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《獣人のこども》おねしょ敬太くんの大ぼうけん  作者: ケンタシノリ
第5章 敬太くんと人食いザメとの戦い

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その1

 山道を抜け出た敬太とワンべえは、目の前にかすかに見える海を目指して走って行きました。梅雨が明けたので、雲がほとんどない青空が広がっています。太陽からの日差しが強いので、敬太たちにとってもかなり暑そうです。


「ワンべえくん、もうちょっとしたら海がよく見えるところに着くよ!」

「敬太くん、ぼくよりも先に行かないでほしいワン」


 敬太はどんなに暑くても、いつも元気いっぱいの笑顔を見せながら走っています。


 敬太にとって、かけっこをするのは得意中の得意です。ワンべえも、大好きな敬太に離されないように走りながらついていきます。


「わ~い! 海にやってきたぞ!」


 敬太は海を見るために、大きくジャンプして砂浜の中に入りました。ずっと山の中で暮らしていた敬太にとって、自分の目で海を見るのは初めてです。


「じいちゃから山をいくつも越えると大きな海があると言ってたけど、こんなに大きい海をみるのは初めてだよ!」

「わわわっ、海に近づいたら流されてしまうワン!」


 敬太は、砂浜の波打ち際までやってきました。そこで初めて見る海の大きさに、敬太も驚きを隠せません。


 一方、ワンべえのほうは何度も押し寄せる波を見ただけでおびえています。川の急流でおぼれ死ぬ寸前だったこともあって、海を見ただけでまだ恐がっています。


「ワンべえくん、海で水遊びしようよ! 水遊びだったら、海に入らなくてもいいから大丈夫だよ!」

「う、うん……。本当に大丈夫ワン?」

「大丈夫! 大丈夫! 海は恐くないからこっちにおいで!」


 敬太は、海で水遊びをしようと波打ち際から海の中に入りました。海を恐がっているワンべえも、敬太の呼びかけに応じることにしました。


「それっ、パシャパシャパシャ!」

「うわっ、海の水は少し冷たいけど、気持ちいいワン」


 敬太は、波打ち際にきたワンべえに海水をパシャパシャとかけ始めました。すると、今まで嫌がっていたワンべえが水遊びをいっしょに楽しんでいます。


「敬太くんは、水遊びをするのが本当に大好きなんだワン」


 敬太は、山の中でおじいちゃんやおばあちゃんといっしょにいたときから、川で遊んだりお手伝いをしたりしていました。ワンべえは、敬太の水遊びが大好きな理由を知って納得しています。。


「ところで、海の水はしょっぱいんだワン。どうしてしょっぱいワン?」

「あっ、本当だ! ワンべえくんが言った通り、海の水はしょっぱいなあ」


 ワンべえは、顔に海水をかけられたので舌を出してなめました。すると、川の水と違って海水がしょっぱく感じました。敬太も、海水がしょっぱいことに初めて気づきました。


 そのとき、敬太とワンべえは近くの砂浜にいる子供たちの姿を見ました。


「あれっ、向こうにちっちゃい子供がいるよ。何をしているのかな?」

「ぼくも子供が大好きだから、ちょっと行ってみようワン!」


 敬太たちは、駆け足で子供たちがいるところへ行きました。


「みんな、ここで何をして遊んでいるの?」

「ぼくたちは、これから海に入って泳ぐところだよ」


 そこには、子供たちが5人集まっていました。一番背の高い男の子は、これから海で泳ぐところであると敬太に言いました。


「ところで、君は何という名前なの?」

「ぼくの名前は敬太という名前だよ。力が強くて、いつも元気いっぱいの7歳児の男の子だよ!」

「敬太くんという名前か。名前からして元気いっぱいの男の子らしい名前だね」


 敬太は、男の子に自分の名前を元気で明るい声で言いました。これを聞いた男の子も、笑顔を見せながら答えました。


「敬太くんは、いつも赤い腹掛け1枚で過ごしているの?」

「ぼくは、小さいときからずっとこの赤い腹掛けだけで過ごしているよ。だって、ぼくのばあちゃが作ってくれた赤い腹掛けが大好きだから、暑い夏も寒い冬もずっと腹掛け1枚だけでへっちゃらだよ!」


