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《獣人のこども》おねしょ敬太くんの大ぼうけん  作者: ケンタシノリ
第5章 敬太くんと人食いザメとの戦い

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その3

 「おっかあ、いったい何があったの?」

 「敬太くん、ごめんね。子供たちに涙を見せたらみっともないものね。でも、あたしの主人である登美蔵さんが人食いザメに襲われて命を落としたことを思い出すと…」


 おみかは、自分の夫である登美蔵がサメに襲われて命を落としたことによる悲しみもあって、思わず泣き出しました。おみかが泣いている姿を見た敬太は、何があったのか聞いてみました。すると、おみかは涙を手でぬぐいながら、敬太や新吉の前で泣いている姿を見せないようにしようとしています。


 敬太は、おみかの夫である登美蔵がサメに襲われて死んでしまったことを聞いて、長老の言葉を心の中で再び浮かんでました。



 「漁に出かけたまま行方不明になっていた村人が、波打ち際で変わり果てた姿で打ち上げられていたんじゃ。その村人の遺体は、体じゅうに鋭い歯で噛み付かれた跡が何ヶ所もあったんじゃ」

 「少し先のところから人食いザメが3匹も現れたんじゃ。わしは、あわててすぐに船のところまで戻って船をこぎ始めたけど、その間にも人食いザメがわしの船に少しずつ近づいてきたんじゃ」



 「敬太くん、どうしたのかな? 何か思い込んだような顔つきになっているけど」

 「ぼ、ぼくは何も思い込んだりとかしていないよ」

 「敬太くんが言わなくても、あたしには敬太くんが思っている気持ちがすぐに分かるものだよ」


 おみかは、敬太が何か思い込んでいるのを見て、どうしたのかなと聞いてみましたが、敬太は何も思い込んだりしないと答えました。しかし、登美蔵がサメに襲われて死んだことをおみかが言ってから、敬太が何やら思い込んでいることをおみかはすぐに気づいている様子です。


 「じゃあ、敬太くんにはこの話をするのは初めてだから、今から登美蔵さんが沖合いのところへ漁に出かけたあの日のことを言うわ」


 おみかは、登美蔵が漁をするために沖合いの海へ行った当日のことを話し始めました。



 それは、今から3週間前のことです。いつものように、浜岸村にも雲がほとんど無い青空が広がっています。そして、おみかの家も朝からにぎやかな声が聞こえてきました。


 登美蔵は、いつも裸に濃い青色のふんどしだけ付けている頼もしいお父さんです。そして、1人息子である新吉にはいつもやさしい笑顔で接しています。


 「おおっ、新吉くんは今日もでっかくて大きい海が広がっているなあ!」

 「えへへ、おっとう、今日の朝もでっかい海をお布団に描いちゃった」


 登美蔵が両手で持っているのは新吉のお布団ですが、そのお布団にはでっかいおねしょの地図が描かれています。新吉は、8歳になった今でもおねしょを毎日してしまう癖が全く治っていません。


 でも、登美蔵は見事なおねしょをお布団にやってしまった新吉を褒めています。新吉のお布団に広がっているおねしょは、まさに目の前に広がる大きな海のようにでっかいからです。


 「ふふふ、新吉くんはいつもでっかい海のようなおねしょをしちゃうもんね。でも、おねしょをするおかげで新吉くんはいつも元気なんだし」

 「これだけでっかいおねしょの地図を毎日描いている新吉くんだったら、将来おれみたいな立派な漁師になれるぞ!」

 「えへへ、おっとうもおっかあもいつも褒めてくれてありがとう」


 おみかも登美蔵も、新吉が毎日のようにでっかいおねしょの地図をお布団に描いているのをいつも褒めています。


 新吉のおねしょ布団はいつも元気な子供である証拠であり、新吉が立派な漁師として成長してほしいと言う登美蔵の親心も込められています。新吉も笑顔を見せながら、おみかと登美蔵に感謝の気持ちでいっぱいです。


 おみかの家の庭は、目の前に砂浜と大きな海が広がっているところにあります。浜岸村の村人が住んでいる家は、おみかの家と同様にやや小さい家が大部分である上に、家が密集していることもあって、基本的に庭はそんなに広くありません。


 それでも、村人たちは長老を中心にみんな仲良く暮らしています。井戸も村人たちが力を合わせて掘って汲み上げたおかげで、今では村人たちが井戸水を共同で使えるようになったのです。


 庭の物干しには、新吉がやってしまった見事なおねしょ布団が干されていますが、おみかや登美蔵は新吉のおねしょの大きな地図を見ながら、新吉が大きな海のように広い心を持ってほしいとやさしく見守っています。


