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《獣人のこども》おねしょ敬太くんの大ぼうけん  作者: ケンタシノリ
第3章 敬太くんと山ごもりの少年
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その9

「おいら、こんなに山の奥の方へ行ってしまったのは初めてだ……。どうしようか……」


 春太郎は、人が隠れることができる大木に身を潜めています。かよに言ってしまった強がりな言葉を思い出しながら、後悔した面持ちで独り言をつぶやきました。


 春太郎がここから逃げようとしても、山道を駆け下りるのには相当な時間がかかります。その途中で、クマやイノシシと出くわす可能性もあります。


「とりあえず、以前山ごもりしていた小屋へ戻ることができればいいけど……。おいらは大きな動物に出会っても恐くない! 恐くない!」


 春太郎は、とりあえず山道を下りる途中にある掘っ立て小屋まで戻ることを決めました。


「早く下りないと、ツキノワグマみたいなのに出くわすかも……」


 春太郎は、大きい動物に出会う恐怖に気を取られて傾斜のきつい山道に足を滑らせてしまいました。


「う、うわああっっ~」


 春太郎は、尻餅をついたままで山道を滑り落ちてしまいました。すると、途中で何やら大きなものにぶつかりました。


「いてて、何で山道の途中でこんな物が……」


 春太郎は、弾力がありそうな巨大な石にぶつかって痛がっています。そして、その巨大な石を直接自分の目で確かめたときのことです。


「おい、わしのことをこんな物と言ったのはおめえか?」

「うわわわわっ、こんなところに獣人が……」


 春太郎の目の前には、自分よりも一回りも二周りも大きい獣人の姿がありました。


「は、早くここから何とかしないと……」


 春太郎は、どうにかしてここから逃げたいところです。しかし、あまりにも恐ろしい獣人の前に腰を抜かして立ち上がることができません。


「うわあああっ!」


 山奥の方からの叫び声を聞いて、敬太は急いで山道を駆け上がって行きました。


「だ、誰か助けて~、助けて~!」

「ふはははは、こんな山奥なんかに助けにくる人なんかいねえよ! わしの姿をおめえに見られた以上は、そのまま生きて帰すわけにはいかないな、ふはははは!」


 獣人は、助けを求める春太郎の胸ぐらを右手でつかむとそのまま持ち上げました。春太郎は恐怖のあまり両足をばたつかせながら泣き始めましたが、そんなことを聞く耳を獣人は一切持っていません。


「おめえがどうわめいたって、誰かに助けを求めたって、おめえの声を聞いてくれる人なんか誰もいねえんだよ!」


 春太郎は、何度も助けてと泣きながら叫び続けています。しかし、獣人は笑みを浮かべながらどうやって春太郎を痛めつけるかを考えています。


「さあ、わしの左手でおめえの首を強く締め上げるとするか! おめえが首を絞められて苦しみながら死んでいく姿を見るのが楽しみだな、ふはははは」

「助けて~! うええええ~ん」


 獣人は、自分の左手で春太郎の首を絞めようとします。春太郎は、首を絞められてとても苦しそうな表情をしています。


「ほれほれ、もっと苦しむがいい。おめえが首を強く絞められて苦痛を感じれば感じるほど、わしにとって一番の楽しみだわい、ふはははは」


 春太郎が苦しそうな表情になっても、獣人は決して首を強く絞めることを緩めることはありません。春太郎が息もできないほどの苦痛を感じても、獣人は不気味な表情で笑い続けています。


