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《獣人のこども》おねしょ敬太くんの大ぼうけん  作者: ケンタシノリ
第2章 敬太くんとサルの群れたち
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その3

 今日も、大きな広場でサルの群れがいつものように暮らしています。


 そんな中にあって、一部の大人ザルが地面を見渡すと、何やら気になる様子でそわそわしています。その地面には、サルの足跡や敬太の足跡とは明らかに違う足跡がありました。


 その様子は、サル左衛門にも伝わってきました。すると、目の前にある山の中の木々から歩いている動物の影を目撃しました。その動物の影は、犬のように4本足で歩いています。


「おい、何やら恐ろしい感じの影が見えてきたぞ」

「おれの目で見た限りでは、3匹ぐらいいるかな。お前ら、何としてもサル左衛門さまを守るんだぞ」


 動物の影は、少しずつその正体が明らかになりました。山の中の木々から現れたのは、かなりどう猛な3匹のオオカミです。


 オオカミは、鋭い牙をむき出しにして口を開けています。その視線の先にあるのは、自分たちのエサとして狙っているサルたちです。


 オオカミ3匹の中央にいるの頭領格で、他の2匹よりも一回り大きい体格です。オオカミたちは、少しずつサルの群れのほうへやってきました。


「オオカミが現れたぞ! 早く逃げろ」

「サル左衛門さまとおれたちがオオカミをひきつけるから、敬太は子ザルとメスザルを他のところに逃がすようにしてくれ!」


 敬太は、すぐに子ザルやメスザルを比較的安全なほら穴のところまで逃がすことにしました。


 しかし、子ザルたちはオオカミが恐くてなかなか一歩が踏み出せません。メスザルはお腹の中に赤ちゃんがいるので、自力で歩くことが困難です。


 そのため、敬太はメスザルを左手でつなぎながら歩くことになりました。


 敬太たちの目の前には、昨日の夜に敬太と子ザルたちが寝ていたほら穴が少しずつ見えてきました。そのとき、敬太は後ろから殺気のようなものを感じました。


 敬太がすぐに後ろを振り向くと、オオカミが牙をむき出しにして敬太たちを襲ってきました。


 敬太はオオカミの口を右手で塞ぐと、そのまま右腕の力だけを使って投げ飛ばしました。しかし、オオカミは再び立ち上がりました。


「おい、おめえはおれたちのエサをじゃまするつもりか! おめえの名前は何だ?」

「ぼくの名前は敬太。いつも元気いっぱいで力持ちの7歳児の男の子だよ」

「ほうほう、人間の小さい子供ならサルよりもおいしそうにいただけるな。きょうのエサはサルに加えて、お前もエサにしようかな。見るからにおいしそうな体つきだし」


 オオカミからの挑発に対しても、敬太は堂々と仁王立ちしています。そして、敬太はオオカミの前で右腕を曲げて力こぶを入れました。


「敬太くん、メスザルはぼくたちがほら穴まで連れて行くよ」

「メスザルさんの大きなお腹の中に赤ちゃんがいるけど、子ザルたちだけで大丈夫かな?」

「敬太くん、大丈夫だよ。ぼくたち全員が力を合わせてメスザルをほら穴に連れて行くよ。今度は、ぼくたちが敬太くんに恩返しするからね」


 子ザルたちは、メスザルを子ザルたち全員でほら穴まで連れて行くことになりました。敬太がオオカミと戦っているのを見て、自分たちもオオカミを恐がらずにメスザルをほら穴に連れて行きました。


「チッ、おめえのせいでせっかくのエサを逃がしやがって」

「どんなことを言っても、ぼくはオオカミのエサにはならないぞ!」


 オオカミは速いスピードで敬太に襲い掛かってきました。かけっこが大好きな敬太といえども、これだけの速さと瞬発力を兼ね備えた動物は見たことがありません。


 牙をむき出しにしたオオカミに対して、敬太はかわすのが精一杯です。敬太は、オオカミからの攻撃をかわしながら大きい広場に戻ろうとしますが、その目の前には別のオオカミも待ち構えています。