 敬太は、おばあちゃんが作ってくれた赤い腹掛けが大好きなので、夏でも冬でもずっとこの腹掛け1枚だけで過ごしています。


「ぼくたちも、敬太くんとは違う色だけど、いつも腹掛けだけで過ごしているよ」

「ぼくも、いつも腹掛けだけだぞ」「あたしの腹掛けも見て見て!」


 男の子も敬太の腹掛け姿を見て、自分たちと同じ格好であることにうれしそうな表情を見せています。そして、他の子供たちも集まると敬太に自分の腹掛けを自慢しています。


「みんなも、ぼくと似たような腹掛け1枚だけなんだね」

「ぼくたちも、敬太くんがいつも腹掛けだけで過ごしているのがうれしいよ」


 子供たち5人は、全員が敬太と似たような腹掛けを1枚だけつけています。腹掛けの色や模様は敬太とは違いますが、子供たちは同じように腹掛けをつけている敬太を気に入るようになりました。


「敬太くん、ぼくたちといっしょに友達になってもいいかな?」

「ぼくも、みんなと友達になって遊ぶのが楽しみだよ! みんな、よろしくね!」

「こちらこそ、よろしくね! 敬太くん、これから友達としてぼくたちといっしょにがんばろうね!」


 敬太も子供たちもいっしょに遊ぶのが楽しみなので、お互いに友達になることを決めました。子供たちは、敬太が新しい友達となることをとても喜んでします。


「敬太くん、ぼくの名前は新吉という名前だよ。ぼくは8歳だから、敬太くんより1つ年上だよ」

「新吉くんという名前なんだね。他の4人はどんな名前なのかな?」

「敬太くんには、まだぼく以外の友達を紹介していなかったね。それじゃあ、1人ずつ紹介するよ」


 男の子の名前は新吉といって、敬太より1つ年上の8歳児の男の子です。新吉は、他の子供たちを敬太にまだ紹介していなかったので、1人ずつ紹介することにしました。


「あたしは、さちという名前なの。6歳だよ」

「ぼくは、清三郎というんだよ! 5歳の男の子だよ!」

「わたしは、なちゅ(なつ)というの。4歳」

「ぼくは、たつりょく(辰六)。さんしゃい(3歳)」


 子供たちは、敬太に向かって1人ずつ自己紹介をしました。小さい子供は、まだ言葉がうまく言うことができないけど、新しいお友達になった敬太に自分の名前を元気な声で言いました。


 「敬太くんの足元にいる子犬は何という名前なの?」

 「この子犬は、ワンべえという名前でぼくの友達だよ」

 「敬太くんは、ぼくを助けてくれた命の恩人だワン!」


 敬太は、自分の足元にいるワンべえを新吉が見て尋ねてきたので、ワンべえは敬太の友達であると答えました。ワンべえも、敬太が自分の命の恩人であると新吉に言いました。


 「敬太くん、敬太くん、いっしょに海で遊ぼうよ。楽しいよ!」

 「それじゃあ、みんないっしょに海で水遊びをしよう!」

 「わ~い! 水遊び! 水遊び!」「遊ぼう! 遊ぼう!」


 男の子の新吉と清三郎と辰六、女の子のさちとなつは普段から仲良しで、いつも海や砂浜で遊んだり泳いだりしているそうです。しかし、子供たちの年齢は現在でいうところの小学校低学年の児童、若しくは幼稚園・保育園に通う園児ということもあって、遠方まで泳ぐことは大変危険です。そのため、新吉たちは基本的に波打ち際での水遊びをしたり、自分で足がつくところで泳いだりするそうです。


 「みんな、いいかな? それじゃ…」

 「それっ! パシャパシャパシャ!」「パシャパシャ!」

 「うわわっ、海の水をいっぱいかけられてしまったワン」

 「もうっ、いきなり水をかけてくれたな! お返しだぞ! パシャパシャパシャ!」


 敬太が子供たちにひと声かけようとすると、子供たちはいきなり敬太とワンべえにめがけて海水をパシャパシャとかけ始めました。いきなり海水をかけられた敬太は、すぐにお返しで子供たちにパシャパシャと海水をかけました。


 「今度はこっちからだぞ! パシャパシャパシャーン!」「パシャパシャパシャーン!」

 「わわっ、みんなに海の水をいっぱいかけられちゃったけど、みんなで水遊びするのは本当に楽しいね!」


 新吉をはじめとする子供たちは、一斉に大量の海水を思い切り敬太の顔や体にかけまくりました。敬太は、海水をいっぱいかけられてしまいましたが、子供たちと水遊びをすることが何よりも楽しそうです。


 「海の水をなめたらしょっぱかったけど、どうしてかな?」

 「海の水がしょっぱいのは当たり前なんだけど、敬太くんはそんなこと知らないの?」

 敬太は、海水をかけられた右腕をちょっとなめたら、さっきと同じようにしょっぱく感じました。子供たちにそのことについて聞くと、新吉は海水がしょっぱいのは当たり前と言うとともに、そんなことを敬太は全く知らないことに少し驚いています。