 そのとき、獣人は後ろから誰かに右足を強く蹴られるとそのまま背中から地面に倒れこみました。その弾みで、春太郎はそのまま空に舞いました。


 すると、山道の下の方から何者かが駆け上がる足音が聞こえてきました。そして、いきなりジャンプすると、空に舞った春太郎を両手で抱きかかえて地面に着地しました。


「春太郎くん、大丈夫なの?」

「敬太、おいらを本当に助けてくれてありがとう。もう少し首を絞められていたら、おっとうと同じようになっていたかも……」


 敬太に助けられた春太郎は、次第に落ち着きを取り戻しました。


「春太郎くん、ぼくが目の前にいる獣人をやっつけてみせるよ! 危ないから、春太郎くんは近くの大きな木に隠れてね」

「でも、おいらは……」


 敬太は、春太郎に近くの木へ隠れるように言いました。しかし、春太郎は獣人にやられているところを見られたことに少し複雑な気持ちになっています。


「いてて、誰だ! 誰だ! わしの右足を蹴り上げやがったのは!」

「春太郎くん、早く隠れないとまた獣人に捕まってしまうよ!」

「敬太、分かったよ。隠れていればいいんだな」


 獣人は怒りをあらわにしながら、地面から再び起き上がってきました。これを見た春太郎は、敬太の言われた通りに大きな木の後ろへ隠れることにしました。


「あっ、おめえが何でこんなところにいるんだ?」

「どうしてぼくのことを知っているの?」

「あの時のことは今でも覚えておるぜ。おめえがわしの顔に5回もでっかいおならをしやがって」

「ぼくはいつもでっかいイモを食べるから、でっかいおならをすることは元気な子供なら当たり前だぞ」


 獣人は敬太を見た途端、敬太が生まれ育った村の山奥で出会ったときのことを思い出しました。その時の戦いで、敬太のおなら攻撃を食らったことを決して忘れていません。


「まあいいだろう。だがな、さっきみたいなことになりたくなければ、おめえも十分に気をつけることだな」

「まさか、春太郎の首を強く絞めたのは獣人なのか!」

「わしが首を強く絞めたって? たまたま誰かがわしの顔を見られたから、わしがこの手でたっぷりとかわいがっただけだがね、ふはははは」

「獣人め、ぼくの大切な友達にこんなに痛めつけるとは……。ぼくは、こんなことをする獣人を絶対に許さないぞ!」


 獣人は、春太郎の首を強く絞めたことを楽しげに大笑いしながら言いました。これを聞いた敬太は、自分の大切な友達である春太郎を痛めつけた獣人に対する怒りが爆発しました。


「獣人め、こうなったら今からぼくの友達のかたき討ちをするぞ!」


 敬太は、春太郎を痛めつけた獣人に向かって突進しました。そして、そのまま獣人のふんどしを両手でつかみました。


 獣人は不意を突かれたのか、反撃しようにも敬太の素早い動きにはかないません。敬太は腰に力を入れながら、大相撲の力士並みの体重がある獣人を持ち上げました。


「んぐぐぐぐ、えいえーい!」


 敬太は、獣人をそのまま近くの巨木にめがけて投げました。獣人は巨木に強くぶつかると、そのまま地面に倒れこみました。


 これを見た敬太は、すぐに仰向けに倒れこんだ獣人の胴体に両足でまたぎました。


「えいっ、えいっ、えーい!」

「いたた、いたたっ、いたたたたたっ」


 敬太は、自分よりも二回りも大きい獣人を馬乗りの状態から、さらに胸を密着させると縦四方固めにして抑え込みました。


 獣人は、縦四方固めで抑え込まれてかなり痛そうです。どうにかして敬太の縦四方固めを解こうと、獣人は手足をバタバタしています。


「ぼくは、どんなに強い獣人であっても絶対にやっつけてみせるよ!」

「お、おめえは、わしに向かって……、そんなことがよく言えるな……」

「えーい! えいえーい!」

「うぐぐぐぐっ、いたたっ、いたたたたたっ」


 敬太は、両腕と両足を使って獣人の下半身の動きを封じました。さすがの獣人も、お手上げ寸前のところまでやってきました。


「ガツーンンッ!」


 その時、敬太はいきなり後ろ頭を岩のようなもので強く殴られました。敬太は、後ろの地面にそのまま倒れ込むとそのまま気絶してしまいました。

 敬太が気絶したことで、縦四方固めで抑え込まれた獣人は何とか命からがら逃れることができました。


「まったく、獣人のくせにこんなちびっ子に簡単にやられる寸前まで行くとは……」

「すいません、以前戦ったときと比べてもはるかに強くなっておりまして」


 倒れ込んで気絶した敬太のすぐ後ろには、別の獣人の姿がありました。しかも、この獣人は額に何やら紋章みたいなものが見えるようです。


「まあいいだろう。さてと、このちびっ子をどう始末しようかな」

「どう始末するのかって?」

「たとえ小さいちびっ子と言えども、われわれ獣人にかなり痛い目を負わせているからな。それなりのお返しをたっぷりとしないとな、ふはははは!」


 紋章の獣人は、両手を使って気絶した敬太の両足を持ちました。そして、そのまま逆さづりのままで抱きかかえるようにして持ち上げました。


 すると、いままで気絶していた敬太が宙に浮いていることに気づきました。


「獣人め、ぼくを逆さづりにして何をするつもりだ!」

「ふはははは! おめえがわしの手下にこれでもかと地面に抑え込んで痛めつけたらしいな。かわいいのがついている小さいちびっ子のくせに生意気なことをしやがって」


 逆さづりになっている敬太は、腹掛けがめくれておちんちんが丸見えになりました。獣人たちにとって、敬太は自分たちの目に前に立ちふさがる邪魔者と考えています。


「ぼくは、どんなに強い獣人であっても絶対に負けないぞ!」

「ほうほう、われわれの前で自信を持ってそんなことが言えるものだな。だがな、われわれの前ではおまえであっても無力であることを今から思い知らせてやるからな」


 敬太は、どんなことになっても獣人たちには負けないという強い気持ちを持っています。しかし、紋章の獣人は、自分たちの前では無力であることを敬太に思い知らせようとします。