 オオカミは牙むきだしの状態で、今にも敬太の体に噛み付こうと構えています。しかし、オオカミがいても敬太は全く恐がっていないし、堂々とした表情を見せています。


「おめえ、おれたちを全く怖くないのか! だがな、おめえがどんなに堂々と立ち構えてもおれたちの前には通用しないことを思い知らせてやるからな!」

「ぼくは、どんなに強いのがやってきても絶対に負けないよ!」


 オオカミたちから通用しないと言われても、敬太はどんなに強いものであっても絶対負けないと言いました。


「ドリャアアッ!」


 オオカミたちは、敬太を挟み撃ちにするように飛びつきながら噛み付こうとします。しかし、敬太はその動きを見ると、素早くしゃがむようにかわしました。


 オオカミたちは敬太がしゃがんだのを知らないまま、お互い同士討ちになってしまいました。


 同士討ちになって地面に倒れたオオカミ2匹を見て、敬太は素早くオオカミのうち1匹の首を裸絞めにしました。オオカミの首に右腕を回してから、左腕で後頭部を押して絞めています。


「グエッ、グエッ、グエエエッ」

「オオカミめ、どうだ、参ったか!」

「グエエッ、ま、参ったから許してくれ…。もう二度と襲うことはしません…」


 敬太によって裸絞めにされたオオカミは、息ができなくて苦しいので参ったと言うしかありません。こうして、オオカミのうちの1匹はすごすごと山の中へ消えていきました。


 しかし、地面に倒れたオオカミはもう1匹います。そのオオカミが気がつくと、敬太の背後から牙を出して再び飛び掛ろうとします。


「敬太! 後ろにオオカミが飛びかかろうとしているぞ!」


 サル左衛門からの声を聞いた敬太は、後ろを振り向くと右足を使って回し蹴りをしました。敬太に左頬を思い切り蹴られたオオカミは、そのまま地面に叩きつけられました。


 敬太は、オオカミの首に裸絞めをしようとしました。すると、オオカミは敬太の元から素早く逃げるように去っていきました。


 敬太は、サル左衛門や大人ザルたちがいる大きな広場へ行きました。すると、大人ザルのうち3匹が、ひっかき傷を受けて倒れていました。その傷は、オオカミの頭領からサル左衛門を守るときに受けた傷です。


「イテテ、イテテテテ」

「ちょっと待って、薬になる草を探してくるから」


 敬太は近くにあるいろいろな草の中から、傷薬になるオトギリソウを見つけました。オトギリソウの葉っぱを揉むと、すぐに大人ザルに葉っぱからにじみ出た薄緑色の液体を塗りました。


 幸いにも、3匹とも引っかき傷を受けたときの痛みが徐々に和らぎました。


「敬太、オオカミの頭領はまだ近くにいるぞ! 油断するなよ!」

「サル左衛門さま、オオカミの頭領はぼくがやっつけてやるから、大人ザルを他のところへ逃げてくださいね」


 サル左衛門は敬太が言ったことを聞くと、すぐに大人ザルも含めてほら穴のところへ逃げていきました。


「よ~し、オオカミの頭領め、どこにいるんだ!」


 敬太はオオカミの頭領を探していますが、どこにも見当たりません。恐れをなして逃げたのかもしれないと思い、敬太は飛び跳ねながらオオカミの頭領を挑発しました。


「や~い、オオカミさんよ~、ここまでおいで!」


 すると、木々の奥から速いスピードでオオカミの頭領がやってきました。オオカミの頭領は嗅覚も聴覚も優れていることもあって、敬太の言った言葉もすぐ分かったようです。


「おめえか、おれの子分2匹も倒したと言うのは!」

「そうだよ! ぼくはオオカミ2匹を裸絞めと回し蹴りでやっつけたぞ!」

「ぐぬぬぬっ、おれの子分をかわいがってくれたな! だがな、おれに同じような攻撃をしても通用しないことを思い知らせてやるからな!」


 オオカミの頭領は、いきなり敬太に向かって飛び掛ってきました。敬太はオオカミの頭領の攻撃をすかさずかわすと、すぐさま後ろに回ってオオカミの胴体を持ちました。


 敬太は真後ろに捨て身になりながらオオカミを前に崩すと、敬太の片足をオオカミの足に当てました。そして、敬太は一瞬の隙を見つけると、そのままオオカミを頭越しに投げました。