 「おっとう、おっかあ、井戸へ行ってお水を汲んできたよ!」

 「新吉くんは、いつも家のためにお手伝いしているなあ。本当にありがとう!」

 「新吉くん、これから洗濯をするから汲んだばかりのお水をたらいの中に入れてね」

 「おっかあ、すぐにたらいの中に入れるよ」


 新吉は、いつも登美蔵やおみかのために家のお手伝いをしています。今日の朝も、新吉は井戸へ行って桶の中に水をいっぱい汲んできました。家へ戻った新吉は、たらいの中に汲んだばかりの水を入れると、おみかはすぐに洗濯板を使って洗濯を始めました。


 「おっ、そろそろ沖合いのところへ漁へ行かないといけないなあ」

 「ぼくも、おっとうが漁に出るための手伝いをしてもいいかな?」

 「それだったら、小舟を波打ち際の手前まで押すのを手伝ってくれないかな」


 登美蔵は、これから漁をするために沖合いのところまで行きます。村人たちが小舟に乗って漁をすることができるのは、長老の取り決めによって1週間に1回だけと決められています。これは、海はみんなのものであるという考えから、浜岸村の村人たち全員が漁場を共同で管理して有効に使うことが決められているからです。


 登美蔵が漁に出ることを聞いた新吉は、自分も登美蔵のために何か手伝いたいと言いました。登美蔵も、新吉にこれから自分が乗る小舟を押すのを手伝ってほしいとお願いしました。


 「よいしょ、よいしょ、よいしょ…。おっとうの舟は、押しても押してもなかなか進まないよ~」

 「ははは、新吉くんには小舟を1人で押すのはまだ早いかな。どれどれ、おれといっしょに押そうかな」


 新吉は、砂浜の後ろ側にある小舟を見つけると、すぐにその小舟を力いっぱい押し続けました。しかし、どんなに押し続けても、小舟が進んだのはほんのごくわずかです。これを見た登美蔵は、新吉に2人でいっしょに小舟を押そうと言いました。


 「せーの! よいっしょ!」


 登美蔵は、新吉が押していた小舟をいっしょに押しました。2人が押した小舟は、一気に砂浜を進んで行くと、すぐに波打ち際の手前まで押していくことができました。


 「おっとうは、こんなに重い小舟であっても軽々と押していけるね。ぼくも、はやくおっとうみたいな漁師になりたいなあ」

 「おれが小さいときは、新吉くんみたいにお布団へのおねしょをよくしていたけど、今ではいろんなお魚を取って家族を養うことができるようになったんだよ。新吉くんも、大きくなったらおれみたいに立派な漁師になれるぞ」


 新吉は、登美蔵の姿を見ながら、早くお父さんのような漁師になりたいと登美蔵に言いました。そんな登美蔵も、小さいときは新吉と同様によくお布団におねしょをしてしまう男の子だったそうです。でも、大人に成長した登美蔵は、漁に出ては家族を養う一人前の立派な漁師に成長しました。


 登美蔵は、大きくなったら自分みたいな立派な漁師になれると新吉を励ましながら言いました。


 「ねえねえ、おっとうはまだ漁に出ないの?」

 「漁に出るためには、まだ準備しなければならないことがあるんだよ。新吉くん、これを見てごらん」


 小舟は波打ち際の手前まで持ってきましたが、登美蔵はまだ漁に出ません。漁に出る前に、新吉に漁をするときに使うある漁具について新吉に教えています。


 「長い棒の先に何かとがったものがあるけど、何に使うの?」

 「これはモリという漁具だよ。これを使って、おれは海の中に潜ってお魚を突いて取るんだよ」


 登美蔵が新吉に見せたのは、木の柄の先端に金属製の刺突具が固定されているモリという漁具です。登美蔵は、小舟で海に出て素潜り漁を行うときに、モリを使ってお魚などを突いて取ります。


 「新吉くん、よく見るんだぞ。先端のとがったところは金属だから、何度も漁で使うと海水で錆びついてしまうんだ」

 「おっとう、どうしたら錆びないようにできるの?」

 「砥石を使ってとぐことで、モリの先端が錆びないようにすることができるんだ。新吉くんには、いずれ砥石でモリをとぐのをおれが教えてやるから、よく覚えて自分のものにするんだぞ」


 登美蔵は、新吉にモリの先端にある金属製のとがったところを見せました。そして、何度も漁で使うとモリが海水で錆びてしまうことから、登美蔵はモリの先端を砥石をつかってとぐことで錆びないようにすることができると新吉に言いました。