「獣人からどんなことを言われても、ぼくは絶対に獣人を倒してやるぞ! えいっ、えいっ、えーいっ!」

「われわれの前では無力だと何度言ったら……、う、うわっ」


 敬太は逆さづりになったままで、両手の拳で何度も紋章の獣人のお腹を殴り続けました。そして、敬太は強烈な右手の拳を放つと、紋章の獣人のお腹に命中しました。


 紋章の獣人は、よろけながら後ろの地面にドシーンと倒れました。


 敬太は再び立ち上がると、両腕に力こぶを入れて獣人たちをこの手で倒すと言いました。これを聞いた獣人たちは、敬太の息の根を止めてやると言い放ちました。


「ドリャアアア、ドリャアアア」

「イノシシ山がおめえの最期の場所になるとも知らないとはな。おめえほどバカなちびっ子はここがお前の墓場にふさわしいぜ! ふはははは!」


 獣人たち2人は、目の前にいる敬太に拳を使って殴りかかろうとしました。しかし、敬太はすぐに獣人たちよりも高くジャンプして軽々とかわしました。


 これに気づかない獣人たちは、お互いに同士討ちになってしまいました。


「今度はこっちから行くぞ!」


 獣人たちの攻撃をかわした敬太は、同士討ちとなってよろけている獣人たち2人の間へ入りました。


「でやあーっ! 獣人たちめ、ぼくの後ろ回し蹴りを受けてみろ!」


 敬太はそのまま右足を前へ振り上げると、かかとを使って後ろ回し蹴りをしました。その威力は、骨が響くほどの痛みを相手に与えます。


「グエッ、いたたたたたっ! いたたっ!」

「痛い! 痛い! いたたたたたたたっ!」


 敬太の後ろ回し蹴りによる渾身の一撃は、獣人たちのひざ裏に強く命中しました。獣人たちはそのまま地面に倒れ込むと、骨に響く痛みでのたうち回っています。


「えいっ、えいっ」

「いたたたっ!」「いたっ! いたたたたたたたっ!」


 敬太は、獣人たち2人の片足をまとめて膝十字固めをかけ始めました。獣人たちは、顔をゆがめるほどの激しい痛みが片足全体に響いています。


 そんな中にあっても、獣人たちは痛みに耐えながら反撃の機会をうかがっています。


 獣人たちは、膝十字固めをかけられていないもう一方の足で鋭い蹴りを敬太に食らわしました。敬太は、その場で地面に倒れ込むと膝十字固めが緩んでしまいました。


 獣人たちが立ち上がると、紋章の獣人は地面に倒れた敬太を見て不気味な笑い声を上げています。


「ふはははは、よくもわれわれに散々痛い目にあわせてくれたな。おめえには、われわれが受けた以上の痛い目をお返ししないといけないな」


 すると、地面に倒れていた敬太が体を起こし始めました。


「いてて、いてて……。獣人め、よくもやってくれたな! でも、ぼくは絶対に……」

「ウリャアア! ウリャアアアアアッ!」


 敬太は、痛みをこらえながら起き上がろうとします。しかし、紋章の獣人は起き上がろうとする敬太へ飛び蹴りを食らわせました。


「いててててっ……」


 飛び蹴りを食らった敬太は、かなり痛々しい表情で倒れ込みました。しかし、紋章の獣人は決して手を緩めることはありません。


「ウリャアアッ!」

「うぐぐぐぐぐっ……」


 紋章の獣人は、敬太の首を右手でそのまま持ち上げました。敬太は、首を握られてとても苦しそうな表情です。


「ドリャアアアアッ!」


 紋章の獣人は、敬太を目の前にある大きな木の幹にめがけて投げつけました。敬太は大きな木に背中から強くぶつかると、気を失ってぐったりしてしまいました。


「ふはははは、われわれの力を思い知ったか! さてと、おめえにはどんなとどめを刺してやろうかな」


 紋章の獣人は、ぐったりしている敬太を両手でつかんで持ち上げました。それは、自分たちの力が勝っていることを誇らしげに知らしめるためです。


 しかし、気を失っていたはずの敬太が必死に声を上げようとしています。


「獣人め……、ぼくはまだまだあきらめないぞ……」

「おめえ、まだわれわれ獣人に歯向かうつもりか! だったら、おめえにはまだまだ痛めつけないと分からないようだな」