 敬太は、続けざまにオオカミの頭領の首に回して裸絞めにしようとします。しかし、その途中でオオカミの両足から強烈な蹴りが敬太の両足に命中しました。


 オオカミの強烈な蹴りによって、敬太は大きな巨木まで蹴り飛ばされました。敬太は、その巨木にぶつかるとそのまま倒れ込みました。


 オオカミの頭領は、鋭い牙をむき出しにして敬太のところへ少しずつ接近してきました。これを見た敬太は、すぐに立ち上ってオオカミの頭領の口を両手で塞ぎました。


「グエグエッ、ググエエエエッ」

「どうだ、オオカミの頭領め! ぼくは相手がオオカミであっても恐くないぞ」


 敬太は、オオカミが相手であっても決して恐がることはありません。オオカミの口を塞ぐのをやめると、敬太はすかさずオオカミの頭領の胴体を軽々と持って吊り上げました。


 そして、敬太は「えーい!」と言いながらオオカミの内股を跳ね上げました。オオカミの頭領は、そのまま投げ飛ばされて地面に倒れこみました。


「よーし、オオカミの頭領をやっつけたぞ!」


 敬太は、地面に倒れこんだオオカミの頭領のところに行きました。しかし、あれだけのダメージを受けたオオカミの頭領はしぶとく起き上がりました。その表情は、敬太に向けて今までにないような鋭い目つきでにらみつけています。


 オオカミの頭領は、いきなり速いスピードで敬太の腹部に強く頭突きをしました。頭突きを食らった敬太は、先ほどの大きな巨木まで叩きつけられました。


 オオカミの頭領は、牙を見せながらうまそうに舌をペロリとしています。目の前にいる敬太を見ながら、今日の最高のごちそうとして待ち遠しい様子です。


「こ、こんなところでオオカミのエサになってたまるか!」

「ふははは、そんなことを言っても遅いんだよ。もうすぐ、おめえはおれがおいしくいただいて、おれのお腹を満足させることになるからな」


 オオカミの頭領は、敬太の顔を舌でペロリとなめています。しかし、敬太はこんなことであきらめる男の子ではありません。敬太は、自分の両足を使ってオオカミのお腹を強く蹴り上げました。


 強い蹴りを受けて地面に倒れたオオカミを見て、敬太は巨木を登り始めました。ところが、少し高いところに太い枝があるところに手が届いたそのときのことです。


「ギュルギュルルルル、ゴロゴロッ、ギュルギュル、ゴロゴロゴロッ……」


 敬太が少し苦しい顔つきになると、お腹が少し痛くなり始めました。そして、同時にお尻がムズムズするようになりました。


「う、うんちが出そう、出そう…」


 敬太は、左右双方にある太い枝に両手をつかむことができました。しかし、その間にも敬太は必死にうんちが出るのをガマンしているので、なかなかそれより上へ登ることができません。


 そのとき、オオカミの頭領は再び起き上がると大きな巨木に向かって突進しました。オオカミの頭領は、巨木の幹に体をぶつけながら巨木を揺らし始めました。


 そんな状況にあっても、敬太は巨木から落ちないようにがんばっています。しかし、敵に背中を向けているので、オオカミの頭領からいつ攻撃されてもおかしくありません。


「おれのところに背中向いているんなら、いつでも攻撃できるってもんだぜ! ふはははは」


 オオカミの頭領は敬太がいる位置を確かめると、何とかしてして巨木に登ろうとしています。敬太の背中とお尻が直接見えるので、オオカミは隙あらばいつでも攻撃することができます。


「ギュルルルルルル、ギュルゴロゴロゴロッ、ゴロゴロゴロゴロゴロッ」

「うううっ、もう、がまんできない……」


 敬太は、今にも出そうなうんちをガマンし続けています。すると、オオカミが何とかして敬太のところまで近づこうと垂直にジャンプしたときのことです。


「プウウウウウッ!、ププウッ!」

「うっ、おれの顔にでっかいおならを2回もしやがって……」


 敬太は、ガマンしていたでっかいおならをオオカミの顔面めがけて2回もしました。オオカミの頭領は、敬太のおならのにおいにがまんできなくなって地面の上に倒れこみました。


 これを見た敬太は、後方に宙返りして地面に降りました。そして、すぐさま地面の上に倒れていたオオカミの頭領を裸絞めにすると、さすがのオオカミの頭領も息ができなくて苦しみ始めました。


