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《獣人のこども》おねしょ敬太くんの大ぼうけん  作者: ケンタシノリ
第5章 敬太くんと人食いザメとの戦い

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その6

 おみかの家での朝は、いつものように敬太と新吉の笑顔で一日が始まります。


 「おっかあ、お布団を見て見て! 今日もお布団に元気いっぱいのでっかいおねしょをしちゃったよ!」

 「ぼくも、敬太くんと同じような大きなおねしょをお布団に描いたよ!」


 敬太と新吉は、今日もお布団と腹掛けにおねしょをしてしまいました。2人のお布団には、元気な男の子のシンボルであるでっかいおねしょが見事に描かれています。2人は、自分たちのおねしょを見てほしくて、いつものようにおみかを呼びました。


 敬太と新吉の声を聞いたおみかは、すぐに2人がいる板の間へ行きました。そこには、やってしまったおねしょ布団の上に立ちながら笑顔を見せている敬太と新吉の姿がありました。これを見たおみかは、すぐにやさしい笑顔を見せながら2人を見つめました。


 「敬太くんも、新吉くんも、お布団に描かれたおねしょの模様をみると、2人とも見事にべっちょりと元気いっぱい出ちゃったみたいだね」


 おみかは、敬太と新吉がやってしまったおねしょ布団を見ました。2人のお布団には、いずれも元気いっぱいのおねしょがべっちょりと描かれています。


 でっかいおねしょをするのは、元気な子供だったら当たり前のことです。おさいにとっても、敬太と新吉のおねしょ布団を見るのは、子供がいつも元気で健康に過ごしているのかを確認するためなのです。おみかは、おねしょがお布団にでっかく描かれているのを見ると、すぐに敬太と新吉の頭をなでなでしながら褒めました。


 「あたしは、敬太くんと新吉くんがいつも元気で丈夫に成長するのを楽しみにしているわ。お布団へのでっかいおねしょは、元気いっぱいの子供である立派な証拠なのよ」

 「これからも寝ているときに元気な夢を見て、お布団にでっかくて元気なおねしょが描けるようにがんばるぞ!」

 「ぼくだって、敬太くんよりもでっかいおねしょを描くぞ!」


 おみかは、敬太と新吉のおねしょが元気な子供である立派な証拠であると笑顔で言いました。敬太と新吉は、おみかの前でお互いに元気な夢を見て元気なおねしょが描けるようにがんばると笑顔で答えました。


 敬太と新吉がやってしまったおねしょ布団は、2人がそれぞれのお布団をお庭の物干しに干しました。お庭に干された敬太と新吉のお布団は、目の前に広がる大きな海に負けないくらいのでっかいおねしょが描かれています。


 敬太と新吉がおねしょ布団を干し終わると、家の前に子供たちが集まってきました。よく見てみると、子供たちも小さいお布団を半分くらい折りたたんで持っています。


 「敬太くん、新吉くん、きょうもおねしょしちゃったの?」

 「でへへ、今日もお布団にでっかくて元気なおねしょをしちゃったよ!」

 「ぼくは、海の中へ素潜りをした夢を見て、でっかいおねしょをしちゃったぞ!」


 子供たちは、敬太と新吉のおねしょ布団を見て、2人におねしょをしちゃったのか聞いてみました。敬太と新吉は、いずれも照れながらもお布団にでっかいおねしょをしちゃったことを笑顔で答えました。すると、子供たちは自分たちが持ってきたお布団を裏返しました。子供たちが裏返したお布団には、敬太や新吉と同じようなおねしょの地図が描かれています。


 「えへへ、ぼくたちもお布団に大きなおねしょをしちゃったんだよ」

 「あたしのお布団も見て見て!」「ぼくもおねちょ(おねしょ)しちゃったよ」


 子供たちは、やってしまったばかりのおねしょ布団を敬太や新吉に見せながら自慢しています。おねしょしても、お父さんやお母さんが普段からやさしく接しているので、子供たちはいつも笑顔がいっぱいです。


 「それじゃあ、これからみんなで海の中に入って、おねしょしちゃった腹掛けをゴシゴシ洗おうよ!」


 敬太や新吉はもちろんのこと、他の子供たちがつけている腹掛けもおねしょでぬれています。でも、海の中へ入れば、おねしょしちゃった腹掛けも同時に洗うことができるので好都合です。


