたおかげで人食いザメをやっつけることができたので、イルカに対して感謝の言葉を述べました。
「でも、くれぐれも無茶なことはするんじゃないぞ。どう猛な人食いザメは、敬太くんに対して本気で噛み殺すと言っているからなあ。それと…」
「それって、どういうことなの?」
「人食いザメたちの背後には、ある黒幕が控えているという話を聞いたことがあるぞ。その黒幕はまるで鬼みたいな人間だった気がするが…」
イルカは、人食いザメが敬太に再び会ったら本気で噛み殺すと言ったのを聞いたので、無茶なことはするなと敬太に忠告しました。そして、イルカは人食いザメの背後に、鬼みたいな人間の姿をした黒幕の存在を聞いたことがあると敬太に言いました。
「そういえば、長老の家にお泊りに行くときに大きな人間と戦ったけど、戦っている途中で一瞬だけ獣人に見えたような…」
敬太は、長老の家へ行く途中で留造と戦ったときのことを思い出しました。それは、戦っている途中で、留造が一瞬だけ獣人の姿に見えたときがあったからです。それと、留造が敬太に恨みつらみを言って去っていくときの言葉も頭に浮かびました。
「おぼえてろよ! 次におめえと会うときは、わしの本当の姿でおめえを人食いザメのエサにしてやるからな!」
敬太は、留造がイルカの言う人食いザメの黒幕なのではと思うようになりました。そして、その黒幕が鬼みたいな人間だとすれば、それは獣人である可能性が極めて高いのではと敬太は考えています。
「まさか、鬼みたいな人間って獣人のこと?」
「獣人っていう言葉は初めて聞く言葉だなあ。まあ、鬼みたいな人間が獣人なのかどうかは分からないけど」
敬太は、人食いザメの黒幕が鬼みたいな人間というのは獣人のことを指すのかをイルカに聞いてみました。しかし、イルカは獣人という言葉を初めて聞く言葉であり、鬼みたいな人間が獣人なのかどうかも分からないと敬太に言いました。
その時、小舟の近くから誰かを呼ぶ声が聞こえてきました。その声を聞いたイルカは、すぐに反応しました。
「おっとう、どうして急にいなくなったの? さびしかったよ」
「寂しい思いをさせて本当にごめんな。さあ、いっしょに泳ぎながら帰ろうかな」
イルカのそばにやってきたのは、自分と同じ小さいイルカです。その小さいイルカは、敬太を助けたイルカの子供です。イルカの子供は、自分のお父さんが急にいなくなってさびしかったので、再び会うことができてうれしそうです。イルカも、寂しい思いをさせた子供に謝りました。
「イルカさん、またここで会うのを楽しみにしているよ!」
「敬太くん、新吉くん、また会うときがあったら、そのときはよろしくな」
敬太と新吉は、イルカに手を振りながら別れを惜しむとともに、再びイルカに会うことを楽しみにしていると笑顔で言いました。イルカも、敬太たちから手を振ってくれるのがとてもうれしそうです。
そして、イルカたちは敬太たちと再び会うことを願いながら、沖に向かって遊泳していきました。
「敬太くんのおかげでいっぱいお魚や大きな貝が取れたから、おっかあも大喜びすると思うよ!」
「ぼくが今日取ってきたお魚や貝をおっかあに早く見せたいな」
敬太のおかげで、今日はメバルやヤドカリといったお魚や大きな貝を取ることができました。これを見た新吉は、自分たちが取ってきた魚を見ておみかも喜んでくれるとうれしそうな表情を見せました。敬太も、おみかにお魚や貝をたくさん取ってきたことを早く自慢したがっている様子です。
敬太たちは、沖合いから波打ち際に向かって小舟を漕ぎました。そして、波打ち際から砂浜の上へ小舟を置くと、2人はうれしそうな足取りで家のほうへ戻りました。