「グエエエッ、グエグエッ、グエグエエエエッ」

「どうだ、オオカミの頭領め、もう二度とサルたちを襲わないと約束するか!」

「も、もう二度と襲うようなことはしません……。許してください……」


 敬太は、オオカミの頭領が心から反省しているのを見て裸絞めをやめました。


「そんなに反省しているのなら許してあげるよ。その代わり、二度とこんなことをするんじゃないよ」

「敬太、許してくれてありがとう。いつになるか分からないけど、もし敬太に何かあったら恩返しするよ」


 オオカミの頭領は、敬太がこんな自分を許してくれたことに感激しました。そして、再び会ったときには恩返しをすることを約束して、山の中の木々の中へ消えてゆきました。


 敬太は、サルの群れを襲ってきたオオカミ3匹をやっつけて一安心しました。しかし、敬太はうんちがガマンができなくなってしまったので、すぐさまその場でしゃがみ込みました。


「うううんっ、うんっ、うううう~んっ」


 敬太は、お腹とお尻に力をいれながら、いきみ声を上げ続けました。しばらくすると、敬太はすっきりした表情になり、いつものように元気いっぱいの笑顔に変わりました。


 そのとき、遠くのほうからサル左衛門や子ザルたちの声が聞こえてきました。


「お~い、敬太、大丈夫だったか?」

「敬太くん、大丈夫?」


 敬太がオオカミの頭領をやっつけたかどうかが心配になって、サル左衛門や子ザルたちが敬太のところまでやってきました。


「サル左衛門さま、オオカミの頭領をやっつけることができたよ」

「敬太、よくぞオオカミ3匹をやっつけることができたなあ。それも単にやっつけるだけでなくて、最後は相手が反省しているのを見て許してあげたんだね。何でもかんでも相手を殺すだけでは、後々大きな災いをもたらすだけだからのう」


 サル左衛門は、敬太のオオカミの頭領への戦いぶりと心のやさしさに感心しました。


 そのとき、子ザルたちが敬太の足元近くに何やらでっかいのがあるのが見えました。


「敬太くん、もしかして、うんちいっぱい出ちゃったの?」

「でへへ、昨日の夜のブナの若芽と若葉をいっぱい食べすぎちゃったの。それで、こんなに元気いっぱいのうんちが出ちゃったよ」


 敬太はブナの若芽と若葉を食べ過ぎたのか、でっかくて元気なうんちが出ました。敬太のうんちは、元気いっぱいな子供のシンボルです。


「サル左衛門さま、ぼくはいつも好き嫌いしないで何でも食べているよ! そして、必ず元気なうんちが出るようにがんばっているよ」

「ははは、敬太は昨日の夜にブナの若芽と若葉をいっぱい食べたからのう。敬太のうんちは、わしらサルたちのうんちと比べても、でっかくて長い黄色いうんちだなあ。敬太はいつも好き嫌いせずに何でも食べるから、いつも元気なうんちがいっぱい出るのじゃ」

「敬太くん、ぼくたちも何でも食べて、敬太くんみたいな元気いっぱいのうんちが出るようにがんばるよ!」


 敬太はでっかいうんちがいっぱい出たので、サル左衛門から褒められました。子ザルたちも敬太のうんちを見て、何でも食べて元気なうんちが出るようにがんばると言いました。


「おおっ、そうだ! わしが敬太を呼びに行ったのは他にもあるんじゃ。メスザルがもうすぐ赤ちゃんを産むかもしれないんじゃ」

「えっ、新しい赤ちゃんが生まれるの!」


 赤ちゃんが生まれることを聞いた敬太は、サル左衛門や子ザルたちといっしょに大きな広場まで戻って行きました。


 大きな広場へ戻った敬太ですが、お腹の中に赤ちゃんがいるメスザルは寝たり起きたりを繰り返してしています。その動きは、痛みがあるのか背中をそらしたりすることが多くなってきました。


「敬太、背中をそらしたりするのはもうすぐ赤ちゃんが生まれる合図だぞ。そして、腰を丸めた状態になっっていきみ声をあげてからしばらくすると、元気な赤ちゃんが生まれるということじゃ」

