短冊の挿話〜legend〜
私の仕事は正しい伝説を編纂すること。
伝説っていうのはね、
長い長い年月の中で歪曲したり脚色されたりして、
もとの話とぜんぜん違くなっちゃってるんだ。
それを正すのが私の仕事なの。
わたしは死んだ人とお話できる。
だから昔々の話を聞いたりできるのよ。
それでこの能力を買われて国王様にこの仕事任されたわけ。
相棒の妖精リリーとの珍道中は、楽しいの一言につきるんだ。
こんどは誰のお話を聞きにいこうかしら…。
「クリス!あの人だかりは何?」
「あれは民間信仰の、縁結びの神殿なのよ」
リリーは小さな神殿を、もの珍しそうに見ていた。
「よし、ここの伝説にしよう。どんな物語が聞けるのかしら」
「この神社には、どういう伝説があるの?」
「悲しく美しい恋の物語よ。昔仲むつまじく
美しい男女がいたの。でも男は猟師でね、
ある時船が遭難しちゃうの。
女は悲しんであの崖で胸を剣で刺して息絶えた。
んで、次の日発見されたとき、
行方不明のはずの男の遺骸が寄り添うようにあったんだって。
そして、昔のひとが二人を同じお墓に埋めたそうよ。
2人が天国で幸せになれるようにって」
「それで、ご利益はあるの」
「さあ。叶ったって人もいるし、そうじゃないって人もいるし、
つまりはそういうことなのよ」
その夜ふかく、私達は神殿に向かった。
するとすぐに男の人の霊が出てきた。あの伝説の男の人だった。
その人インタビューしたらこう言ったの。
「私達はそもそも恋仲なんかじゃなかった。
この辺に住んでるときから付きまとわれて…。
いえ、醜女と言っても過言じゃないです。
どんどん醜く見えちゃったってのもあるでしょうけど。
ええ、遭難したのをいいことに、遠くで暮らして結婚までしました。
けどあの女、あそこで死んで、僕ら家族を呪い殺しまして、
私の死体をここまで持ってきたんです。
向こうじゃまた違く伝わっているでしょうね。
ねぇお嬢さん、どうかわたしを家族のもとに帰してくれませんか。
あの女にばれないように、こっそり」
私の仕事は国発行文献の編纂。
中には伝えるかどうか、考えるものもあるみたい。