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ヒーローキラー  作者: カサタ


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7話 vs峯岸拓真

データの奪取が完了した時点で、もう隠密行動を続ける理由は消えていた。


「――行くぞ」


朝霧の一言を合図に、俺たちは廊下へ躍り出る。

巡回中だった低級隊員たちが慌てて構えを取るが、もはや足止めにもならない。

朝霧が前に立ち、波紋の仮面が揺れた次の瞬間、隊員たちは自分が吹き飛ばされた理由すら理解できないまま床に転がっていた。

俺も俺で、脚力強化を全開にし、進路上の敵を蹴散らしながら突き進む。

警報が鳴り響く中、俺たちは正面玄関を目指した。



異能治安局東京支部・正面玄関。


重厚な自動扉が開き、外の光が一気に流れ込む。

その先は、広々とした駐車場だった。

支部の隊員たちのものであろう車たちが止められている。


――その瞬間だった。


「おいおいマジかよ……。」


朝霧の声が珍しく上擦っている。

玄関を出た正面。

一台の黒塗りの車のドアが開き、そこから現れた男を見た瞬間、俺の背筋が凍りついた。

峯岸拓真。

異能治安局東京支部・支部長。

それともう1人、秘書と思われる女。


「聞いてた話と違うぞ九条!」


朝霧が文句を言うがそれを言ったところで現状は解決しない。


「……侵入者か」


低く、静かな声。

だが、その存在感だけで、空気が切り裂かれるように張り詰める。


前に会った時とは雰囲気が別人だな。

あの優しそうな雰囲気はどこにもない。


朝霧は即座に動いた。

峯岸の視界から逃れるように、駐車場脇の大型車両の陰へ飛び込む。


だが――俺は、遅れた。

峯岸と視線が合う。


次の瞬間。


動いてもないのに視界がズレた。


「……あ?」


視線を自分の身体に向けると、腰から上下で真っ二つに分かれているのが見えた。


斬られた。

――見られたからか。

透過能力を発動していたはずなのに斬られてしまったぞ?

峯岸の能力にはこの透過能力は役に立たないのか…?