 敬太は、獣人たちに痛めつけられてあざがたくさんできています。それでも、敬太は獣人を倒すことをまだまだあきらめていません。


 獣人たちにとっては、敬太をこれ以上生かしておくわけにはいきません。獣人の手下は、敬太を見ながら鋭い目つきでにらみつけました。


「おめえは、わしに対してこれまで何度も何度も痛めつけてくれたな。わしは、おめえにたっぷりとお仕置きをしなければ気が済まないんだよ!」




「敬太くんも、春太郎くんも無事に帰ってくるのかな」


 おさいは、敬太と春太郎が無事に戻ってくることへの期待と不安が心の中で入り混じっていました。


「まだ時間は早いけど、そろそろ晩ご飯の準備でもしようかな。敬太くんが山の中でヤマノイモをたくさん掘ってくれるおかげで、晩ご飯は本当に大助かりだわ」


 おさいは、晩ご飯の準備をするために台所に入ると、日の当たらない暗い場所にあるヤマノイモを出そうとしました。


「あらあら、ヤマノイモが1本少ないね。どうしたんだろう?」


 そこには、3本あるはずのヤマノイモが2本しかありません。今日の朝におさいが同じ場所を確認したときには、ヤマノイモが3本あったことを覚えています。


「かよちゃん、ヤマノイモが1本少ないけど、どうしたの?」


 おさいは、かよにヤマノイモのことについて聞いてみようと台所から外へ出ました。かよは、庭の物干しのそばで三つ子のお世話をしているからです。


「あれっ、かよちゃんは? 三つ子もいないし」


 おさいは、庭にいるはずのかよと三つ子がどこにも見当たりません。すると、かよの言っていたことをおさいはふと思い出しました。




 「あたしもイノシシ山へ行ってくるわ! あたしのせいで、春太郎が危険な目に遭うかもしれないのよ」




 おさいは、兄弟を守りたいというかよの強い思いがあったのではと感じました。だからといって、おさいとしては子供たちに危険な場所に行かせたくありません。


「やっぱり、敬太くんと春太郎くんを探しにイノシシ山へ行ったのね。兄弟を守りたいのはいいけど、無鉄砲なところがあるから心配だわ。三つ子も、かよの後をついて行ったかもしれないし」


 おさいはすぐに家の外へ出ると、急いでイノシシ山の方へ向かいました。おさいにとっては、子供たちが心配でたまりません。




 紋章の獣人はわしづかみにしている敬太を、目の前の大きな木に自らの手で押さえつけました。


「獣人め、ぼくに何をするつもりだ!」

「おめえは、以前戦ったときにでっかいおならを5発もわしの顔にしてくれたな。おめえには、わしの手でたっぷりとお仕置きをしてやるからな」


 獣人の手下は、敬太にくさいおならを5発も自分の顔にされたことを今でも忘れていません。その時の恨みを晴らすべく、獣人の手下は自分の右手を何回も強く振りました。


「おめえがわしの顔にしたでっかいおなら1発につき、尻叩きは20回しなければいけないな。おならを5発もしてくれたおめえには、今から尻叩きを100回するからな!」


 獣人の手下は、自分の大きな右手で敬太のお尻を強く叩きはじめました。敬太のお尻への叩き方は、とても尋常と言えるような類のものではありません。


「バシンッ! バシンッ! バシンッ!」

「いたたっ……」

「ほれほれ、わしらに歯向かうようなことをするからこうなるんだよ! おめえのかわいいお尻がわしの尻叩きで赤く腫れ上がるのが今から楽しみだな、ふはははは!」


 獣人の手下が敬太のお尻を叩くときの音は、周囲の木々にも響きわたるほどの強い音です。もちろん、獣人の手下が敬太のお尻を叩くのを緩めることは毛頭ありません。


「バシンッ! バシンッ! バシィンッ!」

「ど、どんなに、獣人にお尻を強く叩かれても、ぼくは絶対に負けるものか!」

「おめえはまだそんなことを言うのか! それだったら、もっと強い叩き方でおめえのお尻を叩いてやるからな! パチンッ! パチンッ!」

「ぐぐぐぐっ……」

「パチンッ! パチンッ! パチンッ!」


 敬太はどんなに獣人からお尻を強く叩かれても、決して弱音を吐くようなことはありません。獣人よりも強いところを見せるためにも敬太は、かなり痛い尻叩きにも耐え続けています。


