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第四話 ギルドと新しい装備

 翌日のログインも、ごく自然だった。


 アラームに急かされるでもなく、特別な予定を確認するでもない。ただ、いつもの時間に端末を起動し、いつもの手順でログインする。それだけなのに、胸のどこかで「今日も続きがある」と分かっている。


 野外フィールドに降り立つと、すでに見慣れた影があった。


 大盾を地面に立て、動かず周囲を見渡しているカナメ。

 少し離れた高所で、索敵を兼ねて矢を番えているレイ。

 その間を縫うように歩きながら、スキルを使うタイミングを測っているミオ。


 待ち合わせの言葉は、もういらなかった。

 時間だけが合図で、同じ場所に集まる。それが当たり前になりつつあること自体が、少し不思議で、少し誇らしい。


 狩りを再開し、数戦終えたところで、ミオがぽつりと切り出した。


「ねえ、さ」


 声音は軽いが、どこか様子をうかがっている。


「私たち、ギルド組まない?」


 一瞬、空気が止まる。


 ギルド。

 それは単なるパーティの延長ではない。


 名前を持ち、拠点を構え、共有倉庫を管理する。

 一度作れば、簡単には解散できない。良くも悪くも、関係性が固定される。


 ルナリアの思考は、反射的に現実的な方向へ向かった。


 ――倉庫共有は便利だし、素材管理が楽になる。

 ――役割が安定すれば戦闘効率も上がる。

 ――固定メンバーなら育成方針も合わせやすい。


 合理的な理由はいくらでも並ぶ。けれどそれだけではない何かがこの提案を聞いて感じられた。


「いいと思う」


 最初に答えたのは、レイだった。


 弓を背負い直しながら、淡々と続ける。


「このメンバー、噛み合ってる。野良で探すより、よほど安定する」


 カナメも短く頷いた。


「俺も賛成だ。役割がはっきりしている分、無駄がない。俺たち相性最高だと思う」


 理屈の通った同意に、ミオはほっと息をついたように笑う。ルナリアも反対する理由がなかった。


「よかった。じゃあ……名前、決めよ?」


 街へ戻り、ギルド設立用のカウンター前に立つ。NPCの前に表示された入力ウィンドウは、妙に重みがあった。


 いくつか候補を出してみる。強そうな名前。可愛い名前。覚えやすい名前。

どれも悪くない。けれど、どれもしっくりこなかった。


「もっと、私たちらしいのがいいな」


 ミオの言葉に、三人とも黙り込む。


 ルナリアは少しだけ視線を上げた。

街の上空には昼でも淡く見える星のエフェクトが浮かんでいる。この世界ならではも空模様だ。


「……星座はどうだろう」


「星座?」


「一つ一つは別の星でも、並べば形になる。役割が違っても、一緒に戦える」


 しばらくの沈黙。


 やがて、レイが小さく息を吐いた。


「悪くないな」


「……ASTERISM(アステリズム)か」


 カナメが頷きながら低く呟く。


 星群。星座を形作る集まり。


「いい名前だと思う」


 ミオが即答した。


 全員の同意で、ギルド名が確定する。


 《ASTERISM》。


 登録完了の音が鳴り、ギルドウィンドウが展開される。

 メンバー欄に、四つの名前が並んだ瞬間。


 ルナリアは、胸の奥がわずかに温かくなるのを感じた。


 名を持つということは、帰る場所ができるということだ。


 その日の狩りは、少しだけ気合が入った。

 ギルド経験値の表示が増え、拠点機能の解放条件が進んでいく。


 だが同時に、限界もはっきりしてきた。


 ルナリアの動きは速い。

 判断も、連携も申し分ない。


 それでも、敵のHPが削り切れない場面が増え始めた。


「火力、やっぱり足りないな」


 カナメが率直に言う。


 否定はできなかった。


 共有倉庫の中に、淡く光る結晶が眠っている。

《感情のかけら(非推奨)》。


 使えば流れが変わるかもしれない。失敗すれば何も残らない。


 改めて攻略サイト情報を思い返してみる。

成功率は低い。具体的な数字はなく、体感で数%と言われている。


 それでもコメント欄には確かに書かれていた。


 ――顕現した装備は、規格外。


 ルナリアは、決めた。


 翌日、街の奥にある工房区へ向かう。

無数の炉と金床が並び、金属音と熱気が満ちている生産職の活躍の場。戦いではなく、この世界でモノを作りたいプレイヤーが学び、実際に売り買いする場所。つまり、彼らにとっての戦場だ。


 とりあえずルナリアは武器を扱っている店を見て回り、質の良い武器を作っている店を見比べて吟味してみる。そして一つの店の前に立ち、その中への足を踏み入れた。


「すみません。装備生成を依頼したいんですが」


 振り返ったのは、背の低い青年アバターだった。

エプロン姿で指先には細かな傷跡やタコがある。きっとそれもキャラデザの一環で作ったものなのであろう。細部までのこだわりを感じさせる生産職の人だ。


 こういう人は武器にもこだわってくれるかもしれない。


「素材は?」


 ルナリアは一瞬だけ間を置き、インベントリから結晶を取り出す。


「感情のかけら。……非推奨素材です」


 青年の目が、わずかに見開かれた。


「へえ……」


 それから、面白そうに口角を上げる。


「名前はエイダ。職業はARTISANアルチザンだ。これで武器作ろうとしても成功率、かなり低いよ。それでも依頼する?」


 正式な確認。

取り消しは今ならできる。


「当たれば、強いんですよね?」


「保証はしない。形も、性能も、制御できない。僕もこれはあまり扱ったことないからね」


「それでもいいです」


 エイダは頷き、炉に火を入れた。


 結晶が熱に晒され、淡く、脈打つように光り始める。

空気が張り詰め、時間が引き延ばされたように感じられた。


 そしてルナリアも必要な素材をエイダに渡して作成が終わるまで待つ。


 光が弾ける。金属と金属が打ち合うような音が室内に響く。熱がここまで伝わってくる。


 ついにエイダの作業が止まる。炉の中から現れたのは、長い柄と、湾曲した巨大な刃。


「……大鎌?」


 推奨武器種には存在しない形状。


「成功だね」


 エイダが満足そうに言う。彼は最後の仕上げを終えるとルナリアに手渡してきた。


 手に取った瞬間、分かる。

これは今までの武器とは違う。


 重い。

 だが、確かに振れる。


「ありがとう」


「どういたしまして。僕も貴重な体験をさせてもらった。また依頼しに来てくれよ?」


「もちろん」


 ルナリアはお金を渡して彼と別れた。


 やはり新しい武器を手に入れたからには試さないわけにはいかない。フィールドで一振りすると、敵のHPが目に見えて削れた。


「何それ……」


 ミオが目を丸くする。


「ルナ、別ゲー始めた?」


 レイが半ば本気で言った。


 強い。

 そして、不安定だ。


 ルナリアは大鎌を握りしめる。


 これでもっと強くなれる。


 この選択が何を引き寄せるのか。

まだ誰も知らないまま。

 鎌の性能とかは後々出てきます。やっぱり鎌はかっこいいと思うんですよ。ですよね?

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