だが、バラバラになるより早く、肉と骨が蠢いた。

断面が歪み、引き寄せられ、瞬時に元の形へと戻っていく。


「……再生、か。その仮面は初めて見るが新顔かな?エコーの新しいバディというわけか」


峯岸は、興味を示したように呟いた。

俺は、峯岸が状況を整理している隙に朝霧のいる物陰へ滑り込んだ。


「……生きてるな」


「当たり前だろ。つうかチートすぎるだろあの能力!」


「お前がそれを言うか?」


俺は腰に差していたナイフ――神崎の死体から拝借したものを抜く。


そして、迷いなく自分の小指に当てた。

ザクリ。


「っ……!」


痛みを無視し、切断した小指を朝霧に差し出す。


「うげ、そんなもん渡すなよ」


「保険だ」


朝霧は一瞬だけ俺を見つめ、すぐに察したように受け取った。


「……分かった」


「裏口から逃げろ。時間は稼ぐ」


俺は物陰から一歩踏み出し、峯岸の前に立つ。


「――新人君が相手か。私のことはエコーからはきいてないのかな?」


「支部長クラスを倒せば俺も一気に給料アップだな!」


峯岸の視線が、俺を捉える。

その瞬間、再び斬撃。

透過していようが関係ない。

身体が、腕が、脚が、視界に入った部位から次々に切断される。


再生。


即、切断。


再生。


即、切断。


不死身の身体でも、透過能力を持ってしても、この男の能力の前では意味を成さない。


「……ほう」


峯岸は、淡々と俺を斬り続ける。

痛みはある。

だが、それ以上に――再生が、追いつかなくなっていくのが分かる。

身体が、細切れにされていく。

腕が。

脚が。

胴が。

首が。

それでも、俺は動きを止めなかった。

最後に、意識が薄れかけた瞬間。

――やめた。


再生を。


肉片が、その場で動かなくなる。

峯岸が、わずかに眉を動かした。


「……再生限界か?いや、逃げられたか。」


峯岸はそう呟くと地面に落ちたつぎはぎの仮面を手に取る。

俺の身体だったものは、地面に溶けるように跡形もなく消えていった。




次の瞬間。

朝霧の車の助手席で切断された小指が、再生を始める。

そこから、肉が、骨が、血管が伸びていく。

――再生媒体の移行。

俺の意識は、そこへと引き寄せられた。


「気持ち悪……」


朝霧がなんとも表現し難い表情をしながらその光景を見つめる。

そして、数分ほどかけて小さな指が完全な形へと戻る。


「……無茶しやがって」


朝霧はハンドルを握ったまま、タバコを取り出し火をつけた。


「でもうまくいっただろ?」


「お前が今全裸で助手席にいること以外はな」


「……コンビニでパンツ買って」


朝霧はため息を一つ吐いた。

どうやら俺の要望通りコンビニに向かってくれるみたいだ。


「そういばさ、エコーの正体って朝霧だったんだな!超危険人物じゃん」


エコーって名前も東京に住んでたら知らない人はいないくらい有名人だ。もちろん悪い意味でだけどな。


「まあな。エコーってのは勝手にあちらさんが付けた名前だ。お前も今日認知されただろうから何かしら付けられるだろうよ」


「どうせならセンスのいい名前で頼みたいね」


かっこよくてキャッチーな呼び名を期待してるぞ。峯岸のおっさん。


「ゼンラーマンとかか?」


「おい」


そのまま俺たちはコンビニによってパンツを購入した後、組織本部に戻った。



異能治安局東京支部。


駐車場に残ったのは、血の跡と、切断された痕跡だけだった。

峯岸拓真は、ゆっくりと息を吐いた。

地面には、肉片だったものが溶けるように消えた痕が残っている。


再生能力者。


それも、単なる不死身ではない。


「……逃げられたか」


独り言のように呟き、手にしていた仮面を見る。

つぎはぎだらけの、不格好な仮面。

再生途中の肉を無理やり縫い合わせたような意匠。

――悪趣味だが、印象には残る。


「支部長」


背後から声がかかる。

秘書がタブレットを抱え、硬い表情で立っていた。


「被害報告を」


峯岸は視線を仮面から外し、頷く。


「神崎隊員……死亡を確認しました。他軽傷者12名、重傷者0、死亡者0」


その言葉に、峯岸はわずかに目を伏せた。

神崎優斗。

期待の星だった。

能力の完成度、忠誠心、実戦経験。

将来的には幹部候補にすらなり得た逸材。


「……そうか」


それ以上、言葉はなかった。

感情がないわけではない。

だが、感傷に浸る立場でもない。


「遺体の回収は?」


「……支部長室で回収済み。胸を貫かれており、これが死因だと思われます。」


峯岸は静かに頷いた。


「支部長室……。何かのデータを持ち帰ったか?」


そして一拍置いて、問いかける。


「他に変わった状況は?」


秘書はタブレットを操作しながら答える。


「支部長室で要件を済ましたあとそのまま脱出したと見られます。」


「さっきのやつの能力はどのようなものだと思うかね?」


「確認できたのは、極めて高度な再生能力のみです」


峯岸は小さく頷いた。


「斬っても、斬っても戻る。再生速度、再生精度ともに異常値だな」


「はい。また、再生の停止と同時に痕跡が消失。再生媒体を外部に移した可能性があります」


峯岸の目が、わずかに細くなる。


「……分身体を作れるのか、それともあらかじめ自分の身体の一部を切断して別の場所に保管していた……?」


秘書は一瞬言葉を選び、続ける。


「それ以外の能力は、現時点では不明です。」


「わかった。」


その言葉に秘書は、小さく一礼した。


峯岸は仮面を見下ろす。


「コードネームはいかがいたしますか?」


峯岸は短く答えた。


「――スティッチ」


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