 「それじゃあ、おれはこれから海の沖合いに行ってお魚をいっぱい取ってくるぞ! 家へ戻ったら、おれが取ってきたお魚を新吉くんにも食べさせてあげるから」

 「ぼくも、おっとうがお魚をいっぱい取って帰ってくるのを待っているよ」


 登美蔵は、海の沖合いで漁をするために小舟を波打ち際に出すと、そのまま小舟の中に堂々と立ちながら乗り込みました。小舟に乗り込んだ登美蔵は、自分が家へ戻ったら、新吉にお魚を食べさせてあげると新吉に約束しました。これを聞いた新吉も、登美蔵がお魚をいっぱい取ってくることを楽しみにしているのです。


 登美蔵が乗った小舟は、少しずつ海の沖合いに向かって進み始めました。新吉は、沖合いに進むに従って、小舟の形が小さくなって行くのを手を振りながら見届けていました。しかし、これが新吉にとって登美蔵と言葉を交わすのが最後になるとは、この時はまだ知るよしもありませんでした。



 「おっかあ、おっとうはもう帰ってくるはずだよね」

 「う~ん、登美蔵さんはいつもだったら、とっくに帰ってきているはずだけど、まだ帰ってこないね」


 登美蔵は、朝から漁のために沖合いに出ましたが、もうすぐ太陽が西の空へ沈むにもかかわらず、まだ戻ってきません。新吉は登美蔵が戻ってきたかどうか確かめようと、砂浜の波打ち際へやってきました。


 すると、新吉はその波打ち際に小舟があるのを見つけました。しかし、その小舟には登美蔵は乗っていませんでした。


 「おっとうが小舟の中にいないぞ。どうしたんだろう?」


 新吉は、登美蔵が小舟の中にいないことに不安を感じずにはいられません。すぐに家へ戻った新吉は、おみかにこのことについて話しました。


 「登美蔵さんが小舟の中にいないなんて、もしかしたら…」

 「おっかあ、もしかしたらって?」

 「少し前に、海の沖合いへ漁に出かけたまま行方不明になった村人が、体じゅうに鋭い歯で噛み付かれて死んだ姿で波打ち際に打ち上げられていたのよ。それと、長老が沖合いで素潜り漁をしていたときに人食いザメが3匹も現れたと聞いているし」


 おみかは、普通なら登美蔵が乗っているはずの小舟に誰も乗っていないと言うことを聞いて、気になることを思い出しました。それは、登美蔵と同様に沖合いで漁をしていた村人が人食いザメに襲われたことや、長老が沖合いでの漁の途中で人食いザメを目撃したということです。


 「おっかあ、おっとうは本当に戻ってくるの?」

 「登美蔵さんが無事に戻ってくることを祈るしかないわ」


 おみかの言葉を聞いた新吉は、登美蔵が戻ってこないかもしれないという不安が強くなってきました。おみかは、不安な顔つきをしている新吉を両手で抱きながら、登美蔵が無事に戻ってくることを祈るしかないと言いました。



 次の日の朝のことです。


 「おっかあ、今日もお布団にでっかい海を描いちゃったよ」

 「ふふふ、新吉くんの朝はお布団へのでっかいおねしょで始まるんだね」


 新吉は、いつものようにお布団と腹掛けにでっかくて元気なおねしょをしてしまいました。しかし、おみかは新吉みたいな元気な子供がおねしょをするのは当たり前と考えているので、新吉がおねしょをしてもやさしい笑顔で接しているのです。


 おみかは、新吉がおねしょしちゃった布団を物干しに干しています。すると、砂浜のほうで何やら騒がしそうな声がかすかに聞こえました。


 「ちょっと騒がしい声がするんだけど、一体どうしたんだろう?」


 おみかは、目の前の海に面している砂浜で何かあったのではと感じて、そのまま砂浜に向かって走り出しました。新吉も、砂浜へ行ったおみかを見て、すぐにおみかの後を追うように砂浜の中へ入りました。


 「おっかあ、波打ち際に集まっているのはどうしてかな?」

 「あたしもよく分からないけど…」


 新吉は、波打ち際に村人たちが集まっているのはどうしてとおみかに聞くと、おみかは村人たちが集まるのはよく分からないけどと言いながらも途中で声を詰まらせました。すると、村人たちが集まっているところからすすり泣く声が聞こえてきました。