 「ぼくは、生まれてからずっと山の中で暮らしていたから、川で遊んだり泳いだりするのが大好きだけど、川の水は何もしょっぱくなかったよ」

 「それじゃあ、敬太くんが海にきたのは初めてということ?」

 「ぼくもワンべえも、こんなに広い海へきたのは初めてだよ!」


 敬太は今まで海へきたことが無かったので、海水がどうしてしょっぱいのか不思議そうに感じていたようです。それは、敬太と同様に初めて海へきたワンべえも同じことです。


 「敬太くん、そういうことだったのか。それなら、ぼくが敬太くんに海のことを教えてあげるよ」

 「ぼくも海のことをもっと知りたいワン!」

 「ワンべえくんにも海のことを教えてあげるよ」


 新吉は、自分たちが暮らしている海のことを敬太に教えてあげると言うと、ワンべえも海のことをもっと知りたいとしっぽをピュンピュン振りながら言いました。新吉は、敬太だけでなくワンべえにも海のことを教えてあげると言いました。


 「それじゃ、今度は海の中に入って泳ぐよ!」

 「敬太くんは、川で泳ぐのが大好きだけど、海で泳ぐのと川で泳ぐのとでは…」


 敬太は、新吉に海の中に入って泳ぐと新吉に言いました。新吉は、敬太に海で泳ぐのと川で泳ぐのとでは全然違うことを言おうとしましたが、敬太は最後まで聞かずにそのまま泳ぎ始めました。


 「わ~い! 海の中は本当にきれいだなあ。川で泳ぐときもいろんな魚がいたけど、海の中にいる魚は、川の魚とはまた違った魚がいっぱいいるね」


 泳ぐことが大好きな敬太は、泳ぎながら海の中を見ていました。海の中にいる魚は、川の中にいる魚とはまた違った種類の魚がたくさん泳いでいるので、敬太も多くの魚を見ながらワクワクしていました。


 「かなり沖のほうまで泳いで行ったなあ。本当はもっと泳ぎたいけど、子供たちが心配しているから、砂浜の波打ち際まで戻ろうかな」


 敬太は、沖のほうまで泳いでいきましたが、そろそろ砂浜の波打ち際まで戻ることにしました。これ以上、子供たちに心配をかけたくなかったので、敬太はすぐに波打ち際まで泳いで帰りました。


 「敬太くん、沖まで泳いで行ったから、みんな心配していたぞ」

 「新吉くん、ごめんごめん。でも、泳ぎながら海の中のお魚を見ることができたよ。海の中には大きなお魚も小さなお魚もいて楽しかったよ」


 新吉は、敬太が沖のほうまで泳いで行ったことにとても心配していたようで、敬太が波打ち際まで泳いで戻ってくると、新吉は敬太にその旨のことを言いました。敬太も、新吉に心配をかけてしまったのでちょっと反省しています。でも、敬太にとっては、海の中にいるいろんな魚を見ることができて楽しかった様子です。


 「敬太くん、海の中にはいろんな魚がいるけど、魚の中にはものすごく恐ろしいのがいるんだぞ」

 「新吉くん、ものすごく恐ろしい魚がいるって、どういうことなの?」


 新吉は、敬太に海の魚の中にはかなり恐ろしいのがいると忠告しました。敬太は、新吉の言う恐ろしい魚がどういう意味を表しているのか疑問に感じました。


 「ぼくは、敬太くんが沖のほうまで泳いで行ったのを心配していたけど、それには理由があるんだ…」

 「理由があるって、ぼくが沖のほうまで泳いではいけなかったの? もしかして、そこに恐ろしい魚がいるということかな?」

 「理由って…。あっ、敬太くんは気にしなくてもいいんだよ」


 新吉は、沖のほうまで泳いで行った敬太を心配していたのには理由があったからです。敬太は、自分が泳いで行った沖のほうに新吉の言う恐ろしい魚がいるからではと言いました。しかし、新吉はその理由を言いかけた途中でやめると、敬太には気にしなくてもいいよと笑いごまかす素振りを見せながら言いました。


 「気にしなくてもいいって、新吉くんはどうしてなんだろうかな」

 「そんなことばかり気にしていたら、いつも元気な敬太くんらしくないよ。ぼくは、敬太くんのいつもの元気いっぱいの笑顔を見るのが大好きだよ」


 敬太は、自分のことを心配する理由を言わないで気にしなくてもいいと言った新吉の言葉に少し引っかかるものがありました。すると、新吉は自分の両手を敬太の両肩に乗せながら、いつもの元気いっぱいの笑顔を見るのが大好きだよと敬太を励ましました。


