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『過度の接触はしないように――それだけ、気をつければいい。“とき”が来るまで、ただ姫を見護っていればいいからな』

「――――判ってる。じゃあ、切るよ」

 返事を待たずに携帯を閉じた。青年は視線をあげて、そらを見た。

「……もうすぐ、逢えるよ……この刻を、ずっと待っていた……」

 青年は涙目になって、その美しい紅色の瞳を濡らしていた。上を向いていなければ、いまにもその雫は零れてしまいそうだ。


「待っていて……今度こそ(・・・・)、護ってみせるから…………紫苑シオン……」



 


 * * * * *





 ふと、誰かに呼ばれた気がして紫苑は顔をあげたが、周りには誰もいない。それはそうだ。こんな時間から屋上に来る生徒はそうそう居ないのだから――むしろ、それを狙ってここに来ているのだ。

 そろそろHRが始まる頃だろう。紫苑は音楽プレイヤーの電源を落とし、それをポケットにしまって屋上の扉を開いた。

「……曇天……」

 雨が降りそうな空。紫苑はそれを睨むように見つめた。何故か、小さいころから雨の日が大っ嫌いだった。それと同時に、血に近い赤色も大っ嫌いだった。幼いころは雨の日と赤色を見るたんびに発狂して、たまに倒れることがあった。年齢を重ねるとともにそんな事はなくなったが、今でも雨の日は憂鬱になるし、赤色を見ると吐き気を覚える。

 ――別に、トラウマとかじゃ、ないはずなのにな……

 幼いころに何かあったのか? と両親に問うても、そんなトラウマに残るようなことはなかった、そう返事が返ってきた。ふぅ、と溜息をひとついて紫苑は階段を降りた。


 この高校は1年棟・2年棟・3年棟と、学年ごとに校舎があるため、他学年に出逢うことがなく、その学年の生徒たちはのびのびと学校生活を送れる。部活での先輩後輩に部活以外で出逢うことがない為、運動部所属――とくに女子達に人気である。そして、自由を校風にしている為、制服などのも、正式な会など以外は、自由なのである。だが、県ナンバーワンの進学校としても有名で、勉学にはとことん力をいれているため、そこそこ成績がなければ、この高校には入れない。


 紫苑は、この高校を次席の成績で入学した――所謂いわゆる、特待生というものだ。



「あ、朝比奈。悪いんだが、職員室に転入生がいるみたいで……俺忙しいからさぁ…俺の代わりに行ってくんね?」

 教室に戻って早々、クラス会長に頼まれごとをされてしまった。あまり社交的ではない紫苑は、一瞬断ろうと思ったが、季節外れの転入生の事が気になり、一番に見てみたいという気持ちもあった。

「……別にいいよ」

 プラスして、この高校には“クラス担任”というものが存在しない。基本はクラス会長が他校のクラス担任の様な役目を果たす。ただ、学年担任が校舎毎に一人いて、一学年に2人居る。クラス会長で出来ないものは、週一の確率で集会を開き、その時に大まかにされる。その為、転入生などもクラス会長がクラスまで案内しクラスメイト達に紹介するのだ。

 

「失礼します。26(ホーム)の朝比奈です。クラス会長の代わりに転入生を迎えに来ました」

 ―ザァ

 室内のはずなのに、風が吹いた気がした。

「……ぁれ……?」


 ――漆黒の髪に美しく輝く髪と同じ、濡れた黒曜石の様な瞳――


 ハーフの様な顔立ちだな、と思った。だが、違和感を覚えた(・・・・・・・)


「…………転入生の、名古屋ナゴヤロウ…よろしく……」

 ス、と差し出された右手に、紫苑は無意識に手を差し伸べ、握手をした。




 ――刻は、きたりて――



 

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