春の夜の決断
若者たちの活気にまみれた深夜のファミレス。その店内の一角で、私は勇気を振り絞った。
「私たち……合わないよね」
切り出した瞬間のあなたの顔は見てない。というよりも、見れなかったのほうが正しい。
切り出すまでに相当な時間がかかったと思う。でも、この決断は私にとっていい決断と言えそうだ。
引きつった頬を隠すかのように、あなたは笑顔を作る。だけど、目は笑ってない。明らかに動揺している様子。
説得にかかるあなた。耳を傾けつつも、これまでのことを思い出していた。
どうして私が1ヶ月間忙しいからって、直接会いに来たり電話してこないのか。メールだけのやり取りだけで済ませるのか。メールだけなんて、いくらでもウソをつき続けることができる。あなたは遠慮してるだけかもしれない。けどね、カップルの関係なんだから、いいんだよ。いざというとき、あなたは助けてくれる人じゃないことがわかってしまった。
それと、べつに私は孤独を愛する人間じゃない。口に出さないけど、表情や仕草で汲み取ってほしいこともあった。色々なことを話さなかった私も悪かったよ。そんな私の壁を乗り越えてくれると思ったし、期待もした。だけど、変わらなかったじゃない。今から変わる、と真剣な顔して言ったところで、もう私の心には響いてこない。手遅れなの。時すでに遅し。だったら、もっと前からできたでしょ? 今も口には出さないけど、察してほしい。
あなたは未来のことばかり語るけど、今をもっと大事にしたほうがいい。ずっと言い続けてきた趣味は進んだ? こうしたい、ああしたい、と言ってるだけじゃなくて、実際に行動に移さなきゃダメだよ。有言不実行が一番格好悪いんだから。
対照的だね、私たち。
私は涙流して鼻をすすって。あなたは涙を流さず、困惑と諦めが混ざった表情を浮かべている。
指で涙をぬぐいつつ、爆弾を落とす。
「私は強い女じゃないから」
男じゃないんだから、表情と言葉の少なさで判断しないでほしかった。私は強くなんかない。自分の殻に篭る臆病な人間だったの。
ハッとして見つめるあなたを残し、私は先にファミレスから出た。
まだ寒い春の夜の風が、私の髪を揺らす。
追ってくるわけないか。
もう来ることもないファミレスを一瞥して、再び歪み始めた視界をゆっくりと踏み出した。