 「敬太くん、どうしたら泳げるようになるの?」「ぼくも泳ぎたいなあ」

 「海で遊びながら少しずつ覚えれば、そのうち自然に泳げるようになるよ」


 敬太と新吉の周りには、他の子供たちが集まってきました。子供たちは、沖のほうまで泳いで行った敬太を見て、自分たちも敬太みたいに海の中に入って泳げるようになりたいと思っています。敬太は、子供たちに海で遊びながら少しずつ泳ぎを覚えれば、自然に泳げるようになるとアドバイスしました。


 「あっ、そろそろおうちへ帰らないといけないなあ」

 「おっかあが心配しているかも」「早く帰ろうよ~」「ごはん食べたいなあ」


 新吉は、もうしばらくすると太陽が西に傾こうとする時間になるので、海から上がって自分の家へ帰ろうとします。他の子供たちも、海から出て砂浜へ上がってきました。


 敬太も海から出てワンべえがいる砂浜へ上がろうとすると、新吉が呼び止めました。


 「そうだ! 敬太くんとワンべえは旅の途中でこの海へきたのであれば、ぼくの家でいっしょに暮らしてみようよ」

 「新吉くんの気持ちはよく分かるけど、いきなりいっしょに暮らそうと言われても気持ちの整理が…」


 新吉は、いきなり敬太に自分の家でいっしょに暮らそうと言ってきましたが、敬太はいきなりいっしょに暮らそうと言われても気持ちの整理がついていないので少し戸惑っている様子です。


 「大丈夫だよ! ぼくのおっかあは心が広いから、敬太くんがくれば歓迎してくれると思うよ」

 「新吉くんがそう言ってくれるなら、ぼくもしばらくお世話になるよ!」

 「これから、敬太くんといっしょに暮らせるから、ぼくもとてもうれしいよ!」


 新吉は、敬太がくれば自分のお母さんが歓迎してくれるから大丈夫だよと、少し戸惑っている様子の敬太に笑顔を見せながら言いました。これを聞いた敬太は、新吉の家でしばらくお世話になることを決めました。新吉は、敬太といっしょに暮らせることになったので、とてもうれしい表情を見せています。


 敬太は、砂浜の上に置いている自分の大きな風呂敷を再び背負うとともに、小さい風呂敷を右手に持つと、ワンべえといっしょに新吉がいるところへ戻りました。


 新吉は、敬太とワンべえに自分の家がある場所まで案内することになりました。砂浜に入る手前のところに何軒かの家が隣り合わせで集まっています。家は敬太が生まれ育った家と比べてやや小さく、屋根は石を載せた板屋根となっています。また、強い風をなるべく受けないようにするために、農家と比べて屋根を低くしています。


 そして、新吉は自分がいつも住んでいる家に戻ると、さっきまで遊んでいた子供たちが新吉たちを呼び止めました。


 「新吉くん、明日もまた遊ぼうね」「明日も遊ぼう! 遊ぼう!」

 「じゃあ、明日もいっしょに海で遊ぼうね!」

 「わいわいわ~い!」「明日も海で遊ぶの楽しみだな~」


 新吉の前には、さちと辰六の2人が明日もいっしょに遊んでほしいと新吉の体にしがみつきながら言うと、新吉も海でいっしょに遊ぶことを2人と約束しました。さちと辰六の2人は、新吉の家の北隣りの家で暮らしている姉弟です。いつも仲の良い2人は、お互いに思いやりのある友達思いの姉弟なのです。


 すると、新吉の左右両隣りの家からもなつと清三郎が出てきて、新吉のところに寄ってきました。


 「敬太くん、新吉くんとどうしていっしょなの?」

 「しばらくの間、敬太くんがぼくの家でいっしょに暮らすことになったんだ」

 「わ~い! 敬太くんといっしょに遊べるぞ!」

 「敬太くん、敬太くん、明日も海へ行っていっしょに遊ぼ! 遊ぼ!」


 なつは、敬太に新吉といっしょにいるのはどうしてと言うと、新吉は自分の家で敬太がしばらくの間暮らすことになったことを言いました。これを聞いた子供たちは、足をピョンピョン飛び跳ねながら大喜びしています。