 「まさか、登美蔵さんが…」


 ただならぬ雰囲気を感じたおみかと新吉は、すぐに村人たちが集まっているところへ行きました。そして、村人たちの集団の中へ入った2人の目の前には、変わり果てた登美蔵の遺体が波打ち際に打ち上げられていました。


 登美蔵の遺体には、鋭い歯で噛み付かれた跡が体じゅうにありました。村人が言うには、登美蔵は沖合いに現れた人食いザメによって噛み付かれて命を落としたようです。


 「おっとう、おっとう、目を開けてくれよ! ぼくに漁のことを教えてあげると約束していたのに…。うええええ~んっ!」


 新吉は、登美蔵の遺体にすがりながら大声で泣き続けています。新吉にとって、お父さんである登美蔵という存在がいなくなったことに対する喪失感はかなり大きいものがあります。


 「どうして、登美蔵さんはあたしたちを残してこの世からいなくなってしまうの…。ううううっ、うううううっ…」


 おみかも、新吉が登美蔵の遺体にすがりながら泣いている姿を見ながら、自らもすすり泣きながら肩を落としていました。登美蔵は、人食いザメに襲われて命を落としても、決して仕事道具であるモリを右手で握ったまま手放しませんでした。


 そんな中、村人たちが集まっている横で、1人の村人が砂浜を歩いていました。


 「おおっ、留造か? 今日もまた人食いザメに襲われて命を落とした村人がここに打ち上げられていたぞ」

 「フンッ! そんなの知るか!」


 村人の1人が、その留造という男に声を掛けました。しかし、留造は明らかに横柄な態度でそんなの知るかと言い放ちました。留造は、いつも薄茶色の袖なしの丈の短い着物を着ており、顔はいかにも恐そうな感じです。


 「あの留造という男、以前はあんな横柄な態度は取らなかったのに…」

 「なのに、ここ最近はわしらがあいさつしても黙ったままで横を通り過ぎるし…。傲慢なんだよ、あの男は」

 「人が死んで泣き崩れているのにもかかわらず、留造は冷たい態度なんだよな」


 村人たちは、留造が取った態度についてひそひそと話し始めています。村人全員が仲良く暮らしている浜岸村の中にあって、留造が取った態度は村の秩序を乱しているのではと村人たちも考えているのです。


 「人食いザメがこの沖合いに現れる前は、留造もおれらと気さくに話していたし、思いやりのある人だったけど」

 「そうそう、顔は恐くても話の分かる人だったが、人食いザメの一件があってからはわしが話しかけても横柄な態度ばかりだし」


 登美蔵の頼もしさとやさしさは、村人たちからも慕われていました。村人たちのためであれば、登美蔵は他の村人たちと協力して仕事をすることもしばしばありました。登美蔵の変わり果てた姿の周りでは、登美蔵を慕った村人たちがすすり泣く姿がありました。


 人食いザメが海の沖合いに現れたことで、登美蔵をはじめとする村人がサメに襲われて犠牲になるたびに他の村人たちの悲しみは深まるばかりです。



 「うううううっ…。敬太くんの前で涙を流してごめんね。あたしが悲しんでばかりいたら、登美蔵さんに申し訳がつかないわ」


 おみかは、登美蔵がサメに襲われて命を落とした一連の出来事を話し終わると、悲しみのあまり再び涙を流しました。


 「おっかあ、これからはぼくがおっとうの代わりになってあげるよ!」

 「敬太くんの気持ちは分かるけど、沖合いへ行かなくても地引き網とかでお魚が取れるし、波打ち際から少し海に入ればわかめがとれるから、そんなに心配していないよ」


 敬太は、じぶんが登美蔵の代わりになってあげるとおみかに言いました。でも、それを聞いたおみかは、地引き網やわかめ採りなどがあるからそんなに心配していないと敬太に言いました。


 「敬太くん、モリの使い方は知っているか?」

 「新吉くん、そのモリはどうやって使うの?」

 「ぼくもモリを使ったことは無いけど、どうやってモリを使うのかをおっとうから聞いたことがあるよ」


 新吉は、敬太にモリの使い方を知っているかと聞きましたが、敬太は今まで一度もモリを使ったことがありません。敬太はモリの使い方について新吉に尋ねると、新吉は登美蔵からモリの使い方について聞いたことがあると言いました。


