その12
獣岩城を少し進んだ敬太たちの前には、上のほうへ行くための階段があります。その階段は傾斜があまりにもきつくて、足を踏み外すと下まで転げ落ちてしまいます。
「ワンべえくん、行くぞ!」
「獣人の動きに気をつけてワン」
敬太とワンべえは、意を決してその階段を1歩ずつ上がっていきます。けれども、それを阻止しようと獣人が2階の入口で待ち構えています。
「ふはははは! そう簡単に先には行かせねえぜ!」
「こんなところで立ち塞ごうとも、絶対におっとうとおっかあに会いに行くぞ!」
目の前にいる獣人は、外見だけで見ればどこにでもいそうな獣人にしか見えません。それを見越してか、敬太は階段の途中から飛び上がって蹴り上げようとします。
すると、獣人は右手から緑色の液体らしきものを敬太に向かって投げつけてきました。いきなりの攻撃に辛うじてかわした敬太ですが。獣人はそれにつけ込もうと同じ攻撃を繰り出してきます。
敬太は急傾斜の階段に着地しようとしましたが、獣人が放つ液体をかわそうとして足を踏み外してしましました。
「わっ、わわわわわわっ!」
「敬太くん! 大丈夫かワン?」
「これくらいのことで逃げてたまるか!」
階段の手前まで転げ落ちた敬太ですが、強い相手であればあるほど負けるわけにはいきません。敬太は、獣人がどんな攻撃をしてくるか確かめようと再び急な階段を上っていきます。
「ふはははは! バカなやつだなあ、おれが放つ液体がどんなものか教えてやろうか!」
獣人は、真正面から飛びかかる敬太に再び緑色の液体を投げつけました。敬太はそれをかわすと、狭い階段から飛び出すように強烈な頭突きを相手に食らわせようとします。
「獣人め! とりゃあっ!」
「いきなり何を……。うわっ、わわわわわっ!」
敬太の頭突き攻撃に、獣人は不意を突かれて後ろのほうへ倒れ込みました。相手の体の上へ飛び乗った敬太は、仰向けになった獣人に攻撃を加えようとします。
「えいっ! えいっ! えいっ!」
「うげっ! うげげげげっ……」
獣人の上でピョンピョン飛び跳ねる敬太ですが、ここにもう1人の敵がいることにまだ気づいていません。
「まだまだ行くぞ……。うわっ! わわわわっ!」
「ふははははは! 敬太よ、残念だったな!」
「獣人め、いったい何をするつもりだ!」
「決まっているだろ、おめえをこの場で地獄へ送るために始末するところさ」
敬太は、もう1人の獣人が放った巨大なクモの巣のようなものに貼りつけられた動くことができません。何とかしてここから脱出しようとしますが、クモの糸はあまりにも強力で引きちぎることができない状態です。
歯を食いしばって怒りをにじませる敬太の前には、獣人たち2人が不気味な表情で笑みを浮かべています。
この様子に、ワンべえがあわてながら獣人たちのそばへ駆け寄りました。ワンべえは、2人の敵に大声で叫ぶようにほえています。
「敬太くんを早く放せワン! 早く放せワン!」
「このチビ犬め! 邪魔しやがって!」
そばでほえ叫ぶワンべえに頭にきた獣人は、怒りをぶつけるかのように右足で蹴り飛ばしました。そして、床に倒れたワンべえを足で強く踏みつけています。
獣人たちにとって、ワンべえは敬太と同じように邪魔者以外の何ものでもありません。これを見た敬太は、獣人たちへの強い怒りをにじませています。
「よくも、ぼくの友達を……」
ずっと行動をともにしてきたワンべえは、敬太にとって誰よりも大切な友達です。そのワンべえを物のように平然と蹴りつける獣人の姿に、敬太の怒りは頂点に達しています。
それでも、獣人たち2人は相変わらず冷酷な顔つきでこう言い放ちました。
「身動きできないとなれば、おれたち獣人の思いのままだぜ!」
「これでも食らって地獄へ行きやがれ!」
