その4
「お~い! みんなすぐに砂浜へ集まってくれ! これから地引き網をするぞ!」
おねしょ布団を干すために庭に出ていた敬太と新吉は、砂浜の方から村人へ向けて号令をかける長老の声が聞こえてきました。それは、これから村人たちが集まって地引き網を行うというものです。
「おっかあ、これから地引き網が始まるけど行ってもいいかな?」
「地引き網なら、あたしが行かないとね! 急いで洗濯を済ませたら、あたしもすぐに行くからね」
敬太は、おみかにこれから地引き網が始まるから行ってもいいかなと言いました。これを聞いたおみかは、地引き網という言葉を聞いて目を輝かせました。地引き網は、おみかにとっておいしいお魚が手に入る数少ない機会でもあるのです。
「敬太くん、新吉くん、長老の言うことはちゃんと聞くんだよ」
「おっかあ、長老が言った約束はちゃんと守るよ! それじゃあ、先に砂浜へ行ってくるよ!」
おみかは、敬太と新吉が砂浜に行く前に、長老の言うことは必ず聞くようにと言っておきました。2人は長老が言った約束は守るとおみかに言うと、一足先に家を出て砂浜の方へ行きました。
「ふふふ、敬太くんも新吉くんも、普段から遊んだりお手伝いをしたりして体を動かしていれば、いつも元気なのは当たり前なんだね」
おみかは、たらいで洗った洗濯物を干すために、庭の物干し竿のところへ行きました。そこには、すでに敬太と新吉のおねしょ布団が干されています。これを見たおみかは、敬太と新吉があれだけ体を動かせばいつも元気なのは当たり前であることを、やさしい笑顔をみせながら言いました。
「新吉くん、敬太くん、砂浜へ行って何するの?」
「いっしょに遊ぼうよ! 遊ぼうよ!」「遊ぼ! 遊ぼ!」
敬太と新吉が家を出て砂浜の中へ入ると、新吉といつも遊んでいる子供たちも集まってきました。子供たちは、2人といっしょに遊ぶことを楽しみにしているのです。
「これから、砂浜で地引き網があるから行くんだけど」
「地引き網! 地引き網!」「お魚、お魚、食べたいな!」
新吉は、これから砂浜で地引き網があることを言うと、子供たちはこれを聞いて大喜びです。地引き網と言う言葉を聞いただけで、子供たちは足をピョンピョン跳ねながら喜んでいます。
「みんなで地引き網をすれば楽しいからね」
「敬太くんは、地引き網をというのは知っているか?」
「でへへ、実は地引き網は今までやったことはないんだ」
敬太は、子供たちといっしょに地引き網をすることが今から楽しみです。しかし、そんな敬太自身は、まだ地引き網というものを一度もやったことがないのです。
「なあに、地引き網は1回やればすぐに慣れるから大丈夫だよ!」
「新吉くん、網をみんなでいっしょに引っぱればいいの?」
「漁が上手な村人たちが舟から海の中へ網を下ろしたのを、砂浜にいる村人たちが力を合わせて引き綱を引くことで魚を取ることができるんだよ」
新吉は、敬太に地引き網はすぐに慣れるから大丈夫と言うとともに、村人たちが力を合わせて網を引くことによって魚を取ることができると言いました。
「向こうで村人たちが集まっているようだぞ。ぼくたちもそこへ行ってみようよ」
「新吉くん、先に行かないでちょっと待ってよ~」
新吉は、敬太をはじめとする子供たちに村人が集まっているところへ行ってみようと言うと、一足先にそこへ向かって走りました。敬太や他の子供たちも、先に行った新吉の後を追って駆け足で走って行きました。
新吉や敬太たちは、村人たちが集まっているところへやってきました。そこにいる村人たちは、これから地引き網をするために集まっっているのです。すでに、網を海の中に入れるための舟が波打ち際の手前に置かれています。
集まっている村人たちの多くは大人の男性であり、長老など一部を除いては裸にふんどしだけを付けている格好となっています。ただ、丈の短い着物を着ている女性やふんどしだけ付けている少年、それに腹掛け1枚だけの格好の子供も地引き網に参加しています。
そこへ、洗濯物を干し終わったおみかが、砂浜を駆け足で走ってやってきました。
「敬太くん、新吉くん、お待たせしてごめんね。洗濯物を干し終わったから、あたしも地引き網に参加するわ」