 「おっかあ、これから海へ遊びに行ってくるよ」

 「敬太くんも、新吉くんも、海でおぼれないように気をつけるのよ」

 「おっかあ、心配しなくても、必ず家へ戻ってくるからね!」


 敬太は、新吉といっしょに海へ行くことにしました。おみかは、敬太や新吉に十分気をつけるように伝えると、2人は必ず家へ戻ってくるからと言いました。


 敬太と新吉は、駆け足で浜辺へやってきました。他の子供たちも、後ろの方から合流しました。


 「それっ、みんなで海の中に入るぞ!」

 「わ~い! 海だ海だ!」「海に入ろ! 海に入ろ!」


 敬太が、一足先に波打ち際からジャンプして海の中へ入ると、他の子供たちも次々と海の中へ入って行きました。朝からずっと暑くて、体から汗がいっぱい出ている子供たちにとって、海の中へ入ると気持ち良さそうな表情を見せています。


 「やっぱり、海の中へ入ると気持ちいいね!」

 「体を洗うのは久しぶりだから、ついでにいろんなところを洗うぞ」


 敬太たちは、おねしょしちゃった腹掛けを海水でゴシゴシと洗い流しました。すっかりと海の生活に慣れた敬太は、海の中へ入ることが気持ちいいと満足しています。


 すると、新吉が腹掛けをつけたままで、両手で体のいろんなところをさすりながら洗っています。浜岸村には、近くに川と言えるものは全くありません。この村で真水を手に入れるためには、村人たちが使うための井戸から水を汲んでくるか、雨水を桶の中にためておくかのいずれかになります。


 これらは、いずれも洗濯や晩ご飯のときや飲み水として使いますが、井戸水は村人が共同利用することから1日に汲める水の量が決まっています。そのため、村人たちはもっぱら海の中に入って体を洗うことになるのです。


 でも、子供たちにとっては、海の中で遊びながら体を洗うことができるので、夏の暑い日には海に入るのをいつも楽しみにしています。


 「海の中で洗ったことだし、砂浜に一旦上がろうよ」

 「え~っ、まだ海の中に入りたい!」「敬太くん、海で遊ぼ! 遊ぼ!」


 海中で体を洗った新吉は、砂浜に一旦上がろうと他の子供たちに言いました。しかし、子供たちは、海の中でまだ遊びたいと駄々をこねています。辰六と清三郎は、敬太と海で遊びたいので、敬太の体にへばりついて離れようとしません。


 「砂浜に上がっても、いろんなことをして遊ぶことができるよ!」


 敬太は、子供たちに砂浜でもいろんなことをして遊ぶことができると笑顔で言うと、子供たちは次々と海の中から砂浜へ上がりました。


 「これから逆立ちするから、みんなよく見てね!」


 敬太は子供たちの目の前に立つと、自分の両手を砂浜の地面に置きました。そして、右足を振り足として勢いをつけて上げると、敬太は見事に逆立ちをすることができました。


 「逆立ちしたままで砂浜を歩いて行くよ!」


 敬太は、逆立ちをするだけでなく、逆立ちをしながら自分の両手を使って歩くことも大好きです。子供たちが見ている前で、敬太は両手を交互に動かしながら逆立ち歩きをしています。しかし、敬太はいつも赤い腹掛け1枚だけの着用なので、逆立ち歩きをしている途中で腹掛けが下へめくれてしまいました。


 「敬太くん、おちんちんが丸見えだよ」「ちんちんが見えてるよ」

 「でへへ、逆立ちしていたらおちんちんをみんなに見られちゃった」


 敬太は、自分のおちんちんが子供たちに見られても、恥ずかしがらずに笑顔を見せながら逆立ち歩きを続けました。逆立ち歩きを終えた敬太は、子供たちからたくさんの拍手を受けました。


 「ぼくだって、逆立ちをしようと思えばできるぞ!」


 敬太が砂浜で逆立ち歩きをしていたのを見て、新吉もすぐに逆立ちをしようとします。しかし、敬太と同じように逆立ちしようとしても、新吉はなかなか逆立ちをすることができません。


 「新吉くん、ぼくが両足を支えてあげるから、右足を思い切って上げてね」

 「敬太くんのためにも、逆立ちができるようにがんばるよ!」


 敬太からの励ましを受けた新吉は、砂浜に両手を置くと右足を思い切って上げました。敬太は、新吉が振り足として上げた右足を左手でつかむと、続けて上げた左足も右手でつかみました。


 「新吉くん、自分で逆立ちをすることができたね!」

 「逆立ちができたのは、敬太くんが支えてくれたおかげだよ。今度は、敬太くんの支えが無くても自分でできるようにがんばるよ!」


 敬太は、新吉が自分で逆立ちができたことにうれしい表情を見せました。新吉も、敬太が励ましたおかげで逆立ちができたことを喜びました。しかし、新吉が逆立ちを続けている次の瞬間のことです。