「サル左衛門さま、メスザルさんが赤ちゃんを産むのはとても大変なんだね」

「そう言うことじゃ。だから、赤ちゃんが生まれたときはとてもうれしいものじゃ」


 サル左衛門は、メスザルがまもなく出産する様子を敬太に見せています。


「サル左衛門さま、ぼくもメスザルさんが元気な赤ちゃんが生まれるように力を貸したい! いいでしょ」

「う~ん、敬太なら人間でありながら、昨日からわしらサルたちといっしょに過ごしているからなあ。そんなに言うなら、メスザルのところへ行って、出産のための手伝いに行ってくださいな」


 敬太は、メスザルが赤ちゃんを出産する手伝いをしたいと言いました。これを聞いたサル左衛門も、敬太が出産の手伝いをすることを許しました。


 メスザルは大きい広場にあるでかい岩のところにいました。そこで、メスザルはうろうろしながら動き回っています。


「メスザルさん、もうすぐ生まれそうなの?」

「敬太、もうすぐ赤ちゃんが生まれそうなの……」


 メスザルは敬太と目を合わせたとたんに、急に腰を丸めるとすぐに陣痛が始まりました。


「メスザルさん、ぼくの手を握って、元気な赤ちゃんが生まれるようにがんばろう!」

「敬太、どうもありがとう……。うううう~んっ、ううううう~んっ」

 敬太はあぐらを組んで座ると、メスザルが敬太の手を握り始めました。敬太の手を握ったメスザルは、力を入れながらいきみ始めました。


「うううううっ、うううううう~んっ」

「メスザルさん、赤ちゃんの頭が出てきたよ! がんばって!」


 いきみ声を上げ続けるメスザルに対して、敬太は赤ちゃんの頭が出てきたからもう少しがんばってと励まし続けました。


「ううううううう~んんんんっっ、うううんんっ」


 メスザルが、最後の力を振り絞っていきみ声を上げたそのときです。


「おぎゃああ、おぎゃああ」


 メスザルは、新しい命であるサルの赤ちゃんを抱きかかえると、すぐに赤ちゃんのへその緒を切りました。メスザルが産んだ赤ちゃんザルを見て、敬太もうれしそうな表情をしています。


「うわ~い、メスザルさん、元気な赤ちゃんが生まれておめでとう!」

「敬太のおかげで、元気な赤ちゃんが生まれることができたよ。ありがとう」


 敬太は、メスザルに元気な赤ちゃんザルが生まれたことを喜びました。メスザルも、元気な赤ちゃんザルが生まれたのは敬太のおかげと感謝の言葉を伝えました。


「敬太、生まれたばかりの赤ちゃんザルを抱いてごらん」

「メスザルさん、抱いてもいいの?」

「敬太だって、赤ちゃんが生まれるのを楽しみにしていたでしょ」


 敬太は、赤ちゃんザルを両手で大事に抱えています。すると、サル左衛門と子ザルたちが、敬太とメスザルがいるところへきました。


「敬太、よくがんばったな! 敬太のおかげでメスザルの新しい命である赤ちゃんザルが元気に生まれたからのう」


 サル左衛門は敬太が手伝ったおかげで、サルたちにとっての新しい命が無事に生まれたことを喜んでいます。


「敬太くん、赤ちゃんザルを抱いているの? ぼくたちにも見せて」

「子ザルたちにも、赤ちゃんザルを見せてあげるよ」


 赤ちゃんザルが生まれたことを喜んでいるのは、子ザルたちも同じです。敬太は、子ザルたちに赤ちゃんザルを見せています。


「おっ、赤ちゃんザルが逆立ちすることができたぞ! すごいね」


 敬太は、赤ちゃんザルが敬太の両手の上で逆立ちができるようになりました。しかし、その直後のことです。


「ジョジョジョオオ~、ジョバジョババ~」


 なんと、逆立ちをした赤ちゃんザルが敬太の顔面に生まれて初めてのおしっこを命中させたのです。


「でへへ、おしっこかけられちゃった」

「ははは、赤ちゃんザルが敬太の顔に見事なおしっこを命中させたのう。赤ちゃんザルらしい元気な初おしっこだったぞ」


 さすがの敬太も、赤ちゃんザルにおしっこを顔にひっかけられたので参ってしまいました。しかし、赤ちゃんザルの元気なおしっこは、これから子ザルとして元気に成長する期待の表れです。