「あれだけお尻を強く叩かれているのに、敬太は必死にガマンしているんだ……。あれだけ叩かれたら痛みに耐えられないのに……」


 獣人の手下が敬太のお尻を叩き続ける音は、近くの大きな木に隠れている春太郎の耳にも聞こえています。春太郎は、どんなに強く叩かれても必死にガマンしている敬太の姿を見ています。


「敬太は、かなり痛そうな尻叩きをされても決して弱音を吐かないんだ。それにひきかえ、おいらは獣人どころか大きな動物でさえすぐに逃げてばかりだし……。このままじゃ、おいらは敬太にもかよにも合わす顔がないよ……」


 春太郎は、お尻を強く叩かれてもガマンする敬太の姿と、獣人どころか大きな動物を見ただけですぐに逃げる自分の姿を照らし合わせました。


「パチンッ! パチンッ! パチンッ!」

「ぐぐぐぐぐっ……。まだまだ、お尻を何回叩かれてもぼくはまだまだ平気だよ!」

「おめえは、わしがお尻を何十回も強く叩き続けても弱音を全く言わないとは……。なぜなんだ?」


 そうしている間も、獣人の手下は敬太のお尻を右手で叩き続けています。


 敬太は、何十回もお尻を叩かれているのでかなり痛いはずです。しかし、獣人の前では痛がる様子をほとんど見せません。


 さすがの獣人たちも、敬太が痛がる様子をほとんど見せないことに少しずつあせりはじめました。


 その様子は、大きな木に隠れながら見ている春太郎にも伝わりました。


「獣人によってお尻を叩かれても、敬太は痛いとも苦しいとも言わずにがんばっているんだ。だったら、おいらだってすぐに逃げないで獣人に立ち向かって行けば……」


 春太郎は、自分の足元に大きな石が何個もあるのを見つけました。その大きな石は、春太郎の手のひらで大きく開いてどうにか持つことができるほどの大きさです。


「よーし、今度はおいらが敬太を助ける番だ!」


 春太郎は、今までのように強がりなことを言いながら、大きな動物を見ただけですぐに逃げるようなことはしません。春太郎の右手には、足元にあった大きな石をわしづかみにしています。


「えーいっ、そりゃあ!」

「グエッ! いたたっ! いたたたっ!」


 春太郎は、獣人の手下をめがけて大きな石を投げました。大きな石は、獣人の手下の頭に見事に命中しました。獣人の手下は、自分の頭に大きな石が命中してかなり痛がっています。


「おいらは、これまでずっと敬太に助けられてばかりだから、今度はおいらが敬太を助けてやるぞ!」


 春太郎は大きな木から姿を現わすと、再び右手に大きな石をわしづかみにしました。そして、今度は紋章の獣人にめがけて大きな石を投げました。すると、敬太を押さえつけた紋章の獣人の左肩に強く当たりました。


「いたたたっ! おめえがわしらに大きな石を投げつけたのは!」


 大きな石が当たった紋章の獣人は、あまりの左肩の強烈な痛みで敬太を放してしまいました。敬太は、これでようやく獣人の手下による尻叩きから解放されました。


 春太郎は、今までのような弱虫でも泣き虫でもありません。敬太を助けるために、紋章の獣人に立ち向かって行きました。


「おいらは、今までみたいにすぐに逃げたりしないぞ! えーいっ!」

「おめえは弱虫のくせに、わざわざわれわれの前へやってくるとはなあ。おめえごときだったら、軽くひねりつぶすなどたやすいことだな!」


 春太郎は紋章の獣人に突進した勢いで、そのまま獣人のふんどしを両手でつかみました。しかし、紋章の獣人は、すかさず春太郎を軽く投げ飛ばしました。


「おめえは、早く死ぬためにわしらのところへ戻ってきたんだな、ふはははは!」


 紋章の獣人は、地面に倒れ込んだ春太郎の着物をわしづかみにしました。そして、自分の顔の手前まで春太郎をそのまま強引に持ち上げました。


「おいらは、もう弱虫なんかじゃないぞ!」


 春太郎は弱虫ではないことを示そうと、今度は紋章の獣人の着物を両手で強く引っぱりました。


「うわっ、おめえにそんな力があるとは……」

「ゴツーンッ!」

「いたたたっ!」「いてててて……」


 紋章の獣人の着物を春太郎が強く引っぱったので、自分の頭が春太郎と強く当たってしまいました。頭が強く当たった春太郎と紋章の獣人は、痛そうな表情でお互いに地面に倒れ込みました。