 「おっとうは、素潜りで漁をしていたけど、そのときに狙ったお魚や貝をこのモリで突き刺すように使うんだよ」

 「モリで突き刺してお魚や貝を取るだね、新吉くん、ありがとう!」

 「土間に実物のモリがあるから、敬太くんもモリがどういうものかよく見てね」


 新吉は、素潜り漁をするときにお魚や貝を突き刺すように使うということを登美蔵から聞いた範囲内で敬太に言いました。敬太はモリの正しい使い方を教えてくれた新吉に感謝すると、登美蔵が使っていたモリがあると新吉が言ったので、すぐに土間のところへ下りました。


 「うわあっ、これがおっとうの使っていたモリなのか! こんなに長い木の柄の先にとがったところがあるんだね」

 「敬太くん、登美蔵さんはサメに襲われて命を落としても、このモリだけは右手で握ったままで手放さなかった形見そのものなのよ」


 敬太は、金属製の刺突具が先端についている登美蔵が使っていたモリが土間の壁に吊るされているのを見ました。おみかは、土間にあるモリは登美蔵が握ったまま手放さなかった形見であることを敬太に言いました。


 「おっかあ、ぼくもおっとうの形見であるこのモリを使えるようにがんばるよ!」

 「敬太くん、まさか本当に海の沖合いまで行くつもりなの?」

 「おっとうのモリが使いこなせるようになったら、海の沖合いまで行っておっとうと同じように素潜り漁をしてみるよ!」


 敬太は、自分も登美蔵の形見であるモリを使いこなせるようにがんばるとおみかに言いました。これを聞いたおみかはびっくりした表情になりましたが、敬太はモリが使えるようになったら、登美蔵と同じように沖合いでの素潜り漁をしてみると明るくて元気な声で言いました。


 おみかは、敬太が登美蔵と同じように素潜り漁をやってみたいという強い気持ちを感じているので、人食いザメが出るから沖合いへは絶対に行くなとは言えませんでした。そして、おみかは敬太にもう1つ大事なことを言いました。


 「登美蔵さんは、あたしと新吉くんのために漁に一生懸命励んでいたわ。正確には、この子も含めてだわ」

 「えっ、この子って、もしかして?」

 「そうよ、あたしのこのお腹には、登美蔵さんとの間にできた新しい命である赤ちゃんがいるのよ」


 おみかは、自分のお腹を右手でさすりながら、お腹の中に新しい命が宿っていることを敬太に言いました。おみかのお腹の中には、登美蔵とおみかの2人の愛情を持った赤ちゃんがいます。


 「おっかあ、お腹の赤ちゃんは大丈夫なの?」

 「赤ちゃんがいつ生まれるか分からないのに、畑仕事とかしても大丈夫か?」

 「敬太くん、新吉くん、いつもあたしの体を心配してくれてありがとうね。あたしのお腹にいる赤ちゃんは、時々お腹の中で動いているよ。だけど、このくらいだったら心配しなくても大丈夫だよ」


 敬太と新吉は、おみかのお腹にいる赤ちゃんがいつ生まれるか分からないので心配している様子です。おみかは、自分の体を心配している敬太と新吉に感謝するとともに、お腹の中で赤ちゃんが動いている状態であっても大丈夫であると言いました。


 「ぼくたちも、おっかあのためにも畑仕事や薪割りとかのお手伝いをするからね!」

 「2人ともいつもご苦労さまね。明日もお手伝いをよろしくね」


 敬太と新吉は、もうすぐ赤ちゃんが生まれるかもしれないおみかに苦労をかけないように、おみかの仕事のお手伝いを今まで以上にすることを決心しました。2人の言葉を聞いたおみかも、敬太と新吉に明日もお手伝いをよろしくとやさしい言葉で言いました。


 「お外のほうは、太陽が西のほうへ沈んだね。そろそろ寝る準備をじようかな」


 おみかは、太陽が西へ沈むのを見て、板の間にお布団を敷く準備を始めました。新吉も自分が使うお布団を持って、板の間へ敷くところです。


 「敬太くん、大きな風呂敷を開けようとしているけど、何をしているの?」

 「ぼくが使うお布団を、この風呂敷の中から出そうとしているけど」

 「敬太くん、そんなことをしなくてもいいのよ。敬太くんには、今まで登美蔵さんが使っていたお布団を貸してあげるから」

 「おっかあの気持ちは分かるけど、ぼくは自分のお布団を持ってきたから」


 敬太は、自分がいつも使うお布団が入っている大きな風呂敷を開けようとしています。すると、おみかは敬太のために、登美蔵が使っていたお布団を貸してあげると言ってきました。でも、敬太はやっぱり自分のお布団で寝たいと思っているそうです。