 「新吉くん、かわいいおちんちんが丸見えになってるよ」

 「えへへ、腹掛けがめくれておちんちんが見えちゃった」


 新吉は、腹掛けが下にめくれておちんちんが丸見えになってしまいました。そのことを敬太から言われた新吉は、顔を赤らめながらも自分のおちんちんが丸見えになっていることを笑顔で言いました。


 「よ~し! 次はみんなでお相撲をするぞ!」

 「わいわ~い! お相撲! お相撲!」「早くしよう! 早くしよう!」


 逆立ちが終わると、今度は敬太が大好きなお相撲です。これを聞いた子供たちは、足をピョンピョン跳ねながら喜んでします。


 敬太は、砂浜に落ちていた木の枝を使って大きな円を描くと、浜辺に簡単な土俵ができました。土俵の中には、敬太と新吉の2人が向かい合うように入りました。


 「ぼくもお相撲をするのが大好きだから、敬太くんには負けないぞ!」

 「新吉くん、遠慮しないで思い切りぶつかってきてね!」


 新吉は、逆立ちの時には敬太の助けでようやく逆立ちをすることができましたが、敬太には絶対に負けたくないという思いが心の中に持っています。敬太のほうも、新吉と相撲を取るのが楽しみで今からワクワクしています。


 「はっけよい、のこった」


 敬太と新吉は土俵の上でぶつかり合いますが、敬太は新吉の胸を手のひらで強く突き出しました。敬太の突き出しを受けた新吉は、そのまま土俵の外へ出て尻餅をついてしまいました。


 「敬太くんに向かって本気でぶつかり合ったのに、すぐに土俵の外へ出てしまったよ。やっぱり、お相撲が強い敬太くんにはかなわないよ」

 「そんなことはないよ。だって、土俵でぶつかり合ったときの新吉くんの力は本当に強かったよ!」


 敬太が山奥で暮らしていたとき、寺子屋では相撲の取組で自分よりも年上の子供たちに圧倒的な強さで勝ち続けました。新吉も、本気で敬太にぶつかって行きましたが、敬太の突き出しで土俵の外に出て負けてしまいました。これには、新吉も敬太の力強さを思い知ることになりました。


 すると、敬太は本気を出してぶつかり合った新吉の強さを認めると、土俵の外で尻餅をついた新吉もすぐに立ち上がりました。そして、敬太と新吉はお互いに右手を出すと、そのまま握手を交わしました。


 敬太と新吉はお互いに握手をすることで、2人が兄弟のような強いつながりを改めて感じることになりました。


 「敬太くん、ぼくと早くお相撲しよう!」「お相撲! お相撲!」

 「じゃあ、みんなでお相撲をしようかな」

 「わいわ~い! お相撲ができるぞ!」「早くしよう! 早くしよう!」


 子供たちも、敬太といっしょにお相撲を取りたくてずっと待っています。敬太が子供たちにお相撲をしようと呼びかけると、子供たちは一斉に大喜びしました。


 敬太が土俵の中に入ると、子供たちは1人ずつ順番に土俵に入りました。最初は、女の子のさちです。


 「はっけよい、のこった」


 さちは、土俵で敬太を何とかして両手で押そうとしますが、なかなか押すことができません。最後は、敬太がさちを両手で軽々と土俵の外へ押し出しました。続けて、清三郎もなつも辰六も相撲を取りましたが、3人とも敬太に押し出されてしまいました。


 それでも、敬太にどうしても勝ちたいと思っている子供たちは、4人全員が一度に土俵の中に入りました。いよいよ、敬太と1対4での相撲の取組が始まります。


 「敬太くん、ぼくたち4人全員といっしょにお相撲を取ってよ!」

 「それじゃあ、みんなといっぺんにお相撲を取ろうかな」


 子供たちは、4人全員だったら敬太に勝てるかもしれないと考えています。敬太も、子供たちのことが大好きなので、相撲を子供たちといっしょに取ることを喜んで引き受けることにしました。


 「はっけよい、のこった」


 敬太は、土俵で前からぶつかり合ったさちと清三郎を両手で押しながら、土俵の外へ押し出そうとします。しかし、敬太はなぜか自分の両足が重くて動きにくく感じたので、すぐに足元を見ました。そこには、なつと辰六が両足を持って、敬太が前へ進むのを必死に食い止めているのです。


 そして、敬太が前へ進もうと足をバタバタ動かそうとしたときに、なつと辰六は敬太の両足をいきなり離しました。敬太は、足を動かすことを止めることができずに、そのまま土俵の上で正面から倒れ込んでしまいました。