 新吉といつもいっしょに遊ぶ子供たちは、いずれも新吉の家と隣り合った家同士であるので、よく海で遊んだり泳いだりしているそうです。


 「じゃあ、みんな明日いっしょに遊ぼうね!」

 「敬太くん、新吉くん、また明日」「明日もいっしょに遊ぶの楽しみだなあ」


 敬太が子供たちに明日いっしょに遊ぼうと呼びかけると、子供たちも敬太や新吉とまた遊べることを楽しみにしながら、それぞれの家へ戻っていきました。


 新吉は、自分の家の中へ入りましたが、家の中にはだれもいません。土間には台所のほかに、漁師の家らしく漁具もいくつかあります。


 「新吉くんのおっとうやおっかあは、どこにいるのかな?」

 「う~ん、確かおっかあは北側にある高い丘の段々畑のところにいると思うけど」

 「その段々畑のところに行けば、新吉くんのおっかあに会えるんだね」


 敬太は、自分が背負っている大きな風呂敷や右手に持っている小さい風呂敷をそれぞれ板の間に置きました。そして、敬太は駆け足ですぐに新吉の家を出ました。新吉とワンべえも、敬太の後を追うようについていきました。


 「敬太くん、なにも急いで行かなくても…」

 「だって、新吉くんのおっかあがどんなおっかあなのか見てみたいでしょ」

 「敬太くん、ちょっと待とうよ~。敬太くんの足があまりにも速いから、とてもついて行けないよ」

 「新吉くん、ぼくは高い丘の手前にいるよ! ここで待っているよ!」


 敬太はかけっこをするのが大好きで、山道を駆け上がったりする場合であっても、疲れを見せないで速く走ることができます。でも、敬太のかけっこはあまりにも速いので、新吉やワンべえは敬太になかなか追いつくことができないどころか、じわりじわりと引き離されるほどです。


 敬太のあまりの速さに、新吉は息を切らしながら急がないでちょっと待ってほしいと言いました。すでに高い丘の手前までやってきた敬太は、新吉やワンべえがくるまで待つことにしました。


 「敬太くんはかけっこが大好きなのは分かるけど、もう少し手加減してほしいワン」

 「ワンべえ、ごめんごめん。それにしても、この高い丘はかなりきつそうな坂を登らないといけないんだなあ」

 「ぼくも、おっかあの畑の手伝いで高い丘の段々畑へ行ったことがあったけど、おっかあがいるところは段々畑の中でも高いところだから、そこへ行くまでにきつい坂を登らないといけないんだ」


 敬太は、ワンべえからかけっこで走るのを手加減してほしいと指摘されたので、少し照れた顔つきを見せながらワンべえに謝りました。そして、敬太たちは延々と続く段々畑がある高い丘を見ましたが、そこを登るためには傾斜のきつそうな坂を上まで登る必要があります。


 「高いところにある段々畑に誰かが何かしているみたいだよ。もしかしたら、新吉くんのおっかあかもしれないよ!」

 「敬太くん、段々畑へ上がる坂は本当にきついぞ。大丈夫なの?」

 「ぼくは、どんなにきつい坂であっても、かけっこで駆け上がるのは平気だよ!」


 敬太は、延々と続く段々畑の中でも高い場所に誰かがいるのを見ました。そこにいるのは新吉のお母さんかもしれないと思った敬太は、すぐに高い丘を上がるためのきつい坂道を駆け上がり始めました。坂道は本当にきついぞと新吉が忠告しても、敬太はきつい坂道であっても平気で駆け上がって行きます。


 「敬太くんはあれだけ自信があるから、きつい坂を平気で駆け上がることができるんだなあ」

 「新吉くん、新吉くん、ぼくたちも敬太くんの後をついて行こうワン!」

 「敬太くんだって、ぼくのおっかあに会うのを楽しみにしているみたいだし、ぼくたちだって敬太くんに負けるわけにはいかないからなあ」


 敬太がきつい坂道を元気よく駆け上がっていくのを見て、新吉は敬太があれだけ自信を持っているから平気で駆け上がることができるんだと笑顔を見せながら言いました。ワンべえは、敬太の後をついて行こうと新吉に呼びかけると、新吉もワンべえといっしょに坂道を歩きながら上がり始めました。


 一方、敬太はすでに高い丘の段々畑の中で限りなく頂上に近いところまでやってきました。すると、左側の段々畑で黙々と農作業をしている女の人がいました。


 「あの人が新吉くんのおっかあなのかな?」


 敬太は、農作業をしている女の人を見ると、ぽっちゃりしている外見とは裏腹に、農作業に励んでいるしっかり者のお母さんらしさを見せています。その姿を見た敬太は、自分も農作業の手伝いをしたいと、思い切って女の人に話しかけました。