 「敬太くん、自分で持ってきたお布団を使わなくてもここのお布団を使えばいいのに、どうして使わないの?」

 「おっかあ、ぼくはいつもお布団にでっかくて元気なおねしょをしちゃうんだよ」

 「ふふふ、敬太くんも新吉くんと同じようにでっかいおねしょをするんだね」


 おみかは、登美蔵が使っていたお布団をどうして使わないのかなと敬太に聞いてみました。これを聞いた敬太は、自分がいつもでっかいおねしょをしちゃうことをおみかに照れた表情を見せながら言いました。おみかは、敬太が新吉と同じようにでっかいおねしょをしちゃうことを知って、微笑んだ表情を見せています。


 「あたしは広くて大きい心を持っているから、新吉くんがでっかいおねしょをしたときには、必ずあたしや登美蔵さんにおねしょした布団を堂々と見せているんだよ。そして、そのおねしょ布団を見たら、新吉くんをやさしく褒めるようにしているよ」

 「それじゃあ、ぼくもお布団に元気いっぱいのおねしょをしたら、おっかあにお布団を見せるよ!」


 おみかは、新吉がでっかいおねしょをしたお布団をおみかや登美蔵に堂々と見せてくれるので、いつも新吉をやさしく褒めているそうです。敬太は、いつもの明るい笑顔を見せながら、元気なおねしょをしたお布団をおみかに見せると言いました。


 「それじゃあ、敬太くんは登美蔵さんのお布団を貸してあげるから、板の間へ持っていって敷いてね」

 「おっかあ、お布団を貸してありがとう!」


 敬太は、お布団を貸してくれたおみかに感謝すると、登美蔵が使っていたお布団を板の間へ持っていって敷き始めました。そのお布団は、もちろん大人用なので、敬太がいつも使っているお布団の約1.25倍ほどの大きさがあります。


 「おっかあ、ワンべえが使うお布団が風呂敷の中にあるけど、出してもいいかな?」

 「敬太くん、ワンべえにも寝るためのお布団が必要だね。風呂敷の中からお布団を出したら敷いてね」

 「ぼくは、敬太くんのお隣で寝るのがとても楽しみなんだワン!」


 敬太は、大きな風呂敷の中にあるワンべえのための小さいお布団を出すと、敬太が寝るお布団の横にその小さいお布団を敷きました。小さいお布団を敷いていると、ワンべえが敬太のそばへやってきて、しっぽをピュンピュン振りながら喜んでいます。ワンべえは、敬太の隣で寝ることが楽しみなんだそうです。


 敬太は、大きな風呂敷を再び真結びにすると、小さい風呂敷とともに板の間の奥の方へ置くことにしました。そして、すぐに自分のお布団があるところへ戻ると、そのまま掛け布団をかけて寝ることにしました。


 「おっかあ、新吉くん、おやすみなさい」

 「敬太くん、あしたもいっしょにがんばろうね。おやすみなさい」

 「敬太くんも新吉くんも、ぐっすりと休んでね」

 「敬太くん、おやすみだワン」


 敬太たちは、お互いに寝るときのあいさつをすると、そのまま眠りについて夢の中へ入って行きました。眠っているときの敬太と新吉の表情は、まるで楽しい夢を見ているかのようにかわいい寝顔になっていました。



 「も、もれそう…。早くおしっこしたいよ~」


 新吉は、自分が付けている腹掛けの下を両手で押さえながら、駆け足で砂浜を走っているところです。新吉は必死にガマンしながら、おしっこをする場所を急いで探しています。


 すると、新吉は前をよく見ていなかったので、目の前にいる人に「ドシンッ!」とぶつかってしまいました。新吉は、ぶつかったと同時に砂浜の上に倒れ込みました。


 「うわっ、ぶつかってしまってごめんなさい!」


 幸いなことに、新吉が倒れたのは砂浜の上だったので、すぐに起き上がることができました。新吉は、目の前にいた人にぶつかってしまったことについて謝りました。目の前にいる人は、外見からはがっしりとした体型の漁師の男性です。しかし、新吉がその男性をよく見ると、何やら男性の様子が変なように感じました。


 「わしにとって、おめえみたいな小さい子供をこの手でたっぷりとかわいがってやるのが大好きなんだな、ふはははは」

 「う、うわっ、おっとうやおっかあが言ってた獣人が本当に現れた!」


 新吉を見たその男性は、いきなり人間から恐ろしい獣のようなものに姿を変えてきたのです。その姿は、敬太とこれまで何度も戦っている獣人たちと同じ姿です。新吉は、登美蔵やおみかから獣人の伝承を聞いたことも相まって、目の前にいる獣人が非常に恐く感じています。