「ぼくのおっかあは、地引き網で網を力強く引っ張ることができるから、とっても頼もしいんだよ」
新吉は、おみかが地引き網をするときに、力強く網を引っぱることができる頼もしい存在であることを敬太たちに言いました。
「ふふふ、これでもでっかくて元気なおねしょの地図をお布団に描いている新吉くんと敬太くんをいつも褒めているんだもの」
「でへへ、ぼくのお布団のでっかいおねしょはすごかったでしょ!」
「ぼくも、敬太くんと同じくらい大きなおねしょをベッチョリと描いたよ!」
おみかは、新吉と敬太がでっかくて元気なおねしょをしたときも大きくて広い心で2人を褒めていることを明るい声で言いました。これを聞いた2人も、おふとんにやっちゃったおねしょのことをおみかに自慢するように言いました。
「でっかいおねしょをするのは、元気な子供だったら当たり前のことなんだよ」
おみかは、元気な子供がおねしょするのは当たり前のことなので、敬太や新吉がおねしょしてもいつも褒めているのです。
「それはそうと、他のみんなもおねしょしたのかな?」
「あたしも辰六も、いつもお布団におねしょをしちゃうのよ。でも、おっとうもおっかあも、あたしたちを頭をなでなでして褒めてくれるんだよ」
「えへへ、わたしもおねしょしちゃった」
「ぼくもお布団にでっかいおねしょをしちゃったよ!」
おみかは、他の子供たちにもおねしょをしちゃったのか聞いてみました。すると、他の子供たちも全員おねしょをいつもしてしまうそうです。でも、敬太や新吉と同様に、他の子供たちもおねしょしちゃった後も明るい笑顔を見せています。おみかは、子供たちがおねしょしちゃったことを自慢している姿をやさしく見守っています。
そうするうちに、波打ち際の手前にある舟のところへ長老がやってきました。
「これから地引き網をするために、この舟を沖のほうまで行って網を海中へ下ろしていくから、わしらの指示があるまで待っておくように」
長老は、村人たちに自分たちの指示があるまで待っておくようにと言うと、漁のうまい村人の男性数名もいっしょに舟を波打ち際へ出しました。その際、片方の引き網はそのまま浜辺へ残したままにしておきます。そして、波打ち際に出した舟に長老と男性数名が乗り込むと、そのまま半円を描くように舟をこいで行きました。
地引き網をするまでの間、村人たちは浜辺で待つことになります。すると、浜辺をそそくさと歩き続ける留造の姿が見えたので、村人たちは留造に声をかけました。
「お~い! ちょうどよかった! これから地引き網をするんだけど、留造もいっしょに協力してくれないか!」
「おめえらのために協力する筋合いは無いわ!」
村人は、砂浜を歩いている留造に地引き網への協力を呼びかけました。しかし、これを聞いた留造はなぜか逆ギレしながら、吐き捨てるような口調で言ってきました。
「おい、留造! お前の力が必要だから言ったのに、その態度は何だ!」
「吉之助、気持ちはよく分かるけど、よく落ち着け! 落ち着け!」
逆ギレした口調で吐き捨てた留造を見た吉之助が、留造の態度に怒って走り出そうとしましたが、他の村人たちが数人がかりで吉之助を必死に止めに入りました。
「そんな地引き網なんかおめえらだけでやりゃいいだろ! そんなのおめえらだけで勝手にしろ!」
留造は、村人たちに向かって罵るような口調で吐き捨てると、そのまま砂浜を歩き去っていきました。
「あの野郎、本当に許せねえぞ! 今度会ったら…」
「吉之助、留造を殴ったところで何の解決にもならないぞ」
「だからと言って…」
吉之助は、右手の拳を握りながら、留造の村人たちに対する態度への怒りで体が震えていました。これを見た村人たちは、留造を殴っても何の解決にならないと吉之助をいさめました。吉之助は、村人たちの忠告を聞き入れることにしましたが、心の中では留造に対する不信感がまだ残っているようです。
そこへ、舟に乗っていた長老たちが、網を海中へ全部下ろすのが終わったので、出発点から少し離れた波打ち際まで戻ってきました。
「お~い! 網を海の中に下ろしてここへ戻ってきたぞ! 手前にある引き綱をみんな持って今から引くぞ!」
