夜宙舞う光の彼方ー証言者Lー
この物語は「夜宙舞う光の彼方」に登場する証言者1。証言者Lの視点から語られる出来事です。
本編では断片的に語られていた「あの夜」の出来事を、もう少しだけ深く描いてみました。
満天の夜空の下で出会った、不思議な少年。
これは、その少年と出会ったある人とのお話です。
あの子と出会った、ある夏の夜のことは今でもはっきり覚えている。
その日は夏休みで、自由研究のためにカブトムシを捕まえに森へ行っていた。森に着いたのは確か十四時頃だったと思う。でも、俺は昔から聴覚が人より少し良くて、森中の虫の鳴き声が耳に響いてしまってね。落ち着くまで一時間くらい、森の入り口で立ち往生していた。虫取りを始めたのは十五時頃だった。
だけど、その日は思ったよりカブトムシが見つからなかった。気づけば空は赤から紫、そして黒へと変わり始めていた。ようやく一匹見つけた頃には、もう完全に夜だった。
森の中は真っ暗で、帰り道も分からない。俺は不安になりながら、あてもなく歩き回っていた。
そのとき、森の奥から足音が聞こえた。
人がいる。
そう思って、音のした方へ向かった。
そこに、あの子がいた─
近くには鳥居のようなものが見えた。暗くてはっきりとは見えなかったけれど、どうやら古い神社のようだった。
迷子なのはお互い様だと思って、俺は足元に気をつけながらその子に近づいた。
「ねぇ、君も迷子?
俺、帰り道分からなくてさ。足音がしたから来てみたんだけど……」
そう言いながら顔を上げたとき、初めてその場所をちゃんと見た。
そこには、小さな神社があった。
決して綺麗とは言えない、古びた神社だった。
だけど、その神社を照らしていた満天の月は、とても綺麗だった。
すると、その子が静かに言った。
「君、迷子なの?
僕、この辺りの道わかるから。出口まで案内するよ。ついてきて」
そう言って、その子は俺の手を引いた。
五分ほど歩いた頃、俺は急にお腹が空いてきて、持ってきていたお菓子をその子と分けて食べた。休憩しながら、俺たちは色々な話をした。
俺が聞いてばかりだったけどね。
「君、名前は?
俺の名前は――」
自己紹介をしようとしたとき、その子は少し困った顔をして言った。
「僕、名前がないんだ。
よかったら、つけてよ」
その言葉を聞いて、俺は少し考えた。
神社で見上げた夜空。
そして、ずっと星を見つめていたその子の姿。
それに、目が合った瞬間――俺は思わず息を飲んだ。
その瞳は、満天の夜空よりも深く、美しかった。
希望と、どこか悲しみを抱えているような、不思議な目だった。
「じゃあさ……星ってどう?」
俺がそう言うと、その子は少し驚いた顔をしてから、静かに微笑んだ。
名前が決まると、俺たちはまた歩き出した。
歩いている間、俺は星に色々なことを聞いた。ほとんど一方的な質問だったけど、星はちゃんと答えてくれた。
「星って男なの?
見た目だけじゃ分からないくらい綺麗だけど」
「僕は男だよ。
そんなこと言われたの、初めてだ。嬉しい」
「星は、星を見るのが好きなの?」
「うん。好きだよ。でもね……」
星は少し空を見上げて言った。
「見ていると、心がフワフワするんだ。
安心してるような、不安なような……そんな感じ」
そんな他愛もない会話をしているうちに、森の出口にたどり着いた。
「ありがとな、星。またなー」
俺は手を振って帰ろうとした。
すると星も、小さく手を振り返してくれた。
そのとき、ふと見えた。
星の左手の中指には、指輪がはめられていた。
でも、そのときの俺は特に気にしなかった。出口が思ったより遠くて、門限の二十時を過ぎているんじゃないかと焦っていたからだ。
急いで家へ帰り、時計を見てほっとした。
まだ十九時半だった。
あれから何度も森へ行った。
虫を捕まえるためでもあり、星を探すためでもあった。
だけど―
星に会うことは、二度となかった。
それでも俺は、今でも思っている。
また、あの瞳に会えたらいいなって─
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます✨️
この作品は「夜宙舞う光の彼方」に登場する証言を、それぞれの視点から掘り下げていく物語の一つです。今回はその中の1人証言者Lさん視点の物語でした
この物語には色んな意味を持たせたり、伏線やらなんやらをしてます。読者さんにも楽しめる作品だと思ってます✨️自分が書いてて楽しいだけなんですけどね。
これからも、少年の物語や他の証言者の話を少しずつ描いていく予定です。よろしくお願いします!