 「わ~い! わ~い! 敬太くんに勝ったぞ!」「お相撲で勝ったよ!」

 「でへへ、油断していたら土俵の上でこけちゃったよ」


 子供たちは、敬太に土をつけることができたので大喜びしています。子供たちに負けた敬太は、子供たちに油断してこけてしまったことを照れた表情で言いました。


 敬太は、すぐに倒れ込んだ砂浜の上から起き上がろうとしましたが、その足元近くにカニがやってきました。カニが自分の足元へやってきたことに、敬太はまだ気づく様子はありません。


 しかし、次の瞬間のことです。明るい笑顔を見せていた敬太の表情が一変します。


 「いてて、いててててっ! カニに挟まれちゃった!」


 敬太は、自分の右足をカニのハサミに挟まれると、そのあまりの痛さに敬太は思わず上へ大きく飛び上がりました。そして、敬太はそのまま砂浜の地面に尻餅をついてしまいました。


 「敬太くん、尻餅ついちゃったね!」「カニさんに挟まれたけど、大丈夫?」

 「でへへ、カニさんに足を挟まれて痛かったから、みんなに上へ飛び上がるところを見られちゃったよ」


 子供たちは、敬太が右足をカニに挟まれて痛がっていたので、尻餅をついた敬太を心配そうに見ていました。しかし、敬太はカニに挟まれたときの痛みで思わず上へ飛び上がったことを笑顔を見せながら言いました。


 「最後は、ぼくがいつもお相撲の稽古のときにこういうことをするけど、みんなできるかな?」

 「どんな稽古をするの?」「ぼくたちにもできる?」


 相撲の取組みが終わると、敬太は自分が行っている相撲の稽古を新吉や子供たちに見せようとします。子供たちは、敬太がどんな稽古をするのか興味を持ちながら見ようとしています。


 「んぐぐぐっ、んぐぐぐぐぐっ、んぐぐぐぐぐっ!」

 「うわあっ、敬太くんはかなりきつそうな表情をしているぞ。大丈夫かな?」


 敬太は、両足を完全に開いて砂浜にぺたりと座ると、そのまま顔を地面に付くように上半身を倒していきます。敬太が行っているのは、相撲の稽古の中でも厳しい部類に入る股割りの稽古です。股割りは、股関節を柔軟にすることによって大ケガを防止するための準備運動です。


 敬太が股割りの稽古をしていると、かなりきつそうな表情をしています。これを見ている新吉や子供たちも、心配そうな表情で敬太を見つめています。しかし、そんな心配をよそに、敬太は股割りの稽古を続けています。


 「大丈夫! 大丈夫! この股割りの稽古はかなりきついけど、ぼくは砂浜に顔をつけるまで自分の体を倒すことができるぞ! んぐぐぐぐっ、んぐぐぐぐぐぐっ!」


 敬太は、上半身を起こしたり倒したりしながら、弱音を一切吐かないで股割りを行っています。股割りを続けている敬太は、ものすごく強い獣人や恐ろしい人食いザメをやっつけるためにも、きつそうな表情に耐えながら稽古に励み続けています。


 「敬太くん、よくがんばったね! 股割りであれだけ長く続けるのは、村人たちの中にはいないよ」


 新吉は、股割りの稽古を終えた敬太の左肩に手を当てながら励ましました。股割りは、相撲が得意な大人でもきちんとできる人はあまりいません。股割りの稽古を長時間続けた敬太は、力が強いだけでなく辛抱強さも兼ね備えた元気な男の子なのです。


 「これだけやれば、目の前にいる人食いザメであっても、この手でやっつけることができるぞ!」


 敬太は、きつい稽古に耐え続けたことで、再び現れるであろう人食いザメに対してもやっつけることができると自信満々です。


 そのとき、聞き覚えのある年老いた人の声が敬太の耳に入ってきました。


 「さあ、それはどうかな。わしも、敬太くんが人食いザメを退散させたことは吉之助から聞いているけど、同じことが果たして通用するかなあ」

 「長老さま、ぼくが人食いザメをやっつけたことを知っているの?」

 「ああ、そのことは知っているぞ。だけど、くれぐれも人食いザメは凶暴だということを忘れるんじゃないぞ」


 敬太が声の聞こえた方向に向きを変えると、そこには村の長老が立っていました。長老は、敬太が人食いザメをやっつけて退散させたことを評価しましたが、その一方で同じようなことが通用するとは限らないと指摘しました。


 そして、長老は人食いザメが非常に凶暴な存在であることを忘れてはいけないと敬太に伝えました。長老は、まだ小さい子供である敬太が人食いザメに襲われて命を奪われるのを見たくないからこそ、あえて敬太に厳しい言葉を言ったのです。