長老は、もう1つある引き綱を持ってきて浜辺に置くと、村人たちは引き綱が置いている左右両側の場所に分かれて並びました。敬太や新吉をはじめとする子供たちは右側の引き綱を、おみかは左側の引き綱をそれぞれ持ちました。
「引き綱を引くときは、みんな掛け声を出すんだぞ!」
「長老さま、元気な声で掛け声を出せばいいんだね」
「その通りじゃ。敬太くんが言うように、元気で大きな掛け声を上げることが大切なんじゃ」
長老は、引き綱を持った村人たちに掛け声の指示を出しました。すると、敬太は元気な声で掛け声を出すことを長老に言うと、長老も大きな掛け声を出すことが大切であると村人たちに言いました。
「それじゃあ、今から引き綱を引くぞ! よいしょ! よいしょ!」
「よいしょ! よいしょ! よーいしょ!」
長老が引き綱を引くための号令を出すと、村人たちは一斉に掛け声を上げ始めました。引き網を引っぱるのは容易ではありませんが、村人たちはおいしいお魚を手に入れるチャンスなので気合を入れて掛け声を上げています。
「う~んっ、よいしょ! よいしょよいしょ! よいしょよいしょ!」
「敬太くんはまだ7歳なのに、こんなにすごい力を出すことができるんだね!」
「ぼくは、山奥で暮らしていたときに、まさかりで大きな木を切ったり、重い丸太を背負って山道を下りたことがあるんだよ!」
敬太も、両腕に力こぶを入れると、ものすごい力で引き網を引き続けています。敬太の力は、かなりでかい岩石をも持ち上げることができるほどであるので、いっしょに引き綱を引いている新吉や他の子供たちも大助かりです。
村人たちが引き綱を引き続けたおかげで、海の中から網の中身が少しずつ見えてきました。網の中には、いろんなお魚がたくさん入っています。
「敬太くんは、初めての地引き網はどうだったかな?」
「新吉くん、見て見て! いろんなお魚が網の中にたくさんいるよ!」
「本当だ! 地引き網でこんなに取れるなんて、ぼくもびっくりしたよ!」
敬太が初めての地引き網で、網の中にいろんなお魚がいることに大興奮すると、新吉も地引き網でお魚がこんなに取れることにびっくりしている様子です。
「おおっ、地引き網でこれだけの大漁は久しぶりだぞ!」
「これで、当分の間はお魚に困ることは無いな」
浜辺まで引き綱を村人たちが引っ張ったおかげで、大量のお魚が大きな網の中にかかっていました。地引き網では久しぶりの大漁ということもあって、村人たちは大きな歓声を上げています。
「敬太くんも、新吉くんも、よくがんばってくれたね」
「ぼくたちもがんばったけど、それ以上に引き綱を力強く引っ張ってくれたおっかあのおかげだよ」
敬太と新吉がいるところへやってきたおみかは、2人が引き綱をいっしょに引き続けたことに感謝すると、敬太は引き綱を力強く引っ張ったおみかのおかげと笑顔を見せながら言いました。おみかは、感謝のしるしとして、敬太と新吉のそれぞれの右手を自分の右手で軽く握って握手しました。
「おっかあ、みんなで食べるためのお魚を入れるたらいを家から持ってくるよ!」
「敬太くん、いつも気遣いしてくれて本当にありがとうね」
地引き網で取れたお魚は、地引き網に参加した村人たち同士で仲良く分けることにしました。敬太は、自分たちの家で食べる分のお魚を入れるためのたらいを家から持ってくることにしました。おみかは、自分の家族のために気遣いしてくれる敬太に感謝の気持ちでいっぱいです。
敬太は、おみかの家へ戻ると、土間から魚を入れるためのたらいを見つけると、そのまま右手で持ってから再び浜辺の方へ向かいました。浜辺では、村人たちが地引き網で取れた魚をたらいに次々と移しているところです。
「おっかあ、たらいを家から持ってきたよ! 早くお魚を入れて! 入れて!」
「敬太くんも、こんなにお魚が取れるのを見るのがうれしいんだね!」
敬太は、おみかに持ってきたたらいに早くお魚を入れてほしいと言うと、おみかも網の中にお魚がたくさんあるのをうれしそうにしている敬太を見ながら目を細めていました。
「ぼくが川でお魚を取るときは、いつも1匹ずつを両手でつかみながら家へ持って帰ったんだよ」