「春太郎くん、頭を強く打っているけど大丈夫なの?」

「少し頭が痛いけど、おいらはこのくらいだったら気にしないぜ。それよりも、もう1人の獣人が後ろから敬太を狙っているぞ、気をつけろ!」


 敬太は、頭を強く打った春太郎を心配して声を掛けました。そのとき、獣人の手下の不気味な笑い声が聞こえてきたので、敬太はすぐに後ろを振り向きました。


「ふはははは! 邪魔者のせいで、おめえへのお仕置きが中途半端に終わってしまったけど、わしはおめえへの恨みはまだまだ残っているぞ!」

「ぼくは、獣人にひどいお仕置きを受けても、強い相手には絶対に負けないぞ!」

「おめえは、まだわれわれには絶対に負けないと言っているのか! だったら、わしの力がどのようなものか思い知らせてやるぞ!」


 獣人によってお仕置きをたくさん受けても、獣人には絶対に負けないという敬太の強い気持ちに変わりありません。すると、獣人の手下は敬太に不意打ちを食らわせようといきなり突進してきました。


「ウリャアアッ!」

「ぼくだって、獣人を絶対に倒ずぞ! えーいっ!」

「んぐぐぐぐっ、んぐぐぐぐぐっ」

「う、うわっ、うわわっ……」


 敬太は獣人の手下を両腕で必死に食い止めると、そのまま自分の頭上まで持ち上げました。獣人の手下は、あれだけお仕置きをされた敬太が軽々と持ち上げたことにあたふたしています。


「えいっ、えーいっ!」

「わわわっ、こっちへ来るな! 来るな!」


 敬太は獣人の手下をそのまま吊り出すと、紋章の獣人のところへめがけて投げました。それは、まるで巨大な岩が思い切り投げ飛ばすようなものです。


「ドシン! ドッシーン!」


 紋章の獣人は慌てふためきましたが、獣人の手下もろともに地面におしつぶされて倒れ込みました。そのとき、獣人たちは頭を思い切り強く打って気を失ってしまいました。


「やったぞ! 今度こそ獣人たち2人をやっつけたぞ!」

「おおっ、敬太が獣人を2人とも倒したのか! 本当にすごいな」


 敬太は獣人たちが地面に倒れ込んだのを見て、今度こそ獣人たちをやっつけたと確信しました。春太郎も、獣人たちを倒した敬太にすごく感心しています。


「それにしても、敬太のお尻は赤く腫れ上がっているなあ。あれだけ叩かれたらかなり痛いのでは?」

「でへへ、獣人たちに叩かれちゃったお尻は少し痛いけどね。でも、どんなに強く叩かれてもガマンし続けることができたよ!」


 敬太のお尻は、獣人たちの50回以上にも及ぶ尻叩きのお仕置きで赤く腫れ上がっていました。それでも、お仕置きをずっとガマンしたおかげで、敬太は獣人たちを絶対にやっつけるという約束を果たしました。


「敬太くん、ここにいたの?」「敬太くん、大丈夫?」

「春太郎くん、会いたかったよ~」


 そこへやってきたのは、家にいるはずの三つ子です。三つ子は、敬太や春太郎に駆け寄るとすぐに甘えるようにへばりついたまま離れようとしません。


「でも、家にはかよがいるし、三つ子もかよがお世話しているはずじゃ……」

「もうっ、あたしがイノシシ山へ1人で行こうとしたら、三つ子が後ろからついてくるんだから」


 三つ子に続いて、かよもイノシシ山の山道を駆け上がってやってきました。かよは春太郎を探しにイノシシ山へ行こうとしたら、後ろから三つ子がそのままついてきました。。


「かよちゃん、どうしてここへきたの?」

「決まっているでしょ! 敬太くんと春太郎を探しにきたんだから」


 かよがイノシシ山へやってきたのは、敬太と春太郎が獣人に襲われていないか心配だったからです。


「春太郎……」

「かよ、何なんだよ」

「春太郎は、敬太くんを助けるために獣人に逃げないで立ち向かったんだね」


 かよは、春太郎が敬太を助けようと獣人たちに立ち向かった様子を隠れながら見ていました。それを見て、かよは今まで春太郎に弱虫とか泣き虫とか言ってしまったことを強く後悔しました。


「春太郎、弱虫とか泣き虫とか言ってごめんなさい……」 

「おいらも、自分の弱いところを隠すことばかり考えて、勝手に家から出て行くことばかりしてごめんなさい……」


 かよと春太郎は、これまでのことを思い出しながらお互いに謝りました。そして、兄妹同士でおさいを手助けしようと抱きしめ合いました。2人は、感激のあまり思わず泣き出しました。