 「あらあら、君はこの村で初めて見る顔だね。君の名前はどういう名前かな?」

 「ぼくの名前は敬太っていうんだ。いつも元気いっぱいの7歳児の男の子だよ」


 敬太の声を聞いた女の人は、農作業を一旦やめると、敬太のいる方向へ向きました。その女の人が着ているのは、袖なしで丈の短くて濃い青色の着物です。さらに、女の人の外見は、ぽっちゃりしている体つきであるのはもちろんですが、それに加えて、お腹がぽっこりと出ている感じです。


 女の人は、初対面である敬太の顔を見ると、明るい表情を見せながら敬太の名前について聞きました。すると、敬太は女の人に自分の名前の自己紹介を元気いっぱいの声で答えました。


 「あたしの名前はおみかというの。敬太くんは農作業をするのが大好きなのかな?」

 「ぼくは、山奥でじいちゃとばあちゃといっしょに暮らしていたときから、いつも自分の力で田植えをしたり、畑でイモや野菜を植えたりしていたよ!」

 「すごいねえ、敬太くんはまだ小さい子供なのに、いろんな農作業を一生懸命やってくれるんだね」


 おみかは、敬太が農作業をするのが大好きだから、おみかがやっている農作業の手伝いをしたいのかなと質問しました。敬太は山奥でおじいちゃんとおばあちゃんと暮らしていたときに、田植えや畑仕事などの農作業をいつも行っていたことを明るい笑顔で答えました。これを聞いたおみかは、小さい子供なのに自分の力で農作業を行った敬太を見て、すごく感心しました。


 「早速だけど、ちょうどサトイモを収穫しているところだけど、敬太くんもやってみるかな?」


 おみかが段々畑で行っている農作業は、サトイモの収穫作業です。おみかは、サトイモを収穫するために、てっぺんに大きな葉っぱがある太い茎があるところに木ぐわを使って掘り出しているようです。そうやって掘り出したサトイモは、そのまま竹かごの中に入れています。


 「ぼくは、イモをいつもたくさん食べるのが楽しみなんだ! だから、イモを掘り出すのはぼくにまかせてよ!」


 イモを食べるのが大好きな敬太は、イモを掘り出すのはまかせてと自ら言うと、すぐに自分の両手を使ってサトイモを掘り出そうとしています。


 「この段々畑ではサトイモがいっぱい取れるけど、敬太くんは木ぐわを使わないで掘り出すのかね」

 「ぼくは、山の中でヤマノイモを掘ったときも両手の力だけで深いところまで掘り出したことがあるから、サトイモなら簡単に掘り出すことができるよ!」


 サトイモを掘り出すときには、木ぐわを使って掘り出すのが普通ですが、敬太は木ぐわを使わないでイモを掘り出しているので、おみかは驚いた表情をしています。でも、敬太はかなり深い土の中にあるヤマノイモを掘り出すときも、くわを使わないで自分の両手の力だけで掘り出しているのです。


 「見て見て! サトイモを掘り出したら、こんなにいっぱいイモが出てきたぞ!」

 「敬太くん、本当にすごいね! 道具を使わずに、両手だけでサトイモをいっぱい掘り出したんだね」


 敬太は、大きな葉っぱが付いたままの太い茎を1株ずつ堂々と両手で持ち上げました。その太い茎には、親イモの周りに子イモや孫イモが合わせて30個以上も付いています。


 イモの掘り出しで両腕や両足など体全体が土で汚れているけど、これも敬太が自分の力でイモを土から掘り出した立派な証拠でもあります。これを見たおみかも、敬太が明るい笑顔でサトイモをいっぱい持っている様子に満足しています。


 そこへ、急な坂道を歩いてきた新吉とワンべえも、おみかと敬太がいる段々畑へやってきました。


 「敬太くん、こんなにたくさんのサトイモを1人で掘り出したの?」

 「でへへ、ぼくはこの手でサトイモをこんなにいっぱい取ることができたよ!」


 新吉は、敬太が両手で太い茎に付いている大量のサトイモを持っているのを見てびっくりしました。敬太は、道具を一切使わないで自分の両手でサトイモをいっぱい掘り出したことを元気いっぱいの声で言いました。


 「敬太くんのおかげで、サトイモがいっぱい収穫できたし、これだけあれば晩ご飯に困らないわ」

 「おっかあ、敬太くん…」

 「新吉くん、言わなくても分かるよ。敬太くんは、あたしが何も言わなくても進んでお手伝いしてくれる頼もしい男の子だもん」


 おみかは、敬太が手伝ってくれたおかげで、晩ご飯に使うサトイモをたくさん収穫することができました。そして、進んで畑仕事などの手伝いをする敬太の頼もしい姿を見て、おみかは微笑ましい表情を見せています。