 すると、海のほうから何やら叫び声が敬太の耳にかすかに入りました。敬太は何を思ったのか、波打ち際から海の中に入るとすぐに泳ぎだしました。


 「敬太くん、どうしたの? 海のほうで何かあったの?」

 「本当に大丈夫かなあ。敬太くんは、わしが止めようとしても絶対に助けに行く心のやさしい男の子なんだけど…」


 新吉は、いきなり海の中へ入って泳いで行った敬太を見ながら心配そうに見つめていました。敬太を心配しているのは長老も同じです。長老が心配するのは、敬太のやさしい気持ちが仇になってしまう可能性があるかもしれないからです。


 「た、助けて…。お、おぼれる…」

 「叫び声がはっきりと聞こえてきたぞ。すぐに助けに行くぞ!」


 敬太の目の前には、海でおぼれている男の子の姿がありました。男の子が助けを求める声を聞いて、敬太は急いで男の子のところへ向かいました。


 「あっぷ、あっぷ、もうだめ…」

 「あきらめちゃだめだぞ! ぼくの背中につかまって!」


 敬太は、男の子が海の中へ沈みかけているところを間一髪で助け出しました。そして、敬太は男の子を背中に担ぎながら、急いで波打ち際まで戻って行きました。


 敬太が助け出した男の子は、新吉よりも年上であり、灰色のふんどしをつけています。その男の子は海水を大量に飲み込んでしまい、ぐったりとしている状態です。


 「大丈夫か? 飲み込んだ水を吐かせてやるからな!」


 敬太は波打ち際から砂浜の上へ上がると、すぐに男の子をうつ伏せにして自分の膝の上に乗せました。そして、敬太は男の子の頭を胸よりも低くした状態にして、みぞおちを圧迫しながら背中を強くはたくと、男の子は飲み込んでしまった海水を大量に吐き出すことができました。


 「うええええ~ん! ぼくを助けてくれてありがとう! うええええ~ん!」

 「もう大丈夫だから、泣かなくてもいいのよ」


 男の子は、自分を助けてくれた敬太を見て感謝の言葉を言うと、敬太に抱きつきながら思わず泣き出しました。これを見た敬太は、男の子に泣かなくてもいいよと慰めました。


 「ぼくは、家の手伝いで海の中に入ってわかめを採りに行ったけど、その途中で深みにはまっておぼれてしまったんだ」

 「それだったら、ぼくが代わりにわかめを採りに行ってみるよ」


 男の子は、わかめ採りをしている途中で深みにはまっておぼれてしまったと敬太に言いました。これを聞いて、敬太は男の子の代わりにわかめを採りに行くことにしました。


 「きみが代わりにやってくれるの? 本当だったらぼくがしなければいけないのに…」

 「そんなことは気にしなくてもいいよ。その間に、ぼくがこの手でわかめをいっぱい採ってくるからね!」


 男の子は、本当なら自分がしなければならないわかめ採りを自分の代わりに行うと言った敬太に申し訳ない気持ちを感じました。でも、敬太は気にしなくてもいいと男の子に言うと、すぐに海の中へ入って行きました。


 「うわ~い! 海の中にはわかめがたくさんあるぞ!」


 敬太が泳いでいるところは、顔を出しながら海底に足がつくことができるギリギリの位置です。そこには、岩場に固着しているわかめがたくさんあります。わかめは、左右に広く伸びて羽状に裂けており、その長さは約7尺(約2m)にも達します。


 「これくらいのわかめだったら、この手で引っこ抜いてやるぞ!」


 敬太は、わかめが固着している岩場まで潜っていきました。わかめを見つけると、敬太はすぐに両手でわかめをつかみました。


 「んぐぐぐっ! んぐぐぐぐぐっ! んぐぐぐぐぐっ!」


 敬太は、必死になってわかめを引っこ抜こうと両腕に力こぶを入れると、根っこからわかめを引っこ抜くことができました。その後も、岩場にある他のわかめも敬太が自分の手で引っこ抜きながら採りました。


 「みんな、見て見て! 岩に生えていたわかめをこんなに採ることができたよ!」

 「うわっ、敬太くんが本当にわかめをたくさん採ってきたくれたんだ」

 「敬太くん、ぼくにも見せて! 見せて!」「わかめ! わかめ!」


 敬太は、顔を海面に出しながら海底を歩くことができるので、たくさん採ったわかめを両手で持ちながら波打ち際まで歩きながら戻ってきました。敬太が持っているわかめは、片手に3株ずつ、合計6株もあります。