 そのとき、地面に倒れ込んで気を失っていた獣人たち2人が再び立ち上がりました。


「ちっ、よくもわれわれにこのような屈辱を味合わせやがって」

「でも、ちょうどいいところに獲物が続々とやってきたぞ」

「よーし、こうなったら一度にまとめて始末するか、ふはははは!」


 獣人たちは、狙うべき獲物を一度にまとめて始末できるチャンスであると不気味な笑みを浮かべています。


「敬太、獣人が再び起き上がって狙ってくるぞ!」

「春太郎くんとかよちゃんは三つ子といっしょに安全なところに隠れてね」

「ああ、分かった。敬太も獣人たちには油断するなよ」


 春太郎は、三つ子とともに近くの大きな草が繁ったところに隠れました。しかし、かよだけは敬太のお尻のところをじろじろと見ています。


「敬太くんったら、もしかして獣人たちにお尻を思い切り叩かれたの? お尻が赤くなっているし」

「獣人たちにお尻を何十回も叩かれちゃったけど、ぼくは弱音を吐かないでがんばったよ!」


 かよが見ているのは、獣人に叩かれて赤く腫れ上がっている敬太のお尻です。しかし、敬太はそんなことを気にせずに明るい笑顔を見せています。


「たとえ獣人に捕まっても弱音を全く吐かないのは、いつも元気いっぱいの敬太くんらしいところだね、ポンッ!」

「い、いててっ! いてててててっ!」


 かよは笑顔を見せながら、敬太のお尻をポンッと軽く押しました。すると、敬太はあまりの強烈な痛みで高く飛び上りました。


 そのとき、かよの目の前に獣人の手下の影が迫ってきました。獣人の手下は、大きい右手の拳でかよに殴りかかろうとしています。


「あっ、かよちゃん、危ない!」

「ウリャアアッ!」

「んぐぐぐぐぐ、んぐぐぐぐっ」


 敬太はかよの前へ出てくると、獣人の強烈な拳を食い止めました。獣人の手下は、目の前に立ち塞がる敬太が邪魔でたまりません。


「おめえ、わしらの獲物を始末するのを邪魔するつもりか!」

「獣人め、ぼくの友達を獲物呼ばわりするやつは絶対に許さないぞ! えいっ! えいっ! えーい!」


 敬太は左足で踏み込むと、獣人の手下に向かって軽く飛び上がりました。そして、獣人の手下へ3回続けて右足の強い蹴りを入れ続けました。


「ぐえっ! ぐえっ!」

「獣人め、今度こそ参った……」


 獣人の手下は地面に倒れ込むと、あまりの激しい痛みで七転八倒しています。さすがの獣人たちも、これで観念したものと敬太は思いました。しかし、そう思ったのもつかの間のことです。