「敬太くんは、ずっと山奥で暮らしていたもんな。地引き網も初めてだし、お魚をたくさん取れたのを見るのも初めてだったんだね」
敬太は、山奥で暮らしていたときも川でお魚を取ることがよくありましたが、それは手づかみで1匹ずつ家へ持って行くものでした。新吉は、初めての地引き網でたくさんお魚を取れたのを喜んでいる敬太の姿を見ながらうれしそうな表情を見せています。
「敬太くん、たらいの中に入れたお魚をいっしょに持って運ぼう」
「新吉くん、いつもありがとう!」
「ぼくも、敬太くんにいつも手伝ってばかりじゃいけないからね」
敬太がたらいの中に入れたお魚を持って運ぼうとすると、新吉がいっしょに運ぼうと言ってきました。敬太が新吉に感謝の言葉を述べると、新吉も家のお手伝いをしてくれる敬太に感謝しました。そして、2人はおみかの家までお魚をいっしょに運んでいきました。
「敬太くん、新吉くん、いつも手伝ってくれて本当にありがとうね」
「ぼくは、このくらいのお手伝いをするのはいつも当たり前のことだよ」
おみかは、いつも手伝ってくれる敬太と新吉に感謝すると、敬太はお手伝いをするのはいつも当たり前であると答えました。
「おっかあのお腹の中には赤ちゃんがいるし、ぼくたちができることは自分たちの力でするから」
「新吉くんの気持ちはよく分かるわ。でも、あたしはまだまだこの通りに体を動かすことができるから、心配しなくてもいいのよ」
新吉は、おみかのお腹に赤ちゃんがいることを知っているので、無理をしたら大変なことになるのではと心配しています。しかし、おみかは自分の両腕をグルグル回しているところを敬太と新吉に見せながら、自分はまだまだ大丈夫であることをアピールしました。
「敬太くん、おうちに帰ってきてうれしいワン!」
「ワンべえくん、ひとりぼっちにさせてごめんね」
おみかの家へ戻った敬太の前には、ワンべえが敬太の帰りを待ちわびていました。ワンべえは、敬太が戻ってきたことをしっぽを振りながらうれしそうな表情を見せています。
「ぼくは、敬太くんがいつもそばにいるだけでもうれしいワン! ペロペロペロッ~」
「ワンべえくんは、ぼくの顔をなめなめするのがうれしいんだね」
ワンべえは、敬太の右肩に伸び乗ると、そのまま敬太の顔を舌でペロペロとなめ始めました。ワンべえになめなめされている敬太は、少しくすぐったいと感じながらも自分の友達であるワンべえの愛情にうれしい表情を見せています。おみかと新吉の2人も、敬太とワンべえのうれしそうな表情を見ながら笑顔を見せています。
「さあ、たらいの中に入っているお魚を干す準備でもするかな」
「おっかあ、すぐに食べないの?」
「敬太くん、これだけあったら1日で全部食べることはできないでしょ。あたしたち海で暮らす人は、いっぱい取れたお魚を腐らせないで長持ちすることができる方法があるんだよ」
おみかは、お魚を干す準備をするために土間の中に入ろうとしました。すると、敬太がどうしてすぐにお魚を食べないのか不思議そうに言うと、おみかはお魚を腐らさないで保存できる方法を敬太に教えることにしました。
「お魚を腐らせないで長持ちするって、どうやってするの?」
「ははは、敬太くんはお魚を干すのを見るのは初めてだもんね。これから、あたしがたらいの中にあるお魚をそのまま水洗いしたら、目の前にある干し台に干すのよ。そして、干し台に干したお魚を天日干しや一夜干しにすることで長持ちすることができるんだよ」
敬太にとって、今まで自分で取ってきた魚はすぐに塩焼きにして食べていたので、すぐに食べないで一定期間保存するということを知りませんでした。でも、干し台で干すことでお魚も長持ちできることをおみかから学んだおかげで、敬太もお魚がいつでも食べられることを知りました。
そこへ、新吉が水を桶の中にいっぱい汲んで戻ってきました。
「おっかあ、井戸へ行って水を汲んできたよ」
「新吉くん、いつもありがとうね。それじゃあ、この桶に入っている水でお魚を洗おうかな」
おみかは、井戸から水を汲んできた新吉に感謝すると、その桶に入っている水でお魚を洗い始めました。