 「足が金縛りになって動けない! うわわっ!」


 新吉は、獣人から逃げようとしますが、足が金縛りの状態になっていて立ち上がることができません。その間にも、新吉はおしっこをガマンし続けていますが、それも限界に近づきつつあるようです。


 「わしの顔を見て恐がる姿を見れば見るほど、おめえをいたぶるのが楽しみになってきたぜ、ふはははは!」

 「わわわっ、脚を離してよ! 離してよ!」


 獣人は、不気味な笑い声をしながら、両手で新吉の両脚を強くつかみました。新吉は、獣人に脚を離してほしいと訴えていますが、獣人はそんなことに耳を傾けることは毛頭ありません。


 「ふはははは、おめえのかわいいおちんちんが丸見えになっているぜ」

 「お、おしっこがもれそうなの…。早く離して! 離して!」


 獣人は、新吉の体を砂浜に倒すと、そのまま両脚だけを逆さにするようにしました。すると、新吉がつけている腹掛けがめくれて、かわいいおちんちんが丸見えになりました。


 「離してよ! 本当におしっこがガマンできないよ!」

 「おめえがそんなこと言ったって、わしはおめえの脚は絶対に…」


 新吉は、獣人に何度も脚を離してと叫び続けました。新吉がおしっこをガマンし続けているのがついに限界に達したからです。獣人は、新吉が必死に叫ぶ声を聞いても、両手で握っている新吉の両脚は決して離そうとはしません。しかし、獣人が新吉の両脚を腕力で上げようとしているときのことです。


 「うわっ、うわわっ、おめえはわしの顔に小便をいっぱいかけやがって!」


 新吉は、ガマンできなくなったおしっこを獣人の顔に大量に命中させました。獣人は、自分の顔にかけられたおしっこを両手でぬぐうために、今まで握っていた両手を新吉の両脚から離しました。


 「獣人が顔をぬぐっているうちに、ここから逃げよう」


 新吉は、獣人が顔にかけられたおしっこをぬぐっている隙に、砂浜を走って逃げようとします。しかし、新吉が逃げ出したのに気づいた獣人は、すぐさまに新吉の後を追って行きました。


 「よくも、わしの顔に小便をぶっかけやがって、もう許さんぞ!」

 「うわあっ、獣人が後ろから追いかけてきたぞ」


 獣人は、新吉におしっこをかけられたので、怒りの表情を見せながら猛然と追いかけてきました。新吉も、獣人から必死になって逃げようとしますが、獣人は次第に新吉の後ろに接近してきました。


 「ふはははは、おめえはもう逃げられないぞ! 今度こそたっぷりとかわいがってやるとするかな」

 「うわあっ! 獣人から逃げたくても逃げられないよ…。おっかあ、助けて!」


 獣人は、新吉の右肩を自らの右手で強くつかむと、そのまま自分の方向へ引っぱりながら新吉が逃げられないようにしています。新吉は、どんなに駆け足で走ろうとしても、獣人によって前へ進むことができません。


 新吉は、獣人から逃げたくても逃げられないと言う現実に、自分のお母さんであるおみかに助けてほしいと叫び声をあげました。すると、どこからかいつも聞き覚えのある声が聞こえてきたのです。



 「新吉くん、どうしたの?」

 「その声はおっかあなの?」


 新吉の目の前には、おみかの顔が見えてきました。そして、新吉はお布団の中にいることに気が付いたのです。


 「おっかあ、助けてくれてありがとう!」

 「もう、新吉くんったら、ずっとここで寝ていたじゃないの」

 「なんだ、今までのことは全部夢の中のことだったんだ」


 新吉は、おみかが自分を獣人の手から助けてくれたと思って感謝しました。しかし、おみかは新吉がずっとお布団の中で寝ていたと言ったことで、新吉は今までの出来事が全て夢の中であることに気づいたのです。


 「新吉くんの今日見た夢は、とても恐かったんだね」

 「もう、獣人に殺されるかと思ったよ。それで、獣人に一度捕まったときに、おしっこがガマンできなくて、獣人の顔におしっこをぶっかけちゃったよ」


 おみかは、新吉が眠りながら助けてほしいと言っていたのを聞いたので、新吉の見た夢がとても恐かったことを知っています。新吉は、今日見た夢の内容を話し始めると、獣人の顔にガマンできなかったおしっこを命中させたことをおみかに言いました。