「われわれが参ったという言葉は使わねえんだよ! オリャアアッ!」

「ゴッツン! いたたたたっ……」


 紋章の獣人は、敬太の後ろから自らの拳で思い切り殴りつけました。敬太は、獣人から頭を強く殴られて地面に顔から倒れ込みました。


「おい、おめえこそ降参しましたとさえ言えば、われわれは殴ったりも蹴ったりも一切しないんだけどなあ、ふはははは!」

「獣人め、ぼくはあくまで降参なんかしないぞ! この手で獣人たちを倒して……」


 紋章の獣人は、敬太の体を右腕で持ち上げています。獣人たちは、敬太に降参するのかしないのかを強く迫りました。しかし、敬太はここで降参する気は全くありません。


 この様子を見た獣人たちは、再び敬太に対する尻叩きのお仕置きを再開しました。


「パチンッ! パチンッ! パチンッ!」

「ふはははは! そんなにわれわれに歯向かうのなら、おめえへの尻叩きのお仕置きを再びするからな、ふはははは!」

「ぐぐっ、ぐぐぐぐぐっ…。ぼくは、そんなので降参するものか!」


 獣人の手下は、今までよりも激しい尻叩きを行っています。あれだけ尻叩きが行われば、敬太と言えども苦しみもだえて気絶するはずと考えています。 


「ビシャン! ビシャン! ビシャン!」

「ぐぐぐぐっ……。絶対に弱音は吐かないぞ! そして、獣人たちを絶対にやっつけるんだ!」


 獣人の手下は、敬太への尻叩きを緩めることなく何回も繰り返しています。しかし、敬太はどんなにお仕置きされても弱音を吐くことは一切ありません。


 その様子見ていたかよは、着物の中から何かを大事そうに出しました。着物から出したのは、敬太の大好物であるヤマノイモです。


「バシンッ! ビシャンッ! バシンッ! ビシャンッ!」

「ほれほれ、降参しますから許してくださいと言えばいいものを……。ふはははは!」

「うぐぐぐぐっ……。獣人たちの前では降参なんかするものか!」


 その間も、獣人の手下は尻叩きを続けながら、敬太に再三にわたって降参を迫りました。それでも、敬太はあくまで降参という言葉を一切口に出しません。


 そのとき、敬太のお尻が急にムズムズすると、獣人たちの前で思わずあの音が出てしまいました。


「バシンッ! バシンッ! ビシャンッ!」

「うぐぐぐぐっ……。プッ、プウウウウッ~」

「うわっ、おめえは尻叩きのお仕置きの途中で、わしの顔に思い切りでっかいおならをしやがって……。本当にくさいぞ……」


 敬太は、獣人の手下の顔面にでっかいおならを2回続けて出てしまいました。おならが顔面に命中した獣人の手下は、鼻をつまむほどのにおいで気を失いました。


 そして、おならが周りに充満すると同時に、紋章の獣人は敬太を持ち上げていた右腕が思わず緩みました。


「おめえ、わしの手下にくさいおならをしてくれたな……。本当にくさいぞ……」

「でへへ、ぼくはいつもイモをいっぱい食べるから、元気なおならがいっぱい出ちゃうんだ」


 敬太はすぐに地面の上に着地すると、イモをいっぱい食べて元気なおならが出ちゃうことを獣人たちの前で言いました。


「元気なおならで獣人をやっつけるのは、元気いっぱいの敬太くんらしいところだね」


 かよは、いつもの元気な敬太らしさが戻ったことにうれしそうな表情を見せました。そして、かよはヤマノイモを持ってきたことを敬太に伝えました。


「敬太くん、大好きなヤマノイモを持ってきたよ!」

「かよちゃん、獣人がまた襲ってくるかもしれないから、急いで投げて!」

「敬太くん、ヤマノイモを投げたから、ちゃんと手で受け取ってね」

「かよちゃん、ありがとう! イモはちゃんと受け取ったよ!」


 かよは急いでヤマノイモを投げると、敬太は両手を使ってヤマノイモを受け取りました。そして、両手で受け取ったヤマノイモを2つ折りにすると、そのまま大きな口の中にほおばりました。


 敬太は、大好きなヤマノイモを自分の歯でかじりながらおいしそうに食べ続けています。すると、地面に横たわっていたはずの獣人たちが再び起き上がってきました。


「おめえ、尻叩きのお仕置きの途中ででっかくてくさいおならをしやがって!」

「元気な子供だったら、おならもでっかくて元気いっぱいなのが当たり前だぞ!」


 獣人の手下は、目の前でおならをした敬太を見るたびに怒りがにじみ出ています。しかし、敬太は獣人たちにでっかいおならをしても平然としています。


 でっかいおならをするのは、敬太が元気な子供であるシンボルだからです。 


「ふざけやがって! おめえのでっかいおならなんか、こっちにとっては大きな迷惑なんだよ! ドリャアアア!」

「これでもくらって死んでしまえ! ウリャアア!」


 獣人たちは敬太を挟み撃ちにしようと、木の幹を踏み台にして左右それぞれからジャンプしました。そして、獣人たちは敬太の頭を狙って右足で強烈な蹴りを加えようとします。


 敬太は獣人たちの動きを見ると、すぐさま左足を使って真上にジャンプしました。そのとき、敬太の額が何やら光り始めました。


 「えっ? ぼくの顔から何か光ってるけど、どうしてかな?」


 敬太は、自分の額がどうして光っているのか戸惑っています。そのとき、獣人たちが敬太への飛び蹴り攻撃を左右から食らわそうとしています。


 これを見た敬太は、獣人たちへの反撃を開始しました。


「えいえーいっ! えいえーいっ! とりゃあっ! とりゃあっ!」


 敬太は右手から強い拳を繰り出すと、紋章の獣人から飛び蹴りしてきた右足に命中しました。そして、敬太は振り向きざまに、飛び蹴りしてきた獣人の手下にも左足で強烈な蹴りを食らわしました。


「いたたっ! いたたっ! いたたたたたっ!」

「いたたたたたたたっ!」

「な、何なんだ……。わしらの右足の強烈な蹴りも簡単にはねかえす力があるとは……」


 獣人たちは、敬太の力が今まで以上に凄まじい力を持っていることが信じられません。しかし、それ以上に獣人たちが驚いたのは、敬太の額を見たときでした。


「まさか、おめえの額に紋章があるとは……」


 紋章の獣人は、敬太の額に紋章があることに驚きを隠せません。

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