 「もしよろしければ、敬太くんもあたしたちといっしょに暮らしてくれないかな」

 「敬太くんがいっしょに暮らせば、楽しいことがいっぱいあるよ! いっしょに暮らそうよ」

 「みんながそう言ってくれるなら、ぼくもしばらくいっしょに暮らそうかな」


 おみかも新吉も、いっしょに暮らしてほしいと敬太に懇願しました。親子2人の強い思いを受けた敬太は、しばらくの間おみかの家でお世話になることを決めました。


 「敬太くん、これからもよろしくね! ぼくは海のことをよく知っているから、分からないことがあったらぼくに聞いてね」

 「新吉くん、ありがとう! ぼくは、畑仕事や薪割りや水汲みといった家のお手伝いをいつもしているから、おみかさんも新吉くんもお手伝いがあったらぼくに言ってね!」


 敬太は、いっしょに暮らすことになった新吉とお互いに握手を交わしました。新吉は、敬太がいっしょに暮らすと言ってくれたのを聞いてうれしそうな表情を見せています。敬太にとっても、新吉はこの海の村で見つけた初めての友達であり、自分と同じように腹掛け1枚だけ付けている元気な男の子ということもあり、2人の間にはまるで兄弟のような強いつながりを持っているようです。


 「敬太くん、しばらくあたしたちの家で暮らすことだし、あたしに言うときは普通におっかあと言ってくれればいいのよ」

 「おっかあと言ってもいいの?」

 「あたしはこんなに大きな体でいつも心が広いんだから、遠慮せずにおっかあと堂々と言っても大丈夫だよ」


 おみかは、自分のことをおっかあと言ってもいいのよと、敬太にやさしい表情を見せながら言いました。それは、ぽっちゃりとした大きな体で、しっかり者のお母さんであるおみかだからこその敬太への愛情なのです。


 「おっかあ、このサトイモはでっかいのから小さいのまでいろんなのがあるよ」

 「サトイモには、大きさによって親イモと子イモと孫イモと呼ばれているけど、食べるのは子イモと孫イモのところだよ」


 敬太は、両手で持っているたくさんのサトイモを見ながら、大きいのから小さいのまであることをおみかに言いました。すると、おみかは大きさによっていろんな呼び方があることと、食べることができるのは子イモと孫イモであることを敬太に言いました。


 「親イモはねえ、普通食べないものなのよ」

 「えっ、親イモは食べないの? こんなにでっかいのに」


 おみかは同じサトイモでも、親イモは食べないものと言いましたが、敬太はこんなにでっかい親イモを食べたらおいしいのにと感じたようです。


 「親イモを誰も食べないのであれば、ぼくがこの親イモを食べてもいいかな?」

 「こんなにたくさんサトイモを掘ってくれたことだし、敬太くんにはでっかい親イモを晩ご飯に出そうかな」

 「わ~い! おっかあ、ありがとう!」

 「ふふふ、敬太くんは本当にイモを食べるのが大好きなんだね」


 敬太は、誰も食べようとしない親イモを食べてもいいかとおみかに尋ねました。おみかは、敬太が手伝ってくれたおかげでサトイモがいっぱい収穫できたことので、敬太にでっかい親イモを食べさせてあげることにしました。敬太がうれしそうな表情を見せながら大喜びしているのを見て、おみかはイモをいっぱい食べるのが大好きな敬太を見ながら微笑んでいます。


 「敬太くんは、イモを食べるのが本当に好きなのか?」

 「新吉くん、ぼくはサトイモだけでなく、イモだったら何でもいっぱい食べるよ!」

 「大好きなイモをいっぱい食べるので、敬太くんはいつも元気いっぱいなんだね」


 新吉は、敬太に本当にイモが好きなのか尋ねると、敬太はサトイモを含めてイモ類だったら何でもいっぱい食べると笑顔を見せながら言いました。新吉は敬太を見ながら、大好きなイモのおかげで敬太がいつも元気であることを知って、いつもの明るい表情を見せました。


 そして、敬太と新吉はお互いの顔を見ながら笑い始めると、おみかも2人の笑顔を見てやさしい顔つきで見守っています。


 「おっかあ、サトイモが入っている竹かごを背負ってもいいかな?」

 「敬太くん、大丈夫なの? 今日は、敬太君が手伝ってくれたのでサトイモがかなり入っていてとても重いけど」


 敬太は、おみかにサトイモがいっぱい入っている竹かごを背中に背負いたいとお願いしました。その竹かごには、敬太がサトイモ掘りを手伝ったこともあり、かなりの量のサトイモが大きな茎ごとに入っているのでかなり重そうです。