 砂浜にいる男の子は、たくさん持って帰ったわかめを持っている敬太を見て、驚いた表情を見せました。小さい子供たちも、敬太が手にしているわかめを見て大はしゃぎしています。


 「ぼくが採ってきたこのわかめをおうちに持って帰ってね」

 「海でおぼれたところを助けた上に、わかめ採りまでしてくれて本当にありがとう!」


 敬太は、男の子に採ってきたばかりのわかめ2株を手渡しました。男の子は、海でおぼれた自分を助けただけでなく、自分のためにわかめ採りもしてくれた敬太に感謝の気持ちでいっぱいです。


 「ところで、きみの名前はどんな名前なのかな?」

 「ぼくは、常助という名前で11歳の男の子だよ。きみのほうは?」

 「ぼくの名前は敬太と言って、いつも力持ちで元気いっぱいの7歳児の男の子だよ。常助くん、よろしくね!」

 「敬太くん、この恩は一生忘れないよ。今度は、ぼくが敬太くんに恩返しするよ!」


 常助と敬太は、お互いに自分の名前を自己紹介しました。そして、常助は敬太に改めて感謝の気持ちを示すとともに、今度は自分が敬太に恩返しすることを言うと、急いで自分の家へ帰ることにしました。


 敬太は、残りのわかめ4株をみんなで分けることにしました。子供たち4人にそれぞれ半株ずつを、長老に1株をそれぞれ手渡しました。そして、残り1株は敬太と新吉がいっしょに持って帰ることにしました。敬太からわかめをもらった子供たちは、一斉に大喜びしています。


 「敬太くん、ありがとう!」「わ~い! わかめ! わかめ!」

 「はっはっは、敬太くんは子供が困っているのを放っておけない性格だからね。おぼれている子供を助けたり、代わりにわかめ採りをしたりするのも、敬太くんのやさしさが表れている証拠じゃ」

 「ぼくは、いつも当たり前にやっていることをしていただけだよ」


 長老は、敬太が困っている子供を放っておけないところが、敬太のやさしい性格が現れている証拠であると目を細めました。すると、敬太はいつも当たり前にやっていることをしただけと長老に言いました。


 「どうじゃ、今日はわしの家でお泊りでもしてみないかな。これは、わしから敬太くんへのご褒美じゃ」

 「えっ、長老さまの家でお泊りをしてもいいの? でも、それだとおっかあが心配させてしまうし…」

 「大丈夫じゃ。わしが敬太くんといっしょにおみかの家へ行って話をするから」


 長老は、困った子供を手助けした敬太に、ご褒美として自分の家でお泊りさせることを決めました。敬太は、長老の家でお泊りすることにうれしさを隠せない様子ですが、自分が他の家にお泊りをすることで、おみかに心配をかけてしまうのではと少しためらいも見せています。


 そのとき、長老は敬太といっしょにおみかの家へ行くからとやさしい声で言いました。おみかに敬太のお泊りをお願いするためです。


 「長老さま、新吉くんや他の子供たちもいっしょにお泊りさせてもいいかな?」

 「子供たちもわしの家でお泊りをするのが楽しみだろうし、わしも子供たちが家へやってくるのが楽しみじゃ」

 「わ~い! 長老さまの家でお泊りできるぞ!」「お泊り! お泊り!」


 敬太は、自分だけでなく他の子供たちもいっしょにお泊りさせてほしいとお願いしました。長老も、自分の家にお泊りで子供たちがやってくるのを楽しみにしている様子です。長老の言葉を聞いた子供たちも、お泊りすることができると足をピョンピョン跳ねながら喜んでいます。


 「それじゃあ、おみかの家へ行こうかな。家の場所はわしも知っているぞ」

 「長老さま、よろしくお願いします」


 長老は、敬太と新吉といっしょにおみかの家へ向かいました。子供たちも、うれしい表情を見せながら、長老たちの後ろへついて行きました。


 「おっかあ、見て見て! 海の中でわかめを採ってきたよ!」

 「敬太くん、わかめを採ってきてくれて本当にありがとう。このわかめを使って味噌汁でも作ろうかな」


 敬太は、うれしい表情で採ってきたばかりのわかめをおみかに見せました。おみかも、わかめを採ってきた敬太に感謝の言葉を言うとともに、わかめを使って味噌汁を作ろうと考えています。