 「新吉くんは、夢の中でおしっこを命中しちゃったんだね。もしかして、今日もお布団にでっかくて大きな海を描いたのかな?」

 「えへへ、おっかあ、今日もでっかいおねしょをやっちゃったよ」


 おみかは、新吉が夢の中でのおしっこの出来事を聞くと、新吉にお布団へのおねしょのことを聞きました。すると、新吉は照れた表情を見せながら、おねしょをしてしまったことをおみかに言いました。


 「おねしょのでっかい海をお布団に描いたよ! おっかあ、すごいでしょ!」

 「ふふふ、新吉くんは恐い夢を見ちゃったけど、今日も見事に元気なおねしょのお布団が出来上がったね」


 新吉は、お布団に描いたおねしょを見ながら、おみかに元気な笑顔で自慢しました。これを見たおみかも、新吉が今日も元気であることに安心している様子です。そして、元気な証拠であるおねしょをしちゃった新吉の頭をなでなでしながら褒めていました。


 すると、隣で寝ていた敬太が目を覚まして起き上がりました。


 「おっかあ、おはよう!」

 「敬太くん、今日はどんな夢だったかな?」

 「でへへ、ぼくは小舟で沖合いまで行って、素潜り漁をするために小舟から海の中にドボンッと勢いよく飛び込んだ夢を見たよ」


 敬太がいつものような元気な声であいさつをすると、おみかはどんな夢を見たのかなと敬太に聞きました。すると、敬太は照れた表情を見せながら、素潜り漁をするために小舟から海に飛び込む夢を見たことをおみかに言いました。


 「それじゃ、今から敬太くんの掛け布団をめくってもいいかな」


 おみかは、敬太が寝ているお布団の上にある掛け布団をめくりました。掛け布団をめくった敬太のお布団には、新吉と同様にでっかくて元気なおねしょが描かれていました。


 「ふふふ、敬太くんも見事に元気いっぱいのおねしょをお布団にしちゃったね」

 「おっかあ、ぼくがいつも朝起きたときのお布団は、こんなにでっかくて元気いっぱいのおねしょをするんだよ!」


 おみかは、敬太がお布団にしちゃったでっかいおねしょを見ながら、敬太の頭をなでなでしながら褒めています。おみかに褒められた敬太も、いつもでっかくて元気なおねしょをすることをおみかに自慢しながら言いました。


 「おっかあ、ぼくのおねしょ布団をこれから物干しへ干しに行って、お友達にもこのお布団を見せてあげるぞ!」

 「ぼくだって恐い夢を見ちゃったけど、敬太くんに負けないくらいのでっかいおねしょのお布団に描いたのをみんなにも見せるよ!」

 「敬太くんも新吉くんも、元気いっぱいの笑顔と、毎朝のお布団へのでっかいおねしょがあいさつ代わりだね」


 敬太と新吉は、自分たちのおねしょ布団を干したのをお友達にも自慢することを明るい笑顔で言いました。元気な笑顔とでっかいおねしょが敬太と新吉のあいさつ代わりとなっているので、おみかは2人を見ながら目を細めていました。


 敬太と新吉は、すぐに庭にある物干しに自分たちのおねしょ布団を干しました。すると、新吉の家の左右両隣に住んでいる清三郎となつが、それぞれのお母さんといっしょに家から出てきました。2人のお母さんがそれぞれ持っているのは、清三郎となつのお布団のようです。


 「敬太くんも新吉くんもお布団におねしょしちゃったの?」

 「でへへ、ぼくは今日もでっかくて元気なおねしょをしちゃったんだよ」

 「ぼくだって、敬太くんと同じようにでっかい海みたいなおねしょを描いたぞ!」


 清三郎となつは、敬太と新吉がおねしょしちゃった布団を見ながら言うと、敬太と新吉はいずれもでっかいおねしょをお布団にやってしまったことを明るい笑顔で言いました。すると、清三郎となつも少し赤らめた顔つきで照れている様子です。


 「実は、ぼくもお布団におねしょをベッチョリとやっちゃったよ」

 「わたしも、おねちょ(おねしょ)がいっぱい出ちゃった」


 両隣の家のそれぞれの物干しに、大きなおねしょの地図が描かれたお布団が干されています。どうやら、清三郎もなつもおねしょをしちゃったようです。でも、清三郎もなつも照れた顔つきで笑顔を見せながら、自分たちがおねしょしちゃったことを言いました。


 子供たちにとって、いつもおねしょをするのは当たり前のことなので、敬太たちは自分がやったおねしょ布団をお互いに見せ合いながら、にぎやかな子供たちの笑い声が聞こえています。

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