「おっかあ、この水でお魚を洗うの?」
「敬太くん、きれいな水でお魚についている汚れを落とすのよ。敬太くんもやってみるかな?」
「おっかあのためだったら、どんなことであっても手伝うよ!」
おみかは、お魚をきれいな水で洗っているところを敬太に見せると、敬太もお魚を洗っているところを興味津々に見ています。自分もお魚を洗ってみたいと敬太は心の中で思っていると、おみかからお魚を洗うのをやってみないかと頼まれました。敬太は、どんな仕事であっても手伝いたかったので大喜びです。
敬太が手伝ってくれたおかげで、お魚を水洗いするのはすぐに終わりました。今日の晩ご飯のときに食べるお魚は桶に入っている水の中に入れると、新吉がその桶を家の土間にある台所のほうへ持って入りました。
「さあ、たらいの中にあるお魚を干し台に乗せていくわよ!」
おみかは頼もしい表情を見せながら、自らお魚が入っているたらいを家の前にある干し台のところまで持って行くと、敬太と新吉もおみかの後をついて行きました。干し台は、砂浜に入る手前にいくつかありますが、そのうちの1つがおみかの家専用の干し台だそうです。
「おっかあ、この干し台の上へ並べて乗せればいいんだね」
「そうそう、それでいいんだよ。敬太くんはお魚を干すのが初めてだけど、上手に並べることができたね。新吉くんは、いつもお魚を干し台に干すのを手伝ってくれるから手慣れたものだね」
敬太は、干し台にお魚を1つずつ並べるようにして乗せていきました。おみかは、お魚を干すのが初めてなのに上手に並べた敬太を褒めました。新吉も、いつものように手慣れた様子でお魚を並べているので、おみかはうれしそうな表情を見せています。
「干し台に乗せたお魚は、しばらく天日干しや一夜干しをすれば、また違ったおいしさでお魚を食べることができるのよ」
「おっかあ、いろいろと教えてくれてありがとう!」
おみかは、お魚を干すことによって無駄なく食べることの大切さを敬太や新吉にやさしく説きました。これを聞いた敬太は、お魚の干し方からお魚をおいしく食べる方法まで教えてくれたおみかに感謝しました。
すると、新吉が敬太の肩に手を当てながら何か言い始めました。
「敬太くんは海でモリ突きの練習がしたいんでしょ。だったら、今から海の中に潜ってみたらどうかな」
「じゃあ、土間にあるモリを持ってくるから、これからいっしょに海に行こうよ!」
敬太は、家の土間に入ると、壁に吊るされているモリを自分の右手で持ちました。それは、人食いザメに襲われて命を落とした登美蔵の形見といえるものです。
「ぼくがこの手で、おっとうを襲った人食いザメへのかたき討ちをするからね」
敬太は、自ら手にしたモリを見ながら、心の中で人食いザメへのかたき討ちを誓ったのです。
「おっかあ、これから海へ行ってモリ突きの練習をするからね!」
「敬太くんも、新吉くんも、海へ入るときはくれぐれも十分気をつけるんだよ」
敬太は、おみかに海へ行くことを言うと、おみかは敬太と新吉に海へ入るときには十分注意するように伝えました。
「海の中でモリ突きの練習をして、自分でお魚をとることができればいいな」
「ぼくも、敬太くんに負けないようにモリ突きができるようになるぞ!」
敬太と新吉は、駆け足で走りながら浜辺へ行きました。2人は、お互いに海に潜ってモリ突きができるようにがんばろうと決心しました。
そうは言っても、敬太と新吉の2人は、いつも腹掛け1枚だけ付けている7~8歳の男の子です。2人とも腹掛け1枚だけなので、いつもかわいいお尻が丸見えで無邪気なところは、農村や漁村で暮らしている子供と全く変わりありません。
「新吉くんは、海で泳ぐことができるの?」
「ぼくは、海の底に足が付くところだったら泳ぐことができるけど…。敬太くんみたいに沖のほうまで泳ぐことはまだできないよ」
「大丈夫だよ! 新吉くんも少しずつ長く泳げるようになるよ!」
新吉は、波打ち際に近い海の中であれば自分で泳げますが、敬太みたいに沖のほうまではまだ泳げないようです。しかし、敬太はそんな新吉に少しずつでも長く泳げるようになると励ましました。