 「長老さまもきていたのね。長老さま、いらっしゃいませ」

 「これこれ、そんなにかしこまらなくてもいいぞ」


 おみかは、敬太と新吉の横にいる長老にあいさつをすると、長老はそんなにかしこまらなくてもいいとおみかに言いました。


 「それはさておき、敬太くんと新吉くんを一晩だけわしの家でお泊りさせてもいいかな?」

 「長老さまがお泊りをさせたいと言うのなら、敬太くんと新吉くんを今夜一晩預けることにするわ」


 長老は、敬太と新吉を自分の家にお泊りさせてほしいとおみかに言いました。これを聞いたおみかも、2人を長老に一晩預けることにしました。


 「おみかさんも、もうすぐしたら赤ちゃんが生まれるかもしれないから、今日はゆっくり休んだほうがいいよ」

 「長老さま、あたしのことを気遣ってくれてありがとうね」


 長老は、おみかのお腹を見て、間もなくお腹の中の赤ちゃんが生まれるかもしれないと感じました。それ故に、長老はおみかにゆっくり休んだほうがいいと気遣いました。おみかも、自分に対して気遣った長老に感謝の言葉を言いました。


 「敬太くんも、新吉くんも、長老さまの言うことは必ず守るんだよ」

 「おっかあ、長老さまが言ったことをちゃんと守るよ!」


 おみかは、敬太と新吉に長老の家でお泊りするときの注意事項を伝えました。2人は、おみかに長老の言うことをちゃんと守ると言いました。


 「おっかあ、長老さまの家へお泊りしてくるからね!」

 「敬太くん、新吉くん、気をつけて行くんだよ」


 敬太と新吉は、おみかにあいさつするとすぐに長老の後について行きました。すると、おみかの家から飛び出してきたワンべえが敬太の右肩に飛び上がりました。ワンべえも、敬太たちといっしょに行きたがっている様子です。


 「ぼくも、敬太くんたちといっしょに行きたいワン!」

 「だったら、ワンべえもいっしょにお泊りしに行こうか!」

 「敬太くん、ありがとうワン! ぼくは敬太くんや新吉くんがそばにいないとさびしいワン! ペロペロペロッ~」

 「もうっ、ワンべえったら、ぼくの顔をなめるのが大好きなんだね」


 敬太は、長老の家でのお泊りにワンべえもいっしょに連れて行くことにしました。これを聞いたワンべえは、あまりのうれしさに敬太の顔をいつものようにペロペロとなめ始めました。敬太は、ワンべえに顔をなめられてちょっと照れた表情を見せました。


 「お泊り、お泊り、楽しいな~」「敬太くんといっしょに寝たいなあ」


 他の子供たちも、敬太たちといっしょにお泊りできるのでとてもうれしそうです。子供たちは、長老の家でのお泊りをドキドキワクワクしている様子です。


 長老を先頭に砂浜を歩いていると、反対側から留造が走りながら通り過ぎようとしていました。すると、留造は辰六の体にぶつかってきたにもかかわらず、そのまま走り去ろうとしました。


 「うええええ~んっ、うえええええ~ん!」

 「辰六くん、痛かったの? よしよし、ぼくがいるから大丈夫だよ」

 「敬太くん、ありがとう! もう泣かないから」


 辰六は、留造に強くぶつかったはずみで砂浜に倒れ込むと大声で泣き出しました。これを見た敬太は、すぐに泣いている辰六を抱っこしました。そして、敬太は辰六の頭をやさしくなでなでするとともに、辰六にやさしい声で励ましました。


 すると、辰六はすぐに泣き止むと、再び明るい笑顔に戻りました。辰六は、自分を抱っこしてやさしく声をかけてくれた敬太に感謝しました。


 「よくも辰六くんを泣かせやがって、絶対に許さないぞ!」


 敬太は、辰六を泣かせたままで走り去ろうとした留造を駆け足で追いました。敬太の駆け足の速さは、相手が大人であってもすぐに追いつくだけの速さを持っています。

 

 後ろから迫ってくる敬太の存在に気づいた留造は、すぐに立ち止まると敬太をじろじろとにらみつけました。留造の目つきは、まるで獣人が敬太の目の前に現れたときの目つきとそっくりです。


 「ぼくをにらみつけて、何をするつもりだ!」

 「何だと! おめえの顔を見て何が悪いんだ!」


 敬太は、自分をにらみつけた留造に対して怒りの言葉をぶつけました。すると、留造のほうも敬太の顔を見ただけと言い切りました。


 「よくも、ぼくの大事な友達を泣かせやがって!」

 「泣かせただと? フンッ、そんなの知るか!」


 敬太は、辰六を泣かせた留造をどうしても許すことができません。しかし、留造はそんなことは一切知らないの一点張りです。


 「だったら、おめえにも同じことをしてやろうか! うりゃあ!」

 「んぐぐぐぐっ、んぐぐぐぐっ! どうだ! これがぼくの力だぞ!」


 留造は一旦後ろへ下がると、すぐに敬太に向かって素早く突進してきました。でも、どんな状況であっても敬太は大きな相手に負けるわけにはいきません。敬太は、両腕に力こぶを入れながら、突進してきた留造を両手で受け止めました。


