表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

短編

春の夜の決断

作者: 八木九巳

 若者たちの活気にまみれた深夜のファミレス。その店内の一角で、私は勇気を振り絞った。

「私たち……合わないよね」

 切り出した瞬間のあなたの顔は見てない。というよりも、見れなかったのほうが正しい。

 切り出すまでに相当な時間がかかったと思う。でも、この決断は私にとっていい決断と言えそうだ。

 引きつった頬を隠すかのように、あなたは笑顔を作る。だけど、目は笑ってない。明らかに動揺している様子。

 説得にかかるあなた。耳を傾けつつも、これまでのことを思い出していた。


 どうして私が1ヶ月間忙しいからって、直接会いに来たり電話してこないのか。メールだけのやり取りだけで済ませるのか。メールだけなんて、いくらでもウソをつき続けることができる。あなたは遠慮してるだけかもしれない。けどね、カップルの関係なんだから、いいんだよ。いざというとき、あなたは助けてくれる人じゃないことがわかってしまった。

 それと、べつに私は孤独を愛する人間じゃない。口に出さないけど、表情や仕草で汲み取ってほしいこともあった。色々なことを話さなかった私も悪かったよ。そんな私の壁を乗り越えてくれると思ったし、期待もした。だけど、変わらなかったじゃない。今から変わる、と真剣な顔して言ったところで、もう私の心には響いてこない。手遅れなの。時すでに遅し。だったら、もっと前からできたでしょ? 今も口には出さないけど、察してほしい。

 あなたは未来のことばかり語るけど、今をもっと大事にしたほうがいい。ずっと言い続けてきた趣味は進んだ? こうしたい、ああしたい、と言ってるだけじゃなくて、実際に行動に移さなきゃダメだよ。有言不実行が一番格好悪いんだから。


 対照的だね、私たち。

 私は涙流して鼻をすすって。あなたは涙を流さず、困惑と諦めが混ざった表情を浮かべている。

 指で涙をぬぐいつつ、爆弾を落とす。

「私は強い女じゃないから」

 男じゃないんだから、表情と言葉の少なさで判断しないでほしかった。私は強くなんかない。自分の殻にこもる臆病な人間だったの。

 ハッとして見つめるあなたを残し、私は先にファミレスから出た。

 まだ寒い春の夜の風が、私の髪を揺らす。

 追ってくるわけないか。

 もう来ることもないファミレスを一瞥して、再び歪み始めた視界をゆっくりと踏み出した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] とても読みやすく、共感できます。しかし女性の気持ちをもっと外側に出して欲しかったです、実話と違うと思いますが。大好きな人の別れで、相手に原因があると思うなら、ファミレスがしーんとなるくらい怒…
2017/02/27 15:47 退会済み
管理
[良い点] 言わなくてもわかってほしい。その場から飛び出したら追いかけてほしい。自分勝手だとは思うけど、好きな人にはそこのところをわかってほしいんだ、という女心が、すごく伝わってきました。「共感」ボタ…
2017/01/22 11:29 退会済み
管理
[一言] 読ませていただきました。 悲しい別れ。 切りだしたのは自分なのに、彼よりも大きな悲しみを背負っている。 そんな情景と、深夜のファミレスの喧騒との対比が良いですね。 「私たち……合わないよね…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