身動きが取れない敬太に向かって、獣人の1人は緑色の液体を右手から投げつけようとします。獣人たちにとって、敬太の死にざまをこの目で見るのが今から楽しみでたまりません。
そんな敵の不気味な笑い声が響く中、敬太はどうにかして脱出しようと怒りを全身に込めていきます。
「うぐぐぐぐぐぐっ! うぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐっ! ええ~いっ!」
敬太は、両手両足にからまった強力なクモの糸を一気に引きちぎることができました。獣人が放った緑色の液体をかわすと、敬太はそこから一気に反撃しようと飛びかかっていきます。
「獣人め! よくもワンべえにひどいことをしやがって!」
「い、いきなり何を……」
「え~い! とりゃあっ! とりゃあっ! とりゃあっ!」
敬太は、ワンべえを踏みつける獣人へ両手で握りしめた拳で次々と食らわせます。敬太の拳が何発も命中した獣人は、殴られたはずみで後方へ叩きつけられました。
「ワンべえくん、痛い思いをさせてごめんね」
「助けてくれて本当にありがとうワン!」
獣人に踏まれて痛々しい表情だったワンべえでしたが、やさしく抱き上げた敬太の笑顔を見てすぐに元気を取り戻しました。けれども、敬太のすぐ後ろにはもう1人の獣人が手を伸ばして攻撃を仕掛けようとしています。
「敬太くん、危ないワン!」
ワンべえの掛け声に反応した敬太は、振り向きざまに相手の体をつかみました。敬太は自分の右足首を獣人の左足首を掛けると、自ら倒れ込みながらも相手を仰向けの状態で叩きつけました。
「このチビめ!」
「どんなに獣人がしぶとくても、この手で絶対にやっつけてやるからな!」
2人で組む獣人たちはどちらか一方が不利に立たされても、もう一方が敬太へあらゆる攻撃を行うことができます。そんな獣人の攻撃ですが、敬太は小さな体での軽い身のこなしでかわしていきます。
そこから、敬太は獣人へ拳や蹴りを次々と繰り出して命中させています。
「え~いっ! えいえいえいっ!」
「んぐぐぐぐっ……。これくらいの攻撃ぐらいで……」
「同じ技ばかり繰り出すぼくじゃないぞ! ぐぐぐぐぐっ! とりゃああっ!」
敬太は、すぐさま獣人の体を両手で強くつかみました。そして、敬太は後ろでんぐり返しをしながら、獣人を後方へ力いっぱいに放り投げました。
「うわあああああっ……」
「うわっ! こっちにくるな! わわわわわわっ……」
敬太に投げられた獣人は、仰向け状態から起き上がろうとしたもう1人の獣人とぶつかりました。この様子に、敬太は同士討ちとなって折り重なった2人の獣人の上に向かって飛び上がりました。
「獣人め! これでどうだ!」
「グエエエッ! いてえええええっ……」
「押しつぶされそう……」
敬太は、真上からの急降下による攻撃で獣人たちを押しつぶしていきます。何度も繰り返す尻餅による押しつぶし攻撃に、2人の獣人は声を出すこともできません。
さらなる攻撃を加えようと、敬太はお尻に力を入れて元気いっぱいの音を放とうと試みます。
「えいっ! えいっ! プウッ! プウッ! プウウウウウウウ~ッ!」
「うっ! くさっ……」
「思い切りくさいおならを……。ゲホゲホッ……」
敬太は、獣人たちへの攻撃にでっかいおならの3連発を食らわせました。周りに広がるくさいにおいに、獣人たちはその場で倒れたまま立ち上がることができません。
「これでとどめだ!」
「わわわっ! や、やめろ……」
「え~いっ! とりゃあ!」
敬太は、床に横たわる獣人たちを1人ずつ持ち上げては思い切り投げつけました。その勢いは、格子窓から外へ突き破るほどの威力です。
「敬太くん、早く上のほうへ上がろうワン」
獣人の姿が見えなくなったことを確認した敬太は、ワンべえに促されるように次の階へ上がることにしました。