モリ突きができるようになるためには、沖合いで水深約3~4尋(約5~7m、1尋=6尺=約1.8m)まで素潜りできるようにしなければなりません。また、素潜りをするときは息をこらえて潜水しますが、普通の人だったら30秒が限界であり、1分を越えて潜れるようになるためにはそれ相応の練習をする必要があります。
現在だったら、スキューバダイビングのように潜水器具を用いることで、かなり深いところ(水深約30m=約16尋ぐらい)を長時間潜水することも可能ですが、江戸時代初期において素潜りで水深15~16尋まで潜水するのであれば、身体的な要素を含めた素質とかなり厳しい訓練を自ら課すことで習得しなければなりません。
敬太は、沖合いまで楽々と泳ぐことができますが、泳ぐことができれば簡単に素潜りもできるかと言えば、そうとは限りません。泳ぐときには、顔を海面から出して息継ぎをすることができますが、素潜りの場合には息をこらえたままで潜水しなければならないからです。
まずは、新吉が少しでも長く泳ごうと海の中に入りました。敬太も、新吉を見守るために波打ち際から足を海の中につけました。
「新吉くん、がんばって!」
「敬太くんみたいに少しでも長く泳ぐよ!」
敬太からの励ましを受けて、新吉は沖のほうへ向かって泳ぎ始めました。泳ぎ方は、今でいうところの平泳ぎに近い形です。しかし、少し進んだところで海底に足が付かなくなるのと同時に、新吉はおぼれるような格好になりました。
「敬太くん、ちょっと助けて…」
「新吉くん、大丈夫? すぐ行くよ!」
敬太は、新吉をおぼれかけているのを見ると、モリを浜辺に置くとすぐに泳ぎ始めました。そして、敬太は少し先でおぼれかけていた新吉を自分の背中に乗せると、波打ち際まで泳いで戻りました。幸いなことに、敬太が素早く助けたおかげで、新吉は海水を飲み込むということはありませんでした。
「敬太くん、助けてくれてどうもありがとう! でも、これじゃあ、いつまでたっても沖のほうまで泳げないよ…」
「新吉くん、海の底に足を付けたいという気持ちはよく分かるけど、深いところでは足を海の底へつけるのは危険だから気をつけようね」
「敬太くん、これからそうしないように気をつけるよ」
新吉は、沖のほうまでうまく泳げなかった上に、海におぼれかかったので、つい弱音を口にしました。これを聞いた敬太は、水深の深いところで泳ぐときには気をつけようと新吉にやさしく言いました。
「新吉くん、今度は足をつけないように泳ごうかな。ぼくもいっしょに泳ぐから!」
「敬太くんがいっしょなら、ぼくも少し長く泳げるようになるかも」
今度は、敬太と新吉がいっしょになって沖のほうまで泳ぎます。敬太は、新吉が少しでも長く泳げるようにするためにも、新吉が泳ぐペースに合わせていっしょに泳ぎます。
「新吉くん、その調子だよ。これ以上泳ぐことができないなら、ぼくに知らせてね」
「そのときには、ちゃんと敬太くんに言うよ」
新吉は、さっき海でおぼれかけたこともあり、自分の足を海底につけないように少しずつ前へ泳いで行きました。敬太は、少しずつ泳ぐことができるようになった新吉の姿を見て、自分も負けないようにがんばろうと泳ぎ続けました。
「敬太くん、もうこれ以上進めないよ~」
「新吉くん、こんなに長く泳げるなんて、本当にすごいよ!」
新吉は、腕が疲れたのでこれ以上泳ぐことはできませんが、それでもさっきよりも長い距離を泳ぐことができたことに敬太もびっくりした表情を見せました。
「さあ、ぼくの背中に乗っていっしょに浜辺まで泳いで帰ろうね」
敬太は、自分の背中に新吉を乗せると、再び浜辺の波打ち際まで泳いで戻りました。敬太にとっては、両手でかなり重い物を軽々と持ち上げることができるので、新吉の体重ぐらいなら自分の背中に乗っても全く平気です。
敬太と新吉が浜辺まで泳いで戻ったころ、海の沖合いには背びれを海面から出しながら進んでいる大きなサメが現れました。どうやら、自分たちの獲物である人間たちがいることに気づいたのでやってきたそうです。
サメは、鋭い歯をむき出しにしながら、おいしそうな獲物を見つけようとしますが、獲物となるべき人間の姿はどこにも見当たりません。