 「おっかあ、サトイモがいっぱい入っているけど、ぼくはこのくらいだったら片手で持ち上げることができるぞ」

 「敬太くん、本当に片手だけで持ち上げたけど、重くないのかな?」

 「ぼくは、これよりもはるかに重い大きな岩を両手で持ち上げたことがあるから、このくらいの重さだったら楽々と持ち上げられるぞ!」


 敬太は、大きな茎が付いたままのサトイモがたくさん入っている竹かごを右手で持つと、そのまま軽々と持ち上げることができました。これを見たおみかは、敬太が右手だけで持ち上げいるのを見て、片手だけで持って重くないのかなと少し驚いている様子です。


 しかし、敬太は旅の途中でサルの群れで暮らしたときに、推定で約40貫(約150kg)もある大きな岩を両腕に力こぶを入れながら持ち上げたことがあります。それを考えると、敬太にとっては、数多くのサトイモがぎっしりと入っている竹かごを片手で楽々と持ち上げるのはたやすいものです。


 「そろそろ段々畑から降りないといけないね。今日の晩ご飯は、サトイモをいっぱい使うとするかな。敬太くんには、サトイモ掘りを手伝ってくれたから、でっかい親イモを食べさせてあげるよ」


 おみかは、太陽が西に傾きかけたのを見て、晩ご飯の準備をするために、高い丘にある段々畑から降りようとします。敬太も、サトイモがたくさん入っている竹かごを背中に背負いました。


 今日の晩ご飯は、収穫したばかりのサトイモをたくさん使うそうです。敬太のおかげで、サトイモが大量に収穫できたので、サトイモの中でも特にでっかい親イモを敬太に食べさせてあげると言いました。


 「わ~い! 大好きなイモがいっぱい食べられるぞ! でっかい親イモを…」


 大好物のイモがたくさん食べるのがうれしくて、敬太が足を飛び跳ねながら大喜びしていたそのときのことです。


 「プウウウッ、ププッ、プウウウウウッ~」

 「あっ、敬太くんったら、でっかいおならがいっぱい出ちゃったね」

 「でへへ、イモをいっぱい食べたから、元気なおならを3連発もしちゃったよ」


 敬太は、足を飛び跳ねるほど喜んでいる途中で、でっかくて元気なおならを3連発してしまったのです。おみかは、敬太にでっかいおならが出ちゃったねと笑顔を見せながら言うと、敬太もイモをいっぱい食べたので、元気なおならを3連発しちゃったことを明るい表情を見せながら言いました。


 「敬太くんは、いつも元気いっぱいの男の子だから、おならが出るときの音も元気いっぱいなんだね」

 「元気な子供だったら、でっかいおならがいっぱい出るのは当たり前のことだよ。新吉くんだって、このサトイモをいっぱい食べれば元気なおならがいっぱい出るよ!」


 新吉は、敬太のでっかいおならの音を聞いて。おならの音も元気いっぱいと敬太に言いました。敬太も、元気な子供はでっかいおならが出るのは当たり前と言うとともに、新吉にもサトイモをいっぱい食べれば元気なおならが出るよと元気な声で言いました。


 「もうっ、敬太くんは元気なおならがいっぱい出るのはいいけど、おならのにおいがくさいのはたまらないワン!」

 「ワンべえ、おならがくさくてごめんごめん」


 ワンべえは、敬太がおならがいっぱい出て元気なところはいいのですが、さすがにおならのにおいはきついようです。敬太も、元気なおならがくさかったので、照れた顔つきでワンべえに謝りました。


 「ふふふ、でっかいおならが出るのは、いつも元気な敬太くんらしいね」

 「ぼくも、敬太くんみたいな元気なおならがいっぱい出るように、サトイモをいっぱい食べるよ!」


 おみかは、敬太がでっかいおならが出るのは、いつも敬太が元気である証拠と微笑みながら言いました。新吉も、敬太みたいな元気なおならが出るように、サトイモをいっぱい食べると元気な声で言いました。


 「新吉くん、今日は獲れたてのサトイモがいっぱい食べられるから楽しみだね」


 敬太たちはワイワイ言いながら、高い丘の段々畑から下りて行きました。獲れたてのサトイモが今日の晩ご飯と言うこともあって、サトイモをいっぱい食べるのが今から楽しみにしているそうです。

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