「わ~い、赤ちゃんザルのおしっこ、おしっこ」

「敬太くん、赤ちゃんザルのおしっこかけられちゃったね」

「もうっ、子ザルたちったら! わはははは!」


 おしっこをかけられてしまった敬太の顔を見た子ザルたちは大笑いしてしています。敬太は、顔を赤らめながらも子ザルたちにつられて笑い出しました。


 敬太も子ザルたちも、生まれたばかりの赤ちゃんザルの姿を目を輝かせて見ています。そして、赤ちゃんザルのしぐさを見るたびに、敬太と子ザルたちの笑い声が響き渡りました。


 しかし、敬太にとってはお父さんとお母さんを一日でも早く会いたいために旅に出ている身でもあります。


 サル左衛門や子ザルたちとの別れはとてもつらいことです。でも、どんなにつらくても、敬太はサル左衛門をはじめとするサルたちの群れに別れを言わなければなりません。


 それを察知したのか、サル左衛門は敬太に話しかけました。


「敬太、言わなくてもわしは分かっている。敬太が父さんと母さんを探しているということ、そして父さんと母さんを狙う獣人たちをやっつけるためにも旅を続けなければならない、ということじゃな」


 敬太は、自分がお別れしなければならない理由をサル左衛門が言ったのを聞いてうなずきました。


「そうか。わしらも敬太と分かれてしまうのはつらいけど、だからと言って、敬太が寂しそうな顔をするのは好きではないぞ。わしが見たいのは、敬太が元気いっぱいの男の子であるところなんじゃよ」

「サル左衛門さま、みんなと別れるのはつらいけど、元気いっぱいの男の子としておっとうとおっかあを探していくよ! そして、悪い獣人たちをやっつけるからね!」


 サル左衛門が見たいのは、敬太の元気いっぱいなところです。これを聞いた敬太は、サル左衛門に元気で明るい声で答えました。


「よしよし、この元気いっぱいなところが敬太らしいぞ。これこそが、元気いっぱいでやさしい心の持ち主である証拠じゃ」

「ぼくも、サル左衛門さまをはじめとするサルたちのやさしさを絶対に忘れないように約束するよ」


 サル左衛門は、改めて敬太の元気さとやさしさに目を細めると、敬太もサルたちのやさしさを絶対に忘れないと誓いました。


「ぼくたちも、敬太くんが悪い獣人たちをやっつけるのを応援するぞ」

「敬太くんの父ちゃんと母ちゃんが見つかったら、一度でもいいから見てみたいな」

「おっとうとおっかあに会うことができたら、みんなにも紹介してあげるよ」


 子ザルたちは、父さんとお母さんに早く会えるように応援すると言いました。これに応えるように、敬太も子ザルたちに紹介してあげると約束しました。


「敬太、赤ちゃんザルが生まれるのを手伝ってくれてありがとう。わたしも赤ちゃんザルがすくすくと育つようにがんばるから、敬太もお父さんとお母さんに会えるようにがんばってね」

「メスザルさんも、赤ちゃんザルが元気に育つといいね」


 メスザルは赤ちゃんザルを抱えながら、赤ちゃんザルの出産のお手伝いをしてくれた敬太にお礼を言うと、敬太も赤ちゃんザルの頭をなでなでしました。


 そして、敬太はお布団と腹掛けが乾いたのを見て、物干し代わりの幹の太い枝から下ろして大きな広場まで持って行きました。


「敬太、おねしょが乾いたお布団と腹掛けを大きな風呂敷の中に入れようかね」


 サル左衛門が用意していた敬太の大きな風呂敷に、お布団と掛け布団、そして赤い腹掛けをきちんと入れました。そして、大きな風呂敷を真結びをしてから敬太の背中に背負いました。


「サル左衛門さまをはじめとするサルたちのみんな、いっしょに過ごすことができて本当にありがとう! またみんなに会えるのを楽しみにしているよ!」


 大きな風呂敷を背中に背負った敬太は、いつもの明るくて元気な声で言いました。


「敬太、父さんと母さんに会うことができたら、いっしょに連れて、わしらのところにまたきてくださいな」

「敬太くんだったら、獣人だってイチコロでやっつけるもんね! だって、敬太くんはいつも元気いっぱいの子供だからね」


 サルたちから激励を受けた敬太は、みんなに手を振って広場から一歩ずつ歩き始めました。そして、獣人から狙われるお父さんとお母さんを早く見つけるためにも、敬太は再び山道に戻って行きました。

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