「チッ、もういないのか。せっかくおいしそうな獲物がいたのに」
そのサメは、先ほどまでおいしそうな獲物がいたはずなのにと捨てゼリフを残しながら去っていきました。
「敬太くんのおかげで、足を海の底につけなくても泳ぐことができたよ!」
「そんなことはないよ。ぼくは、新吉くんが自分の力で泳ぎたいという強い気持ちを持っているからできたと思うよ」
新吉は、敬太のおかげで長い距離を泳ぐことができたと敬太に感謝しました。すると、敬太は謙そんしながら、自分の力で長い距離を泳ぐことができたのは、新吉の強い気持ちがあったからと言いました。
「さあ、浜辺に置いているモリを家の土間へ持って…」
敬太が、浜辺に置いているモリを右手で持ち上げたその時のことです。
「ププウッ~、プウッ、プププウウッ~」
「敬太くん、今日も元気なおならがいっぱい出たね」
「でへへ、新吉くんの前で元気なおならが出ちゃった」
敬太は、新吉の前で元気なおならを3連発してしまいました。新吉は、おならが出ちゃった敬太を茶化すと、敬太も照れた表情で元気なおならをしちゃったことを笑いながら言いました。
でも、今回はおならが出ただけではありません。敬太は自分の腹掛けを両手で押さえ始めたのです。
「お腹がゴロゴロして、もうすぐうんちが出そう…」
「敬太くん、いっしょに家へ帰れば、おっかあが家にいるかも」
敬太と新吉は、駆け足でおみかの家へ戻りましたが、家の中にも庭のほうにもおみかはいません。敬太は家の土間へ入ると、今にも出そうなうんちをガマンしながら、浜辺へ持っていったモリを壁に吊るす形で戻しました。
「おっかあ、おっかあは、どこへ行ったのかな…。う、うんちがもれる…」
「そういえば、ぼくも何かお尻がムズムズしてきたなあ。もしかしたら、ぼくもうんちが出るかも」
敬太は、家から再び出ると同時にお尻を両手で押さえています。敬太の顔からは汗も出てきて、うんちを必死でガマンしている様子がうかがえます。そして、敬太の様子を見ていた新吉も、自分のお尻がムズムズしてきたようです。
「高い丘の段々畑のほうにいけば、おっかあに会えるんじゃないの?」
「そこへ行けば、おっかあがいるんだね…。う~ん、出る出る出るっ!」
新吉は、高い丘の段々畑にへ行けばおみかに会えると言いました。敬太は、これを聞いた途端に、お尻を両手で押さえながら駆け足でおみかのいる段々畑へ向かいました。
「敬太くん、ちょっと待って~。ぼ、ぼくもうんちがもれる…」
新吉は、うんちをガマンしながら駆け足で家を出た敬太の後をついていきました。すると、新吉のほうも次第にうんちが出そうになってきたので、うんちが出るのをガマンするために左手でお尻を押さえるようになりました。
敬太と新吉は、段々畑へ上るための坂道の手前までやってきました。延々と続く段々畑の高いところにおみかの姿が見えましたが、そこへ行くためには傾斜のきつそうな坂道を上らなければなりません。
しかし、2人はいつうんちが出てもおかしくない状態であるので、坂道を上るのをためらうわけにはいきません。
「う、うんちが出ちゃうよ~。先におっかあのいるところまで上っていくよ」
「待って、待って…。ぼくもおっかあのところへ行きたいよ…。今にもうんちが、うんちがもれそう…」
うんちのガマンが限界に近づいた2人は、傾斜のきつい坂道であることを忘れて、無我夢中で走りながら上っていきました。そして、段々畑の高い場所にいるおみかのところへやってきました。
「敬太くん、新吉くん、どうしたの?」
「おっかあ、でへへ…。実は…」
おみかは、海のほうへ行っていたはずの敬太と新吉がどうして段々畑へやってきたのか不思議そうに見ていました。しかし、敬太と新吉のしぐさを見たおみかは、いつものようなやさしい笑顔を見せました。
「敬太くんも新吉くんも、もしかしてうんちが出そうなの?」
「おっかあ、もうガマンできない…。プウウウウッ!」
「うんちがもう出そうだよ…。プウッ、プウッ!」
おみかは、敬太と新吉のしぐさを見ただけで、2人がうんちをガマンしているのがすぐに分かりました。2人は、うんちを必死にガマンしていますが、その間にもおならの元気な音がおみかの耳に入りました。