 「え~い! えいえ~い! えええ~いっ!」

 「グエッ、グエッ、グエエッ」


 敬太は、両手を握り拳にすると、留造の胴体に強烈なパンチを何度も食らわせました。敬太の強烈なパンチを食らった留造は、そのまま砂浜の上へ倒れ込みました。


 「これでどうだ! え~い、んぐぐぐぐぐっ!」


 敬太は、倒れ込んでいる留造を、両手を使って真上まで持ち上げました。かなり大きな岩石などを堂々と持ち上げることができる敬太にとって、留造ぐらいの大人の体重であれば楽々と持ち上げることができます。


 「それじゃあ、ぼいっ、ほいっ、ほいっ」

 「おめえ、わしに何をするつもりだ! わしにこんなことをしてただで済むと…」


 敬太は、真上まで持ち上げた留造を両手を使って何回も軽く上げました。留造は、何度も宙に舞い続けるたびに、足をバタバタさせながら敬太に向かってわめき散らしました。


 「小さい子供をいじめるやつは許さないぞ! え~い! ええいえ~い!」

 「わわわわっ、わわわわわっ!」


 敬太にとって、小さい子供をいじめるやつは、獣人であろうと人間であろうと許すことができません。敬太は、腰に力を入れながら両手で留造の背中をつかんで持ち上げると、そのまま波打ち際に向かって投げました。敬太に投げられた留造は、波打ち際近くの海へドボンと落ちました。


 「おぼえてろよ! 次におめえと会うときは、わしの本当の姿でおめえを人食いザメのエサにしてやるからな!」


 留造は、海の中から立ち上がると、敬太に大声で捨てゼリフを吐き捨てるように言ってからそのまま走り去りました。敬太は、留造が走り去る姿を見ながら、ふと気になることを思い出しました。


 「ぼくとさっき戦った相手は、人間なのに恐そうな顔つきでにらみつけていたなあ。それに、戦っている途中で一瞬だけ獣人の姿に見えたような…」


 敬太は戦っている途中で、ほんの一瞬だけ留造が獣人の姿に見えたときがありました。敬太のお父さんとお母さんも元々獣人だったことは、旅に出る前におじいちゃんから聞いたことがあります。そのため、敬太は獣人が人間に変身することがあるということも知っていました。


 しかし、ほんの一瞬であるとはいえ、戦った相手の人間が獣人の姿に見えたということは、敬太にとって衝撃的な事実です。敬太が獣人たちを倒したことで、他の獣人たちに敬太のことが知れ渡っている可能性が高いことから、敬太の前に刺客として獣人を送り込むことも十分に考えられます。


 そう考えると、獣人が留造の姿に変身して浜岸村に潜伏しながら、敬太が自分の目の前にやってくるのを待っていた可能性は否定できません。獣人が人間に変身すれば、村人たちもあまり警戒することはないので、敬太の行動パターンを把握するのには好都合です。


 そのとき、敬太の耳に長老の声が聞こえました。


 「お~い! 敬太くん、早く戻らないと置いていくぞ!」

 「長老さま、心配をかけてごめんなさい」


 長老は、敬太がいつの間にかはぐれてしまったと思い、自分たちの足跡をたどって引き返してきました。敬太は、心配をかけてしまった長老にきちんと謝りました。


 「ぼくは、辰六くんを泣かせた悪い大人を見つけてやっつけたところだよ!」

 「ああ、そういうことだったのか。辰六くんを泣かせたのに謝らないで逃げたやつがいたので、敬太くんが追いかけて行ったということを新吉くんが言っていたなあ」


 敬太が留造をやっつけたことを言うと、弱い者いじめを絶対に許さない敬太の心やさしさを長老も理解している様子です。


 「もう太陽が西へ傾いてきていることだし、急いで行こうかな」


 長老が空を見上げると、太陽が徐々に西へ傾いてきました。長老は、子供たちに急いで自分の家へ行こうと呼びかけました。そのとき、敬太の体に辰六と清三郎がへばりついて離れようとしません。


 「敬太くん、早く行こうよ」「早く、早く!」

 「でへへ、小さくてかわいい子供たちには負けちゃうなあ」


 お泊りを楽しみにしている小さい子供たちは、敬太といっしょに長老の家に行こうよとせかしています。いつも明るくて元気いっぱいの敬太も、子供たちの無邪気な笑顔には負けそうです。

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