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第五話 刃が笑う距離

 その大鎌を手にしたまま街を歩くと視線が集まるのが分かった。


 非推奨武器。ゲームに実装されていることさえ知らないプレイヤーがいるかもしれない珍しい武器種。そしてサイズも推奨武器と比べて規格外だ。柄はルナリアの身長よりもわずかに長く、刃は月を削り出したような湾曲を描いている。装飾はない。ただ研ぎ澄まされた形だけが、そこにある。


「……目立つね」


 ミオが苦笑しながら言った。


「まあ、そうだな」


 レイは周囲のプレイヤーの動きを一瞥しつつ、半歩距離を取る。


「試し切りなら、低難度フィールドがいい。いきなり高難易度だと挙動を見誤って死ぬかもしれない」


 カナメも頷いた。


「そうだな。こういうのは簡単すぎるくらいでいい。今日は性能確認だ」


「みんなありがとう」


 四人は街の門を抜け、初心者向けに設定された草原フィールドへ向かった。湧く敵は遅く、攻撃力も低い。普段なら経験値効率を気にする必要すらない場所だ。


 ――でも今日は、違う。


 ルナリアは大鎌の柄を握り直す。

手に伝わる感触が、わずかに“生きている”ように思えた。


「じゃあ……いくよ」


 最初の敵は低級獣型モンスター。

動きは単調で脅威にはならない。


 ルナリアは踏み込んだ。


 スキル起動。


 視界の端に、淡い赤色のエフェクトが走る。


《スキル発動:〈REAP〉》


 刃が横一線に薙がれる。


 ――重い。


 だが、その重さがそのまま破壊力になっていた。


 衝撃音が一拍遅れて響き、敵のHPバーが一気に吹き飛ぶ。

ダメージ数値が以前より跳ね上がった。ほぼ即死に近い。


「……え」


 ミオが声を漏らす。


「ダメージ、前の三倍近いぞ」


 カナメが即座にログを確認して言った。


 確かに強い。はっきりと今までとは桁が違う。


 だが。

ルナリアの身体が、ぴたりと止まった。


 次の動作に移れない。


「……っ」


 わずか一秒にも満たない時間。けれど、戦闘中には致命的な長さだ。


《デバフ付与:〈硬直〉0.8秒》


 その瞬間、別の敵が接近する。


 攻撃を受け、ルナリアのHPが想定以上に削られた。


「ルナ!」


 ミオの回復が飛ぶ。

だが、回復量が明らかに少ない。


《デバフ付与:

 被回復量 −30%

 被ダメージ +20%

 持続時間:10秒》


「……なるほど」


 それを見てレイが低く呟く。


「これが“癖”ってやつか」


「硬直ってこんな感じか……気を付けないと」


 戦闘はそのまま続いた。

ルナリアは攻撃を重ねるたびに、強烈な一撃と引き換えに身体を縛られる。まるで突然金縛りに遭ったような不快感がある。


 一振りごとに、世界が一瞬だけ遅れる。

回避が間に合わず被弾が増える。


「普通なら、使わないな」


 レイが冷静に評価する。


「DPSは高い。でもリスクが大きすぎる。ソロだと即死圏だ」


 ミオも頷いた。


「回復が追いつかない。ヒーラー泣かせだよ、これ」


 ルナリアは、大鎌を地面に突き立て、息を整えた。


「私も使ってて思った。確かに、問題多いなこれ」


 数字としても、はっきりと“不利”が刻まれている。


 視界に、武器ステータスが表示してみる。


武器名:

《刈り取るもの・アグリオン》


種別:

不明(大鎌)


基礎攻撃力:

+180%(同レベル帯基準)


固有スキル:

〈REAP〉

・範囲物理ダメージ

・命中時、追加ダメージ判定


固有デバフ:

・スキル後硬直 0.8秒

・被ダメージ増加 +20%(10秒)

・被回復量低下 −30%(10秒)


※運営非推奨装備

※バランス保証外


 数字だけ見れば、敬遠される理由は明白だった。


 だが、ルナリアは。


「でも……致命的な問題でもない」


 そう言って、顔を上げた。


「この硬直、完全に固定じゃないみたい。スキルの終わり際、入力猶予がある」


 柄を軽く回し、身体の向きを変える。


「回避を先行入力すれば、被弾は抑えられる。被ダメ増加も、そもそも当たらなければ関係ない」


 カナメが、わずかに目を細める。


「回復低減は?」


「ミオの回復をタイミングを少し前倒ししてもらえれば足りると思う」


 ミオは一瞬考え、それから笑った。


「……忙しくなるけど、できる。やってみる」


 レイが肩をすくめる。


「つまり、前提が“連携ありき”か」


「うん」


 ルナリアは大鎌を持ち上げた。


「この武器、たぶん……使う側を選ぶよ。でも、それはそれでかっこいい」


 その刃の内側に微かな赤い光が揺れる。


 そこに宿る感覚的なもの。もっと単純で、鋭い何か。

前に出たい、削りたい、叩き伏せたいという、攻撃的な衝動。


 感情のかけらが残した余熱とでも言うべきか。


「私たちなら扱える」


 そう言った時、胸の奥が高鳴っていた。


 強すぎる刃。

 危うい代償。


 それでも。


 ギルドメンバーの動きが、頭の中で自然に噛み合う未来が見えた。


「メイン武器にするよ」


 ルナリアはそう決めた。


 不安はある。

この選択が後で何を招くのかは分からない。


 けれど。


 この大鎌となら、もっと先へ行ける。


 刃がわずかに震えた気がした。

まるでその決断を待っていたかのように。

 プレイヤースキルがないと使いこなせないって……(^▽^;)

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