「ちょうど、このくわで畑を耕したところだし、2人ともここへきてごらん」
おみかは、くわで耕したところへ敬太と新吉を呼びました。2人は顔に汗を浮かべながら、必死にうんちをガマンしながらそこへ行きました。
「敬太くんも、新吉くんも、よくうんちをガマンすることができたね。ここでお腹とお尻に力を入れてがんばるのよ!」
「おっかあ、でっかいのが出るようにがんばるよ!」
おみかは、敬太と新吉にお腹とお尻に力を入れるようにと励ましました。敬太も、でっかいうんちが出るようにがんばるとおみかに言いました。敬太と新吉は、いずれも腹掛け1枚だけでお尻は丸見えなので、2人は何も脱がないでそのまましゃがみ込みました。
「うんっ、うんっ、うううう~んんっ、うううう~んっ!」
「うんっ、うんっ、うんっ、ううう~んっ!」
2人はすぐにしゃがみ込むと、そのままお腹とお尻に力を入れながらいきみ声を上げ続けました。そして、敬太と新吉は、いままでお腹の中にたまっていたものを一気に出し切ることができたのです。
「おおっ、これは本当にすごいね。敬太くんも新吉くんも見事なのがいっぱい出ることができたね」
「でへへ、でっかい親イモを2つも食べたおかげで、こんなにでっかいうんちが出ちゃったよ!」
「ぼくも、敬太くんほどではないけど、うんちがいっぱい出ることができたぞ!」
おみかは、敬太と新吉がしゃがんでいたところを見ると、畑の上に敬太と新吉の見事なうんちがありました。敬太と新吉は、足元にあるうんちを見ながら、うんちがいっぱい出たことを元気な声で喜んでいます。足元にある2人のうんちは、いずれも黄土色をした元気いっぱいのうんちですが、うんちの大きさは敬太のほうが新吉よりも一回り大きいようです。
「敬太くんは、昨日の晩ご飯のときにでっかい親イモを2つも食べたし、新吉くんもサトイモをいっぱい食べていたからなあ。そのおかげで、元気いっぱいのうんちがどっさりと出ちゃったようだね」
おみかは、昨日の晩ご飯でイモをいっぱい食べていた敬太と新吉のことを思い出しながら、そのおかげで2人とも元気なうんちが出たのでうれしそうな表情を見せています。
「ふふふ、敬太くんも新吉くんも、うんちやおならがいっぱい出るのは、2人が元気な子供である証拠だよ。これからも、イモをいっぱい食べて元気なうんちが出るようにがんばろうね」
「おっかあ、これからもサトイモや親イモをいっぱい食べて、元気なうんちがいっぱい出るようにがんばるよ!」
「ぼくも、敬太くんみたいなでっかいうんちが出るように、何でも残さずに食べるよ」
うんちやおならがいっぱい出るのは、敬太と新吉がいつも元気な子供であるシンボルです。おみかは、これからもイモをたくさん食べて元気なうんちが出るようにがんばろうと敬太と新吉を笑顔で褒めました。おみかから褒められた2人は、これからもイモを残さずに食べて、うんちがいっぱい出るようにがんばると言いました。
「これだけでっかいうんちがあれば、肥やしとして畑の土と混ぜながら耕せば、敬太くんも新吉くんも大好きなイモがまたいっぱい収穫することができるよ」
「おっかあ、でっかいイモがこの畑でまた育つといいね」
おみかや新吉たちが住んでいる浜岸村は、海岸の近くにある急な傾斜を伴う高い丘があることや稲作に適さない土壌であることもあり、村人たちは高い丘に沿って段々畑を造っていきました。村人たちは、海で漁師としての仕事の合間に段々畑でサトイモを丹念に育てているのです。
おみかの家では、夏から秋にかけて収穫するサトイモを晩ご飯や朝ご飯の主食として食べます。お米を食べることができるのは、お正月やお盆など限られた時期だけで貴重なのです。でも、敬太も新吉も、主食であるサトイモをいっぱい食べるのが大好きなので、晩ご飯のときに塩ゆでしたサトイモが出てくるのを楽しみにしています。
おみかが畑を耕しているのを見た敬太と新吉は、これからも主食である大好きなサトイモを残さずに食べて、元気いっぱいのうんちが出るようにがんばろうとお互いに誓いました。




